SDGs(持続可能な開発目標)の10番目のゴールは「人や国の不平等をなくそう」です。不平等とは特定の関係性の間に何らかの格差があることを示す言葉です。このゴールにおける問題を日本国内に照らし合したときに考えるべき課題は「格差社会」でしょう。
皆さんは身の回りの格差やその原因について具体的に意識したことはあるでしょうか?また、格差社会が生んでしまう問題とはいったいどんなものでしょうか?言葉自体は聞いたことがあっても改めて上記の問いに答えられる方は少ないかもしれません。
本記事では、日本の格差社会がもたらす問題やその原因、そして新型コロナウイルス感染拡大により急増した格差の実態について解説し、格差拡大を解消するためにどのような対策があるのかを学んで行きたいと思います。
格差社会とは
「格差社会」という言葉には学問的には明確な定義はないですが、一般的には「ある分野における格差が人々を階層に分断し、その階層が個人の努力では変えられないほど大きく、固定している社会」という意味で使われています。
「○○格差」その根本は「所得格差」
「格差社会」と一言にいっても、所得格差、教育格差、雇用格差、地域格差、医療格差、情報格差など、現代の社会にはさまざまな格差が存在しています。しかしながら、そのどの格差も根本を辿れば「所得格差」に関係していることがほとんどです。
例えば医療格差を生むのも所得格差が原因場合があります。所得差が大きい2つの家庭では、病気になったときに病院へ行くかどうか判断するタイミングは大きく違います。
また、歯医者などの予防医療が重要な医療機関への受診も、所得が低い家庭では受診をためらいがちになり、結果的に歯の健康は損なわれます。
「格差社会」がもたらす問題点
実際に「格差社会」が拡大していくとどのような問題が起こっていくのでしょうか?
貧困層の増加と負の連鎖
所得格差が拡大すればするほど、2極化は強まり、富裕層は富む一方で貧困層はますます困窮し、その数も増えていきます。そして貧困層が増加する中で格差による負の連鎖も強まっていきます。
前述したように、所得格差は教育格差、医療格差、情報格差、雇用格差など、次々と「格差」を生んでいきます。その中でもとくに問題視されているのは「教育格差」です。
「教育格差」が生む次世代への影響
「所得格差」の下層にあたる貧困家庭では、子供の教育に十分なお金を割くことができませんので、高校や大学への進学を諦めることが多いですこのような問題を「教育格差」と読んでいます。
また、食事も十分でなく栄養不足により心身や学力の発達が不十分になってしまうというようなケースもあります。つまり、貧困家庭では所得が不十分なことにより子供に十分な教育を受けさせられず、能力開発の機会を与えられないのです。
これらの諸問題は雇用機会にも影響を及ぼします。「教育格差」により彼らは「雇用格差」にも直面し、十分な所得を得ることが出来ず「所得格差」に苦しみ、貧困層にとどまりつづけてしまいます。この負の連鎖により、さらに格差社会が広がってしまうのです。
日本における「格差社会」の原因
それでは、この蟻地獄のような格差社会を生んでしまった原因は何でしょうか?
IT化による産業構造の変化
2000年代のIT革命期以降の産業構造の変化は、格差社会を増大させたといわれています。IT化は肉体労働を節約する代わりに、頭脳労働といわれるような高度な情報技術や専門知識のある人材の必要性を高めました。
このような人材が集まる産業は高賃金になった一方、低スキルで労働集約的な産業は相対して低賃金になっていきました。IT化は技術革新をもたらし私たちの生活を便利にしましたが、産業の二極化も生んでしまったのです。
成果主義・能力主義
労働者の賃金や昇進などの処遇の決定方法が変化したことも格差社会の原因と言われています。元来、日本では春季闘争により、業種別、階級別にほぼ同等の賃金が分配されてきました。これによって同業種内の労働者間に大きな賃金差が生まれづらい構造でした。
しかしながら、高度経済成長期やバブル期には「頑張ったら頑張った分だけもうかる」成果主義・能力主義が導入され始めました。これにより個別に賃金を設定する傾向が強まり、「勝ち組」「負け組」などという格差を象徴する言葉も生まれるようになったのです。
非正規雇用の増加
派遣社員やパート・アルバイト何代表される非正規雇用者の増加も格差社会の原因とされています。
小泉政権時代の2004年から労働者派遣法が施行され、雇用の柔軟化が進められました。この法律は労働者・雇用主の両方が雇用形態を選びやすくなるというメリットもあり非正規雇用社が増加しましたが、非正規雇用者は収入が正社員よりも低く、雇用が不安定であるというデメリットにより、格差は拡大してしまったのです。
少子化・高齢化
出生率低下による少子化と、止まらない高齢化も格差を生む原因となっています。働いて年金を納める若年世代が減り、逆に年金を貰う高齢者とよばれる世代は増えているので、年々年金の財源確保は難しくなっています。
