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SOCIETY

人新世(アントロポセン)とは?わかりやすく解説|2024年に否決されても使われ続ける理由と日本の実践

【用語解説】人新世(アントロポセン)とは?わかりやすく解説

人新世(アントロポセン)とは、人間の活動が地球の地層や気候、生態系を変えるほど大きくなった時代を指す言葉です。ギリシャ語の「人間(anthropos)」と「新しい(kainos)」に由来し、2000年代の初めに大気化学者のパウル・クルッツェン氏らが広めました。ただし、2024年3月に国際的な地質学の組織が「正式な地質時代としては採用しない」という結論を出しています。それでも、この言葉は研究者や政策、教育の現場で使われ続けています。この記事では、定義を押さえたうえで、「結局いまどういう扱いなのか」「日本ではどんな動きがあるのか」「自分の暮らしとどうつながるのか」を順に整理します。

この記事で学べること

  • 人新世の起点として挙げられている3つの考え方と、その違い
  • 2024年に「正式な地質時代」として否決された経緯と、否決後も言葉が使われる理由
  • 日本の別府湾が人新世の研究で果たした役割
  • 2025年に報告された「地球の限界」の最新状況と、日本の自然共生サイトなどの取り組み
  • 人新世を知った後に、暮らしの中でできる具体的な行動

人新世はいつ始まったのか|起点をめぐる3つの考え方

地質時代は、地層に残った痕跡をもとに区切られます。人新世は「人間の活動が地層に残る痕跡になった時点」をどこに置くかで、始まりの年代が大きく変わります。

「いつから?」という疑問に一つの答えがないのは、どの痕跡を重く見るかが研究者によって違うからです。代表的な考え方は次の3つです。

約1万年前の農耕の開始

農耕が広がると、森林が農地に変わり、家畜が増え、土地の姿が大きく変わりました。この変化を重く見る立場では、人新世は約1万年前にさかのぼります。ただし、この時点の影響は地域ごとにばらつきがあり、地球全体を同時に変えたとは言いにくい面があります。

18世紀後半の産業革命

石炭などの化石燃料を大量に燃やし始めた産業革命を起点とする考え方は、最も広く知られています。大気中の二酸化炭素が増え続ける出発点になったためです。一方で、世界全体で見ると、この時期の影響はまだ一部の地域に偏っていました。

1950年前後の「大加速」

第二次世界大戦後、人口、エネルギー消費、プラスチックの生産、肥料の使用量などが一気に増える時期に入りました。この急増は「グレート・アクセラレーション(大加速)」と呼ばれます。同じ時期に行われた核実験は、世界中の地層にプルトニウムなどの痕跡を残しました。地質学者が「地層に刻まれた境目」として使いやすいのは、この1950年前後です。

2024年に「正式な地質時代」としては否決された理由

人新世を正式な地質年代にするかどうかは、長く検討されてきました。結論は「正式採用は見送り」です。ただし、この結論は「人間が地球を変えていない」という意味ではありません。

否決までの流れ

人新世作業部会は2023年7月、カナダ・オンタリオ州のクロフォード湖を、人新世の基準となる地層の候補地に選びました。湖底の堆積物に、1950年ごろから増えたプルトニウムの痕跡が明確に残っているためです。

その後、国際第四紀層序小委員会が投票を行い、提案は否決されました。投票メンバーの一人であるフィル・ギバード氏は、CNNの報道で「提案は66%の票で否決された」と説明しています。国際地質科学連合(IUGS)と国際層序委員会の共同声明は、この否決を承認しました。

否決の理由と、その後の扱い

報道によると、この変化が「世」という大きな単位に相当するかどうかで見解が割れたとされます。専門家からは、人新世を境目が一点に定まる「世」ではなく、長い時間をかけて広がった地質学的な出来事として扱うべきだという提案も出ています。

注目したいのは、同じ声明が「人新世という用語は、地球システム科学などの研究コミュニティですでに有用であり、今後も使われ続ける」と述べている点です。正式な地質年代表には載らなくても、「人間が地球規模の変化の主役になった時代」を表す言葉としては、研究や政策の現場で生き続けています。

