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SOCIETY

ダイベストメントとは?メリット・デメリットと対策、日本での広がりまで解説

Photo by Quilia on Unsplash

ダイベストメントとは、株式や債券、融資といった投資・金融の資金を、特定の企業や業種から引き揚げることです。「投資(インベストメント)」の反対の動きにあたります。実行するのは年金基金、大学、財団、保険会社、銀行、個人など、資金を出す側です。企業そのものが行う行為と思われがちですが、実際には投資家や金融機関の判断を指します。

化石燃料が代表的な対象ですが、人権侵害や武器、たばこなどを理由にした引き揚げもあります。この記事では、言葉の意味を押さえたうえで、世界と日本で何が起きているのか、メリットとデメリットはどこにあるのか、投資する側とされる側がどんな対策をとれるのかを、公開されている資料をもとに整理します。

この記事で学べること

  • ダイベストメントとエンゲージメント、ネガティブスクリーニングの違い
  • 世界の広がりと、数字を読むときの注意点
  • 日本のGPIF・生命保険会社・個人の動き
  • メリットとデメリットを「リターン」と「実効性」に分けて考える視点
  • 自分の投資信託や口座で確認できる具体的なチェック項目

ダイベストメントの基本|似た言葉との違いを整理する

ダイベストメントは、投資のやり方を表す言葉がいくつも並ぶ中の一つです。「ESG投資」「ネガティブスクリーニング」「エンゲージメント」と混ざりやすいため、位置づけを先に整理しておくと、後の議論が読みやすくなります。

違いを分けるポイントは、「すでに持っている資産を手放すのか」「そもそも買わないのか」「持ち続けて働きかけるのか」の3つです。

ネガティブスクリーニングとの違い

ネガティブスクリーニングは、石炭火力や武器など特定の条件に当てはまる企業を、最初から投資対象に入れない手法です。ダイベストメントは、すでに保有している資産を売却したり、融資を引き上げたりする行為を指します。実務では両者が組み合わされることが多く、「除外ルールを決めて、該当する保有分を売る」という流れになります。

エンゲージメントとの違い

エンゲージメントは、株主として企業と対話し、排出削減や情報開示を求める手法です。株を持ち続けることが前提になります。ダイベストメントが「手放すことで意思を示す」のに対し、エンゲージメントは「持ち続けて変化を促す」という対照的な関係にあります。どちらか一方が正解というわけではなく、投資家は両方を使い分けます。

ESG投資との関係

ESG投資は、環境・社会・ガバナンスの観点を投資判断に取り入れる考え方全体を指す広い言葉です。ダイベストメントはその中の具体的な行動の一つに位置づけられます。ESG投資をしている=ダイベストメントをしている、というわけではありません。ESG評価の高い企業を選ぶだけで、化石燃料企業を売却していない商品もあります。

世界の広がり|1,600超の機関が表明するまで

ダイベストメントが大きな動きになった出発点は、2010年代前半に米国の大学で、学生が大学基金に化石燃料企業からの投資撤退を求めたことだとされます。その後、年金基金、宗教団体、財団、自治体へと表明する機関が広がりました。

数字で見る推移

環境NGOの350 Japanは、2018年に化石燃料からの撤退を表明した機関が1,000機関・900兆円超に達したと伝えています。国際NGOのStand.earthが管理するデータベースでは、2021年に1,485機関・運用資産39.2兆ドル超、2023年には1,600を超えるコミットメントが集計されました。

この金額を読むときには注意が必要です。示されているのは、表明した機関が運用している資産の総額であり、実際に化石燃料から引き揚げられた金額ではありません。さらに表明の内容も、化石燃料全般を対象にするもの、石炭だけを対象にするものなど、分類が分かれています。「1,600機関」という数字は、広がりを示す目安として受け止めるのが適切です。

代表的な動き

教育機関では、ハーバード大学が2021年9月に、化石燃料関連への投資を終了すると発表しました。学生運動が約10年続いた末の判断として報じられています。

公的な資金では、ノルウェー政府年金基金が最もよく知られた例です。次の章で詳しく見ます。

ノルウェー政府年金基金に見る、除外ルールの設計と揺らぎ

世界最大級の政府系ファンドであるノルウェー政府年金基金は、「何を、どんな基準で外すのか」を公開している点で、ダイベストメントの設計を学ぶ材料になります。同時に、2025年以降は運用の仕組みそのものが見直しの最中にあります。

製品基準と行為基準

基金を運用するNBIM(ノルウェー銀行投資管理)の公式ページでは、除外の理由が2種類に分けられています。ひとつは製品基準で、石炭または石炭火力発電、たばこ、核兵器、クラスター弾などが対象です。もうひとつは行為基準で、武力紛争下での重大な人権侵害、重大な汚職、深刻な環境破壊、温室効果ガスの過大な排出などが挙げられています。

