日本企業の間では、企業活動を評価する際の考え方として「トリプルボトムライン」が採用されてきました。
しかし時代の流れとともに、その考え方も変わりつつあります。
本記事では、トリプルボトムラインが注目されるようになった背景やSDGs・ESGとの関係性、撤回理由などをお伝えします。
まずは、トリプルボトムラインとは何かを知りましょう。
トリプルボトムラインとは
トリプルボトムライン(Triple bottom line)とは、企業の活動を「経済的」「社会的」「環境的」側面から評価する考え方です。
通常、ボトムラインは企業の決算書の結果(純利益)を意味します。
つまり、「社会的側面や環境的側面も意識した企業活動も行いつつ、持続的に企業利益をだしましょう」という意味になります。
この考え方は、1994年に起業家であるジョン・エルキントン氏によって提唱されました。
「TBL」や「3BL」と略されることもあります。
参照元:持続可能性原則と指標の開発|金属資源開発調査企画グループ
3つのボトムライン
トリプルボトムラインには、名前の通り3つのボトムラインが存在します。
ここからは、各ボトムラインがどのようなものか詳しく見ていきましょう。
経済的側面 | 利益の追求 |
社会的側面 | 企業が社会の一員として、労働者や地域のためになる事業を行っているか 例:職場環境の整備、障がい者雇用、安全性の高い製品づくりなど |
環境的側面 | 環境問題への企業の取り組み度合い 例:二酸化炭素の削減、再生可能エネルギーの採用、適切な産業廃棄物の処理など |
とくに近年は、地球温暖化や自然災害など地球環境の悪化が目立つこともあり、環境的側面に対する評価が重要視されています。
GRIガイドラインに反映されている
GRIガイドラインとは、抽象的な概念である「サステナビリティ(※)」を、具体的な指標として可視化した国際基準です。
日本では、CSR報告書(※)や環境報告書を作成する際の参考にもなっています。
そのGRIガイドラインに、トリプルボトムラインは反映されているのです。
(※)サステナビリティ:持続可能性。一時的なものではなく、続けていくことのできるシステムやプロセスを指す言葉
(※)CSR報告書:企業の社会的責任(CSR)に基づき、環境・社会問題に対する取り組みをまとめた報告書。CSRへの取り組みと結果を、ステークホルダーに説明する報告書でもある。
トリプルボトムラインとは何かを理解したところで、続いては注目されている理由を確認していきましょう。
参照元:GRIとの連携 GRIスタンダードの理解と普及|サステナビリティ日本フォーラム
トリプルボトムラインが注目されるようになった背景
これまでの企業評価は、経済的側面のみが対象とされ、「利益を出すこと」に重点を置いてきました。
しかし、さまざまな場面で「持続可能性」が求められるようになり、現在は企業にも「環境的」「社会的」な側面を考えた経営が求められているのです。
SDGsとの相性も良い
近年、注目されているSDGsは、2015年に開催された国連総会にて誕生した国際目標です。
日本では、「持続可能な開発目標」とも呼ばれています。
2030年までに、世界中で起きている環境・社会・経済に関する課題解決を目指しており、そのために17の目標と169のターゲットが設定されました。
トリプルボトムラインも環境的・社会的・経済的な側面を評価するため、SDGsと考え方が似ています。
そのため企業は、トリプルボトムラインを意識することによって、自然とSDGsの目標達成にも貢献できるのです。
さまざまな目標達成に貢献できる
例えば環境的側面を意識し、製品の製造時に発生する二酸化炭素の削減に努めると、目標13「気候変動に具体的な対策を」の達成に。
社会的側面の場合は、紛争鉱物(※)を自社製品の原料として使用しないことによって、目標8「働きがいも経済成長も」や目標10「人や国の不平等をなくそう」の達成につながります。
(※)紛争鉱物:紛争地域の武装勢力が、非人道的な行為で地元住民を強制的に働かせて採掘した鉱物。武装勢力の活動資金源となっている。
トリプルボトムラインとESG
ここからは、トリプルボトムラインとESGの関係性を確認していきます。
ESGとは
ESGとは、「環境(Environment)」「社会(Social)」「企業統治(Governance)」の頭文字をとった言葉です。
企業が経営を行う際や成長するためには、環境・社会・企業統治の観点に配慮する必要がある、という考え方になります。
トリプルボトムラインとESG投資
財務情報だけではなく、ESGも考慮した投資を「ESG投資」と言います。
「グローバル・サステナブル投資白書2020」によると、2016年の日本のESG投資残高が4740億ドルであったのに対し、2020年は2兆8740億ドルまで増加。
このことから、ESG投資が注目されていることが分かります。
ESGを意識した経営を行う企業は、これからさらに増えていくでしょう。
そして投資家は、ESG投資を行う企業を決める際に、判断材料の1つとしてCSR報告書を使用します。
先述した通りCSR報告書には、トリプルボトムラインを反映したGRIガイドラインを活用しています。
そのため企業は、「トリプルボトムラインを意識した経営が重要である」とされてきました。
しかし、近年はその考え方も変わりつつあります。
参照元:
・持続可能を巡る課題を考慮した投資に関する検討会(ESG検討会)|環境省
・グローバル・サステナブル投資白書2020(日本語訳)|NPO法人日本サステナブル投資フォーラム
・ESGとCRS~期待される企業価値創造プロセスの開示|大和総研 経済環境調査部
トリプルボトムラインの撤回
日本企業にも広まっているトリプルボトムラインですが、残念なことに「トリプルボトムラインだけ意識すれば大丈夫」という企業が増えていることも事実です。
環境や社会を意識した企業活動を考えるのではなく、ただトリプルボトムラインをクリアするために対策を行うのでは意味がありません。
このような理由から提唱者であるジョン・エルキントン氏は、2018年に誌面でトリプルボトムラインの撤回について話しています。
それと同時に、資本主義システムを再生・修復型(リジェネレーション)へ変えなければならない点についても触れました。
参照元:トリプルボトムラインを提唱者が撤回、再生型資本主義への変革を|サステナブル・ブランドジャパン
まとめ
企業の活動を、「経済的」「社会的」「環境的」側面から評価する考え方であるトリプルボトムライン。
1994年に提唱され、日本企業もトリプルボトムラインを反映したガイドラインを活用してきました。
しかし近年は、「トリプルボトムラインだけをクリアすれば良い」と誤った考え方が出てきたため、2018年に提唱者であるジョン・エルキントン氏によって撤回されています。
企業は、ESG投資やSDGsに対する意識の高まりも含めて、これまで以上に社会や環境に配慮した経営が重要になるでしょう。
そのため、形式的にトリプルボトムラインの対策を行っているのであれば、一度見直すことをおすすめします。