否決を「人間の影響の否定」と受け取らないために

「否決された=人新世は嘘だった」と読むのは誤りです。争点は、人間の影響の有無ではなく、地質学の厳密な基準で「世」として線を引けるかどうかでした。この区別を知っておくと、ニュースの見出しだけで判断せずに済みます。

日本の海が残した証拠|別府湾と人新世

人新世の話は海外の湖の話だと思われがちですが、日本も当事者です。大分県の別府湾は、人新世の基準地の有力候補の一つとして研究されてきました。

愛媛大学沿岸環境科学研究センターの研究チームは、別府湾の堆積物が人新世の始まりを示す可能性があるとして、2019年以降に調査を進めています。別府湾の海底には、季節ごとに色や密度が違う層が積み重なっており、縞を数えることで1年ずつ年代を特定できます。このような年縞は、海では珍しい特徴だとされています。

笹川平和財団の紹介記事によると、この堆積物には放射性同位体、化石燃料の燃焼物質、重金属、マイクロプラスチックなど、人為的な影響の痕跡が記録されています。そして、1953年の層を境に、人為影響の痕跡が急増すると報告されています。2023年3月の時点で、カナダや中国の湖、カリブ海のサンゴ、南極の氷など12の候補が挙がっており、別府湾はその中の一つでした。

最終的にクロフォード湖が選ばれ、人新世は正式採用に至りませんでしたが、日本の沿岸の海底が「人間の活動の記録」として世界水準の研究対象になったことは変わりません。身近な海が、時代の変化を年単位で記録していると考えると、人新世がぐっと具体的に感じられるのではないでしょうか。

2025年の最新診断|地球の限界9つのうち7つを超えた

人新世という言葉が使われ続ける最大の理由は、変化が今も進行中だからです。その進み具合を測る物差しが、「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」です。

プラネタリー・バウンダリーとは

地球の環境を安定に保つための9つの領域について、「ここまでなら人間が活動しても安全」とされる境界線を定める考え方です。気候変動、生物圏の健全性、土地利用の変化、淡水の利用、窒素やリンの循環、新規化学物質(プラスチックなど)、海洋酸性化、オゾン層の破壊、大気中の微粒子が対象になります。

2025年に報告された内容

ポツダム気候影響研究所などが2025年9月に公表した「プラネタリー・ヘルス・チェック2025」では、9つのうち7つが境界を超えたと報告されました。前年の報告から1つ増えており、新たに海洋酸性化が加わっています。産業革命前と比べて海の表面のpHは約0.1下がり、酸性度は30〜40%高まったとされています。安全な範囲にとどまっているのは、オゾン層の破壊と大気中の微粒子の2つです。

悪い知らせだけではない

同じ報告で、研究を率いるヨハン・ロックストローム氏は、オゾン層の回復や大気汚染の減少を例に、方向を変えられることを示せたと述べています。診断は深刻でも、「治療の窓」はまだ開いているという趣旨の発言です。つまり、人新世は「手遅れの時代」を意味するのではなく、「人間が選び方を変えられる時代」を意味する言葉として読むこともできます。

日本の制度と地域の実践|30by30と自然共生サイト

人新世の課題のうち、生物多様性の損失に対して、日本は国の制度を整えてきました。軸になるのが、2030年までに陸と海の30%以上を保全する「30by30」目標です。

環境省の白書によると、2023年1月時点で、日本は陸地の約20.5%、海洋の約13.3%が国立公園などの保護地域に指定されています。ただし、目標達成には保護地域だけでは足りません。そこで、企業の敷地や里山、水辺など、民間が管理している場所を認定する仕組みが「自然共生サイト」です。

環境省の2026年6月30日の発表によると、令和8年度第1回の認定で56か所が加わり、累計は610か所になりました。2025年4月に施行された地域生物多様性増進法に基づく認定で、今回の内訳は、現状を保つ「維持タイプ」が47か所、荒れた場所を戻す「回復タイプ」が5か所、新しく自然をつくる「創出タイプ」が3か所などです。

この仕組みの意義は、自然保護を「専門家や行政だけの仕事」から、土地を持つ企業や地域団体、農家などにも広げた点にあります。一方で、認定されたからといって、すべてのサイトが誰でも入れる場所とは限りません。公開の可否や見学の条件はサイトごとに異なるため、秋の行楽で訪ねたいときは、各サイトの案内を事前に確認するのが確実です。

