ICT教育とは、情報通信技術(ICT)を授業や学校生活に取り入れ、子どもの情報活用能力を育てながら教科の学びも深める教育のことです。日本ではGIGAスクール構想で1人1台の端末が学校に入り、その導入期はほぼ終わりました。いま問われているのは「端末をどう使うか」と「いつ紙に戻すか」です。海外では北欧がデジタル教材を見直し、日本ではデジタル教科書が2030年度から正式な教科書になります。この記事では、ICT教育のメリットとデメリットを整理し、海外と日本の取組みを比べたうえで、保護者や教員が次に確かめたいことをまとめます。
ICT教育とGIGAスクール構想の現在地
ICT教育の土台になっているのが、文部科学省のGIGAスクール構想です。全国の小中学校に1人1台の端末と高速の通信環境を整え、一人ひとりに合った学びを実現しようとする取組みで、2020年度から急速に進みました。導入期の課題は「端末が足りるか」でしたが、いまは「端末をどう教育に生かすか」へ移っています。
1人1台は「特別なこと」から「日常」へ
北海道新聞の2025年11月の報道では、小中学校で1人1台端末が定着し、健康観察のための入力や宿題の提出にも使われていると紹介されています。高校では生成AIを学習の効率化に使う例も出ています。文部科学省は毎年「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」を行い、端末の台数、通信環境、教員のICT活用指導力を確認しています。令和6年度調査の基準日は2025年3月1日です。
ここで注意したいのは、端末が配られたことと、授業が変わったことは別だという点です。端末が机に載っていても、ノートの代わりに文字を打つだけなら、学びの質はあまり変わりません。ICT教育の成果は、台数よりも「何のために使うか」で決まります。
第2期の端末更新は都道府県単位で進む
最初に配った端末は、故障の増加やバッテリーの寿命が近づいています。文部科学省は令和5年度補正予算で、約5年かけて端末を計画的に更新する方針を示しました。第2期(いわゆるNEXT GIGA)では、都道府県が音頭を取る共同調達が中心になっています。東京都教育委員会は令和7年度の共同調達に向けた手続きを進めました。
保護者にとっては、更新のタイミングで端末の機種や持ち帰りのルールが変わる可能性があります。更新時期は自治体ごとに異なるため、通っている学校や教育委員会の案内を確認するのが確実です。
日本の成績とICT活用をどう読むか
2018年のPISAでは、日本の生徒は学校の授業でデジタル機器を使う時間がOECD加盟国の中で短いとされていました。一方で2026年9月に公表されたPISA2025について、文部科学大臣は9月11日の記者会見で、日本が読解力・数学・科学の3分野すべてでOECD加盟国の1位になったと説明しました。大臣は同時に、読解力の平均点が下がり低得点層が増えたことを課題に挙げています。
この結果は「ICT教育が成績を押し上げた」とも「下げた」とも言い切れません。学習指導要領の改訂や授業改善など、多くの要因が重なっているためです。端末の導入そのものを成果とみなさず、読む力や考える力にどうつながったかを見る姿勢が欠かせません。
ICT教育のメリット|分かりやすさだけではない
ICT教育の利点は「映像で分かりやすくなる」だけではありません。教える側の負担、学ぶ側の個別対応、そして将来必要になる力の3方向から整理できます。
理解を助け、一人ひとりに合わせやすい
図形の動きや理科の実験、外国語の発音など、言葉だけでは伝わりにくい内容は、映像や操作できる教材で共有しやすくなります。何度でも見返せるため、理解に時間がかかる子どもが自分のペースで戻れます。読み上げや文字の拡大といった機能は、読み書きに困難のある子どもの学びも支えます。
教員の準備と校務を軽くできる
算数の授業で全員分の教具をそろえるのは、物理的にも予算的にも難しいことがあります。デジタル教材なら全員に同じ道具を持たせられます。一度作った教材は他の教員と共有でき、出欠の入力や健康観察、宿題の回収をまとめて行えば校務の時間も減らせます。浮いた時間を子どもと向き合う時間に回せるかが、実際の効果を左右します。
情報を集めて伝える力が育つ
調べた内容をスライドにまとめて発表する、動画を作る、プログラミングで試行錯誤する。こうした活動は、情報を集めて整理し、相手に伝える力を伸ばします。生成AIが身近になった今は、出てきた答えを疑い、確かめる力も同じくらい大切です。
ICT教育のデメリットと誤解されやすい点
メリットの裏には、費用、人材、学び方の3つの課題があります。あわせて、ICT教育への思い込みも整理しておきます。
費用は導入後も続く
