電気のない夜に教科書を読むことも、点滴を冷蔵保管することも、スマートフォンを充電することもできない——それが、今もなお世界の多くの地域で続いている現実です。SDGs(持続可能な開発目標)の「目標7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに」は、こうしたエネルギー格差の解消と、地球温暖化を引き起こす化石燃料への依存からの脱却を、2030年までに達成しようとする目標です。
2015年の採択から10年が経ちましたが、達成は順調とは言えない状況が続いています。この記事では、目標7が掲げる背景・具体的なターゲット・日本と世界の取り組み・そして私たちひとりひとりにできることを整理します。
目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」が生まれた背景
エネルギーは現代社会のすべての活動を支える基盤です。病院・学校・農業・通信——いずれもエネルギーなしには機能しません。それにもかかわらず、世界にはエネルギーにアクセスできない人々が大勢います。
国連の「Tracking SDG7: The Energy Progress Report」によると、2022年時点で電力へのアクセスがない人口は約6億8,500万人にのぼるとされています。2018年時点の約7億8,900万人から減少してはいるものの、サハラ以南アフリカに約5億7,000万人が集中しており、地域格差は依然として大きい状況です。
また、クリーンな調理エネルギー(クリーンクッキング)を利用できない人はさらに多く、2022年時点でも約23億人が木材・炭・動物のふんを燃料とした不完全燃焼の煙にさらされているとされます。この煙から生じる室内大気汚染により、年間数百万人が命を失っているとWHOは報告しています。
一方で、電力を使える国・地域でも「どのエネルギーを燃やして電気を作るか」という問題があります。石炭・石油・天然ガスといった化石燃料は燃やすと二酸化炭素(CO₂)をはじめとする温室効果ガスを排出し、気候変動を加速させます。エネルギー問題は、エネルギー格差と気候変動という二つの課題を同時に解決しなければならないという複雑な構造を持っています。
目標7の5つのターゲットを読み解く
SDGsには17の目標それぞれに、より具体的な「ターゲット」が設けられています。目標7には5つのターゲットがあり、エネルギーアクセス・再エネ拡大・効率化・国際協力・途上国支援という異なる角度から課題に向き合っています。
ターゲット7.1|すべての人に安価で信頼できるエネルギーを
2030年までに、安価かつ信頼できる現代的エネルギーサービスへの普遍的アクセスを確保することを求めています。「現代的エネルギー」とは、電力だけでなくクリーンな調理燃料(LPGや電気コンロ等)を含む概念です。価格が高ければ貧困層は利用できず、インフラが不安定なら医療や教育に使えません。「安価」と「信頼性」の両立が鍵となります。
ターゲット7.2|再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大する
世界のエネルギーミックスに占める再生可能エネルギーの比率を大幅に引き上げることが求められています。IEA(国際エネルギー機関)の報告によると、2022年の世界の電力発電量に占める再生可能エネルギーの割合は約29%に達し、太陽光・風力の成長が牽引しています。2030年には60%超を目指すシナリオも議論されています。
ターゲット7.3|エネルギー効率の改善率を倍増させる
同じ経済活動や生活水準を維持しながら、使うエネルギーの量を減らす「エネルギー効率」の改善を求めています。断熱性能の高い建物、省エネ家電、電気自動車(EV)への移行がこのターゲットに直結します。IEAは、エネルギー効率の改善がカーボンニュートラルへの道筋の中で「最初に着手すべき対策」と位置づけています。
ターゲット7.a|クリーンエネルギーの研究・投資を国際的に促進する
再生可能エネルギー・省エネ・低環境負荷の化石燃料技術に関する研究と技術へのアクセスを国際協力で促進し、インフラ・技術への投資を拡大することを求めます。一国だけの取り組みでは技術コストの低下に限界があり、先進国と途上国が知見と資金を共有する枠組みが不可欠です。
ターゲット7.b|途上国のエネルギーインフラを整備・強化する
後発開発途上国(LDC)・小島嶼開発途上国(SIDS)・内陸開発途上国を対象に、持続可能なエネルギーサービスを供給できるようインフラ整備と技術移転を進めます。これらの国々は気候変動の影響を最も受けやすい一方で、エネルギーインフラが最も脆弱であるという不均衡があります。
2030年まで残り4年|世界の達成状況と課題
国連が2023年に公表した「SDGs進捗報告書」では、目標7について「2030年の達成に向けた進捗が不十分」と評価されています。電力アクセスや再生可能エネルギーでは一定の前進が見られる一方、クリーンな調理環境の普及とエネルギー効率の改善は特に遅れているとされます。
再生可能エネルギーの導入コストは急激に低下しています。IRENA(国際再生可能エネルギー機関)によると、太陽光発電のコストは2010年から2022年の間に約89%下落し、陸上風力も約69%下落したとされています。コスト面でのハードルは大きく下がりましたが、送電網の整備・蓄電技術・制度設計が新たなボトルネックとなっています。
一方、ロシアによるウクライナ侵攻(2022年)を機に欧州でエネルギー安全保障の意識が高まり、再生可能エネルギーへの転換が加速した側面もあります。EUは「REPowerEU」計画のもとでロシア産化石燃料への依存を減らしながら、2030年の再エネ目標を42.5%へ引き上げています。
日本の取り組み|再エネ目標・省エネ法・FIP制度の現在地
日本政府は2021年に「第6次エネルギー基本計画」を策定し、2030年度の電源構成目標として再生可能エネルギーを36〜38%に引き上げることを明記しました(旧目標の22〜24%から大幅に上方修正)。太陽光・風力を中心に設備容量の拡大が続いています。
