ジェントリフィケーションは、都市の再開発に伴い、街が生まれ変わることを意味します。
今回は、このジェントリフィケーションの意味や具体例について、詳しく見ていきたいと思います。
ジェントリフィケーションとは?
ジェントリフィケーション(Gentrification)とは、「都市の再開発」を表現する英語由来の表現です。
一言で言えば、ジェントリフィケーションとは、「再開発や再建を通じて街が生まれ変わること」です。
具体的には、居住もしくは勤務地域として必ずしも人気がない(あるいはかつて人気があった)地域が、地域一体の再開発や再建プロジェクトを通じて、住環境・利便性・景観等が改善し、結果として活性化されたことを契機に、その他の地域から居住や勤務地として多くの人が移住することを指します。
元来の意味は?
そもそもジェントリフィケーションという言葉は、1960年代にイギリスのロンドンにおいて家賃高騰に伴い労働者階級が元々の居住地の立ち退きを迫られる状況を表す言葉でした。
しかし現在では、それが転じて「再開発や再建を通じて街が生まれ変わること」を指す表現として使用されることが多くなっています。
プラスとマイナス、両方の側面を持つ
日本におけるジェントリフィケーションとは、街の景観が改善し活性化されたという「良い方向での変化」のみを指すことが多いと思います。
それに対して欧米では、ジェントリフィケーションには単なる良い方向での変化だけでなく、良い方向への変化に伴う負の側面の意味も含んでいます。
街の景観改善や活性化とともに賃料が上昇し、元々の居住者である低所得者が再開発とともに転出せざるを得ないのは、良い方向で街が生まれ変わることに伴う負の影響です。
ジェントリフィケーションの事例~海外
ジェントリフィケーションは、我々の身のまわりに実は数多く存在しています。
その例として挙げられるのが、グローバル都市の1つであるロンドンとニューヨークのソーホー地区です。
ロンドン北部郊外は、工業化とともにかつて人気を有した緑の多い地域です。
しかし、近年では居住地としての人気は大きく低下し、代わってロンドン市内のかつてスラム街であった場所がビジネスパーソンを中心に人気となり、ファッショナブルな地域へと大きく変化を遂げています。
1990年に起こったベルリンの壁の崩壊によって急速な街の再開発が進んだベルリン東部地区も、老朽化した建物の修復と新規の建設ラッシュによって新たに都市が生まれ変わったジェントリフィケーションの一例です。
ニューヨークのソーホー地区は、かつて芸術家が居住するカウンターカルチャーの中心地でした。
しかし1980年代以降は、そのような文化に憧れた富裕層が流入することで再開発が進んでいます。
これは若者や富裕層が持つ文化に対する憧れが、街のジェントリフィケーションを牽引したといえる例です。
他方で、大手企業の流入がジェントリフィケーションを加速させるケースもあります。
サンフランシスコを中心とする米国西海岸のベイエリアは、アップルやグーグルといった大規模IT企業の従業員が数多く居住することによって街の再開発が進行しています。
一方で、賃料が高騰し、市外への転出を余儀なくされた超長距離通勤者(エクストリームコミューター)も生みだす結果となっているのです。
ジェントリフィケーションの事例~日本
日本でも様々な都市にジェントリフィケーションの事例を見て取ることができます。
例えば、山手線の主要駅で誰もがよく知る池袋、新宿、渋谷はそれぞれ、もともと東京駅や有楽町駅に過度に集中していた都市機能を分散化する目的から、それぞれ再開発が進められてきた街です。
池袋のランドマークである高層ビルの「サンシャイン60」は、戦争犯罪人を収容する巣鴨プリズンの跡地に建てられたものでした。
また、新宿の顔である新宿西口に林立する周囲の高層ビル群は、かつてヨドバシ浄水場の跡地に開発されたものです。
現在も続く渋谷駅前の再開発もまた、昭和30年代に始まる都市計画の一環で進められているものなのです。
古いものを修復・再生するジェントリフィケーション
かつての街を全部壊して、すべて新しいものに作り替えることだけが、ジェントリフィケーションではありません。
使用頻度の低い港湾地域にある倉庫や、商店街の空き家、未活用の住宅や事務所を活用したホテルやレストランなど多様な交流施設を設けて、今までなかった人の流れを新たに創り出すこともまた、ジェントリフィケーションにほかなりません。
かつて使われていた銭湯を図書館や、カフェ、憩いの場として作り直し、新しい人を呼び込むこと。
古い長屋を改装してホテルにリフォームすること。
いずれもジェントリフィケーションの一例です。
例えば、東京の文京区に千駄木・根津・谷中と呼ばれる地域が存在します。
歴史的にはそれぞれが別の地域でしたが、この40年で「谷根千」として大きく注目される地域となりました。
バブル経済が崩壊する1990年代初頭は、大通りにマンションが地上げによって林立。
お年寄りが住む街でしたが、この20年で新しい世代が移り住むようになり、近隣の東京藝術大生をはじめとして多様な価値観と文化的背景を持った人が居住する地域となっています。
まとめ|ジェントリフィケーションが本当に目指すものとは?
ジェントリフィケーションは、単に街が表面的に綺麗になることや、地域のブランド化・高級化・富裕化だけを指す言葉ではありません。
人間が人為的に介入して計画され、設計された街作りは必ずしも魅力的ではなく、完璧にデザインされた街や建物は時として息苦しく、心地いいものではありません。
むしろジェントリフィケーションが目指すものとは、街の構成や構造が変化する過程で、その主役となるそこに住む人たちの日々の生活を多才に彩り、生活を調子づけ、豊かにしなくてはならないはずです。
それは決して、奇をてらったランドマークを街に作るだけでも、道を綺麗にするだけでも、おしゃれなカフェやレストランを誘致するだけでも長期的には成立しえないものです。
ジェントリフィケーションとは、古いモノを壊し、新しいものに作り替えることではありません。
むしろ、古いモノを現代的な住民のニーズに合わせてアップデートやアップグレードし、これまで以上に魅力的にすることなのです。
過去にのみこだわる街も、将来にのみこだわる街も、同じように時間とともに衰退します。
過去のよさをいかに新たな都市の設計に活かしていくのか。
この視点こそが、どんな地域にも求められるジェントリフィケーションなのです。