これにより、一人当たりの年金額は減少傾向にあり、年金に頼って生活をせざるを得ないような高齢者は貧困に陥りやすくなっています。逆に、同じ高齢者でも会社の役員や会長職などに就いて高収入を得ている高齢者もおり、高齢者間においても収入格差が広がっています。
ひとり親世帯の増加
未婚・離婚・死別など、様々な理由により一人親世帯は増加しています。この様な家庭では親がひとりで仕事・家事・育児を賄わなければならないことが多く、正社員として採用されづらい傾向があります。
そのため、非正規雇用や低賃金の職場を選ぶことになり、結果的に低所得かつ不安定な雇用形態による貧困状況に陥ってしまうのです。
パンデミックによる格差の拡大と問題
2019年末から世界中で起こった新型コロナウイルス感染拡大により、世界、そして日本国内の格差拡大も加速しています。
非正規労働者の雇止め
コロナ禍において、経済活動が制限されたことにより富裕層は貯金額が増加している傾向にあります。しかし、その一方で非正規雇用者たちは突然の雇止めとなったり、貧困層が務めがちなサービス業などが休止したことにより、彼らの所得環境は悪化の一路を辿っています。
これらの事態は、第2次世界大戦後に経験したことのない「格差」=富裕と貧困の二極化を起こしています。
大学中退者の増加
コロナ禍により家庭の経済的困窮や、アルバイト先の休業により生活資金が賄えなくなったなどの理由で大学を中退する学生が生まれました。
厚生労働省のデータでは、「大学卒」と「高校卒」の男性で賃金を比較すると、その生涯年収の差は5000万円にもなるそうです。この事態は、今後の日本社会の格差増長につながっていくと考えられます。
格差社会を解決する対策とは?
拡大する格差の話ばかりになると、気持ちが落ち込んでしまいますが、これから日本社会はどのような格差是正のための取り組みをしていくのが良いのでしょうか?世界での実例とともにどんな対策があるのか学んでおきましょう。
均等待遇
EU諸国の一部では、格差是正のために、企業の規模や雇用形態(正社員、パート、派遣、アルバイトなど)に関わらず、同じ仕事には同等の賃金を支払うという、同一労働同一賃金の原則が導入され、均等待遇が実現されています。
日本では年功序列や終身雇用の慣習など、正社員に対する手当が強く、均等待遇の実現を困難にしている背景がありますが、もし均等待遇が実現されれば「大企業に勤めること」が正義、というような時代は終わるかもしれません。
雇用規制・新卒枠の緩和
現代日本では未だに「新卒一括採用」の慣習が根強くあります。例え大卒であっても、新卒枠でない未経験者が入った場合の給与体系と通常の新卒枠の給与体系では大きく差があるのが現状です。
これにより就職活動がうまくいかなかったから留年してもう一度新卒枠になる人が生まれているのです。この悪しき「新卒神話」がなくなれば、新卒の学生にとっても無駄な1年を過ごすことなく、企業側ももう少し効率的な人員確保にも繋がるでしょう。
ベーシックインカム
ベーシックインカムとは、すべての国民に無条件で一定額を支給する社会保障政策のことをいいます。これは格差是正や貧困対策として世界で注目を受けていて、導入を始めている国もあります。
例えばコロナ禍の一律給付金のように、全世帯に最低限の給付を毎月行うだけで最悪の事態のストッパーになると考えられています。
社会保障・福祉の充実
ベーシックインカムはお金の再分配による保障ですが、「児童手当充実させる」「教育費補助を増加させる」「医療費など社会保険制度を充実させる」など、課題に対してクリティカルに社会保障や福祉制度が充実していけば、貧困層への金銭的な負担が減り、格差の緩和が期待されます。
日本の具体的な対策
どのような方法で格差を是正できるのかイメージがついたでしょうか?それでは、現在の日本はどのような対策をとっているのでしょうか。
働き方改革
2019年4月より、働き方改革関連法案の一部が施工されました。この改革では「非正規社員と正社員との格差是正」をひとつの課題としています。具体的な取り組みとしては、下記の2つが挙げられています。
- 同一労働同一賃金(均等待遇)の実効性を確保する法制度とガイドラインの整備
- 非正規雇用労働者の正社員化などキャリアアップの推進
コロナ禍もありその進捗は思わしくないと感じられますが、働き方改革により「所得格差」が改善されることを期待したいですね。
まとめ
格差社会は、記事内で述べたように次世代への影響が特に心配されています。なりたい職業があるのに、家庭の金銭的な事情によりその夢をあきらめるというのは心苦しいものです。
そうやって生まれる格差が次世代へ色濃く受け継がれていくという負の連鎖は何としても止めていきたいですよね。
格差社会を食い止めるために我々一人一人にできることは、「状況を理解し、政治や行政に意見を言い、改革を促すことを諦めない」ということに尽きてしまうと思います。
今日明日で望める改革ではないかもしれませんが、持続可能な世界の実現に向けて、この問題について知人や友人と話し合うことから始めてみると良いかもしれません。