環境教育とは、環境や環境問題についての知識を身につけるだけでなく、一人ひとりが環境を守る行動を選び、社会のしくみを変える力を育てる学びのことです。日本では法律で位置づけられ、2024年5月には国の基本方針が約6年ぶりに変更されました。学校の授業から地域の活動、企業の出前授業まで、取り組みはすでに広がっています。この記事では、環境教育の基本理念を押さえたうえで、日本の制度、学校や自治体の実践例、誤解されやすい点、今日からできる関わり方、これからの展望を順に整理します。
環境教育の基本理念|知識を覚えるだけで終わらない学び
環境教育は「ごみの分別を教える授業」や「地球温暖化の仕組みを覚える授業」とは少し違います。ねらいは、環境と人間の関わりを理解し、自分で考え、行動に移し、さらに周囲や社会に働きかける人を育てることにあります。知識、態度、行動の三つがつながって、はじめて環境教育になります。
たとえば、レジ袋が海洋ごみの一因になると知っただけでは、行動はなかなか変わりません。身近な川や海岸で実際にごみを拾い、どこから来たのかを調べ、自分の暮らしとのつながりに気づく。その経験があると、「では自分はどう買い物をするか」「地域のルールはどうあるべきか」という次の問いが生まれます。環境教育が体験や対話を大切にするのは、このためです。
ここで押さえておきたいのは、環境教育が環境問題だけを扱う教育ではないという点です。環境の問題は、経済、暮らし、人権、地域のあり方と切り離せません。そのため現在は、持続可能な社会をつくる人を育てる「ESD(持続可能な開発のための教育)」と重なり合う形で語られることが多くなっています。環境教育は、ESDの中でも環境面から社会を見つめる入り口と考えると、全体像がつかみやすくなります。
日本の環境教育の制度|法律・基本方針・学校教育の三層で見る
「環境教育は学校の取り組み」というイメージを持つ方は多いのですが、日本では法律と国の方針が土台にあり、学校はその一部を担っています。この三層の関係を知っておくと、ニュースや自治体の施策を読み解きやすくなります。
環境教育等促進法の成り立ち
環境教育の中心となる法律は「環境教育等による環境保全の取組の促進に関する法律」(環境教育等促進法)です。2003年7月に議員立法で制定され、2011年6月に改正されました。改正法は2012年10月に全面施行されています。改正では、地域の多様な主体が協力する「協働取組」の推進が目的に加わり、自治体が環境教育の行動計画をつくる努力義務などが盛り込まれました。この法律は文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省の5省が共同で所管しており、環境教育が一つの省庁にとどまらない分野であることがわかります。
2024年の基本方針変更で何が変わったか
法律に基づく国の「基本的な方針」は、2018年6月の閣議決定で改定後5年を目途に見直すとされていました。これを受けて、2024年5月14日に変更が閣議決定されています。環境省の発表によると、主な変更点は二つあります。
一つ目は環境教育の目的です。気候変動などの危機に対応するため、「個人の意識や行動変容と組織や社会経済システムの変革を連動的に支え促すこと」が掲げられました。二つ目は重視すべき方法です。従来の体験活動に加えて、多様な主体同士の対話と協働を通じた学びや、ICTを活用した学びを、学校・地域・企業などさまざまな場で進めるとされています。学校と地域をつなぐ中間支援の機能を充実させる方向も示されました。
読者にとっての意味は、環境教育の対象が子どもだけではなくなったことです。個人の行動が変わるだけでは足りず、会社や地域のしくみも一緒に変えていく。この考え方は、大人が学び直す場や企業の社内研修にも当てはまります。
学校教育での位置づけ
学校では、現行の学習指導要領が前文で「持続可能な社会の創り手」の育成を掲げています。環境教育は特定の教科だけが担うのではなく、理科、社会、家庭科、総合的な学習の時間などを横断して進める設計です。文部科学省と日本ユネスコ国内委員会は、ユネスコスクールをESDの推進拠点と位置づけています。国内の加盟校は2005年に16校でしたが、令和8年(2026年)3月31日時点で1,065校となっています。
学校・地域・企業の実践例|さいたま市と岡山市から見える連携のかたち
制度を知ったあとに気になるのは、実際の現場で何が行われているかでしょう。ここでは公開されている自治体の情報から、連携のかたちが異なる二つの地域を見ていきます。
さいたま市の産学官連携による出前授業
