突然ですが、皆さんはロヒンギャの難民問題についてどの程度知っているでしょうか?
昨今ニュース等で話題に上がることも増えているロヒンギャ難民問題ですが、彼らがいつ、どのような背景で迫害されるようになってしまったのか、詳しく理解している方は多くないかもしれません。
ロヒンギャは、国連から「世界で最も迫害されている民族」と認められており、常に迫害や不当な立場におかされ続けています。
SDGsの16番目のゴールは「平和と公正をすべての人に」です。
この目標は、世界中の人全員に平和と公正を約束できる未来の実現を掲げています。
しかしながら、世界各地では紛争や難民問題など、非常に困難な問題があふれています。
このゴールを達成するために私たちが何ができるかを考えるきっかけとして、本記事ではロヒンギャが難民となった背景や彼らが抱える問題、そして今後の課題についてご紹介したいと思います。
ロヒンギャ難民とは
ロヒンギャとは東アジアのミャンマー内、ラカイン州という週の北西部に住むイスラム系の民族です。
彼らは独自言語であるロヒンギャ語を話し、独特の民族的文化を有しています。
現状では、ミャンマー政府はロヒンギャ族をミャンマー人と認めず、彼らに対し国籍を与えていません。
そしてバングラデシュでも、ロヒンギャは不法移民とされています。
タイ・マレーシアなどの周辺国においても、ロヒンギャは難民ではなく経済移民としてあつかわれているのです。
ロヒンギャの人々は無国籍である上に、軍との衝突や根強い差別などの度重なる不当な迫害を受け、隣国であるバングラデシュやタイ、インドネシアなどへ逃れ100万人以上が難民となっています。
ロヒンギャ族が迫害される理由
なぜロヒンギャの人々がミャンマー人から差別をうけるようになったのか、大きく分けて三つの理由があります。
見た目
一つ目は、見た目の違いです。
ミャンマーに住む多数派でありビルマ語を話す「土着民族」のビルマ人に対し、ロヒンギャは肌の色が黒めで顔の彫りが深いという特徴があります。
肌の色が「土着民族」と違い、またビルマ語を上手にしゃべれないということが嫌悪につながっているのです。
宗教
二つ目は、宗教の違いによってのもの。
ミャンマー人の90%以上が上座仏教徒ですが、ロヒンギャは保守的なイスラム教徒です。
国民たちはキリスト教徒やヒンドゥー教徒にはあまり差別意識を持ちませんが、イスラム教徒には強い嫌悪感をもっていて、『イスラム教徒は子供をたくさん産み、そのうちミャンマーを乗っ取ってしまう!』という、根拠のない先入観による差別意識が根強く残っているのです。
不法移民という主張
三つ目は、ロヒンギャは不法移民であるという主張です。
ロヒンギャは、独立以前のインドのベンガル地方を出自とし、600年前まで起源を遡ることができます。
現在のミャンマー・ラカイン地域にロヒンギャの多くが居住しはじめた以降も、第2次世界大戦やインドの独立、ミャンマー連邦の独立、バングラデシュのパキスタンからの独立戦争などという歴史的な出来事が続く中、ロヒンギャの人々はミャンマーで生活しつづけていました。
しかし、1962年に軍事クーデターが起こり、国軍主導のビルマ・ナショナリズムとそれに基づく中央集権的な社会主義体制、通称ビルマ式社会主義によって、ロヒンギャに対する扱いが急激に差別的になります。
このビルマ・ナショナリズムは、過度の愛国主義により「土着民族こそ国民の中核」であるという思想を強め、その流れで1982年に改正国籍法(現行国籍法)が施行され、ロヒンギャは「土着民族」ではなく、「バングラデシュからの不法移民である」ことが合法化されてしまいました。
これにより反ロヒンギャで軍と国民が一致するようになってしまい、軍事政権から移行しようとする今もなお負の遺産として残っているのです。
問題解決に向けて
アウンサンスー・チー国家顧問の立場
ミャンマー民主化の母として有名なアウンサンスー・チー氏のロヒンギャ問題への対応は、大々的にメディアに取り上げられることは多くないです。
しかし、難民たちの安全な帰還実現をすることを提言したり、本問題に関する諮問委員会が提示している「ロヒンギャの国内移動の自由を認めるべき」「この地に一定期間以上住む者には国籍を付与する方向で検討すべき」「国籍法(1982 年施行)の再検討をおこなうべき」という方針に則った姿勢でいます。
また、国民からも絶大な支持を得る彼女だけが、「反ロヒンギャ」に凝り固まった軍と国内世論が爆発することを抑える「重しの役割」も担うことができています。
このようなことから、現在のミャンマーにおいてアウンサンスー・チー氏以外に国内にはびこるロヒンギャ問題に対し現実的に解決へ向けて動ける人物はいないと言われています。
憲法の壁と国内世論の壁が課題
現行の国籍法の改正と、ミャンマー内に残る根強いロヒンギャへの差別意識の解消をしなれば、この問題の解消は難しいです。
