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スラムの実態と問題を解消するために何ができるのか|約11億人の暮らしと世界・日本の取り組み

スラムの実態と問題を解消するために何ができるのか

スラムとは、都市の中で水や衛生設備、安定した住まいが十分に得られない世帯が集まって暮らす地区のことです。国連の報告では、世界で約11億人がスラムや無計画に広がった居住地で暮らしているとされています。この記事では、スラムの実態と問題を解消するために何ができるのかを、世界の取り組みの成否、日本からの関わり方、私たち個人にできることまで順にたどります。

撤去すれば解決するのか、再開発は誰のためのものなのか。スラムについて調べると、こうした疑問にたどり着く人は多いはずです。

この記事で学べること

  • スラムで暮らす人の数と、国連が使う「スラム世帯」の判断基準
  • ケニアのキベラとブラジルのファヴェーラで、いま何が起きているか
  • 撤去、インフラ整備、住民主導、集合住宅への移転で何が変わり、何が残ったか
  • 日本の国際協力(JICA)とNGOの関わり方と、個人が選べる行動

スラムの実態|世界で約11億人が暮らす現在地

スラムは一部の国だけの問題ではありません。ほとんどの大都市の周縁や、川沿い、急斜面、鉄道沿いといった使われにくい土地に広がっています。まず、数字と定義で全体像をつかみます。

約11億人という規模

国連の「持続可能な開発目標(SDGs)報告2025」は、基本的なサービスを受けられないまま、スラムや無計画な居住地で暮らす人が11億2,000万人にのぼると報告しています。世界の人口の半分以上がすでに都市に暮らし、2050年には約7割に達すると見込まれています。都市に人が集まる流れが続くかぎり、住まいの確保は都市の最重要課題であり続けます。

同じ報告書は、住居費の負担にも触れています。2023年の世界平均で、世帯収入の31.0%が住居費に充てられていました。サハラ以南アフリカでは43.5%と最も高く、欧州・北米の21.4%の約2倍です。収入の4割以上を住居費に使う地域では、ぎりぎりの暮らしの中で、スラムが「選べる最後の住まい」になりがちです。

国連が「スラム世帯」と判断する基準

国連人間居住計画(UN-Habitat)は、次の条件のうち1つ以上が欠けている世帯をスラムの世帯と整理してきました。

  1. 改善された水に、手ごろな価格で十分にアクセスできる
  2. 改善された衛生施設(トイレ)を使える
  3. 住み続けられる保証がある(強制退去から守られている)
  4. 災害や気候から身を守れる、耐久性のある住居に住んでいる
  5. 1つの部屋を3人までで使える十分な広さがある

つまりスラムかどうかは、「見た目が粗末か」ではなく、水・トイレ・安全・広さ・立ち退きの不安といった基本条件で判断されます。トタンの家が並んでいなくても、条件を満たさなければ国際統計上はスラムの世帯に数えられます。

数字を読むときの注意

スラムの人口は、統計の取り方で大きく変わります。たとえば、ケニア・ナイロビのキベラは、かつて「アフリカ最大級で人口は数十万人から100万人超」と語られてきました。しかし推計は資料によって数倍の開きがあり、正確な人数は今も定まっていません。住所を持たない人が多く、調査そのものが難しいためです。

そのため、記事や報道で目にする数字は、いつ、誰が、どの範囲で数えたものかを確認して読むことが大切です。この記事も、出典を示せる数字だけを使っています。

二つの現場から見る|ケニアのキベラとブラジルのファヴェーラ

スラムの姿は国や都市によって違います。ここでは、よく知られた二つの現場の現在を、近年の動きも含めて見ていきます。

ケニア・ナイロビのキベラ

キベラはナイロビ中心部の近くにある、アフリカ有数の規模のスラムです。ごみの処理が追いつかず、下水設備も十分でないため、衛生環境の悪さが長く課題でした。居住自体が法的に不安定なまま、黙認される形で人が住み続けてきた歴史もあります。

2025年にはケニア政府が、手の届く価格の住宅(アフォーダブル・ハウジング)事業の一環として、キベラの一部地区の住民1万人超を移転させる方針を示しました。地元紙ネーションの報道によると、キベラのソウェト東地区では4,600戸が建設中で、キベラ全体では計2万5,000戸の計画です。登録された住民には、入居の優先権を保証するカードが配られるとされています。

一方で、入居後の家賃や購入価格が、いまの住民に払える水準になるのかを懸念する声もあります。登録された人が最終的にどう割り当てを受けるのかは、今後を見守る必要があります。

ブラジルのファヴェーラ

ブラジルのファヴェーラは、公有地や所有権が争われている土地に住民が自力で家を建てて広がった居住地です。2022年の国勢調査(ブラジル地理統計院、IBGE)では、全国12,348の「ファヴェーラと都市コミュニティ」に16,390,815人が暮らし、人口の約8.1%にあたります。分布は656の市町村に及び、最も人口が多いのはリオデジャネイロのロシーニャで、72,021人でした。

