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世界で注目されているウォーカブルシティってなに?日本と海外の事例でわかる「歩きたくなるまち」のつくり方

世界で注目されているウォーカブルシティってなに?

ウォーカブルシティ(walkable city)とは、車での移動を前提にせず、歩行者の快適さと安全を軸に設計された「歩きやすく、歩きたくなるまち」のことです。もともとは車社会のアメリカで、運動不足や肥満といった健康課題への対応として広がりました。いまは脱炭素、中心市街地のにぎわい、人口減少下のコミュニティ維持まで、目的が広がっています。

この記事では、定義を押さえたうえで、海外のポートランドやテンピ、スペインのポンテベドラ、日本の富山市やほこみち制度の指定道路を取り上げます。そのうえで「自分の暮らすまちでは何が変わりうるのか」「よくある誤解は何か」まで掘り下げます。

この記事で学べること

  • ウォーカブルシティが生まれた背景と、目的がどう広がったか
  • ポートランド、テンピ、ポンテベドラなど海外事例の共通点
  • 富山市とほこみち制度を中心にした、日本の具体的な動き
  • 「車を排除するまち」という誤解と、暮らしの中でできる関わり方
目次

ウォーカブルシティの考え方|健康から始まり、目的が広がった

ウォーカブルシティの出発点は、車なしでは暮らしにくい都市への反省でした。アメリカの多くの都市では、住宅地・職場・店舗が離れて配置され、移動の大半を自動車が担います。歩く機会が日常から失われることが、運動不足や肥満の一因になりうると指摘されてきました。そこで「環境の側から歩く機会をつくる」という発想が生まれました。

目的は健康だけではなくなった

現在のウォーカブルシティは、少なくとも3つの目的で語られます。1つ目は健康です。2つ目は環境で、自動車に頼る移動を減らすことで二酸化炭素の排出を抑える狙いがあります。3つ目は経済とコミュニティで、人が歩いて立ち寄るまちは、店や公共空間に人が集まりやすくなります。

日本では、とくに3つ目の「中心市街地の活力維持」が政策の大きな動機になっています。人口減少や少子高齢化で、郊外化と中心部の空洞化が同時に進んでいるためです。

「歩きやすい」と「歩きたくなる」は別の条件

歩道が広く、段差がないといった「歩きやすさ」は土台です。ただ、それだけで人が歩くとは限りません。日陰やベンチがあるか、道沿いに店や人の気配があるか、車が横を高速で通らないかといった「歩きたくなる」条件が重なって、はじめて人は足を向けます。

国土交通省は、この方向性を「居心地が良く歩きたくなるまちなか」と呼び、官民連携で道路・公園・広場などの空間を人中心に転換する取り組みを進めています。以降の事例も、この2段階(歩ける→歩きたくなる)で見ると違いがわかりやすくなります。

定義より先に押さえたい見方

ウォーカブルは、特定の都市の「正解の姿」を指す言葉ではありません。巨大都市と地方都市では、歩行者を増やす手段が違います。自分のまちに当てはめるときは、「何を解決したいのか(健康・環境・にぎわい・孤立の予防)」を先に決めると、次の事例の読み方が定まります。

海外の事例|ポートランド、テンピ、ポンテベドラ

海外には、都市の規模も手法も異なる事例があります。共通するのは、道路や駐車場といった「車のための空間」を、人のための空間に置き換えた点です。

米国・ポートランド|高速道路を撤去して公園に

オレゴン州ポートランドは、米国でウォーカブルな都市づくりの先駆けとして知られます。象徴的なのが、ウィラメット川沿いを走っていた高速道路ハーバー・ドライブの撤去です。同道路は1974年に閉鎖され、跡地には1978年にウォーターフロントの公園が完成しました。のちに当時の州知事の名を冠し、トム・マッコール・ウォーターフロント・パークと呼ばれています。

ポートランドは、公共交通の整備、歩行者優先の交差点改善、1階に店舗を置く複合的な建物の誘導などを積み重ねてきました。なお、街区が歩きやすい小さな単位で区切られている点もよく紹介されますが、その大きさは約60cmではなく、約60m(200フィート)が一般的な数字です。一方でハーバー・ドライブ撤去の経緯は、市民の声が計画を動かした例としても語られます。

