近年、日本各地では都市部から少し離れた地域に、続々と市街地ができる現象が起きています。
「スプロール化」とも呼ばれるこの現象は、なぜ日本各地で起きているのでしょうか。
本記事では、スプロール現象の原因や似た言葉である「ドーナツ化現象」との違い・対策などをまとめました。
まずは、スプロール現象とは何かを確認しましょう。
スプロール現象とは
スプロール現象とは、計画性なく都市から郊外へ無秩序に市街地開発が進む現象です。
上下水道や道路・病院などのインフラ整備にも十分に着手せず、居住環境が整わないまま虫食い状に、宅地化や都市化を進める状態を指します。
現在も、スプロール現象によってさまざまな弊害が発生しており、社会問題の1つとして対応が急がれているのです。
また、名前の由来は、「無計画に広がる」や「無様に広がる」を意味する英単語「Sprawl(スプロール)」からきていると言われています。
ここまでは、スプロール現象とは何かをお伝えしました。
内容を理解したところで、続いてはなぜ起きているのか原因を見ていきましょう。
参照元:スプロールとは何か|福岡市
スプロール現象の原因
スプロール現象が起きた理由として、
・高度経済成長期に伴う大都市への人口集中
・都心部の地価高騰
・モータリゼーション (自動車の大衆化)
・郊外に大型商業施設が増えた
上記のような原因が挙げられます。
とくに近年は、自動車を所持している人が増加傾向にあり行動範囲も拡大。
さらに、郊外の大型商業施設も増えたため、都市部で暮らすメリットを感じにくくなりました。
そういった理由もあり、都市部から郊外へ人が流れスプロール現象に拍車がかかっているのです。
参照元:平成を振り返る:効果が見えない地方活性化策|日本総研
多方面にさまざまな被害がでる
計画性なく無秩序に市街地開発を行うと、スプロール現象によって多方面に被害がでてしまいます。
例えばインフラ整備が追いつかない場合は、公共サービスや施設の維持も難しくなります。
その状態が長くなればなるほど、費用もかかり自治体の負担になるでしょう。
交通面では、自動車での移動が必須となり所持する人が増加。
その結果、渋滞や事故・騒音が増えたり、排気ガスによって自然環境に悪影響を及ぼしたりする可能性もあります。
また、山に囲まれた場所に市街地が位置しているのであれば、土砂崩れのような自然災害にも注意が必要です。
このようにスプロール現象が起こると、被害が多方面に及びます。
スプロール現象とドーナツ化現象の違い
スプロール現象と似た言葉に、「ドーナツ化現象」があります。
この2つは、何が違うのでしょうか。
それぞれの違いを確認する前に、まずはドーナツ化現象とは何かを知りましょう。
ドーナツ化現象とは
ドーナツ化現象とは、人口が集中していた都心部から郊外へ移り住み、人口が増えていく現象です。
この現象を人口分布で確認すると、ドーナツのような形状をしているため「ドーナツ化現象」と呼ばれるようになりました。
日本だけではなく、世界でも問題視されています。
スプロール現象と何が違うの?
先述した通りドーナツ化現象は、都心部に暮らしていた人々が郊外へ移り住むことを言います。
その一方でスプロール現象は、郊外で暮らす人の増加に対して、十分なインフラ整備が行われていない状態で、次々と無計画に都市化することを表す言葉です。
つまり、人口の流れに注目しているのがドーナツ化現象。
人口の流れも踏まえたうえで、無計画な都市化よって起こる被害や状態を指しているのがスプロール現象ということになります。
ここまでは、スプロール現象とドーナツ化現象の違いについてお伝えしました。
続いては、スプロール現象とSDGsの関係性について確認していきましょう。
スプロール現象とSDGs
スプロール現象が改善されることによって、生活インフラが整い、人々が住み続けられる町になります。
そして、結果的にSDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」の達成にもつながるのです。
スプロール現象と目標11の関係性をお伝えする前に、まずはSDGsについて簡単に説明します。
SDGsとは
SDGsとは、「Sustainable Development Goals」の略です。
2015年の国連総会にて決定した国際目標であり、日本では「持続可能な開発目標」とも呼ばれています。
SDGsは環境・社会・経済の課題を解決するために、17の目標と169のターゲットが設定されており、2030年までにすべての目標達成を目指しているのです。
そのなかでもスプロール現象の改善は、目標11「住み続けられるまちづくりを」の達成につながるとされています。
目標11とスプロール現象
目標11は、「都市や人間の居住地を安全かつ強靭にし、持続可能で住み続けられる町づくり」に焦点を当てています。
そのためターゲットも、「都市部と都市周辺部・農村部のつながり強化」や「地元の資材を使い、強靭な建造物にするための整備を行う」などが設定されました。
スプロール現象は、都市部とその周辺地域のつながりを考えずに、虫食い状に市街地開発を行ったことで起きる現象です。
そのためスプロール現象を改善すると、都市部と都市周辺部や農村部とのつながりが強化され、目標11の達成にも貢献できます。
スプロール現象に対する政府の対策
スプロール現象を改善すると、町は整い、都市部と都市部周辺の町がつながります。
同時に、市街地開発が行われている地域の自治体にかかる負担も減るでしょう。
そのため、政府は改善に向けて下記のような対策を行っています。
地方都市リノベーション事業
地方都市リノベーション事業は、地方都市の市街地を対象に、持続可能な都市構造を再構築することを目的としています。
医療福祉や教育・商業など、地域に必要な都市機能の整備・維持を支援し、中心拠点や生活拠点の形成を推進。
これにより、生活インフラや居住環境が整えられ、地域活性化が期待できるのです。
例えば、地方都市に多い空き店舗やビルの問題を解消するために、図書館や子育て支援施設に整備し直す。
中心拠点区域は公共交通の利便性を活かし、大型商業施設や音楽ホールを集め、人を呼び込むなどが挙げられます。
コンパクト・プラス・ネットワーク
コンパクト・プラス・ネットワークは、都市が抱えている人口減少や拡散した市街地問題などを解消するための政策です。
生活インフラと居住地区をコンパクト化(集約)し、持続可能な地域公共交通ネットワークの推進も行います。
その結果、サービス産業の生産性が向上し地域活性化につながったり、行政サービスの効率化が進み行政コストの削減になったりするのです。
新潟県見附市では、市役所や病院など都市機能が集まる地区と周辺地区を結ぶコミュニティバスを導入したところ、回遊性が上がり年間利用者数が63%も増加(平成27~平成32年)。
その他にも空き商業施設を改修し、子育て支援や健康運動教室などを集めた施設にしたところ、年間50万人が利用するようになりました。
参照元:コンパクト・プラス・ネットワークのねらい|国土交通省
まとめ
居住環境を整えず都市部とのつながりも無視し、虫食いのように市街地開発を行ったことにより発生するスプロール現象。
都市部の人口が減るだけではなく、各自治体の負担が増すなど、さまざまな影響を及ぼしているのです。
政府も現状を改善するために、各自治体と連携して対策を行っています。
私たち個人は、直接的にできることは少ないかもしれません。
しかし、スプロール現象について知り、各市街地がどのような取り組みを行っているのか把握することはできます。
対策によってできた施設や交通機関を、積極的に活用することも改善につながるでしょう。
「何もしないのではなく、自分にできることをする」。
この意識が大切です。
その1歩として、まずは知ることから始めてみませんか?