「働く女性」という言葉はごく自然に聞こえるのに、「働く男性」と言われると妙な感じがする——この非対称な感覚には、長年にわたって社会に刷り込まれてきた性別役割の固定観念が映し出されています。世界経済フォーラム(WEF)が毎年発表する「グローバル・ジェンダー・ギャップ報告書2024」では、日本は146カ国中118位と、G7諸国の中で最下位という評価を受けています。一方、アイスランドをはじめとする北欧諸国や東南アジア・アフリカの一部では、制度と文化の両面から変革が着実に進んでいます。この記事では、各地域の具体的な政策事例と最新データをもとに、世界のジェンダー平等の現在地を整理します。
ジェンダー・ギャップ指数2024|日本は146カ国中118位
WEFは毎年、「経済参加・機会」「教育達成度」「健康・生存率」「政治的エンパワーメント」の4分野を総合したジェンダー・ギャップ指数(GGI)を発表しています。2024年版では146カ国が対象となり、日本のスコアは0.663(最大値1.000)で総合118位でした。前年の125位からは7ランク上昇したものの、G7最下位の状況は変わっていません。
分野別に見ると、「教育達成度」は72位、「健康・生存率」は58位とそれほど低くはありませんが、「経済参加・機会」は120位、「政治的エンパワーメント」は113位と大きく遅れています。管理職に占める女性の割合が約13%にとどまること、国会議員における女性比率が約10%であることが、これらの数値を押し下げる主な要因とされています。
この指数は「完全平等との差がどれだけ小さいか」を測るものであり、スコアが1に近いほど格差が少ないことを意味します。トップのアイスランドは0.935で、16年連続で首位を維持しています。
北欧が示すジェンダー平等の先進モデル
GGIの上位を占めるのは北欧諸国です。2024年版でも1位アイスランド、2位フィンランド、3位ノルウェー、4位ニュージーランド、5位スウェーデンという顔ぶれが並びます。これらの国々が高い評価を受ける背景には、制度と文化の両輪が機能していることが挙げられます。
アイスランド|1975年のストライキが生んだ平等社会
アイスランドが今日のような平等社会を実現した転換点は、1975年10月24日に起きた女性たちによる大規模ストライキでした。「女性の休日」と呼ばれるこの日、成人女性の約90%が仕事・家事・育児を一斉に放棄し、男性のみでは社会が機能しないことを示しました。この出来事が政治・経済・家庭のあり方を見直すきっかけとなり、その後の政策改革へとつながっています。
現在、アイスランドでは両親それぞれに6か月、計18か月の育児休暇が付与されており、父親の育児休暇取得率は7割を超えます。男性が育児を担うことを当然のこととして受け入れている文化的な基盤が、この高い取得率を支えています。また、育休取得による降格や減給を法律で禁じており、制度と規制の両面から安心して休暇を取れる環境が整っています。
ノルウェー|クオータ制の導入が変えた企業統治
ノルウェーは2003年、世界で初めて企業の取締役会における女性比率を40%以上とすることを法律で義務づけました。この「クオータ制」は当初から賛否を呼びましたが、導入から20年以上が経過した現在、同国の大企業取締役会における女性比率は実際に40%を超えており、その後EUや他国のジェンダー規制のモデルとなっています。父親に10週間の育休取得を義務づける「パパクオータ」制度も継続しており、家庭内の役割分担を制度面から後押ししています。
ドイツでも上場大企業の監査役会に女性比率30%以上を求める割当制が2015年に導入され、その後2021年には一定規模の企業に役員レベルでの女性登用目標設定が義務化されました。北欧やドイツに共通するのは、「努力目標」ではなく「法的義務」として数値を設定している点です。
アメリカの取り組み|賃金格差是正から女性のSTEM参入支援まで
多民族・多文化国家のアメリカでは、ジェンダー平等の課題が人種・民族の格差とも複雑に絡み合っています。女性の労働参加率は男性に近い水準まで高まっていますが、管理職・役員層における女性比率や、科学・技術・工学・数学(STEM)分野での女性就労率には依然として大きな差があります。