さいたま市は「さいたま市環境教育ネットワーク」を通じて事業者などと連携し、令和2年度から事業者、大学、市が協力して小学校で出前授業を行っています。令和7年度は、リコージャパン株式会社、株式会社AQ Group、株式会社セブン-イレブン・ジャパン、国立大学法人埼玉大学、さいたま市環境局が参加しました。
授業の内容は学校ごとに違います。常盤小学校の4年生は、SDGsの基礎知識を学んだあと、間伐材の削り華を使って木のストローをつくりました。美園北小学校の5年生は、食品ロスの問題を学び、買い物で手前の商品を選ぶ「てまえどり」を呼びかけるPOPを制作しています。座学で終わらず、手を動かして「自分の行動につなげる」設計になっている点が特徴です。企業にとっても、自社の事業と環境課題のつながりを子どもに伝える場になります。
岡山市のESDを軸にした地域ぐるみの取り組み
岡山市は、学校だけでなく市民団体、企業、行政などが連携してESDを進める地域として知られています。2005年に岡山ESD推進協議会を設立して「岡山ESDプロジェクト基本構想」を策定し、同じ年の6月に国連大学から、世界で最初の7か所の一つとしてRCE(ESDに関する地域拠点)に認定されました。2022年3月時点では、約340団体が岡山ESDプロジェクトに賛同し、協議会に登録しています。
さいたま市が「企業や大学が学校に入る」型だとすれば、岡山市は「地域全体で学びの土台をつくる」型です。どちらが優れているということではなく、地域の規模や資源によって適した形が違います。
民間の自然体験の場を認定する制度
環境教育等促進法には、「体験の機会の場」の認定制度があります。土地や建物の所有者などが、自然体験などの場を環境保全の意欲を高める目的で提供する場合に、一定の要件を満たしていれば都道府県知事などの認定を受けられる制度です。認定の状況は都道府県ごとに公開されているため、この秋の週末や校外学習の行き先を探すときには、お住まいの都道府県の一覧を調べると、候補が見つかることがあります。
環境教育で誤解されやすい3つのポイント
環境教育は善意に支えられている分、思い込みも生まれやすい分野です。ここでは、現場で語られやすい三つの誤解を整理します。
環境教育は理科の授業ではない
「環境教育=自然科学の知識を教えること」という見方は、半分しか当たっていません。気候変動や生物多様性の科学的理解は欠かせませんが、それに加えて、暮らし、経済、地域の合意形成、人権といった社会科的・家庭科的な視点が必要です。基本方針が「個人の行動変容と社会経済システムの変革」の両方を掲げているのは、そのためです。
体験すれば行動が変わるとは限らない
自然体験は環境教育の大切な方法ですが、楽しかったという記憶だけで終わると、日常の行動にはつながりにくくなります。体験のあとに「なぜそうなっているのか」「自分の暮らしでは何を変えられるか」を話し合う振り返りの時間があるかどうかで、学びの深さが変わります。2024年の基本方針変更で「対話と協働を通じた学び」が加わったのも、体験を行動に結びつける工夫の一つと読めます。
正解を一つに決めて教えると、かえって学びを狭める
環境問題には、立場によって利害が異なるものが少なくありません。たとえば、再生可能エネルギーの導入にも、地域の景観や生態系への影響をめぐる議論があります。「これが正しい行動です」と一方的に伝えるのではなく、複数の見方を示し、根拠を確かめながら自分で判断する力を育てることが、環境教育の本来の姿です。企業が提供する教材でも同じことが言えます。「環境にやさしい」と言い切る表現には、根拠が示されているかを確かめる習慣を持ちたいところです。
環境教育を進めるうえでの課題|現場の負担と連携の窓口
環境教育には、意識や知識の向上、持続可能な行動の促進といった利点があります。一方で、現場には現実的な課題もあります。
時間・人手・予算の制約
学校には、教科の授業時間、行事、働き方改革といった優先課題があり、環境教育のために新しい時間を確保するのは簡単ではありません。外部講師の招へいや野外活動には、費用や安全管理の負担も伴います。教える側が環境問題の専門家であるとは限らない点も、現場では指摘されるところです。
学校と地域・企業をつなぐ窓口の不足
2024年の基本方針変更で、学校と地域の連携を支える中間支援機能の充実が示されたのは、こうした事情を踏まえてのことでしょう。学校が自力で外部と連絡を取り合うのではなく、窓口となる組織が仲立ちをすれば、先生の負担を減らしながら質の高い体験を提供しやすくなります。さいたま市のように自治体がネットワークをつくる方法や、岡山市のように協議会を設ける方法は、その具体例といえます。