米国・テンピ|車を持たない前提で設計した集合住宅

アリゾナ州テンピの「Culdesac Tempe」は、新築の集合住宅として「車なし」を前提に設計された、米国でも珍しい試みです。2025年2月の米国メディアの報道では、住戸は288戸、入居者は約300人でした。住宅用の駐車場はなく、小さな駐車場は店舗の来訪者向けに限られます。敷地内には自転車店やコーヒーショップなど十数店の小売店や飲食店があり、プールやドッグランも備えています。

駐車場に使うはずだった土地を共用空間に回せるのが、車を持たない設計の利点です。報道では、住民の評価はおおむね好意的とされています。一方で、これは新築の限られた区画の事例です。既存の住宅地にそのまま当てはめられるわけではない点には注意が必要です。

スペイン・ポンテベドラ|旧市街を歩行者のまちに

スペイン北西部のポンテベドラでは、1999年ごろから旧市街の自動車乗り入れを大きく制限し、約30万平方メートルの旧市街が歩行者中心の空間になりました。居住者や緊急車両、配送車両は例外として、歩く速度での通行に限られます。CO2排出量が大きく減ったと国際的な報道で紹介されています。

この事例は「車を完全に追い出す」ものではなく、「用途を限り、速度を落とす」設計が現実的であることを示しています。国や自治体、調査機関によって数値の出し方が異なるため、数字は報道ベースの目安として受け止めるのが安全です。

3つの事例の共通点

3か所に共通するのは、道路を一部だけ変えるのではなく、住まい・店・公共交通を歩ける範囲にまとめ直している点です。歩く人のための環境づくりは、単独の舗装改良ではなく、まちの使い方全体の再設計だとわかります。

日本の取り組み|富山市とほこみち制度

日本では、ウォーカブルは健康や環境に加え、「人口減少下で、まちの中心をどう維持するか」への回答として進められています。ここでは、都市構造を変えた富山市と、道路の使い方を変えたほこみち制度を取り上げます。

富山市|「お団子と串」で公共交通沿線に暮らしを寄せる

富山市は、住宅や商業、文化などの拠点(お団子)を、公共交通(串)でつなぐ「お団子と串の都市構造」をめざし、コンパクトなまちづくりを進めてきました。JR富山港線を日本初の本格的LRTに転換して富山ライトレールとして開業させ、市内電車の環状線化なども行い、串にあたる公共交通を使いやすくしています。

あわせて、公共交通沿線の居住を後押しする施策も行ってきました。市の資料では、公共交通沿線居住推進地区の人口が2005年の約11.8万人(市全体の約28%)で、2025年に約16.8万人(約42%)まで高める目標が掲げられています。これは目標値であり、達成の評価は最新の市の公表資料で確認する必要があります。

ほこみち制度|歩道を「通る場所」から「いる場所」へ

ほこみち(歩行者利便増進道路)は、2020年の道路法改正で創設された制度です。道路管理者が指定すると、歩道にカフェのテラスやベンチ、マルシェなどを置く手続きが簡単になります。全国初の指定は2021年2月12日で、大阪市の御堂筋、神戸市の三宮中央通り線、姫路市の大手前通りの3路線でした。

国土交通省の事例資料(2026年3月時点)では、指定路線は201、ほこみちがある市区町村は75とされています。制度開始から5年ほどで、大都市の目抜き通りから地方都市の中心部まで広がっていることがわかります。

大手前通りが示す、地方都市での使い方

姫路市の大手前通りは、姫路駅から姫路城へまっすぐ延びる通りです。ほこみち指定後は、オープンカフェや複数店舗が集まるマルシェ、休憩スペースの設置が想定されています。歩く人を増やすだけでなく、観光客が通り過ぎるだけの道に「立ち止まる理由」をつくる発想です。

ほこみちは、道路を歩行者が滞留できる空間に変える制度であり、車道の通行をなくす制度ではありません。この点は、次の章で触れる誤解とも関わります。

共通点を比べる|成果が出るまちが先に整えていたもの

事例を並べると、手法は違っても、先に整えている条件に共通点があります。

公共交通と歩ける範囲を先に設計している

富山市は公共交通沿線へ居住を寄せ、テンピは地下鉄ではなく軽量の鉄道(ライトレール)沿いに計画されています。歩行者空間だけを先に整えても、遠くへ行くための代替手段がなければ、車を手放す選択は現実的になりません。ウォーカブル化は、歩く道と使いやすい公共交通のセットで考える必要があります。

「歩く人の数」より「滞在の質」を見ている

ほこみちが対象にするのは、通過する歩行者ではなく、歩道にとどまる時間です。テンピでも、駐車場を減らした分の土地を、プールや公共空間に回しています。歩く人数だけでなく、立ち止まって使える空間が増えたかどうかが、成果を見るうえで大切な視点になります。