端末の購入だけでなく、充電設備、無線LAN、ICT支援員の配置、そして5年ごとの更新費用がかかります。導入時の金額に目が行きがちですが、更新と維持を続けられる仕組みがなければ、自治体間の差は再び広がります。
教員の育成が追いつかない
端末を渡すだけで学びが深まるわけではありません。授業のねらいと結びつけて使える教員が必要です。教員は授業準備や保護者対応に追われており、研修の時間を確保しにくいのが現実です。ICT支援員のように、授業中に困ったことをすぐ聞ける人がいる学校ほど、活用が進みやすくなります。
書く・読む経験と健康への目配り
タブレットでまとめる授業が増えると、手書きで漢字や文章を書く機会が減るのではないかという不安が現場から出ています。画面を見る時間が長くなることへの心配もあります。デジタルか紙かの二択ではなく、場面に応じて使い分けられているかを見る必要があります。
誤解されやすい3つの点
「ICT教育は端末を使うこと」という理解は不十分です。目的は、情報活用能力の育成と教科の目標の達成にあります。「使えば成績が上がる」とも限らず、使い方次第で効果は変わります。「紙は古く、デジタルは新しい」という単純な図式も当てはまりません。海外の見直しの動きを見ると、その点がよく分かります。
海外の動き|北欧は「脱デジタル」ではなく使いどころの見直し
かつて「デジタル教育の先進国」とされた北欧では、デジタル教材を見直す動きが出ています。ただし、国ごとに見直す対象が違います。
スウェーデンは教材の紙回帰
ジェトロの2025年5月の報告によると、スウェーデン政府は2022年12月、教育庁が提案した2023〜2027年のデジタル戦略を採択せず、見直しを表明しました。2023年以降は、紙の教科書の確保や学校図書館の拡充を相次いで打ち出しています。背景にはPISA2022で読解力と数学的リテラシーが2018年から大きく下がったことがあり、政府は基礎的なスキルは紙を使ったアナログ活動で最も身につくという科学的証拠と経験を根拠に挙げています。教育庁の担当者は、デジタル教材の利用時間とテスト結果は、ある時間まで上がり、それを超えると下がる関係にあると説明しています。
フィンランドは授業中のスマートフォン規制
フィンランドでは2025年8月1日から、授業中のスマートフォン使用を制限する改正法が施行されました。現地の報道では、休み時間や食事の時間は自治体の判断に任されており、オウル市は休み時間にも規制を広げると報じられています。
読み比べて分かること
スウェーデンは「何を教材にするか」、フィンランドは「個人の端末をいつ使わせるか」の見直しです。どちらも、学習用の端末や ICT 教育そのものを否定してはいません。見直されているのは、低学年や読解の基礎づくりに画面が向くのか、授業の集中を妨げる使い方が何かという「使いどころ」です。日本が学べるのは、導入の速さよりも、学年や目的に応じた線引きをする姿勢だと言えます。
日本の自治体の実践|端末の配り方に見る違い
日本では、国の整備を待たずに先行した自治体と、更新計画を進める自治体が並んでいます。複数の例から、配備の進め方と運用の工夫が見えてきます。
大阪府箕面市は段階的に1人1台へ
箕面市は2017年に、全市立小学校の4〜6年生(2018年度見込みで4,258人)にキーボード付きタブレットを約6,000台分配備する補正予算(約6億5,500万円)を12月議会に提案しました。目的は授業の効率化と思考力・判断力・表現力の育成で、教職員にも1人1台を配備して教材準備や成績処理を効率化するとしていました。さらに2020年3月には、小学校1〜3年生4,594台と中学校1〜3年生3,651台、合計8,245台の配備を発表し、全市立小中学校の1人1台を進めています。
茨城県つくば市は情報モラルと教員研修を重ねる
つくば市教育委員会の2024年の資料には、生成AIの普及を見据え、各校のICT教育推進委員向けの研修や、保護者・児童生徒向けのリーフレット作成を行うとあります。仕組みを知り、長所と短所を整理し、使い方を考えるという段階的な学習単元も示されています。端末を配った後に、使い方の教育を並行して進める例です。
東京都は共同調達で更新を進める
東京都教育委員会は、令和7年度の端末共同調達に向けた手続きを進めました。市区町村が個別に調達するのではなく、都道府県単位でまとめることで、機種や価格の差を抑える狙いがあります。更新を負担ではなく、全体で運用を見直す機会にできるかが問われます。
デジタル教科書が正式な教科書になる
2026年6月10日、デジタル教科書を正式な教科書として位置づける学校教育法等の改正法が成立しました。文部科学省は、紙の内容をそのまま画面に映すものとは別物で、デジタルの特性を生かした新しい教科書だと説明しています。
