観光業はその地域の経済に生命力をもたらす一方で、その規模がある一定の閾値を超えると、住民の生活、地域の環境、さらには観光客自体の体験にまでネガティブな影響を及ぼす可能性があります。これが「オーバーツーリズム」の現象です。
この記事では、オーバーツーリズムとは何か、その現状はどのようなものなのか、どのような問題があるのか、そしてそれに対して我々は何ができるのかについて解説します。
オーバーツーリズムとは?
オーバーツーリズムとは、特定の観光地で観光客が急増することにより、地域住民の生活環境、自然環境、景観に大きな負担や悪影響を与える現象を指します。これは単に観光客の数が増えることだけでなく、観光客の行動や地域の観光資源の管理が不適切であることが引き起こす問題も含みます。
なぜオーバーツーリズムは問題なのか
オーバーツーリズムは観光客による観光地の過剰利用が地域社会や自然環境にネガティブな影響を与えるため、問題となります。観光地はその魅力を保つためには適切な維持管理が必要であり、それが行われない場合、観光地の価値は時間とともに低下します。
さらに、地元住民の日常生活が混乱したり、地域の文化や伝統が損なわれる可能性もあります。
オーバーツーリズムの具体的な影響
オーバーツーリズムは、観光客の数が増えすぎることで地域が抱える問題を指します。具体的には、地域の自然環境や社会環境に悪影響を及ぼす可能性があります。これは観光客の数が増えすぎることで、公共交通機関の混雑、交通渋滞、ゴミ問題、騒音などの問題が生じ、地域住民の生活環境が悪化することを指します。
また、観光地が過剰に利用されることで、観光客自体の旅行体験の質も低下します。
オーバーツーリズムの背景
21世紀の観光産業は前例のない成長を見せています。航空運賃の低下、旅行予約のデジタル化、SNSの普及により、以前は手の届かなかった観光地へのアクセスが向上しました。
これらの要因により、多くの人々が観光地を訪れるようになり、旅行者の数は増加の一途を辿っています。これが、観光業の急激な成長とオーバーツーリズムの出現につながっています。
観光業の成長とオーバーツーリズム
観光業の急激な成長は、オーバーツーリズムを引き起こす主要な原因の一つです。これは特に新興国や発展途上国でよく見られます。これらの国々では、観光業が重要な外貨獲得源であり、経済成長の主要なドライバーとなっています。
しかし、観光業の急速な成長により、インフラが十分に整備されていない場合や、観光地の維持管理が適切に行われていない場合、観光地が過剰に利用される結果となります。
安価な航空運賃とオーバーツーリズム
近年の格安航空券の普及により、多くの人々が気軽に海外旅行を楽しむことが可能となりました。これにより、以前は限られた人々しか訪れることができなかった観光地も容易にアクセスできるようになり、結果として観光客の急増を引き起こしています。
この観光客の増加が地域の受容能力を超えると、オーバーツーリズムという現象が発生します。
観光客の増加と地域の受け止め方
オーバーツーリズムが問題となるか否かは、観光客の増加を地域がどのように受け止めるかによります。観光業の成長による経済効果を重視し、更なる成長を望む地域も少なくありません。
しかし、その一方で、観光地の自然環境や社会環境の保護、地域住民の生活の質の維持、観光客の満足度の確保など、他の要素を重視する地域も存在します。これらの要素と観光業の成長とのバランスを適切にとることが、オーバーツーリズムの問題を解決するための重要なキーとなります。
オーバーツーリズムの現状
オーバーツーリズムは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行前後で大きな変化を見せました。
新型コロナウイルスの流行が観光業に与えた影響と、それがオーバーツーリズムにどのように作用したかを見ていきましょう。
世界の観光地でのオーバーツーリズム
COVID-19のパンデミック前、世界の多くの観光地では、観光客の増加によるオーバーツーリズムが深刻な問題となっていました。観光地の魅力や自然環境の保全と観光産業の成長との間で、バランスをとるのが難しくなっていました。
自然環境への影響
人気のビーチが自然保護のために閉鎖されるなど、地域の生態系に深刻な影響を及ぼす事例も報告されていました。観光地の自然環境は、その魅力の源でもあり、保全が急務となっていました。