IBGEは2022年の調査から、統計上の呼称も改めました。2010年の調査では約1,140万人でしたが、調査の範囲や方法が変わっているため、単純に比べて増減を判断することはできません。

斜面に家が密集している地区では、大雨による地滑りの危険があります。電気を近隣の電線から無断で引く例もあり、火災や感電のリスクが高い地区もあります。こうした環境の悪さに加え、犯罪組織の影響で治安が不安定な地区があることも指摘されています。

同じスラムでも課題は違う

キベラとファヴェーラは、どちらも「不安定な土地の権利」と「基本サービスの不足」を抱えています。ただし、その表れ方は違います。キベラでは立ち退きや再開発の進め方が、ファヴェーラでは斜面災害や治安の問題が前面に出ます。「スラム対策」とひとくくりにせず、地区ごとの事情を見ることが、解決策を選ぶ出発点になります。

スラムが生まれ続ける理由|住む人の「自己責任」ではない

スラムは、貧しい人が「勝手に」集まってできた場所だと見られがちです。しかし実際には、都市の仕組みそのものが、スラムを生み出し続けている面があります。

仕事を求めて農村から都市へ出てきた人は、まず住む場所を探します。ところが、都市に整備された住宅は、正規の収入がある人向けのものが中心です。日雇いや路上の仕事で暮らす人は、家賃や敷金を払えません。結果として、使われていない土地に自力で家を建て、少しずつ広げていくことになります。

土地の権利が曖昧なままだと、水道や電気の事業者は設備を入れにくくなり、行政サービスも届きません。サービスがないから環境が悪くなり、環境が悪いから「撤去すべき場所」と見なされる、という悪循環が起きます。

さらに、気候変動が負担を重くしています。SDGs報告2025によると、深刻な河川の氾濫が起きやすい地域に10億人が暮らし、その半数は都市の中です。都市部の洪水にさらされる人の数は、1975年以降に農村部の3.5倍の水準まで増えました。堤防も排水路もない低地に家を建てるしかない人ほど、災害の被害を受けやすくなります。

よくある誤解|撤去すれば解決するのか、暗い場所なのか

スラムの問題を考えるときには、いくつかの誤解を解いておく必要があります。誤解のまま「善意」で動くと、かえって当事者を傷つけることがあるからです。

撤去しても、別のスラムが生まれる

昔から行われてきた方法に、住居を取り壊して住民を立ち退かせる「撤去」があります。ところが、住民は貧困でやむを得ずそこに住んでいるので、別の場所に移ってまたスラムをつくるだけ、という結果になりやすいのが現実です。仕事や学校、近所の助け合いから切り離されるため、暮らしはむしろ悪化することもあります。

だからこそ、国連の定義にも「強制退去から守られているか」という項目が入っています。土地の権利を安定させることが、環境を良くするための前提だと考えられているのです。

暮らしは「ただ暗い」わけではない

スラムで暮らす人は不幸でしかない、というイメージも正確ではありません。劣悪な環境の中でも、家族や親戚、近所同士で支え合い、小さな商売や職人仕事で暮らしを成り立たせている人が大勢います。ごみ山から再利用できるものを選び出して売るなど、都市の資源循環を担っている人もいます。

問題は人にあるのではなく、安全な水とトイレ、安心して住み続けられる権利が足りていない「環境」にあります。当事者を「かわいそうな人」として見るのではなく、一緒に暮らしの条件を整える相手として捉える視点が欠かせません。

再開発が必ずしも住民のためになるとは限らない

もう一つの誤解は、「きれいな高層住宅に建て替えれば、スラムの問題は解決する」というものです。インド・ムンバイのダラヴィでは、民間企業が関わる大規模な再開発が進んでいます。無償で住宅を受けられるのは一定の時期より前から住んでいた世帯に限られ、住民が域外へ移ることになる、との懸念も報じられています。ダラヴィには、自宅の一角を工房にして営む陶工や皮革職人、リサイクル業者も多く、住まいと仕事が一体になった暮らしが崩れる可能性が指摘されています。

住宅の「数」や「見た目」だけでなく、仕事と暮らしの場が保たれるか、住民自身が計画に参加できているか、という視点で評価する必要があります。

解消に向けた世界の取り組み|効果が分かれた三つのアプローチ

撤去の限界が分かってからは、世界各地でさまざまな方法が試されてきました。うまくいった例と、課題が残った例を比べてみます。

住民が主役になる方式

ケニアには、スラムの住民が自分たちで組織する「ムウンガノ・ワ・ワナビジジ(スラム住民連合)」があります。1996〜97年に、不当な立ち退きや土地の奪取に抵抗する運動として始まりました。現在は、女性を中心とした貯蓄グループと、住民自身が世帯や土地の情報を集める「エニュメレーション(住民調査)」を柱に活動しています。同連合のウェブサイトには、約6.4万人の会員が15の郡の約300の居住地で活動していると記されています。

