いま、プラスチックごみが世界全体の問題となっています。
2018年世界環境デーの演説で、国連のグテーレス事務総長も「プラスチックごみ」の問題を世界の課題として訴えました。
ポリ袋やペットボトルといったプラスチックとしてよく知られているものだけではなく、洋服や紙おむつ・消しゴムに至るまで、便利なプラスチックは私たちの生活のあらゆる場面で利用されています。
しかし、適切に処理されないプラスチックはごみとなり、分解されずに長い時間自然界に残り続けることで、環境に大きな負荷を与えます。
多くのプラスチックごみが最後にたどり着く先が海です。
WWF(世界自然保護基金)によれば、現存する海洋プラスチックごみは合計で1億5000万トン、毎年新たに800万トンが海に流入していると推定されています。
この海洋プラスチックごみについて、現在どのような対策がとられているのでしょうか。
今回は、「海洋プラスチックごみ」について説明するとともに、その問題点や現状、解決に向けた取り組みなどについてご紹介していきます。
海洋プラスチックごみとは?
レジ袋や食品用の容器などのプラスチックが、直接海に捨てられたり、ポイ捨てや不十分に管理されることによって川から海へと流れついたものを「海洋プラスチックごみ」と言います。
海に流れ込むプラスチックごみは、年間500万〜1300万トンほどあると推計されており、プラスチックは自然に分解できない素材であるために、ずっと海に残り続けてしまいます。今後も変わらず増え続ければ、2050年には海洋プラスチックごみの量が魚の量を上回ると言われています。
海洋プラスチックごみは、レジ袋やペットボトルのような大きなものばかりではなく、砕けて小さな破片となった「マイクロプラスチック」も含まれます。
プラスチックは何らかの影響で小さくなることはよくありますが、完全になくなることはありません。マイクロプラスチックは、魚や貝などがエサと間違えて食べてしまいやすいことが問題となっています。
2019年には、フィリピンの海岸にクジラが打ち上げられ、胃の中から40kgものプラスチックごみが出てきたというニュースが注目されました。日本でも同様に、2018年に神奈川県鎌倉市の浜辺で見つかったクジラの赤ちゃんの胃から、プラスチックごみが出てきたという事例があります。
プラスチックごみは、生ゴミなどとは違って分解することができないため、クジラや魚の胃の中にたまり続けてしまいます。胃の中にプラスチックごみを溜め込みすぎると、必要なエサを身体に入れることができなくなり、死にいたることもあります。
海洋プラスチックごみは、海の生き物たちの生態系を壊す、非常におそろしいものなのです。
海洋プラスチックごみの問題点や現状
では、海洋プラスチックは、具体的にどのような問題を引き起こしているのでしょうか。
経済的な影響
浜辺に漂着したプラスチックごみによる景観の破壊は、観光業への打撃となります。
また、ごみの回収・処理にかかる費用は、自治体への大きな負担となります。
海洋生物への影響
海に住む動物や魚たちが大量にプラスチックを捕食していることが報告されています。
ウミガメが好物のくらげとレジ袋を間違えて食べてしまうことはよく取り上げられますが、これ以外に海鳥やクジラなどの胃からもプラスチックが多く見つかっています。
もちろん魚も例外ではなく、個体の大きさによって数cmから数μmまで、様々な大きさのプラスチックを捕食しています。
2019年の調査では、採取された稚魚のうち8.6%がマイクロプラスチックを食べていることが分かったといいます。
海ではたとえ小さな生物であっても、プラスチックから逃れることはできないのです。
海洋プラスチックの危険は、食べることによるものだけではありません。
ウミガメやアザラシといった動物がプラスチックの漁網に絡まったり、破片で傷ついたりするケースが相次いで報告されています。
人体への影響
魚の体内に蓄積された海洋プラスチックは、食物連鎖を経て人の体内にも蓄積されます。
プラスチックには、酸化防止剤などの添加剤に由来する有害化学物質が含まれており、マイクロプラスチック化し微細になったとしてもその成分はなくなることはありません。
さらにマイクロプラスチックには、水中の化学物質を吸着するという性質があり、有害物質をも吸収してしまうことが分かっています。
プラスチックが実際に人体にどのような影響を及ぼしているのかは未だ明確ではありませんが、将来の子どもたちの健康への影響を考えると、決して見過ごすことはできない問題です。
