環境意識が高まる中、紙にも持続可能性が求められています。食品ロスをアップサイクルしたものや二酸化炭素の削減を支援するものなど、エコな紙が注目されています。
今回は、エコな紙であるバナナペーパー・kome-kami(コメカミ)・ZERO CO2 PAPER(ゼロCO2ペーパー)の3種を比較しながら解説します。さらにエコな紙を使用するメリットやデメリットもまとめました。
どうして、エコな紙が注目されているのか
そもそもエコな紙とは、環境や社会に配慮した紙のことです。種類としては、混抄紙、ボタニカルペーパー、非木材系、FSC、再生紙などがあげられます。
種類 | 特徴 |
混抄紙 | 多様な植物を混ぜることで木材の利用率軽減と廃棄物の資源としての有効活用を両立し、紙に意匠性をもたせている |
植物で機能性を持たせた紙(ボタニカルペーパー) | 植物の力で、紙の機能を高める。薬品をなくすことで環境負荷の低減やCO2削減を実現した商品もある |
脱炭素系の紙 | カーボンクレジット制度を利用してCO2削減に貢献 |
再生紙 | 使い古された紙を再利用。日常のさまざまな用途で使われる |
森林認証紙 | 適切な森林管理が認証された木材を使用。いくつかの認証機関が存在。認証制度なので他の環境に優しい種類と組み合わせ使えます |
非木材紙 | 木材の利用削減と資源の有効活用を両立 |
エコな紙は、一般的な紙よりも環境負荷が小さい点が注目されています。
現在、世界中のあらゆる場所で森林が刻々と減少しています。地球上の資源を守るためには、再生資源を活用したり、持続可能な森林から資源を調達したりすることが重要です。エコな紙は原料の調達から循環できるかどうかが重視されています。
二酸化炭素を吸収する森林を守りながら、エコな紙を生産することは、地球温暖化の抑制も期待できます。古紙や木材以外の素材を原料にするエコな紙は、カーボンニュートラルの実現にも貢献しているといえるでしょう。
持続可能な社会の実現のためには、環境や社会に配慮した素材が求められているのです。
参照:経済産業省|「トランジション・ファイナンス」に関する紙・パルプ分野における技術ロードマップ
使って社会貢献!エコな紙3選
では、エコな紙とは具体的にどのようなものなのでしょうか。原料や生産方法、期待できる課題解決についてまとめました。
①kome-kami(コメカミ)
【概要】
kome-kamiとは、お米からできた紙で、温かみのある手触りが特徴です。食品ロスとなった古米や備蓄用のアルファ米、メーカーで発生する破砕米などを、FSC認証を取得したパルプを混ぜ合わせて生産しています。
株式会社ペーパルが販売するkome-kamiの商品は以下の2種類あります。
kome-kami (ナチュラル色)は、独自開発のコメバインドで、薬品を代替し、CO2を削減しています。紙にはパルプを結合させて破れにくくするため、通常、化学薬品が使われています。kome-kamiでは、お米で作った米糊、コメバインドを新しく開発することで、この化学薬品を全てなくしました。
kome-kami 浮世絵ホワイトは、浮世絵を彩った技法を現代に再現して表面に塗る薬品をお米に代替し、CO2削減と資源循環に貢献する紙です。
通常、紙の表面には、表面を強くして印刷適性を上げるための塗工液が使われます。kome-kami 浮世絵ホワイトでは、この薬品の一部原料をお米に代替することに成功しました。風合いのある表面なのに鮮明な印刷面、そしてはっきりとした白さが特徴です。
【期待できる課題解決】
kome-kamiは国内における貧困問題と食品ロス問題を解決する活動に取り組んでいます。売上の1%をフードバンクに寄付することで、食料を必要としている人を支援する輪を広げる活動と食品ロスの削減に貢献しています。
また、お米ので脱炭素の役割も果たしています。紙を作るには接着剤や塗工液などで化学薬品が使用されます。江戸時代の技法に着想を得て、米の研究を行い、お米で作った米糊で薬品の代用することで化学薬品の使用を削減しながらも、品質の高い紙を作ることに成功しました。その結果、資源の有効活用とCO2削減を実現しています。
②バナナペーパー
【概要】
バナナペーパーとは、廃棄されるバナナの茎から採取した繊維に、古紙や森林認証パルプを加えて生産した紙のことです。紙分野において日本で初めてフェアトレード認証を取得しました。
そもそも、バナナは一度収穫すると、新しい果実を育てるために古い茎を切らなければなりません。バナナペーパーは廃棄されてきた茎を有効活用しています。
一般的に紙の原料となる木の場合、再生するのに10〜30年かかるといわれている一方で、バナナの茎は1年以内に再生可能です。早い循環で原料を確保できるため、環境を保護しながら効率よく生産できるのも特徴といえるでしょう。
【期待できる課題解決】
バナナペーパーは、アフリカの貧困問題に貢献しています。
バナナの茎を和紙に混ぜることで、バナナペーパーは作られています。
バナナの茎は、ザンビアで回収され、茎の繊維から水分を除去し乾燥させる作業を行っています。これを農家から買い取り、継続的な契約をすることで、バナナ農家の収入を増やすことに成功しました。
ザンビアでできたバナナの茎の繊維は、日本の福井県に運ばれ、越前和紙工場で和紙に混ぜられてバナナペーパーが完成し、様々な形で活用されています。
参照:山櫻|バナナペーパー
③ZERO CO2 PAPER(ゼロCO2ペーパー)
