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企業・団体事例

海洋の環境保全とチリの雇用改善でSDGsに取り組むキミカ

もしも将来、海洋の生態系が崩れ、青く美しい海が失われてしまったら――そのような未来を望む人は誰一人としていないはずです。

株式会社キミカ(以下キミカ)はアルギン酸メーカーとして海藻を収集しながら、海洋環境のバランスとチリの人々の暮らしを守り、2020年には日本政府からジャパンSDGsアワード特別賞が贈られました。

この記事では、キミカが行っている海洋環境や人々の暮らしを守る活動をご紹介します。

アルギン酸を製造・販売するキミカ

アルギン酸を製造・販売するキミカ

キミカは、アルギン酸を製造・販売している会社です。

アルギン酸は、私たちが普段食べているパンやパスタなどに使われている食品添加物で、ワカメや昆布のヌメリ成分である天然の食物繊維からつくられています。

アルギン酸には、パンを長時間ふんわりしっとりした状態に保ったり、麺の食感を良くしたり、ドレッシングやアイスクリーム、ビールの品質を安定させたりする効果があります。

食品添加物と聞くと「健康に悪いものなのではないか?」と思う人もいるかも知れませんが、アルギン酸の原料は、天然の海藻(褐藻類と言うワカメやコンブの仲間)で、アルギン酸は国連機関でも高い安全性が認められています。

その安全性は、1日に摂取する量を制限する必要がないほどで食品だけでなく医薬品や化粧品にも使われています。

キミカのSDGsに関する取り組み事例

人と自然のサイクルを第一とする海藻収集(目標13,14)

チリ漁民による海藻収集風景

私たちが毎日口にしていると言えるほど身近な素材であるアルギン酸。
しかし、原料となる海藻の収集量は、エル・ニーニョ現象といった海洋変化に左右され、かつては安定的な収集は難しいと言われていました。

海藻の価値が高まると、乱獲しようとする人が現れるのも問題でした。

キミカの活動は、そういった問題を見事に解決しています。キミカは、大型船で海洋に乗り出して海藻を機械で乱獲するようなことを一切行いません。

生きた海藻を乱獲せずとも、チリ沿岸部には、寿命を終えて岩から自然に剥がれ落ちてきた海藻が大量に漂着しているのです。
キミカは生きている海藻を刈り取るのではなく、チリの人々(漁民)に漂流した海藻を拾い集めてもらっています。

創業以来80年間、人海戦術を取ってきたキミカ。
人手を掛けて海藻を収集する方法は、大型船での刈り取りよりコストがかかります。

しかしキミカは、長年にわたって築いてきたチリとの信頼関係でそれを実現しています。

市況の海藻価格に左右されずに、キミカが安定的に現地の人から海藻を買い取るようになると、他社による海藻の乱獲が減ったと言います。

キミカは、人の手で海岸に漂着した海藻を集め、安定的な価格で買い取ることで、海洋資源を守ることに成功したのです。

アルギン酸製造工程も地球にやさしく(目標7,12,13)

砂漠に面したチリ北部の海岸線

海藻をアルギン酸に加工するためには様々な工程が必要です。海から収集した海藻は、すぐに乾燥させないと腐ってしまいます。
海藻からアルギン酸を精製するには、この乾燥させる作業が重要です。

ところが海藻は水分を多く含むため、機械で乾燥させようとするとたいへんな量のエネルギーが必要になります。
そこでキミカが目を付けたのがチリの気候です。

キミカが海藻を集めているチリはアタカマ砂漠に面しており、空気が乾燥しています。この地理的特徴を生かし、天日を利用して海藻を乾燥させているのです。

化石燃料を消費しない乾燥方法は、環境にやさしい上にコスト削減にもつながり、キミカの強みになっています。

また、チリの乾燥した土地は、海藻の在庫を保管する場所としても最適です。
高い品質を保ったまま長期間海藻を保存できるため、大量に在庫を抱えることができ、安定して海藻を調達できるのです。

海藻の長期保存が可能となったことで海藻の価格も安定し、乱獲防止にもつながっています。

キミカは、海藻の収集だけでなく、製造過程や保管方法でも自然を大切にしているのです。

海藻収集でチリの人々の暮らしを守る(目標1,3,4,6,8,14)

チリ漁民による海藻収穫風景

チリの沿岸部に住む人々は、昔から海藻を収集してそれを売ることで生計を立ててきました。
しかし、海藻の価格は需給のバランスで大きく変動するため収入が安定せず、人々の
暮らしは不安定でした。

キミカは、1980年にチリの海洋調達会社に資本参加して、チリの人々から安定的に海藻を買い取っています。

このことから、チリの人々の収入は安定し、暮らしが豊かになりました。

それまでは海辺の掘っ立て小屋で貧しい暮らしをしていた現地の人たちでしたが、キミカと提携して収入を得られるようになると、市街地に家を立てたり、子どもを大学に通わせられたりできるようになりました。

「乱獲せず、人の手による海藻収集で、安定的に買い取る」というキミカの購買方針は、現地の人々の生活水準を向上させたのです。

他にも、キミカはチリの自治体に救急車を寄贈したり、無償で飲料水を提供したりと、人々の生活の質を良くするために活動しています。

海藻残渣を肥料として作農に役立てる(目標12,15)

マイポバレーに広がるブドウ畑

アルギン酸を抽出した後は、海藻カスはゴミとして廃棄処分されるのでしょうか?

いいえ、違います。キミカは、アルギン酸を取り除いた後の海藻のカスを肥料としてチリ国内の農家に無償で提供しています。海藻のカスは、海のミネラルを含んでおり、農作物の肥料として最適なのです。

チリは世界的に有名なワインの産地です。キミカの工場から出た海藻のカスは、ワインの原料であるブドウ栽培に役立てられています。

美しい海を見つめ続けた創業者笠原文雄氏のまなざし

美しい海を見つめ続けた創業者笠原文雄氏のまなざし

1938年、キミカ創業者の笠原文雄氏は、傷病兵として戦地から帰還します。
笠原が療養のため訪れた千葉県君津郡(現在は君津市)は、房総半島の漁村でした。笠原氏は、たくさんの海藻が打ち寄せられた海岸を興味深く眺めました。

日本は海に囲まれた国。海藻こそ日本の資源になり得ると考えた笠原氏。
笠原氏は海藻を商業利用できないか、独学で海洋化学を学び、アルギン酸の精製に成功します。

今やキミカは日本で唯一のアルギン酸メーカーになりました。「自然から頂いたものを有効活用したい」笠原氏の思いがキミカの原点なのです。

まとめ

100年後も青く輝く海を守るために、アルギン酸の製造と販売を通じてキミカが取った方法は、チリの人々の暮らしを豊かにすることにも貢献しています。

キミカは、ビジネスと自然、そして現地の人々の暮らしのすべてを大切にできるロールモデル企業として注目されています。

今回ご紹介させていただいた株式会社キミカのホームページはこちら

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