紙・デジタル・併用の3形態から選ぶ
教科書は「紙のみ」「デジタルのみ」「紙とデジタルの併用(ハイブリッド)」の3形態になり、教育委員会や学校の校長が選びます。いまは紙面の二次元コード先の動画や音声は「教材」の扱いで検定の対象外ですが、改正後は教科書の内容として検定の対象になります。報道によれば、正式な教科書としての使用開始は2030年度の見通しです。
大臣指針の素案は「紙中心」
共同通信の2026年10月19日の報道では、文部科学省がまとめた大臣指針の素案は、ハイブリッドを基本に紙を中心とし、デジタル部分は補完的な位置づけとしています。完全デジタルは小学4年生以下では認めず、小学5年生以上でも英語や音楽・美術などの実技系教科に限る内容です。導入後は学習や健康への影響を検証し、必要に応じて見直す方針も盛り込まれています。素案は10月22日の有識者会議で示される予定とされており、確定した内容は文部科学省の発表で確認してください。
北欧の動きと重なる部分
この素案は、低学年ほど紙を重視する北欧の議論と重なります。デジタルを広げる一方で、学年に応じた制限や検証を組み込む。日本は海外の見直しを見ながら制度を設計している段階だと読み取れます。
保護者と教員が次に確かめたいこと
制度が動く中で、日々の判断は学校と家庭に残ります。二学期の個別面談や学級懇談会の機会に、次の点を確かめてみてください。
学校に聞いてみたい4つの質問
- 端末を授業のどの場面で使い、どの場面で紙を使っていますか- 手書きの練習や読書の時間は、どのように確保していますか
- 端末の持ち帰りや使用時間のルールはどうなっていますか- 端末の更新時期と、更新後の運用の方針はどうなりますか
家庭でできる小さな工夫
画面を見る時間を一律に制限するより、目的を決めて使う習慣のほうが続きやすいものです。調べ物の後に、見つけた内容を自分の言葉で紙に書き出す。この一手間で、情報を受け取るだけの使い方から、考える使い方に変わります。端末のルールは、子どもと一緒に決めると守られやすくなります。
教員・学校関係者が見直したい視点
「使った回数」ではなく「ねらいに合っていたか」で授業を振り返る。紙と端末を併用する場面を意図的に設計する。こうした見直しは、特別な予算がなくても今日から始められます。
まとめ
ICT教育とは、ICTを使って情報活用能力を育て、教科の学びを深める教育です。日本では端末が行き渡り、課題は「どう使うか」へ移りました。メリットは、理解の助け、個別対応、教員の負担軽減、情報活用能力の育成です。デメリットは、更新まで続く費用、教員の育成、書く力や読む力とのバランス、画面を見る時間への配慮です。
海外では、スウェーデンが紙の教材を見直し、フィンランドが授業中のスマートフォンを規制しました。どちらも、デジタルを否定したのではなく、使いどころを問い直した動きです。日本でも2030年度のデジタル教科書の導入に向けて、紙を中心にした併用と、学年に応じた制限が検討されています。
制度が変わっても、日々の判断は学校と家庭の対話に支えられます。まず1つだけ、お子さんが学校で端末をどんな場面で使っているかを聞いてみてください。
- ICT教育の目的は端末を使うことではなく、情報活用能力と教科の目標の達成にある
- 端末の導入期は終わり、更新費用と教員の育成を含む運用の段階に入っている
- 北欧の見直しは、デジタルの否定ではなく学年や目的に応じた使いどころの調整
- デジタル教科書は2030年度から正式な教科書になり、素案は紙中心の併用を基本としている
- 学校との対話では、紙と端末の使い分けや持ち帰りのルールを確かめるとよい
参考文献
- 文部科学省「令和6年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」(2025年)
- 文部科学省「GIGAスクール構想の端末更新に関する資料」(2024年)
- 文部科学省「大臣会見(2026年9月11日)」(2026年)
- 文部科学省「学校教育法等の一部を改正する法律(デジタル教科書の位置づけ)」(2026年)
- 熊本日日新聞(共同通信配信)「「紙・デジタル併用」基本の素案 デジタル教科書、構成は紙中心」(2026年)
- ジェトロ「教育現場のデジタル化(1)」(2025年)
- Yle「スマートフォン規制に関する報道」(2025年)
- 箕面市「全市立小学校4〜6年生の児童にタブレットを1人1台配備へ(報道資料)」(2017年)
- 箕面市「報道資料(全市立小中学校の1人1台配備)」(2020年)
- 北海道新聞「ICT活用、教育現場で進む 小中学校「1人1台端末」定着」(2025年)