参考文献:『脱プラスチック データで見る課題と解決策 (ナショナル ジオグラフィック 別冊) 』日経ナショナルジオグラフィック社 (2021/5/31)
海洋プラスチックゴミの原因
海洋プラスチックごみのほとんどが、陸から出たごみです。海洋プラスチックごみが発生する原因には次のようなことが挙げられます。
プラスチック製品の普及
日本経済の発展により、プラスチックの製品や包装が増えたことがそもそもの原因です。コンビニやスーパーでは、飲料・お弁当・惣菜といったさまざまな商品が手に入りますが、それらの多くがプラスチックの容器に入れられています。
ポイ捨てや不適切な管理
町にポイ捨てされたり、不適切に放置されることが海へと運ばれるきっかけとなります。また、ごみ出しで正しく分別されなかったプラスチックごみは、適切にリサイクルされません。ごみの埋め立て地から、最終的に海へと流れつくこともあると言われています。
天候の影響で漂流
ごみを川や海に直接廃棄されることは少ないと言われますが、町にごみが落ちていると雨や風の影響で溝などに落ちることがよくあります。溝から川へと流れたごみは、長い時間をかけて海へと漂流するのです。
プラスチック素材の性質
プラスチックは、水に溶けたり土に還ることができない素材です。そのため、プラスチックの性質上、出たごみは完全になくなることがありません。破損して小さくなることがあっても量が減る訳ではないため、プラスチックごみは発生した分だけ増えていきます。海にたどりつけば、ずっと海の中に残ってしまいます。
私たちは、プラスチックごみとどのように関われば、ごみを海に運ばずに済むのかということを考える必要があります。
海洋プラスチックごみ問題への関心の高まり
海洋プラスチックごみは、かなり前から世界で問題視され始めていました。
2015年にドイツで開催されたG7サミットでは、すでに海洋プラスチックごみが国際社会共通の問題として認識され、「海洋ごみ問題に対処するためのG7行動計画」が策定されました。
翌年に行われたダボス会議では、エレン・マッカーサー財団が「このまま対策がとられなければ、海洋プラスチックのごみの量は2050年には魚の重量を上回る」と報告したことが大きな反響を呼び、国際的な関心が高まりました。
同年開催されたG7伊勢志摩サミットでも、海洋ごみ対策として資源効率性や3R(リサイクル・リユース・リデュース)の取り組みの大切さが再確認され、翌2017年のハンブルグサミットでは首脳会談の中で初めて海洋ごみが取り上げられました。
2018年カナダで開催されたG7サミットでは、対策推進の大きなきっかけとなる「海洋プラスチック憲章」が採択されました。
この宣言には「2030年までにプラスチック包装の少なくとも55%をリサイクルおよびリユースし、2040年までにすべてのプラスチックを100%回収する」という具体的な数値目標が盛り込まれ、各国が産業界と協力しながら対策を行うことが求められています。
参照元:
・海洋ごみに関する国際動向について|環境省
・和訳版「海洋プラスチック憲章」|JEAN
プラスチックごみ削減にむけた各国の取り組み
このような国際的な流れを受け、現在各国ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。
中国
世界最大のプラスチック消費国である中国では、新しい製品を作るための原料となるプラスチックごみを世界から輸入していましたが、このごみの汚染が国民の健康被害につながるという懸念などから、2018年に輸入を全面中止しています。
非分解性の袋の使用を2020年末までに主要都市で、さらに2022年までにすべての市と町で禁止する計画が発表されています。
使い捨てストローは2020年をもって全土の飲食店で使用禁止とされています。
参照元:中国、使い捨てプラスチック袋を2022年までに禁止|BBCニュースジャパン
ヨーロッパ
EU(欧州連合)は、ストローやスプーン・フォーク・ナイフといった使い捨てプラスチック製品の流通を2021年までに禁止する法案を採択しています。
また、マイクロビーズと呼ばれるプラスチック粒の入った化粧品については、オランダやフランス、イギリス、デンマークやアイルランドなど複数の国ですでに販売が禁止されています。
アメリカ