しかしながら、まずは国際社会と協働し、難民キャンプの支援や安全な帰還に向けた準備の支援、国内法の整備などへ着手することから始まることが重要であると考えられています。
ロヒンギャ難民が抱える問題
難民キャンプと地元コミュニティとの摩擦
先述したバングラディッシュのコックスバザール県内に点在する難民キャンプは、世界で最も密度の高い避難キャンプ地ですが、難民キャンプと地元コミュニティとの間で衝突などが起き始めるという事態になっています。
当初は、難民である彼らをコミュニティは歓迎し、受け入れました。
しかしロヒンギャの数が増え続けることで、生活必需品の需要が増えてしまい物の値段が上昇することで生活が圧迫されたり、支援のための車両が増え渋滞が起きたり、避難地の面積を広げるために周辺の森や自然が失われる、といった問題が起こるなかで人々の感情は変化してしまったのです。
難民キャンプと自然災害
難民キャンプのあるバングラデシュ・コックスバザールは自然災害が多いことで有名で、6月から9月にかけてのモンスーンがおこる時期には、年間雨量の80%が集中しており、これにより度々洪水が発生します。
難民キャンプは頑丈でない立地にあることが多く、こういった自然災害の前では脆弱です。
2019年のモンスーン期には洪水や豪雨が次々とおき、600件以上のキャンプ内の住居が崩壊してしまいました。
コックスバザールは、モンスーンの豪雨だけではなく竜巻が発生するリスクも高い地域であり、これらの自然災害から身を守るだけの安全で衛生的な住居の確保が必要です。
ロヒンギャの教育・就業問題
ロヒンギャ難民の半数は子供であり、彼らの教育問題にも直面しています。
難民キャンプでは、約3年間の教育制度が確立されていますが初等のみで、中等・高等教育までは手が回っていません。
教育の欠如は課題解決能力を習得できず、就業の機会があっでも生産能力が低いことや技能の不足により職位を上げられない、解雇されてしまうなど、貧困に陥るリスクも高まります。
他にも、ロヒンギャ難民は様々な問題を抱えています。
ロヒンギャには就業の機会があたえられず、支援や援助に頼ることしか許されないのが現状です。
彼らがキャンプ地周辺地域で仕事につけないようにし、ミャンマーへ帰るのではなく避難地に定住をすることを避けさせているのです。
また、女性や子供に対する暴力は深刻な問題になっています。
国へ帰ることも新天地で生活することも見通しが立たないことにより、将来への不安や現状への不満を募らせている人々は多いです。
そして、その行き場のない感情のはけ口を暴力に変えてしまう人がいるのです。
これらのロヒンギャ難民が抱えている問題は、基本的人権のはく奪の問題と言えるのです。
ロヒンギャ難民のための支援
日本政府よる支援
日本政府はロヒンギャ難民のために、国際協力機構(JICA)を通して給水支援などの無償資金協力をしています。
また、避難地周辺の病院や地方自治体へも技術協力や機材供与を実施することで、ロヒンギャ難民だけではなく難民キャンプ周辺地域の人々に対しても支援を行っています。
国連機関による支援
国連の各機関も、ロヒンギャ問題に対処するために様々な支援をしています。
2017年10月に国連人道問題調整事務所(OCHA)と国際移住機関(IOM)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、スイスにてこの問題に対する支援会合を開催し、各国および支援を行う機関に対し、ロヒンギャ難民の問題対処のために連携することを求めました。
また国連の各機関は、それぞれの特色を活かしてさまざまな支援を実施してます。
例えばUNICEFの場合、2017年~2019年10月の間に56万人以上に対し安全な水とトイレを提供し、21万人の子どもたちに教育の機会を与える活動を行いました。
その他にも心理・社会的支援や暴力防止、予防接種、職業プログラム、急性栄養不足のケアなども実施しています。
まとめ
冒頭で述べたように、ロヒンギャは国連から「世界で最も迫害されている民族」と認められています。
本記事を読むことで、彼らの置かれた不遇な状況を知る機会になったのではないでしょうか。
SDGsの16番目のゴールである「平和と公正をすべての人に」を達成し、ロヒンギャの人々が安心安全な暮らし、そして将来への明るい夢をもって生きられるようになる世界を作るために私たちにできることはなんでしょうか。
国連の公式サイトでは、ゴール16の行動例として“Stand up for human rights.”「人権のために立ち上がれ。」という一文があります。
(参照元:Take Action for the Sustainable Development Goals|United Nations HP)
難民問題について調べることや、それを誰かに伝えること、少額の寄付をすること、どんな小さなアクションであっても、人権のために立ち上がる気持ちをもって始めていけば、より良い世界に近づくきっかけとなるのではないでしょうか。