フィリピンの医療問題は非常に深刻な状況下にあると言っても過言ではありません。
病院に行くこともできない貧困層が非常に多く、薬代も入院費も払うことができない状態になっています。
そもそも患者を診るための看護師が不足しているため、このままでは医療崩壊を起こしてしまうかもしれません。
フィリピンの医療問題に詳しい人の中には、とっくに医療崩壊を起こしていると感じている人もいるでしょう。
それでは、フィリピンの医療問題の実情について解説していきます。
医者を目指す人が少ないわけではないが…
フィリピンで医者や看護師を目指す人は決して少なくありません。
むしろフィリピン人は温厚でホスピタリティ溢れる国民性なので、困っている人やお年寄り、身体の不自由な人や子どもへの思いやりの深さは世界でもトップクラスです。
この国民性だからこそ看護や介護、医療系の仕事に向いていると言えますが、それでもフィリピンの医療従事者は減少している傾向にあります。なぜなら、フィリピンにおける医療系の職業に対する賃金や待遇が良いとは言えないからです。
このことから、フィリピンで医者になるために国家試験に合格したとしても、賃金や待遇が良いフィリピン以外の海外に出てしまっています。これでは必然的にフィリピンから優秀な技術や知識を持った医療従事者がいなくなってしまうのも無理はありません。
その証拠に、現在のフィリピンでは看護師不足が深刻化しています。その割合は人口1,000人に対して看護師が約4人しかいない状況になっているほどです。
年間で15,000人の医療従事者が海外に流出し、約30万人のフィリピン人看護師が121か国で就労しているていると言われており、このままでは人材不足により医療崩壊を引き起こしてしまうでしょう。
参照元:定例 報告 フィリピン共和国(Republic of the Philippines)
家族を養うには海外に出稼ぎに行くしかない?
フィリピンで働いても賃金や待遇が良くない以上、苦労して取得した医療系の国家資格を取得した人のほとんどは海外に出稼ぎに行きます。フィリピンは元々産業となるものが少ないので賃金が安いことから、家族を養うためには海外に出て出稼ぎに行く方法しかないと考える人がほとんどです。
特に海外の医療系の職種でもフィリピン人を雇用したいと考えている働き先は数多くあります。
海外先では英語が話せてホスピタリティが高く、人件費が安く抑えられるフィリピン人を必要としているのです。
フィリピンでは国内総生産の10%を占めているのが海外からの送金なので、皮肉なことに海外に出稼ぎに出ているフィリピン人が国内総生産の一端を支えていることになります。
治療を受けたくても受けられないフィリピンの貧困事情
フィリピンでは貧困問題が大きくのしかかっています。細かなところは違いますが、中国のような看病難・看病費の問題がフィリピンでも起こっているのです。
フィリピンには町医者から大きな病院まで数多く揃っているので、診療を受ける手段に困ることはありません。特に総合病院はフィリピン在住の日本人や長期滞在の留学生でも利用できるほどですし、医師も日本で医療を学んだケースも多いため、医療レベルが低いというわけでもありません。
ただ、前述の貧困問題の影響によって診療を受けられるのはある程度のお金を持っている人たちに限ります。
よほどの重病でない限り病院の診察を受けるケースは少ないでしょう。たとえ診察を受けることができたとしても入院費を支払うだけの余裕はないので、診察を受けるだけに留まるのがほとんどです。
それなら国民健康保険があるから大丈夫だと思う人もいるかもしれませんが、貧困層でも保険に加入できているのはわずかばかりです。
保険料は収入の3%とはいえ、明日を生きるのに精一杯な状況では保険に入る余裕もないでしょう。
フィリピンでは貧困層でも薬が購入しやすい
日本にはない特徴の一つとして、フィリピンでは貧困層でも薬が購入しやすいように1錠から購入することができます。
1錠当たりの値段は数十円なので、その分貧困層でも数錠であれば購入しやすいのが特徴です。
ただ、基本的に薬は継続して服用するものなので、間に合わせのように薬を数錠だけ購入して治そうとするのはその場しのぎでしかありません。
治ったと思っても病み上がりの状態では思うように身体が動かないこともありますし、稼ぐために無茶をするようであれば再び同じことを繰り返す可能性が高いでしょう。
貧困層がこうすることでしか対処できないのも、フィリピンにおける医療問題の最たるものではないでしょうか。
フィリピンの医療保険制度の問題
フィリピンの医療保険制度には、貧困層にとってデメリットでしかないという問題を抱えています。
というのも、フィリピンにはPhilHealthという公的医療保険制度とSSSという公的年金制度がありますが、法律では国民皆保険となっているにもかかわらず貧困層は無保険、年金加入者は国民の約3割しかいません。
貧困層がPhilHealthに加入できないのは、入院患者のみが対象になっており、通院では適用されないからです。
さらに年金保険に加入するには60歳以下で月に1,000ペソ以上の収入がある国民だけです。
1,000ペソは日本円で2,000円程度なので加入するのは簡単だと思われるかもしれませんが、貧困層は収入が不安定なので加入義務がありません。保険料も安定して支払えないような貧困層は保険も年金も加入することができないので、十分な診療を受けることができません。
そんな貧困層のために役場ではヘルスセンターが併設されてボランティアワーカーが無料で診断や医療アドバイスを行っています。
ですが、ベッドは2床ほどのベッドと一人の医師しか対応していない上に無料で提供できる薬にも限界があるなど、ないよりマシというだけでとても現状を打破できるものではありません。
まとめ|フィリピンの医療問題
フィリピンの医療問題は基本的に医療従事者の人数を増やし、賃金と待遇を改善すれば自ずと解決されるでしょう。
しかし、そう簡単に医療問題が改善されれば既に改善されているはずです。
未だに改善されていないのは、フィリピンに代表的な産業となるものが少ないためでしょう。
いかにして財政を好転させることができるかが、医療問題を解決に導くきっかけになるのではないでしょうか。