カリフォルニア州は2018年に、州内に本社を置く上場企業の取締役会に女性を最低1名登用することを義務づける法律(SB 826)を制定しました。違反企業には罰金が科されます。また同州は、採用時に求職者の前職給与を聞くことを禁じる「給与履歴照会禁止法」も制定しており、過去の賃金格差が新たな採用条件に引き継がれないようにする仕組みを導入しています。こうした州レベルの先進的な立法が、連邦レベルの政策議論に影響を与えてきました。
STEM分野への女子・女性の参入を促す取り組みとしては、連邦政府の「Women in STEM」プログラムや、NPOによるコーディング教育支援が広がっています。2022年に成立したインフレ抑制法(IRA)や半導体・科学法(CHIPS法)にも、女性や社会的弱者が製造業・エネルギー分野に参入するための雇用支援条項が盛り込まれており、環境投資とジェンダー平等を一体で推進しようとする方向性が見えます。
東南アジアとアフリカの変化|制度整備と経済的自立
「女性の地位が低い」というイメージが先行しがちな東南アジアやアフリカでも、政策や民間の取り組みによって着実な変化が起きています。
フィリピン|予算の5%をジェンダー政策に
フィリピンは1975年に政府機関「フィリピン女性委員会(PCW)」を設置し、ジェンダー問題を専管する行政体制を早期に整えました。その後、国家機関や地方自治体、大学などに対して予算の5%以上をジェンダー平等施策に充てることを法律で義務づけており、各機関の計画はPCWの承認を受ける仕組みになっています。地域ごとのセミナー開催や相談窓口の設置が制度的に担保されていることで、草の根レベルでの意識変革が進んでいます。フィリピンは2024年のGGIで25位と、東南アジアでトップクラスの評価を受けています。
インドネシア|家事支援文化と女性の就労継続
インドネシアでは2001年に女性大統領(メガワティ・スカルノプトリ氏)が誕生し、女性リーダーへの社会的認知が高まりました。女性の就労継続を支える重要な要素として、ベビーシッターや家政婦を比較的低コストで雇用できる文化が挙げられます。裕福な家庭に限らずこの仕組みが機能しているため、出産後も職場に戻りやすい環境が生まれています。一方で、農村部と都市部の格差や、非正規雇用層の女性を取り巻く環境の改善は引き続きの課題です。
アフリカ|教育支援とシアバター産業が開く道
サブサハラアフリカでは児童婚と教育機会の欠如が依然として深刻な課題です。ユニセフなどの国際機関は、女子が教育を受けることが児童婚のリスク低減・妊産婦死亡率の低下・HIV感染予防につながるとして、就学支援プログラムを展開しています。教育が女性の自己決定権を高め、社会全体の発展につながるという観点から、支援の重点は「学校に通わせる」ことにとどまらず、質の高い学習継続にまで広がっています。
経済的な側面では、ガーナをはじめとする西アフリカ諸国でシアバター産業への女性参加が進んでいます。シアの実から採れる天然油脂は美容・食品業界で需要が高く、生産・加工・流通に携わる女性が安定した収入を得られるよう、NGOや企業が協働して支援を行っています。フェアトレード認証を取得したシアバター製品は欧米市場でも流通しており、現地女性の経済的自立と国際市場がつながる好循環が生まれつつあります。
日本の現状|政策と企業の取り組みが動き始めた2024年
2024年のGGI118位という結果が示すように、日本のジェンダー平等は世界水準から大きく遅れています。特に「政治的エンパワーメント」と「経済参加・機会」の2分野での低スコアが課題の核心です。政府は「女性活躍推進法」に基づく行動計画策定の義務対象を中小企業へと拡大し、2030年までに女性管理職比率30%以上を目指すという目標を掲げています。
男性育休取得率の変化
厚生労働省の「令和5年度雇用均等基本調査」によると、男性の育児休業取得率は30.1%と初めて3割を超えました。前年の17.1%から大幅に上昇しており、2022年に施行された「産後パパ育休(出生時育児休業)」制度の浸透が数値を押し上げたとみられています。ただし、育休の取得日数は女性が平均約10か月に対して男性は約46日と短く、「取ったことにする」形式的な取得も指摘されています。取得率の向上と同時に、育休中の所得保障や復職後のキャリアへの影響をなくす環境整備が求められています。
企業の取り組み事例
