広大な国土を舞台にSUVやピックアップトラックが街を走り、クルマなしでは生活が成り立たないと言われるアメリカ。そんな自動車大国のミシガン州に、一般車両の乗り入れがほぼ全面的に禁止された島があります。ミシガン湖とヒューロン湖の間に浮かぶマキノー島です。この記事では、マキノー島がなぜ100年以上も「クルマなし」を貫いてきたのかという背景から、アメリカ各地で広がりつつある脱クルマの取り組み、そして日本国内にも存在するマイカー規制の実例までを紹介します。クルマに依存しない暮らしが私たちの日常にどんなヒントを与えてくれるのか、一緒に見ていきましょう。
マキノー島とは|1898年から続く自動車禁止の歴史
マキノー島は、ミシガン州の北部に位置する周囲約13キロメートルの小さな島です。夏はフェリーで多くの観光客が訪れる人気の観光地ですが、この島には他の街にはない大きな特徴があります。それは、救急車や消防車などの緊急車両を除き、自動車の使用が原則として禁止されていることです。島内の移動手段は自転車、徒歩、そして今も現役で活躍する馬車が中心となっており、道路にはエンジン音の代わりに馬蹄の音が響きます。
この禁止令は1898年に定められたとされ、100年以上にわたって守られ続けています。当時はまだ自動車そのものが珍しい時代で、島に持ち込まれた自動車の音や動きが馬を驚かせ、事故につながったことが規制のきっかけになったと伝えられています。以来、島の議会と住民はこのルールを維持し続け、今では自動車を使わない生活そのものが島のアイデンティティになっています。
なぜ128年近く自動車禁止が続いているのか
マキノー島の自動車禁止が長く続いている理由は、単なる歴史的な経緯だけではありません。島の経済は観光業に大きく支えられており、馬車や自転車で移動するのどかな街並みそのものが最大の観光資源になっています。歴史的建造物や自然景観に加え、「クルマの音がしない」という体験自体が他の観光地との差別化になっているのです。
また、自動車が入らないことで排気ガスや騒音が発生せず、島の生態系や景観の保全にもつながっています。住民にとっても、車道の拡張や駐車場整備といった開発圧力を受けずに済むというメリットがあり、結果として観光と環境保全、住民の生活の質という複数の利害が一致した状態が続いていると考えられます。
アメリカ国内に広がるクルマを使わないまちづくり
マキノー島は歴史的な経緯から自動車を排除してきた特殊な例ですが、近年のアメリカでは、都市計画として意図的にクルマ中心の街づくりを見直す動きも出てきています。ニューヨーク市では週末や特定の時間帯に道路を歩行者や自転車に開放する「オープンストリート」の取り組みが行われており、車道を人が歩ける空間として使う実験が続けられています。
さらに象徴的なのが、アリゾナ州テンピに建設された住宅開発「カルデサック・テンピ」です。ここは入居者の駐車場をあえて用意せず、徒歩や自転車、公共交通、カーシェアで生活が完結するように設計された、アメリカでは珍しい「最初から車を前提としない街」として2023年以降に入居が始まったと報告されています。マキノー島が歴史の積み重ねで自動車を排除してきたのに対し、カルデサック・テンピは都市計画の段階から自動車を使わない暮らしを設計している点で対照的です。
こうした動きの背景には、大気汚染の削減や住民の健康的な生活の推進、渋滞緩和といった複数の狙いがあります。世界的には毎年9月22日が「ワールド・カーフリーデー」とされ、各国の都市で自動車を使わない一日を呼びかける取り組みが続けられており、アメリカの一部都市もこうした流れと無縁ではなくなってきています。
移動そのものを見直す視点は、日本の脱炭素な移動手段を考えるうえでも参考になります。