【概要】
ZERO CO2 PAPERとは、二酸化炭素の排出量を実質ゼロにした紙のことです。この紙の製造で発生する二酸化炭素の排出量と同じ量を、森や木の力を借りて吸収し、排出量の実質ゼロを目指しています。
ZERO CO2 PAPERは、パンフレット・封筒・名刺・チラシ・ノートなど、さまざまな紙製品に加工可能です。
【期待できる課題解決】
ZERO CO2 PAPERを使うことで、脱炭素に大きく貢献します。
企業がこの紙を使用することで、環境保護やカーボンニュートラルへの支援を強くアピールできます。名刺やパンフレットなどを手に取った人にサステナビリティをわかりやすく伝えられると同時に、企業価値の向上も期待できるといえるでしょう。
参照:ZEROCO2PAPER
【保存版】社会課題を解決する紙3選早見表
解決を目指す社会課題 | 使用する素材 | 素材由来の機能性があるか | 印刷・加工面の使いやすさ | 価格面での使いやすさ | |
バナナペーパー | ・ザンビアの貧困問題 ・脱炭素 | バナナの茎、パルプ | × | △ 印刷や加工の難易度が高い使用には、ワンプラネット・ペーパー®︎協議会への加入が必要。 | △ 和紙工場で丁寧に作られるものなどは和紙価格より少し高い |
kome-kami | ・国内の貧困問題 ・食品ロス問題 ・脱炭素 | お米、パルプ | ⚪︎ 米を表面コート剤に活用米を紙の接着剤として活用 | ◎ 通常のファンシペーパーと変わらない印刷性。使用に制限はなし。 | ⚪︎ 通常のファンシペーパーと大きく変わらない |
ZEROCO2PAPER | ・森林保全活動の活発化 ・脱炭素 ・国内の林業の成長産業化/地方創生 | パルプ | × | ◎ 通常の印刷用紙と変わらない印刷性。使用に制限はなし。 | ◎ 一般紙と大きく変わらないので、あまり費用は上がらない |
以上が3つのエコな紙の特徴です。原料はそれぞれ異なりますが、持続可能な社会の実現に役立つアイテムという点では共通しています。
3つの特徴をSDGsの視点で比べると、とくにアフリカの貧困に取り組むバナナペーパーはSDGs目標「9.産業と技術革新の基盤を作ろう」に、食品ロスを活用するkome-kamiはSDGs目標「12.つくる責任、つかう責任」、脱炭素を支援するZEROCO2PAPERは「13.気候変動に具体的な対策を」と深く関わっていることが分かります。
エコな紙を使用する際に「この紙はどんな未来につながるのか」を考えることも大切といえるでしょう。
エコな紙のデメリット
環境や社会においてメリットの大きいエコな紙ですが、懸念すべき点はあるのでしょうか。以下にデメリットをまとめました。
①価格が割高
一般的な紙と比べると、価格が割高です。原料の原価が高いことや、需要が少ないということが大きく関わっているといえるでしょう。まずはエコな紙の知名度と供給量をあげることが必要です。
②印刷や加工の不便さ
一般的な紙はパンフレットや名刺など、さまざまものに使用可能です。けれど、原料が異なるエコな紙の場合、印刷のことを考慮して作られたものもありますが、紙によっては印刷しづらかったり、加工しにくかったりすることがあります。利用が制限されるのが、懸念点といえるでしょう。
他にもある!エコな紙を活用した商品事例
近年、環境や社会に配慮した紙は多様化しています。続いては、他の事例についてもまとめました。ポイントを絞って紹介します。
①vegi-kami(ベジカミ)
vegi-kami(ベジカミ)とは、野菜や果物などを加工する過程に発生する廃棄物とパルプとを混ぜた紙のことです。紙の質感には野菜や果物のもつ色があらわれています。
廃棄食材の活用を通して、食品ロス削減を目指しています。
②キュリアスマター
キュリアスマターとは、じゃがいも由来のエコな紙です。フライドポテトやポテトチップスなどを加工する時に排出されるデンプン成分を利用しています。
他に味わえない肌触りと色が特徴です。エコな紙で個性を出したい方におすすめといえるでしょう。
参照:キュリアスマター
③クラフトビールペーパー
クラフトビールペーパーとは、ビールの生産過程で廃棄されるモルト粕とクラフト紙を混ぜた再生紙で、ビール色のやさしい色合いが魅力です。
アルコール飲料メーカーや飲食店などにおすすめなエコな紙といえます。
参照:クラフトビールペーパー
④ヴァークレイCoC
ヴァークレイCoCは、使用した量だけ二酸化炭素の排出削減につながります。環境に配慮した高級塗工印刷用紙です。
森林認証を受けていて、脱炭素に大きく貢献する紙といえるでしょう。
参照:ヴァークレイCoC
紙にもエシカルやSDGsが求められる時代へ
環境意識が高まる中、紙にも持続可能性が求められています。
種類 | 具体的製品 |
混抄紙 | バナナペーパー クラフトビールペーパー vegi-kamiにんじん |
植物で機能性を持たせた紙 (ボタニカルペーパー) | kome-kami キュリアスマター |
脱炭素系の紙 | ZEROCO2PAPER ヴァークレイCoC |
エコな紙を取り入れることは、企業にとってサステナビリティを消費者や投資家へアピールするチャンスです。
これまでの名刺やパンフレットの素材をエコな紙へ変更することにおいて初期投資は必要ですが、社会的信頼を得られると考えると高くはありません。
紹介したポイントを参考にしながら、理念や事業に見合うエコな紙を活用してみてはいかがでしょうか。