石炭については、収益などの30%以上を石炭に依存する企業を対象にする基準が、2015年の国会決定で導入されたとされます。「ゼロか百か」ではなく、割合の基準を置くことで、線引きの根拠を説明しやすくしています。NBIMの公式ページによると、2026年8月11日の更新時点で、リストには201社が載っており、うち183社が除外、18社が観察対象です。

2025年11月の一時停止

この仕組みは、2025年11月にノルウェー国会が倫理に基づく除外の運用を一時停止したことで、大きな転機を迎えました。NBIMのページには、現在は暫定倫理ガイドラインが適用され、ノルウェー銀行は新たな観察や除外を決定しない(既存の決定の取り消しは可能)と記されています。倫理枠組みの見直し委員会の報告期限は2026年10月15日でした。

見直しの結論は、本稿を書いている時点では今後の議論を待つ段階にあります。最新の状況は、NBIMや政府の公式発表で確認してください。ここから読み取れるのは、除外ルールが一度決まれば固定されるものではなく、運用規模が大きくなるほど、売却の影響や政治との距離が問われやすいということです。

日本ではどうか|年金・生命保険・個人の動き

日本は、海外の大学や年金基金に比べて、化石燃料からの撤退を明確に宣言する動きが限られてきました。ただし、何も起きていないわけではありません。日本の主要な機関は、「手放す」よりも「対話で変える」を軸に据えながら、石炭火力など特定領域では新規の資金供給を絞る方向で動いてきました。

GPIFは対話を重視している

年金積立金の運用を担うGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、スチュワードシップ活動の方針で、投資先企業との建設的な対話(エンゲージメント)を通じて長期的な企業価値を高める考え方を示しています。ESGの要素も考慮するとしていますが、特定の業種を一律に外す方針とは異なります。

これに対して環境団体の気候変動・持続可能な開発研究機関JACSESは、2017年の報告書で、GPIFの石炭関連の保有額を2016年3月末時点で約8,826億円から1兆7,955億円と推計し、石炭関連企業に対するダイベストメント方針の策定を提言しました。推計は2016年時点のもので、現在の保有状況を示すものではない点には注意が必要です。この論点は、「手放すべきか、持ち続けて変えるべきか」という問いが、日本の公的年金でも議論されてきたことを示しています。

生命保険と運用会社

生命保険会社では、第一生命が海外の石炭火力発電プロジェクトファイナンスから撤退する方針を決めた際、グリーンピース・ジャパンが「日本の金融機関として初」と歓迎する声明を出しました。一方で、国内案件が対象外だった点には課題が指摘されました。

エンゲージメントの例としては、2021年に大手生保系の資産運用会社5社が、ベトナムの新規石炭火力事業を進める三菱商事へエンゲージメントを行っていると回答しています。環境NGOは、同社の株主に対し、ダイベストメントを含む対応を求めていました。ダイベストメントを求める市民団体の声と、対話を選ぶ運用会社の判断が、同じ企業をめぐって並んだ事例です。

個人にもできる選択

個人の動きとしては、銀行口座の預け先を見直す形があります。350 Japanのサイトでは、河合弘之弁護士が資産を城南信用金庫へ移した例が紹介されています。投資信託を選ぶときに運用方針の除外基準を確かめることも、個人にとってのダイベストメントの入り口です。具体的な確認項目は、対策の章で整理します。

メリットとデメリット|リターンと実効性を分けて考える

ダイベストメントの議論が混乱しやすいのは、「お金がどうなるか」と「世の中が変わるか」という別々の問いが、一緒に語られるからです。ここでは、この2つを分けて整理します。

主なメリット

ひとつ目は、自分たちの価値観や設立の目的と、資産運用を一致させられることです。環境保全を掲げる財団が化石燃料企業の株を持ち続けていれば、整合性を問われます。ふたつ目は、気候関連の規制強化や需要減少によって価値が下がるリスクに備えられることです。三つ目は、社会に対する意思表示になることです。大きな資金を持つ機関の表明は、その業界への資金の流れや世論に影響を与えるとされています。

主なデメリット

運用面では、投資対象が絞られることで、リターンのぶれが大きくなる可能性があります。研究では、1927年から2016年の長期データを使い、化石燃料企業を含むポートフォリオと含まないポートフォリオを比べた分析(Trinksらによる2018年の論文)があります。この研究は、ダイベストメントが運用成績を損なうという証拠は見つからなかったとしています。一方で、短い期間や、分散が小さい指数に適用した場合には、影響が目立ちやすいとも述べています。