誤解されやすい点|人新世は「人間みんなの責任」なのか

人新世の話を聞いて、「人間全体が悪い」という印象を持つ方は少なくありません。しかし、この受け止め方には注意が必要です。

責任の大きさは均等ではない

温室効果ガスの排出量や資源の消費量は、国や地域、所得の違いによって大きな差があります。「人類」とひとくくりにすると、影響を受けやすい立場の人々と、影響を大きく生み出してきた側の違いが見えにくくなります。こうした点から、人新世という言葉に、資本主義や特定の経済のしくみに焦点を当てた別の呼び方を提案する研究者もいます。日本では、経済思想家の斎藤幸平氏の『人新世の資本論』が広く読まれ、経済のしくみと環境危機の関係を考えるきっかけになりました。

「個人のせい」でもない

反対に、ごみ分別やマイバッグの持参など、個人の努力だけで解決する話でもありません。エネルギー、食料、交通といったしくみそのものが大きな影響を持っています。個人の行動と、制度や企業の選択の両方が必要だと捉えるのが、現実に近い見方です。

「地球が壊れる」話でもない

地球そのものは、人間がいなくなっても続きます。問われているのは、人間が暮らしやすい環境を保てるかどうかです。この違いを意識すると、不安をあおられるだけの話ではなく、自分たちの暮らしの条件を守る話として受け止められます。

人新世を知った後に|暮らしの中でできる行動の選び方

定義を知った後に多くの方が抱くのは、「結局、自分は何をすればいいのか」という疑問だと思います。行動を選ぶ判断基準を、3つに分けて紹介します。

限界を超えた領域に効く行動を選ぶ

7つの領域が境界を超えた今、効果が出やすいのは、複数の領域に同時に関わる行動です。たとえば、食品ロスを減らすことは、土地利用の変化、淡水の利用、窒素やリンの循環の負荷を同時に和らげます。使い捨てのプラスチックを減らすことは、新規化学物質の問題に関わります。電気の契約を見直すことは、気候変動への負荷を下げる選択です。

続けられる大きさにする

一度に生活を変えようとすると、長続きしません。まず1つだけ、毎週必ず行う行動を決めてみてください。献立を決めてから買い物に行く、使っていない電化製品のコンセントを抜く、といった小さな習慣で十分です。

制度や地域の動きにも目を向ける

個人の行動に加えて、住んでいる自治体の環境計画を読む、自然共生サイトの認定地を調べる、投票や意見募集に参加する、といった関わり方もあります。身近な場所で何が守られ、何が変わりつつあるのかを知ることが、次の行動の土台になります。

まとめ

人新世は、人間の活動が地球規模の変化を引き起こす時代を表す言葉です。起点については、農耕の開始、産業革命、1950年前後の大加速という複数の考え方があります。2024年3月には、正式な地質年代としての採用が見送られましたが、これは人間の影響を否定する結論ではなく、地質学の基準で「世」として区切れるかどうかの判断でした。用語自体は、研究や政策の現場で使われ続けています。

2025年の報告では、地球の限界9つのうち7つが境界を超えたとされ、新たに海洋酸性化が加わりました。一方で、オゾン層の回復のように、方向を変えられた例もあります。日本では、30by30と自然共生サイトの認定が進み、2026年6月末時点で累計610か所になりました。人新世は「手遅れ」を告げる言葉ではなく、選び方を変える余地が残っていることを確かめる言葉でもあります。

まずは、毎週続けられる行動を1つだけ決めてみてください。

  • 人新世の起点は、農耕、産業革命、1950年前後の3つの考え方がある
  • 2024年3月に正式な地質年代としては見送られたが、用語は使われ続けている
  • 別府湾の堆積物は、1953年ごろを境に人為影響の痕跡が急増すると報告されている
  • 2025年の報告では、地球の限界9つのうち7つが境界を超えた
  • 日本の自然共生サイトは、2026年6月末時点で累計610か所になった

参考文献

  • 記事を書いたライター
  • ライターの新着記事
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