2030年までに、世界中に存在するあらゆる貧困をなくすことを目指し、国際社会・各国政府・企業など多方面で取り組みが進められていることをご存知でしょうか。
「自分は貧困とは無縁だから関係ない」と考えてしまうのは、非常にもったいないことです。貧困は、世界全体の安定や持続可能性に深く関わっており、誰もが当事者たり得る課題です。
本稿では、実際に企業が取り組んでいる具体例を紹介しながら、私たち一人ひとりが何をできるのかを考えてみましょう。
SDGs目標1「貧困を無くそう」とは?
2015年、国連サミットにおいて採択されたSDGs(持続可能な開発目標)は、2030年までに「誰一人取り残さない」世界を実現するために掲げられた17の国際目標です。その最初の目標が「貧困をなくそう」です。
この目標では、以下の2つの貧困の解消が掲げられています。
絶対的貧困:世界銀行の定義によると、1日1.9米ドル未満で生活している状態を指します。現在、世界には約8億人がこの極度の貧困状態にあり、その約半数は子どもたちです。貧困の連鎖が世代を超えて続いています。
相対的貧困:一国の生活水準に比して、著しく低い所得で生活している状態を指します。日本では、6人に1人がこの相対的貧困層に該当するとされており、特に高齢者、女性、障がい者、子どもなどの社会的弱者に集中しています。国内でも格差の拡大が進行しています。
これらは決して無視できない社会課題であり、国際社会だけでなく日本国内でも、あらゆる貧困を解消するための取り組みが求められています。
貧困を無くすため世界や国内にむけて企業が行う取り組み
貧困問題に対しては、国や自治体だけでなく、多くの企業も主体的に関与しています。自社の強みや資源を活かし、社会課題の解決を目指すCSR(企業の社会的責任)やCSV(共有価値の創造)といった観点から、さまざまな施策が展開されています。具体的な企業の事例をご紹介していきます。
三井不動産グループ|衣料品の寄贈による支援
三井不動産グループは、NPO法人「救援衣料センター」を通じて、世界中の難民や被災者に衣料品を届ける活動を2008年から継続しています。
衣料品の回収は、同社グループが運営する全国24か所の商業施設で実施されており、まだ使用可能な衣類を一般消費者から収集する仕組みです。不要になった衣服が、新たな価値を持って困難な環境にある人々に届けられるこの取り組みは、一般市民が気軽に参加できる点でも注目されています。
ヒルトンホテル|使用済み石鹸のリサイクル
ヒルトンホテルは、NPO法人「Clean the World」と協力し、ホテルの宿泊客が使用し残した石鹸を再加工し、開発途上国や難民キャンプに届ける活動を行っています。
世界には、手洗いなどの衛生環境が整っていないことが原因で命を落とす人々が数多く存在します。ヒルトンの取り組みは、廃棄されるはずだった資源を活用しながら、命を救う衛生支援にもつながっており、環境面・社会面の両面から評価されています。
一般社団法人こども宅食応援団|家庭に届く支援のかたち
「こども宅食応援団」は、東京都内を皮切りに、全国に展開している子ども支援団体です。行政の制度や地域の子ども食堂などの支援が届かない家庭を対象に、食料品や学用品を定期的に自宅に配送する仕組みを整えています。
スマートフォンひとつで申請ができ、LINEなどで気軽に相談できる体制も整備されており、支援を受けにくかった家庭にも配慮された設計となっています。
日本航空(JAL)|給食支援と機内募金
JALは、NPO法人「TABLE FOR TWO International(TFT)」と連携し、社員食堂の特定メニューの購入によって1品あたり20円を寄付する仕組みを導入しています。この寄付は、開発途上国の子どもたちの学校給食支援に活用されており、20円で1食分の給食が提供されます。
また、1991年からは機内募金の取り組みを実施。使い残した外国通貨をユニセフへの募金として受け付けており、JALはそれを無償で輸送することで、航空会社の特性を生かした社会貢献を行っています。
株式会社ジモティー|ひとり親家庭への支援
地域の不要品掲示板サイトを運営するジモティーは、企業と連携して支援物資をサイトに掲載し、主にひとり親家庭を優先対象とした受け渡し会を実施しています。
生活必需品を定価で購入することが困難な世帯に対して、必要な物資を届ける仕組みを地域のインフラとして提供するこの取り組みは、生活支援と地域資源の有効活用を両立する先進的な事例です。
株式会社オハナ不動産|住宅ローン困難者の支援
オハナ不動産は、病気や事故、経済的困窮、離婚などの理由で住宅ローンの返済が難しくなった人々に対し、「任意売却」という手法を用いた支援を行っています。
通常、ローン返済が滞ると物件は競売にかけられ、市場価格より大幅に安く売却されることが多く、残債が重くのしかかる場合があります。しかし、任意売却を利用することで、市場価格に近い価格で物件を売却し、債務を減らすことが可能になります。この仕組みは、さらなる貧困に陥ることを未然に防ぐ効果があり、個人の人生再建を支える重要な支援の一つです。
UCC上島珈琲株式会社|エチオピアでの持続可能な支援
エチオピアでは、生活の糧を得るために森林伐採が進み、環境破壊が深刻な問題となっています。UCCは、自然林で自生する希少価値の高いコーヒー豆に着目し、地元生産者に対して品質向上のための技術指導を行うことで、貧困解消と環境保護の両立を目指しています。
この取り組みによって、農民はコーヒー豆により高い付加価値をつけることが可能になり、持続可能な収入源を確保できるようになります。ルワンダやブラジルなど、他の地域でも同様のプロジェクトを展開しています。
Relight株式会社|見えにくいホームレスへの支援
東京都内には、住所も仕事もなく、制度から取り残されがちな「見えないホームレス」と呼ばれる人々が約4000人いるとされています。Relightは、彼らに対し、身分証や携帯電話がないと就労が困難である実情を踏まえ、住み込み可能な就労機会を提供しています。
就労後も継続的な支援を行うことで、孤立状態からの脱出を促し、生活の再建を後押ししています。
ピープルポート株式会社|難民への雇用と教育支援
ピープルポートは、難民や在留資格を持つ外国人を対象に、電子機器のリユース・リサイクル業務への就労機会を提供しています。日本語が話せなくてもすぐに働ける環境を整え、就労後には無料の日本語教室も開講。
働きながら日本語を学ぶことができ、日本社会への定着をサポートしています。単なる雇用ではなく、自立への道を築くこの取り組みは、外国籍住民の社会統合と貧困脱出に大きく寄与しています。
まとめ
SDGsの目標1「貧困をなくそう」に向けた企業の具体的な取り組みを見てきました。紹介したのは一部の例に過ぎませんが、大企業だけでなく中小企業やNPOも含め、さまざまな立場から多様なアプローチが行われていることがわかります。
貧困の解決には、目の前の困難を緩和する直接支援と、持続可能な自立を促す教育や雇用支援の両面が必要です。企業の取り組みは、そうしたバランスを意識したものが多く、私たち一人ひとりにも多くの気づきを与えてくれます。
そして、これらの事例から見えてくるのは、「自分にもできることがあるかもしれない」という可能性です。SDGsの最初に掲げられた「貧困をなくそう」という目標は、まさに「誰一人取り残さない」世界を実現するための出発点です。
私たち一人ひとりがこの問題を自分ごととして捉え、関心を持つことから、未来は変わっていきます。あなたもぜひ、今できる小さなアクションから始めてみませんか?