今、世界中にスラム街が存在しています。経済が発展した都市部には多くの人々が集まりますが、経済的自由を得られる人ばかりではありません。こうした貧困層が集まることでスラム街が生まれました。
大都市に存在するスラム街は衛生的ではなく、治安も悪いため、安心して住み続けられる街とはとても言えません。世界に点在するスラムではどのような事態があるのか、また、スラム街の問題を解消するためにどのような事が進められているのかについて解説します。
スラム街とは
スラム街とは、都市部で貧困層が居住する過密化した地区のことです。世界中のほとんどの大都市にスラム街は存在しています。
スラム街では、通常都市で受けられる公共サービスを受けることができないだけでなく、居住者の安全・健康や道徳が脅かされている環境であり、深刻な社会問題となっています。
世界のスラム街の住民数は増加傾向で、国際連合人間居住計画の統計によると、21世紀初めにおよそ10億人であった人口は、2030年には20億人まで増加するのではないかと予測されています。
世界に点在するスラム街の実態
1.ケニアのスラム街「キベラスラム」
アフリカで最大規模のスラム街「キベラスラム」は、ケニアの首都ナイロビの郊外にあります。
約2.5kmの面積に13の村が存在し、推定人口は60万人~120万人と言われていますが、正確な人口は明らかにされていません。
キベラスラムにはゴミが散乱しており、異臭も漂う不衛生な環境です。処理が追い付かないゴミ山には犬やヤギが群がる姿も見受けられます。
また、犯罪者も多く存在し、スリ・強盗・麻薬・銃犯罪なども頻繁に起きています。
キベラスラムに住むのは違法とされておりますが、貧困でここでしか住めないという事情があることを長年黙認されてきました。近年では、政府がスラム街の住居を撤去するなどの動きもあるようです。
2.ブラジルのスラム街「ファヴェーラ」
「ファヴェーラ」は、ブラジルでスラムや貧困街を指す総称です。ブラジルの都市にはほとんどの地にファヴェーラが存在し、深刻な社会問題となっています。ファヴェーラの多くは、公有地や所有権を争って係争がある土地などに、不法居住者が許可なく小屋を建てるなどして築かれました。
ファヴェーラの小屋は密集しており、地形柄、山の斜面に建てられたファヴェーラでは、大雨が降ると地滑りが起こり、多くの犠牲者も出ています。また、街の電気は近隣の電線から許可なく電気を引いていることも問題となっています。
ファヴェーラの衛生環境は悪く、下水処理の問題や病気も多く発生しています。
コロンビア産のコカインの取引や、銃撃による殺人などの問題も抱えており、治安が非常に悪い環境です。
スラム街が出来上がる経緯
スラム街ができる経緯は、地方から出稼ぎなどで都会に流入した人々が、定職に就けなかったなどの理由により都会での生活が成り立たなくなり、スラム(住居)を作ることにより築かれます。
こうしたスラムが集まり、年々大きくなっているのが現状なのです。そのため、多くのスラム街は大都市やその近郊に多く点在しています。
スラム街は、スラムの世帯の人々が多く住む地域のことを言いますが、ではスラムの世帯とは何かというと、ユニセフより、下記のように示されています。
国連人間居住計画(UN-Habit)は、スラムの世帯とは、以下の一つ以上欠如している世帯と定義している。・改善された水へのアクセス
過度な身体的努力や時間を必要とせず、適量の水が手ごろな価格で入手できる。
・改善された衛生施設(トイレ)へのアクセス
私用トイレまたは妥当な人数で共有する公共のトイレの携帯で、排泄物処理設備が利用できる。
・住み続けられる保証
住居の確実な賃貸または所有の状態の証明として、または強制退去からの保護のために、仕様できる証拠または文書がある。
・住居への耐久性
危険のない土地に永続的で適切な構造で施され、降雨、寒暖、または湿気といった気候条件が極度に至っても居住者を保護できる。
・十分な生活空間
同じ部屋を共有するのは最高3名までである。
スラム街での生活とは
スラム街に住む人たちは不法移住で暮らしているため、住所がありません。そのため、水道や電気なども通っていないことがほとんどです。スラム街には、住民が持ち込んだゴミが山積みになったゴミ山が多く点在します。ゴミ山からリサイクルできるものを探し出してそれを売って生活している人もいます。
街は処理しきれないゴミで溢れていて、下水道が整備されていないために生活排水はそのまま路地に流れてしまいます。そのため、異臭がするのはもちろん、ハエが集る環境で生活をしています。
そのような環境で暮らしているため、病気にかかりやすく、子供の致死率は高く、平均寿命も短い傾向があります。
十分に食事をとることができないのは人間だけでなく、犬などの動物も同様です。
街には野良犬が寝そべっており、食べ物の香りがすると近づいてくることもあるのです。
犬に嚙まれたら、「狂犬病」に感染するリスクがあるのです。狂犬病は、致死率が非常に高い病気であり、死と隣り合わせと言えます。
このような貧しい暮らしを強いられているので人々の表情は暗いものなのではないかと、多くの日本人は想像しますが、実際には明るく、家族や親戚たちで協力しながら生活しています。
スラム街では特に何が危険なのか
スラム街では、生活に困窮した貧しい人々が作った小屋が密集しているため、耐久性がありません。
自然災害が起こると住居も命も奪われる危険が高く、小さな火災も大規模火災へと発展しやすい現状があります。
また、スラム街では衛生環境が悪く、公的なサービスも受けられない環境であるゆえに、伝染病も広がりやすい傾向があります。
法律によって守られていない地域であることから、売春・違法薬物・犯罪などの温床となりやすく、危険と隣り合わせの環境です。
スラム街をなくすために
これまで、スラムを解消するために、街や住居を撤去するといった方法も行われてきました。
しかし、スラム街に住む人々は貧困でやむを得ずスラムに住んでいる状況なので、結局別のスラムに移るといったことも多く起こり、効果は見受けられませんでした。
昨今では、スラム街を解消するための対策として、貧困者の雇用を助けるための取り組みが進められています。
具体的には、工芸品やアクセサリーの製作や大工・木工といった技術が身に付くよう支援し、安定した収入を得られるためのチャンスを与えています。また、こうして作られた品物を海外に向けて販売するような取り組みもあります。
貧困の改善により、低単価な住居を得られ、インフラも整った生活環境へとつなげることが望ましいとされています。
日本では、持続可能な経済社会システムを実現する都市・地域づくりを目指し、「環境未来都市」構想をSDGsの達成に向けた取り組みとして進めています。
そして、SDGsの考えを取り入れて日本としても持続可能な経済社会づくりを進め、これを国際社会にも発信していきたいという狙いがあるのです。
まとめ
この記事で説明したように、世界のほとんどの都市に貧困者たちが密集して生活する「スラム街」が存在し、深刻な社会問題となっています。
多くのスラム街の人々は、貧困であることはもちろん、不衛生で治安の悪い環境で生活しています。
スラム街はもろく耐久性がない住居が密集していることから、自然災害や火災などでは命を落とすリスクが非常に高いことも深刻な問題です。
スラム街で暮らす人々は安定した収入がなく、なかなかスラムからの脱却ができずにいます。
スラム街を解消するために、世界中でさまざまな取り組みが進められていますが、まだ課題が多いのが現状です。
SDGs目標11の「住み続けられるまちづくりを」を実現するために、まずは一人一人が「誰もが暮らしたいまち」とは何かを考え、思い描いていくことが必要とされています。