小さく始めて、見直しながら広げている

ポートランドの歩行者優先の取り組みは現在も続く進行形で、ほこみちも指定路線を増やしながら運用を重ねています。実験的な社会実験から始め、使われ方を見て調整するやり方は、日本の地方都市でも採りやすい方法です。

よくある誤解|「車を悪者にするまち」ではない

ウォーカブルシティは、ときに「車を排除する政策」と受け取られ、反対や不安の声が出ます。ここでは、誤解されやすい点を整理します。

誤解1|自動車が使えなくなる

ポンテベドラでも、居住者や緊急車両、配送車両は条件つきで通行できます。ほこみちも、歩道の使い方を広げる制度です。多くの事例は、車を全面的に禁止するのではなく、時間や場所、速度で使い方を分けています。

誤解2|都市部の話で、地方には関係ない

姫路市のような地方都市でもほこみちが活用され、富山市は地方都市のコンパクト化で知られています。むしろ車への依存が強い地方ほど、高齢で運転をやめた人が外出しづらくなるといった課題と結びつきやすく、ウォーカブルの意義は大きいといえます。

誤解3|すべての人が歩けるまちになる

「歩きたくなるまち」は、歩ける人だけのためのまちではありません。段差の解消、ベンチの設置、バリアフリー化は、高齢者や子ども連れ、車いすの人にとっても重要です。歩行が難しい人の移動手段(福祉タクシーや低速のモビリティなど)も、あわせて考える必要があります。「誰もが歩ける」ではなく「歩けない人も取り残さない」という視点が欠かせません。

暮らしの中でできること|私たちの関わり方

ウォーカブルなまちづくりは行政だけの仕事ではありません。住む人の使い方が、実際の成果を左右します。

まず、自分の生活圏を歩いて点検する

徒歩10分圏内に、日用品の買い物先、公園、バス停があるかを確認してみてください。歩いていて不安になる場所(暗い道、歩道が途切れる交差点)に気づいたら、自治体の窓口に伝えることが改善の第一歩になります。

近所の「使われ方」に参加する

ほこみち指定道路やまちなかのマルシェに足を運ぶこと自体が、空間が「使われている」実績になります。自治体の都市計画やまちづくりのパブリックコメント、住民説明会に参加するのも有効です。

移動の一部だけ、歩きや自転車、公共交通に置き換える

車を手放す必要はありません。週に1回、近場の買い物を徒歩にするといった小さな置き換えから始められます。続けやすい頻度を選ぶことが大切です。

まとめ

ウォーカブルシティは、健康づくりから始まり、いまは環境、中心市街地のにぎわい、コミュニティの維持まで目的を広げてきた考え方です。海外ではポートランドの高速道路撤去、テンピの車を持たない集合住宅、ポンテベドラの旧市街の歩行者空間化が、日本では富山市の都市構造の転換と、ほこみち制度の広がりが代表的な事例です。

ここで見えてくるのは、歩行者空間だけを整えてもまちは変わりにくく、公共交通、住まいの配置、道路の使い方を一体で組み替えることが成果につながる、という点です。同時に、車を悪者にするのではなく、用途や場所で使い分ける発想が、実際の事例では採られています。

私たちにできることは、大きくありません。まず、自分の暮らすまちを歩いて点検し、気づいたことを自治体に伝え、近所の歩行者空間を実際に使ってみることです。まず1つだけ、今週は近所の買い物を歩いて試してみてください。

  • ウォーカブルシティは健康・環境・にぎわい・コミュニティ維持の複数の目的を持つ
  • 海外事例の共通点は、住まい・店・公共交通を歩ける範囲にまとめ直していること
  • 日本では富山市の都市構造の転換と、ほこみち制度(2026年3月時点で201路線)が代表例
  • 車を排除するのではなく、時間・場所・速度で使い分ける設計が現実的
  • 歩いて点検し、声を届け、近所の歩行者空間を使うことが身近な関わり方

参考文献

  • 記事を書いたライター
  • ライターの新着記事

ICU卒業後、出版社にて女性誌の編集・ライティングに約10年間従事。その後NPOや財団法人で機関誌の編集・執筆を担当するなかで、社会貢献・慈善活動についての知見を深める。米・ペンシルバニアに滞在経験があり、現地の人々の寄付活動の熱心さに感銘を受ける。得意分野は、SDGs、多様性、フィランソロピー。

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