日本にもあるマイカー規制の地域|上高地に学ぶ共存のかたち
実は「クルマを締め出す」という発想は、アメリカだけの特殊な話ではありません。日本国内にも、自然環境を守るために一般車両の乗り入れを制限している地域があります。代表的なのが、長野県松本市にある上高地です。上高地では1975年から通年でマイカー規制が実施されており、観光客はマイカーやレンタカーで直接乗り入れることができず、決められた駐車場からシャトルバスやタクシーに乗り換えて訪れる仕組みになっています。
この規制は、大正池や河童橋周辺の澄んだ空気や静けさ、特別天然記念物にも指定される貴重な自然景観を、増え続ける観光客から守るために導入されたとされています。群馬県の尾瀬でも同様にマイカー規制区間が設けられており、日本の山岳観光地では「クルマを手放すことで自然を守る」という考え方がすでに一定の実績を積んでいます。マキノー島の馬車や自転車と、上高地のシャトルバスは形こそ違いますが、「移動手段を制限することで守られる価値がある」という発想は共通していると言えるでしょう。
歩いて楽しめる街づくりという観点は、日本の観光地や住宅地のこれからを考えるヒントにもなります。

それでも根強いクルマ社会|SUV人気とEVシフトのゆくえ
とはいえ、アメリカ全体で見れば自動車社会からの脱却が一気に進んでいるわけではありません。国土が広く郊外や地方では公共交通の選択肢が限られているため、日常の移動手段として自動車が欠かせない地域がほとんどです。新車販売の内訳を見ても、SUVやピックアップトラックといった大型車が大きな割合を占め続けており、車両の大型化はむしろ進んでいるとされています。
一方で、電動車(EV)へのシフトという新しい潮流も見られます。連邦政府による税額控除などの政策支援や、自動車メーカーによるEVラインアップの拡充が進み、消費者が選べる電動車の選択肢は以前より確実に増えています。ただし、充電インフラの整備状況や車両価格の高さなどから、EVへの移行は地域や所得層によって進み方に差があるのが実情です。SUVの人気とEV化という二つの流れが同時並行で進んでいる状態が、今のアメリカの自動車市場を象徴していると言えるでしょう。
クルマ選びそのものを見直す視点は、脱炭素社会に向けた身近な一歩にもつながります。

クルマに依存しない暮らしから私たちが学べること
マキノー島や上高地の例は、クルマがない暮らしが不便なだけではなく、静けさや自然、地域の個性を守る手段にもなり得ることを示しています。もちろん、日本の都市部でもクルマが日常の足になっている家庭は多く、いきなり自動車を手放すことは現実的ではありません。ただ、普段クルマで済ませている近距離の移動を、週末だけ徒歩や自転車、電車に置き換えてみることはできるはずです。
旅行先を選ぶときに、上高地やマキノー島のようにマイカー規制のある土地をあえて選んでみるのも一つの方法です。移動が制限された環境に身を置くことで、普段は気づきにくい静けさや、歩く速さで見える景色の豊かさに気づくきっかけになります。まずは今週末、いつもクルマで向かう近所の目的地に、公共交通か徒歩で出かけてみることから試してみてください。
まとめ
自動車大国とされるアメリカにも、マキノー島のように1898年から自動車禁止を貫いてきた場所や、カルデサック・テンピのように最初から車を前提としない街づくりに挑む地域が存在します。同時に、SUVの人気やEVシフトが並行して進むように、クルマ社会そのものが急に姿を変えるわけではありません。日本の上高地のマイカー規制と合わせて見えてくるのは、移動手段を選び直すことが、地域の自然や暮らしの質を守る具体的な手段になり得るという事実です。
- マキノー島では1898年以来、緊急車両を除き自動車の使用が禁止され、自転車と馬車が主な移動手段になっている
- アメリカではカルデサック・テンピのように、最初から車を前提としない街づくりも始まっている
- 日本の上高地や尾瀬にも自然保護のためのマイカー規制があり、シャトルバスなどへの乗り換えが求められる
- SUVやピックアップトラックの人気とEVシフトは同時に進行しており、アメリカの自動車社会は急には変わらない
本記事はMIRASUS編集チームが公的資料・企業公式情報をもとに作成しています。
参考文献
- Mackinac State Historic Parks「Mackinac Island History」(mackinacparks.com)
- 環境省「中部山岳国立公園 上高地地区」(env.go.jp)
- U.S. Department of Energy, Alternative Fuels Data Center(afdc.energy.gov)