アメリカは先に紹介した「海洋プラスチック憲章」に採択しませんでしたが、2020年にエネルギー省が海洋プラスチック除去や、プラスチックのリサイクル技術を推進する「プラスチック・イノベーション・チャレンジ」という取組みを始めています。
また、州ごとに具体的な対策を行っており、カリフォルニア州やニューヨーク州、ハワイ州などで、すでにレジ袋の使用を禁止しています。
日本
アメリカとともに「海洋プラスチック憲章」に採択しなかった日本ですが、周知のとおり2020年に小売店でのレジ袋有料化が始まりました。
2022年には、「プラスチック資源循環促進法」が施行される予定です。
この法律では、年5トンの使い捨てプラスチック製品を使う事業者を対象に、カトラリーやヘアブラシ、ハンガーなど12品目の定められたプラスチック製品に対し、削減を義務化することが定められるほか、3R+リニューアブルを促進するための基本方針が策定されています。
海洋プラスチックごみに対する企業の取り組み
海洋プラスチックごみ問題に対する企業の姿勢も変わりつつあります。
スターバックスやマクドナルドといった大手チェーンが、プラスチックのストローを紙素材へと切り替えたことがよくニュースに取り上げられていますが、ほかにも様々なアプローチでプラスチックごみを減らす取り組みが始まっています。
生分解性プラスチック
使い捨て型のプラスチックに代わる素材として、「生分解性プラスチック」素材をうたった商品を多くの企業が手掛けています。
微生物によって水と二酸化炭素に分解されるという生分解性プラスチックですが、実際は長時間高温の状態であることやコンポストの中など、それぞれの材質に適した特別な条件下でなければ分解しません。
現在は、「気温30度下」など、より一般的な状況下で生分解されるプラスチックも開発されつつあり、ごみ削減に対する効果が期待されています。
ケミカルリサイクル
ごみとなった資源をそのままではなく、化学的に組成変換してリサイクルすることを「ケミカルリサイクル」といいます。
BRINGというブランドは、ペットボトルの樹脂から洋服を作る従来のリサイクル素材ではなく、洋服を原料レベルにまで分解、再生したケミカルリサイクル素材で新しい服をつくる試みを行っています。
海洋プラスチックごみに対して私たちにできること
プラスチックは捨てるとごみとなりますが、正しく分別することで資源としてリサイクルすることにつながります。現代の日本では、プラスチックごみを分別回収して、プラスチックをリサイクルする仕組みができているのに関わらず、リサイクルはあまり進んでいません。
海洋プラスチックごみを減らすためには、私たち一人ひとりが「プラスチックの3R」を正しく理解して、より賢くプラスチックと関わる必要があります。3Rとは、リデュース・リユース・リサイクルの3つです。
Reduce(リデュース)
リデュースはごみになるものを減らすこと。買い物に行く時にはマイバックを持参してごみ袋を減らしたり、出かけるときにはマイボトルを持参するなどです。また、使い捨てのお皿やコップなどをあまり使わないようにするといったことも簡単にできる行動です。
Reuse (リユース)
リユースは繰り返して使うこと。シャンプーや洗剤などは詰替え用を買うようにし、ボトルのごみを出さないようにするといったような行動です。
Recycle(リサイクル)
リサイクルは原材料として再生して利用すること。スーパーのプラスチック回収BOXなどにプラスチックごみを持参したり、再生プラスチックの製品を使うなどです。
また、河川敷や海岸での清掃活動に参加することで、すでに出てしまったプラスチックごみの蓄積を防ぐことができます。
その活動をSNSなど紹介すると、海洋プラスチックごみを減らす取り組みを広げることもつながるでしょう。
まとめ|海洋プラスチックごみ対策に国境はない
使い捨てられ、そのままの形で、もしくは細かなマイクロプラスチックとなって海を漂うプラスチックごみ。
それらはごみの渦となって移動し、世界のあらゆる場所に辿り着きます。
北極の氷や深い海溝といった場所でさえ、プラスチックごみの汚染を逃れることはできません。
海洋プラスチックごみの問題の対策には、国という枠をこえた協力が必要不可欠です。
そしてそこにはもちろん、私たち1人ひとりの努力も必要となります。
国、自治体、企業そして個人―国際社会を構成するものすべてが、それぞれのアプローチで海洋プラスチックごみの削減に向けたアクションを起こすことが求められているのです。