古くからある発電方法の一つが水力発電です。
水の力を使って電気を起こすため、環境に優しい再生可能エネルギーとして改めて注目されています。
とはいえ、昨今の日本では、その他の発電方法が主流となっており、水力発電の発電量が占める割合は多くありません。
SDGsが叫ばれる現代において、この先も水力発電は期待される発電方法ですが、課題も多くあります。
今回は、水力発電の課題について、現状や展望を踏まえて解説します。
水力発電とは
水力発電は、水が高所から低所に流れ落ちるエネルギーを利用して発電する方法です。
水が流れ落ちる勢いを利用して、タービン(水車)を回転させ、発電機を動かします。
水力発電と一括りにしても、その方法は1種類だけではありません。
構造物別に分類しても「ダム式」「水路式」「ダム水路式」に分けられます。
また、発電方式では「流れ込み式」「調整池式」「貯水池式」「揚水式」の4種類です。
まずは、水力発電の仕組みのうち主要なものを解説します。
ダム式
河川をせき止めてダムを建造して作る発電所です。
せき止めることで、人工的な湖が作られ、真下にある発電所にめがけて水を落として発電します。
ダムの水位が上がれば、水の勢いも上がるため多く発電しますが、水位が下がるとエネルギーも下がるのが特徴です。
また、どこでも造れるわけではなく、両岸に岩がないと建造ができません。
すでに条件に合う川にはほとんどダムが建造されており、現在の日本においてダムが造れるような川は残っていないのが現状です。
水路式
河川から水路を作って、落差のある場所まで引いて、水が落ちるエネルギーで発電させる方法です。
ダム式と比べてコストが抑えられるといったメリットがあります。
ただし、ダム式ほど水を貯められないため、発電力が少ない点はデメリットです。
ダム水路式
ダム式と水路式を組み合わせたのが、ダム水路式です。
ダムを造って貯めた水を、水路によって落差のあるポイントまで導きます。
そして、水を下にある発電機に落として発電をする仕組みです。
ダム式と比べて堤防にかかるコストが少ない上に、水路式よりも発電量が多く得られます。
また、ダム式はすでに建設できる場所が残っていませんが、ダム水路式であれば、ダム式に適していない川でも問題なく建設できる点が大きなメリットです。
揚水式
水力発電所の上側だけではなく、下にもダムを作る方式です。
日中は電力消費が多いため、上側のダムから下へ水を落とすエネルギーで発電します。
一方、電力消費が少ない夜間には、日中の余剰電力を活用して、下に溜まった水を上のダムまで引き上げる仕組みです。
エネルギーロスは否めませんが、いわゆる「蓄電池」的な役割を担うことができます。
水力発電の仕組みや特徴について詳しくは下記のコラムで解説しているので併せてご覧ください。
水力発電の課題とデメリット
水力発電は、太陽光発電や風力発電のように、温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーです。
現在主流となっている化石燃料と比べると、枯渇する可能性が低く、地球の多くの場所で利用できます。
また、原子力発電や火力発電は、燃料が必要であり、日本では海外からの輸入に頼らざるを得ません。
燃料代が上がれば、私たちの家計にも大きく響きます。
しかし、水力発電は原料や管理のコストが低いのが特徴です。
このように、メリットの多い水力発電ですが、まだまだ課題が残っています。
続いては、水力発電が抱える課題について紐解いていきましょう。
環境破壊につながる
水力発電の中でも、ダム式の発電を活用すると、どうしても広いエリアを水没させなくてはなりません。
また、上流からの流れをせき止めることによって、川にとって欠かせない栄養素や砂までもが止められてしまいます。
そのため、下流に暮らす魚類や野生生物の生態系に悪影響を及ぼし、種類や現存する生物の数が減りかねません。
また、ダムを建設したことで形成された人工湖に、外来種が放流されるケースも増えています。
外来種は、在来種に対して影響を及ぼすといわれ、各地でも大きな課題です。
水利権に関する課題
環境破壊と同様に、ダムの建設は、下流に暮らす人たちにも影響があります。
そのため、発電所を作る際には管理者への届出が必須です。
ダムを建設してしまえば、川を占用することになり、「水利権」が関係します。
水力発電に限らず、工業用水や養魚、農業なども河川の流水を必要とする「目的」のひとつです。
例えば、同じ川を占用することになっても、目的が違えば、水利権も異なります。
しかし、現在はこうした水利権が煩雑になっており、水力発電における課題です。
また、農業用水として使っていた川を、発電用にする際には、水利権を切り替えなければなりません。
生活に直結する川であり、地域の人や関係者の理解を得るためには、時間を費やして伝える必要があり困難を極めます。
参照元:水利権制度等|国土交通省
費用対効果に関する課題
水力発電は、規模に限らず設備やメンテナンスに費用がかかります。
例えば、異物混入の防止や堆積した砂の排出のほか、魚道の確保などもしなければなりません。
特に、小規模な水力発電の場合、発電する量よりもメンテナンス費用の方が多くなる可能性があります。
水力発電の現状
経済産業省資源エネルギー庁によると、現在日本には1,800を超える発電所があり、日本全体の電気の約10%をまかなっています。
中でも出力の大きい発電所は、揚水式では兵庫県にある「奥多々良木発電所」で、最大出力が1,932,000kWです。
また、揚水式以外の発電所では、福島県にある貯水式ダム「奥只見発電所」がトップで560,000kWの最大出力量があります。
一方、世界では自然エネルギーが占める割合が日本と比べて大きく、2016年の推計では24.5%です。
そのうち水力発電は16.6%となっています。
例えば、水が豊富なノルウェーやアイスランドなどでは、世界平均を遥かに超える発電量があり、最も多いノルウェーでは、水力発電が占める割合が2016年の段階で96.63%です。
水力発電の展望
日本では、すでに大規模な水力発電は開発が終わっており、建設可能な場所がほとんどありません。
その代わり、増加傾向にあるのが3万kW未満の中小水力発電です。
大規模水力発電を作るために必要な環境ではなく、農業用水や上下水道でも発電ができるタイプもあり、開発できる場所が多くあります。
さらに、中小水力発電は、「固定価格買取制度(FIT)」の対象です。
固定価格買取制度とは、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」に基づいて発電された再生可能エネルギーを、一定の期間・価格で電気事業者が買い取る事を義務付ける制度で、2012年から始まりました。
まとめ
水力発電は、再生可能エネルギーとしてメリットの多い発電方法です。
日本では、大規模な水力発電建設は既に開発し尽くされた状況であり、新たな建設はほとんどできません。
しかし、中小規模の水力発電が期待されており、今後増えていく可能性が高いでしょう。
また、最近はマイクロ水力発電と呼ばれる、1,000kW以下の出力を持つ発電も登場しています。
流水さえあればどこでも活用できるため、注目されている発電方法です。
こうした環境負荷が少なく電力の地場消費ができる発電を踏まえながら、課題を一つ一つクリアしていくことが、今後の水力発電の発展には欠かせません。
古来から使われ続けた水力発電が、再び、限りある資源を使う主流発電方法に代わって活躍することも期待されます。