サービスや商品を利用した時に「これって頭の固いお偉いさんが会議で決めたみたいで利用者のニーズに沿っていないな…」と思うことはないでしょうか?
サービスや商品を生み出す側もまた、そのような声に悩んでいるのです。
双方の悩みを一気に解決してくれる存在が、今回取り上げるリビングラボというものです。
これからの世界に欠かせない存在になるだろうリビングラボに注目してみましょう。
リビングラボとは?
リビングラボとはLiving(生活空間)と、Lab(実験場所)を組み合わせた言葉です。
研究者が自社でイベントなどを行い、利用者の意見を取り入れるユーザーテストは以前からされていました。
リビングラボは、その一歩先を見据えたものです。
具体的には研究・開発・実験の場を生活空間の近くに置くことを指します。
ユーザー側が開発者に聞かれた質問に答えるだけでなく、積極的に意見や提案をしていきます。
リアルな声を聞くことができ、より生活者目線に立った商品やサービスを生み出す可能性が広がります。
アメリカでは1990年代前半に生まれた言葉で、2000年代にヨーロッパで発展しました。
国民性なのか日本でリビングラボが浸透してきたのはここ数年のことですが、企業だけでなく、行政をも巻き込んで今やなくてはならない存在になりつつあるのです。
この取り組み自体、または一連の流れや、その場所のことをリビングラボと呼びます。
リビングラボのメリット
リビングラボには様々なメリットがあります。
ユーザーの声が直接聞ける
企業側からすれば個別にユーザーと繋がり、質問を考えてその答えを参考にするユーザーテストからは知り得なかったリアルな声を聞くことができます。
より丁寧に、より細かく聞きこむことで、思ってもみない課題に気づかされたり、潜在的なニーズを発見できることもあるでしょう。
画一的な質問だけでないユーザーの多角的な声が届くので、新たな商品やサービスの開発につながる可能性もあります。
またその過程を企業だけで使用するより、時間もコストも削減できることも大きなメリットと言えるでしょう。
市民が社会参加できる
普段生活していても、なかなか自分の不満や要望を企業や行政に直接伝える機会は少ないですよね。
生活しているうえで、「もうちょっとこうだったらいいのになぁ」とか「ここがあんまりよくないなぁ」ということがあるものです。
その、リアルな声を直接届けることができます。
「個人の声により、社会が変わっていく。」
そのような体験ができるのもリビングラボのメリットでしょう。
新たなコミュニティができ、地域活性化につながる
リビングラボでは一つのテーマを扱うため、新しくコミュニティができる可能性が広がります。
例えば子育て支援のリビングラボでは、ママさん同士、パパさん同士の輪ができ、リビングラボ以外での交流があるなどの地域活性化になります。
リビングラボのデメリット
リビングラボにはおおきなメリットがありますが、デメリットももちろんあります。
意見がまとまりにくい
多角的な意見をひきだすことのできるリビングラボ。
それは同時に、意見がバラバラすぎてまとめるのが困難になるというデメリットも含んでいます。
対個人ではなく、参加者が多すぎて、開催しても何の結論も出ないまま終わってしまうこともあるでしょう。
そして誰が結論付けるのか、その結論を誰が保有するのか、これもすぐにまとめるのは難しそうです。もめたりすることもあるでしょう。
あらかじめしっかりとしたゴールやステークホルダーを定めていくことが重要です。
参加者を集めるのに苦労する
そもそも市民やユーザーが参加しないと、リビングラボは始まりません。
周知したり、魅力的なリビングラボにするなどの苦労が必要です。
またユーザーテストのように受け身な姿勢や、あまり考えずに適当なことをいう参加者もいるでしょう。
結果をだすには主体的に動いてくれる意識の高い参加者を集められるような工夫しなくては、せっかくのリビングラボが意味のない活動になってしまいます。
すでに活動している市民団体などに参加者になってもらうのもとっかかりとしてはいい手でしょう。
情報漏洩のリスク
様々な参加者が集まるリビングラボでは、情報漏洩のリスクが高まります。
企業の開発に関わるリビングラボには、機密情報が含まれることが多いです。
企業同士や起業家などの限られた参加者のオープンイノベーションでは、ある程度コントロールが可能です。
ところが、市民が参加するようなリビングラボはどうでしょうか。
情報漏洩しないよう提議することは可能ですが、あとは個人のモラルに任せるほかありません。
今はSNSなどで個人が気軽に発信できる時代です。
リスクを背負う覚悟が必要かもしれません。
リビングラボの日本での取り組み例
実際に日本で行われているリビングラボの取り組み例をとりあげてみます。
厚生労働省「介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォーム」
厚生労働省が2020年に始めたリビングラボで、東北大学などの全国8か所に設置されています。
介護ロボットが実際の生活で役立つのかどうか、製品として完成させるには何が足りないのかを知るために企業がリビングラボを活用します。
鎌倉リビングラボ
2017年に鎌倉市による鎌倉市のための鎌倉リビングラボが発足しました。
「安心して住み続けられる地域に」という思いから出発し、鎌倉市民が中心となって開催されています。
住民が住みやすくなるようなサービスや製品を実践と話し合いを重ねて創造していきます。
まとめ
市民やユーザーが積極的に社会参加できるリビングラボは、メリットも多くこれからの時代ますます発展していくでしょう。
個人の声を届けることで、今までにない発展を遂げるサービスや商品が次々と生まれるのが楽しみですね。