制度面では、2022年4月に「FIP(フィード・イン・プレミアム)制度」が導入されました。従来のFIT(固定価格買取制度)が電力会社による一定価格での買い取りを保証するものだったのに対し、FIPは発電事業者が市場価格で売電しながら、一定の「プレミアム」を上乗せして受け取る仕組みです。市場参加を促すことで再生可能エネルギーの自立と競争力強化を狙っています。
省エネの面では、「省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)」が2023年4月に改正・施行されました。企業に対して非化石エネルギーへの転換計画を義務付けるなど、従来の「節約」にとどまらない脱炭素化への対応が求められています。
また、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、洋上風力・水素・アンモニアなど次世代エネルギーへの投資も拡大しています。2023年に閣議決定された「GX(グリーントランスフォーメーション)推進戦略」では、今後10年間で官民合わせて150兆円規模の投資を呼び込む目標が掲げられています。

企業の動き|RE100・PPAが広がるビジネス現場
企業の動向でも変化が続いています。事業活動で使う電力の100%を再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際イニシアティブ「RE100」への日本企業の参加社数は、2024年時点で90社を超えており、アジア最多水準となっています。
電力の調達方法として注目されているのが「PPA(電力購入契約)」です。企業が発電事業者と長期契約を結び、再生可能エネルギーを直接購入する仕組みで、電力会社を通さずに再エネを調達できます。オンサイト型(工場・オフィスの屋根に太陽光パネルを設置)とオフサイト型(遠隔地の発電所から送電)の両方が普及しつつあります。
家電メーカーや住宅メーカーでは、省エネ性能の高い製品開発が競争の軸になっています。冷蔵庫・エアコン・照明のエネルギー消費効率は、過去20年間で大幅に改善されました。ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング)やZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及も、家庭・業務部門のエネルギー効率改善に寄与しています。
電力格差はアジア・アフリカだけではない|見えにくいエネルギー貧困
「電力アクセスのない人」というと、アフリカや南アジアの農村部が頭に浮かびます。しかし、「エネルギー貧困」はより広い概念で、先進国でも問題として認識されています。エネルギー価格の高騰により、暖房・冷房を我慢したり、光熱費が家計を圧迫したりする世帯は、日本を含む多くの国で存在します。
2022年のエネルギー価格高騰は、電力・ガス料金を大幅に押し上げ、低所得層ほど打撃が大きい構造を可視化しました。エネルギー価格の急騰に対して脆弱な立場にある人々を守るセーフティネットの整備も、「誰一人取り残さない」エネルギー政策の一部です。
途上国でのエネルギー普及においても、単に発電所を建てるだけでなく、維持管理できる地域の人材育成・料金支払いの仕組み・エネルギーを使った生計向上の機会がセットで必要であることが、多くのプロジェクトの経験から明らかになっています。
気候変動とエネルギーの関係をより深く理解したい方は、こちらの記事もご覧ください。

私たちにできること|節電・電力選択・声を上げること
エネルギー問題は国家や企業だけが解決できるものではなく、個人の選択と行動が積み重なってマーケットと政策を動かします。具体的に始められることを3つ挙げます。
電力会社・プランを「再エネ比率」で選ぶ
電力の小売自由化(2016年〜)により、家庭でも電力会社とプランを選べます。再生可能エネルギーの調達比率が高いプランや、再エネ100%を謳うプランも増えています。切り替えの際は電力会社のウェブサイトや環境省の「電力の選択」情報を参考に、発電源の内訳を確認してみてください。
家庭のエネルギー効率を一歩ずつ上げる
照明のLED化・エアコンのフィルター清掃・古い家電の買い換え(省エネラベルのA以上を目安に)などは、光熱費の節約と温室効果ガスの削減を同時に実現します。住宅の断熱リフォームは初期費用がかかるものの、長期的にはエネルギーコストの大幅な削減につながります。経済産業省や各自治体の補助金を活用できる場合もあります。
エネルギー政策に関心を持ち、声を届ける
エネルギーのあり方は、電力会社の選択だけでなく政策・制度によっても大きく変わります。国や自治体のエネルギー計画のパブリックコメント(意見公募)に参加すること、エネルギー問題に関わる市民団体や研究者の発信を継続的に追うことも、社会を動かす力になります。
まとめ|「電気があること」を当たり前にするために
SDGs目標7が向き合う課題は、「電気のない地域に送電する」という単純な問題ではありません。気候変動を悪化させずに、すべての人が信頼できるエネルギーを使えるようにする——この両立こそが、目標7の核心です。2030年の期限が迫る中、個人・企業・政府がそれぞれの役割で加速する必要があります。
今日から始められることを整理します。
- 電力会社・プランを選ぶとき、再生可能エネルギーの調達比率を確認する
- 照明のLED化や省エネ家電への切り替えで、家庭のエネルギー消費を段階的に減らす
- 世界のエネルギー格差(無電化人口・クリーンクッキング問題)を知り、周囲に伝える
- エネルギー政策の動向(エネルギー基本計画・GX戦略等)に継続的に関心を持つ
- 勤め先や学校でのRE100・省エネ推進を後押しする
まずは電力プランを一度見直すところから始めてみてください。選択の積み重ねが、エネルギーのあり方を変えていきます。