企業レベルでも変化が見られます。花王は米ブルームバーグが選定する「ジェンダー平等指数(Bloomberg Gender-Equality Index)」に複数年にわたり選出されており、2009年から育休復職者向けセミナーを実施するなど、長期的な取り組みを積み重ねてきました。ユニリーバ・ジャパンでは役員・管理職の約半数を女性が占めており、体外受精や卵子凍結に対する費用支援など、ライフイベントと仕事の両立を支える独自の制度を設けています。
2024年以降は、東京証券取引所によるコーポレートガバナンス・コードの実質的な運用強化を背景に、上場企業が女性取締役の比率向上を対外的にコミットする動きが加速しています。ESG投資の拡大によって機関投資家がジェンダー多様性を投資判断の要素とするようになったことも、企業行動を変える圧力になっています。
ジェンダー平等と企業の持続可能性の関係については、以下の記事もあわせてご覧ください。
「SDGs目標5」が求めるもの|2030年に向けた世界の課題
SDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」は、2030年までにすべての女性と女児への差別をなくし、政治・経済・公共分野への完全かつ効果的な参加と平等なリーダーシップ機会を確保することを掲げています。しかし、国連が2023年に公表した「SDGsレポート2023」では、目標5の達成に向けた進捗は非常に遅く、このペースでは2030年の目標達成が困難だとされています。
具体的な課題として挙げられているのは、①無償の家事・育児労働が依然として女性に偏っていること、②性暴力・ハラスメントへの法的保護が不十分な国が多いこと、③デジタル技術・金融サービスへの女性のアクセス格差が広がっていること、の3点です。特にデジタル格差は、AI・データエコノミーが拡大する中で新たなジェンダー不平等を生む構造的リスクとして国際社会が注視しています。
SDGs目標5の全体像や関連するゴールとのつながりについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
世界の変化から学べること|日本が取り入れられる視点
各国の事例を横断的に見ると、ジェンダー平等の進展には「法的義務化」「経済的インセンティブ」「文化的規範の変化」という3つの要素が重なり合っていることがわかります。アイスランドのストライキが示したように、制度改革は市民の声から始まることも多く、政策が先行する場合もあれば文化変容が先になる場合もあります。
日本に当てはめると、法整備(女性活躍推進法、育休制度の拡充)は一定程度進んでいますが、「管理職に女性がいるのは当然」「父親が育休を取るのは普通」という文化的な規範の変化がまだ追いついていません。ノルウェーのパパクオータのように、「選択肢として用意する」だけでなく「取ることが前提の仕組み」にすることで、実際の行動変容が促されるという示唆は、日本の政策設計にも参考になります。
また、フィリピンの予算義務付けやアフリカのシアバター支援が示すように、上位から変えるトップダウン型だけでなく、地域コミュニティ・産業・個人の生活に寄り添った草の根型のアプローチが、長期的な文化変容に効果的であることも見逃せません。
社会全体の変化は一朝一夕には起きません。ただ、自分が関わる職場・学校・家庭の中で「当然」と思っていた性別役割を一つ問い直すことは、今日からできます。まず身近な一つの場面で、固定観念を意識してみてください。
まとめ|世界のジェンダー平等の現在地
2024年のデータと各国の事例から見えてくるポイントを整理します。
- WEFジェンダー・ギャップ報告書2024で日本は146カ国中118位、G7最下位
- アイスランドは16年連続1位。1975年の女性ストライキが制度改革の出発点
- ノルウェーのクオータ制(取締役会40%)は世界初の企業義務化モデル
- 日本の男性育休取得率は2023年度に初めて30%を超えたが、取得日数の短さが課題
- フィリピンは予算の5%以上をジェンダー施策に充てることを法律で義務化
- SDGs目標5の達成は現状ペースでは2030年に間に合わないと国連が警告
- 「法的義務化」「経済的インセンティブ」「文化規範の変化」の3要素が重なることで変化が加速する