自分たちで集めたデータは、行政と土地や住宅の交渉をするときの根拠になります。「見えない存在」だった住民が、データを持って対等に話し合えるようになる点が、この方式の強みです。

インフラを入れて街につなぐ方式

ブラジルのリオデジャネイロで進められた「ファヴェーラ・バイロ」事業は、撤去ではなく、既存の地区に道路や上下水道、公共施設を整備して、周囲の市街地につなぐ方式の先駆けとされています。米州開発銀行(IDB)は、この事業を10年後に評価する報告を出しています。

コロンビアのメデジンでは、丘の上のスラムと市街地をロープウェイ(メトロカブレ)で結び、通勤・通学の時間を短くしました。国際持続可能開発研究所(IISD)の分析では、メデジンの成功を、リオデジャネイロの同様の事業と比べています。リオでは同じ効果が出なかったとされ、交通手段を入れただけでは足りず、住民との協働や周辺の整備などの組み合わせが成否を分けると読み取れます。

集合住宅への移転方式

キベラのように、政府が新しい集合住宅を建てて住民を移す方式は、短期間で大きな量の住宅を供給できる利点があります。一方で、先に見たとおり、家賃の水準や入居の条件、仕事との距離が、住民に合うかどうかが成否を左右します。

三つの方式はどれか一つが正解というより、組み合わせて使うものです。共通して問われるのは、土地の権利の保障、住民の参加、そして仕事と収入の見通しです。

日本からできること|国際協力とNGO、そして個人の行動

スラムの問題は遠い国の話に見えるかもしれません。ただ、日本も国際協力や市民活動を通じて関わっています。

JICAによる都市の脆弱層への支援

国際協力機構(JICA)は2024年10月、アフガニスタンのカブール県とヘラート県で、国連人間居住計画(UN-Habitat)と連携する無償資金協力を決めました。事業名は「都市脆弱層のための生活環境改善計画」で、供与限度額は11億6,600万円、期間は36カ月です。

内容は、保健・医療施設や水・衛生施設の改修、生活道路の改修、そして住民参加型の計画づくりを支える地域の力づくりです。人口の流入が続く地域で、多様な人々の意見と災害リスクに配慮しながら、生活インフラを整えることが目的とされています。ここにも、「インフラの整備」と「住民の参加」を組み合わせる考え方が表れています。

NGOとボランティアという入り口

NGOのハビタット・フォー・ヒューマニティは、「誰もが安心して暮らせる住まい」を掲げ、世界70カ国以上で住まいの支援をしています。日本の事務局であるハビタット・フォー・ヒューマニティ・ジャパンは、海外での建築ボランティア「グローバル・ビレッジ」や学生向けのプログラムを運営しています。寄付、会員登録、ボランティア参加など、関わり方は複数あります。

個人が今日からできること

遠くの課題に、すぐ現地で動ける人は多くありません。それでも、できることはあります。

  • 住まいや都市の問題に取り組む団体の活動報告を読み、どんな方式で何を改善しているのかを確かめる
  • 寄付や参加を検討するときは、住民の意見をどう計画に反映しているかを確認する
  • 報道でスラムの再開発を見たら、住宅の数だけでなく、住民の仕事と暮らしがどうなるかに注目する
  • SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」を、自分の暮らす地域の住まいや防災の課題に引き寄せて考える

「寄付をしたからスラムが解消される」と考えるのは楽観的すぎます。ただ、関心を持ち続け、取り組みの質を見分ける目を養うことは、当事者の声が政策に届く社会をつくる一歩になります。

まとめ

世界では約11億人が、水やトイレ、安全な住まいを十分に得られないスラムや無計画な居住地で暮らしています。キベラやファヴェーラのように、土地の権利が不安定なまま都市に人が集まった結果、環境が悪くなる悪循環が生まれています。数字は調べ方で大きく変わるため、出典を確認して読むことが大切です。

解消の方法は、撤去から、住民主導、インフラ整備と市街地への接続、集合住宅への移転へと広がってきました。どれにも限界があり、成果を分けるのは、土地の権利の保障、住民の参加、仕事と収入の見通しの三つです。再開発が「きれいになったが、元の住民がいなくなった」結果にならないか、冷静に見る視点も必要です。

日本は、JICAによる都市脆弱層への支援や、NGOのボランティアを通じて関わっています。まずは、気になった団体の活動報告を一つだけ読んでみてください。どんな方法で、誰の声を聞きながら進めているのかを知ることが、最初の一歩になります。

  • スラムの判断基準は、水、トイレ、住み続けられる保証、住居の耐久性、広さの5つの条件
  • 撤去だけでは別のスラムが生まれやすく、土地の権利の保障が前提になる
  • 住民主導、インフラ整備、集合住宅への移転は、住民の参加と仕事の見通しで成否が分かれる
  • 日本はJICAやNGOを通じて関わっており、個人も情報の確認や寄付先の見極めから関われる

参考文献

  • 記事を書いたライター
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