実効性の面では、売却しても別の投資家が買えば、その企業の資金調達や排出量がすぐに減るとは限りません。また株主でなくなれば、株主総会での議決権行使や対話といった働きかけの手段を手放すことにもなります。何を「化石燃料企業」とみなすかの線引きが難しい点も、運用現場の悩みどころです。

誤解されやすいポイント

「株を売れば、その会社が行き詰まる」という理解は、実態とずれています。ダイベストメントの狙いは、投資先を罰することではなく、資金の流れを通じて、事業の方向や評価に影響を与えることにあります。「リターンが必ず下がる」という見方も、先に見た研究を踏まえると、一概には言えません。どちらも、期間や投資対象の範囲で結果が変わる話です。

ダイベストメントの対策|投資する側・される側それぞれの備え

「対策」という言葉は、立場によって意味が変わります。投資を預かる側や個人にとっては「自分の資金をどう整えるか」、事業会社にとっては「投資家から外されないために何を示すか」になります。

個人・団体が確認できること

個人投資家が最初にできるのは、いま持っている投資信託の中身を見ることです。運用報告書や目論見書には、上位組入銘柄と運用方針が書かれています。次の項目を確認すると、判断しやすくなります。

  • 除外基準があるか(あれば、石炭・石油など対象業種と、売上比率などの閾値)
  • 除外のほかに、議決権行使や企業との対話の方針と報告があるか
  • 上位組入銘柄に、自分が避けたい業種が入っていないか
  • 運用コストと分散の度合いが、自分の目的に合っているか

「環境に優しい」と名乗る商品でも、除外の範囲はさまざまです。名前や宣伝文句ではなく、基準の中身で比べてください。大学や財団、企業年金など団体の場合は、投資方針書に除外の考え方を明記し、定期的に見直す手順を決めておくと、あとから説明しやすくなります。

事業会社側の備え

投資家から外される側の企業にとっての対策は、「化石燃料から離れる」ことだけではありません。投資家が見ているのは、排出量の実績、削減目標、そこに至る移行計画の具体性、そして情報開示の質です。除外基準が売上比率で決まる場合は、事業構成の変化が評価に直結します。

エンゲージメントを選ぶ投資家に対しては、対話の場で移行計画を説明できるかが問われます。ダイベストメントとエンゲージメントは対立する手法ではなく、「計画に納得できなければ売却に進む」という順で使われることがあります。企業にとっては、開示と対話の準備が、どちらにも通じる備えになります。

迷ったときの判断の分かれ道

売るか持ち続けるかで迷ったら、「自分や団体が何を達成したいのか」に立ち戻るのが近道です。価値観と運用を揃えたいのであれば除外が向いています。企業を変えたいのであれば、保有と対話が選択肢になります。両方を満たしたい場合は、除外の基準を明確にしつつ、保有するファンドの議決権行使の報告も確認する、という組み合わせがあります。

まとめ

ダイベストメントは、投資家が資金の出し手として、特定の企業や業種から資金を引き揚げる行為です。世界では1,600を超えるコミットメントが集計されていますが、その金額は表明した機関の運用資産であり、実際に売却された額ではありません。ノルウェー政府年金基金の例が示すように、除外のルールは明確な基準が必要である一方、運用の規模や政治との関係で見直しも起こります。

日本では、GPIFが対話を重視し、生命保険会社が石炭火力向けの資金供給を絞るなど、「手放す」と「対話する」が並行してきました。メリットは価値観との一致とリスクへの備えで、デメリットは対象の限定による運用面のぶれと、売却だけでは世の中が変わりにくい点です。長期データでは運用成績を損なうとは言い切れないという研究がある一方、期間や分散の度合いで結果が変わります。

迷ったときは、自分がダイベストメントで何を実現したいのかを先に決めてください。そのうえで、保有する投資信託の除外基準と上位組入銘柄を確認するところから始められます。まず1本だけ、運用報告書を開いて中身を見てみてください。

  • ダイベストメントは、資金の出し手が保有資産や融資を引き揚げる行為で、エンゲージメントとは「手放す」か「持ち続けて働きかける」かが違う
  • 世界の表明は1,600超だが、金額は表明機関の運用資産の合計で、実際の売却額ではない
  • 日本ではGPIFが対話を重視し、生保などは石炭火力向けの資金供給を絞る動きがある
  • 長期データでは運用成績を損なう証拠は見つからなかったとする研究がある一方、短期や集中投資では影響が出やすい
  • 個人は運用報告書で、除外基準・対話方針・上位組入銘柄を確認できる

参考文献

  • 記事を書いたライター
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