パンデミックと観光業
新型コロナウイルスのパンデミックは、世界中の観光業に大きな打撃を与えました。移動制限や外出禁止令により、観光客の数は一時的に大きく減少し、その影響でオーバーツーリズムの問題も一時的に緩和されました。
観光業の再開とオーバーツーリズム
しかし、パンデミックの収束とともに多くの地域で観光業が再開され、観光客の数も再び増加し始めています。
その結果、オーバーツーリズムが再び問題となりつつあります。これは観光地が、パンデミック前の観光業の状況に戻ろうとする一方で、その影響で生じた問題が再燃し始めていることを示しています。
新しい観光の在り方への模索
これらの状況を踏まえ、観光地や観光業界は、観光客の満足度を確保しつつも、自然環境や地域社会への負荷を最小限に抑える新しい観光の在り方を模索する必要があります。これは、持続可能な観光業の発展にとって、重要な課題となっています。
オーバーツーリズムの具体的な事例
オーバーツーリズムは地域や状況によりその影響が異なります。
以下では、日本国内の観光地である京都と福岡を例に、オーバーツーリズムの具体的な状況とその影響を深堀りします。
京都の観光地としての魅力
京都は日本の伝統文化や美しい自然環境が魅力の一つとなり、観光客から絶大な人気を誇っています。多くの神社仏閣や伝統的な日本庭園、また四季折々の美しい景色など、日本特有の文化と自然を堪能することができます。
京都のオーバーツーリズム問題
しかしながら、京都の観光地としての人気が逆に観光客の急増を招き、それが地元住民の生活環境や京都独特の景観を損なう原因となっています。
例えば、人気スポットでの混雑が繰り返され、それが地元住民の生活に影響を与えることや、多くの観光客によるゴミ問題、騒音問題などが顕在化しています。
福岡の観光地としての魅力
福岡はその美味しい料理や温かみのある地元の人々、活気あふれる都市環境が観光客にとって大きな魅力となっています。
特に、地元の美味しい食材を活かした料理は多くの観光客を惹きつけています。
福岡のオーバーツーリズム問題
しかしながら、その魅力が逆に観光客の増加を招き、それが都市のインフラストラクチャーや生活環境に大きな負担をもたらしています。
具体的には、公共交通機関の混雑やゴミ問題、騒音問題などが観光地としての魅力を脅かす事態となっており、その解決策が求められています。
オーバーツーリズムへの対策
オーバーツーリズムは観光地にとって深刻な課題となりますが、全く解決策がないわけではありません。政策、教育、そして個人の行動による対策が考えられています。
具体的な対策
例えば、日本では観光庁が2018年6月に「持続可能な観光推進本部」を設置しました。その目的は「増加する観光客のニーズと観光地の地域住民の生活環境の調和を図り、両者の共存・共生に関する対応策のあり方を総合的に検討・推進する」ことです。
地域の規模や状況に応じて、観光客の流れを管理することや、旅行者への教育を強化し、観光資源の保護を図るといった施策が実施されています。これらの施策は地域の観光資源の維持を目指し、同時に観光客の満足度を保つことを狙っています。
一般の人々ができること
私たち一般の人々にもオーバーツーリズムの問題解決に向けてできることがあります。それは、訪れる観光地の環境や文化を尊重し、持続可能な観光を心がけることです。
具体的には、地元のビジネスを支援する、ゴミを適切に処理する、公共の場所での騒音を避けるなどの行動が求められます。
これらの個人の行動は、オーバーツーリズムが引き起こす地域へのネガティブな影響を最小限に抑えるために重要です。
一人ひとりの小さな行動が積み重なることで、観光地と観光客が共存し、長期的な観光資源の維持につながります。
まとめ
オーバーツーリズムは観光地が抱える深刻な問題ですが、解決策は存在します。
まず、政策面では観光庁のような機関が観光客の流れを管理し、旅行者への教育を強化し、観光資源の保護を図るなどの施策を実施しています。これにより、地域の生活環境と観光客の需要のバランスを取り、両者の共存を目指しています。
一方、個人レベルでも、我々訪問者が観光地の環境や文化を尊重し、持続可能な観光を心がけることが求められます。地元のビジネスを支援し、ゴミの適切な処理、公共の場所での騒音を避けるなどの行動がこれに含まれます。
オーバーツーリズムは全ての関係者が協力し合うことで解決可能な問題です。