今日からできる関わり方と、プログラムの選び方
環境教育は、学校の先生や環境の専門家だけのものではありません。立場ごとに、今できる関わり方を挙げます。
家庭でできること
子どもと一緒に、近所の公園や川辺を歩いてみるところから始められます。紅葉や落ち葉、木の実が目に入るこの時期は、季節の変化と生き物のつながりを話題にしやすいタイミングです。帰り道に「この落ち葉はどこへ行くのだろう」と問いかけるだけでも、立派な環境教育になります。スーパーで「てまえどり」を試してみるのも、食品ロスを身近に感じる一歩です。
学校や地域団体の担い手にとって
外部の環境教育プログラムを選ぶときは、次の三つを確かめてみてください。
- 体験のあとに、話し合いや振り返りの時間が組み込まれているか
- 環境課題について、根拠や出典が示されているか
- 学校の授業や地域の課題と、無理なくつながっているか
この三点がそろっていれば、単発のイベントで終わりにくくなります。自治体の環境担当部署やESDの支援センターに相談するのも、一つの方法です。
企業で働く人にとって
企業の出前授業は、自社の事業を環境課題と結びつけて伝える機会です。ただし、自社の宣伝にならないよう、子どもたちが自分で考える余地を残すことが大切です。さいたま市の例のように、大学や自治体と組んで教材をつくると、学びの質も保ちやすくなります。
環境教育の今後の展望|国際的な流れと学びの場の広がり
最後に、これからの環境教育がどう変わっていくのかを見ておきます。
ESD for 2030と気候危機への対応
2021年5月17日から19日にかけて、ユネスコとドイツ政府の主催で「ESDに関するユネスコ世界会議」がオンライン開催され、161か国以上から約2,800人(閣僚級70名を含む)が参加しました。最終日には「ESDに関するベルリン宣言」が採択され、気候危機や生物多様性の喪失に対応するため、教育を通じた緊急の行動が呼びかけられています。この会議は、SDGs達成に向けた新しい国際枠組み「ESD for 2030」の開始を契機としたもので、日本はこの枠組みの提唱国として参加しました。
学びの場が学校の外へ広がる
国内では、2024年の基本方針変更が示すように、対話と協働、ICTの活用が柱になっていきます。オンラインで遠くの地域とつながる授業や、企業・自治体・大学が参加する学びの場は、今後さらに増えていくでしょう。同時に、課題も見えています。広がる取り組みの質をどう保つか、地域による差をどう小さくするかは、これから問われる点です。
まとめ
環境教育とは、環境についての知識を得るだけでなく、考え、行動し、社会に働きかける力を育てる学びです。日本では環境教育等促進法を土台に、2024年5月の基本方針変更で「個人の行動変容と社会経済システムの変革を連動させる」という方向が明確になりました。さいたま市の産学官連携の出前授業や、岡山市の地域ぐるみのESDのように、学校・企業・大学・自治体が連携する実践も各地で進んでいます。
一方で、授業時間や人手の制約、学校と地域をつなぐ窓口の不足といった課題が残っていることも事実です。だからこそ、私たち一人ひとりが子どもの学びや地域の活動に関わる余地があります。大がかりなことをしなくても、家族で近所を歩く、気になる環境プログラムの内容を確かめるといった小さな行動が、環境教育の裾野を広げます。まず1つだけ、この秋の週末に試してみてください。
- 環境教育は、知識だけでなく行動と社会の変革までを視野に入れた学びである
- 2024年5月の基本方針変更で、対話と協働、ICTを活用した学びが重視された
- さいたま市は産学官連携、岡山市は地域ぐるみと、連携のかたちは地域ごとに異なる
- プログラムを選ぶときは、振り返りの有無、根拠の提示、授業や地域課題とのつながりを確かめる
- 家庭でも職場でも、身近な場所から小さく関わることができる
参考文献
- 環境省「『環境保全活動、環境保全の意欲の増進及び環境教育並びに協働取組の推進に関する基本的な方針』の変更の閣議決定について」(2024年)
- 文部科学省・日本ユネスコ国内委員会「ユネスコスクール」(2026年)
- 文部科学省「ESDに関するユネスコ世界会議」(2021年)
- さいたま市「環境教育ネットワーク・出前授業」(2025年度)
- 岡山市「岡山ESDプロジェクト」(2022年)
- 日本法令外国語訳データベースシステム「環境教育等による環境保全の取組の促進に関する法律」

