近年、何かと話題になる「転売」。
コロナ禍で不足したマスクや消毒液などの生活用品をはじめ、ゲーム機やアイドルのグッズが不要に買い占められ、高値で転売される様子に憤りを感じたことのある方も多いのではないでしょうか。
こうした状況に対し、SNSなどでは「なぜ受注生産にしないのか?」という意見が多数寄せられ、実際にアイドルグッズの転売対策としてジャニーズ事務所が受注生産の措置をとった事例も。
しかし、なかなか思うように受注生産が浸透しない現状もあります。
今回は、改めて受注生産とはどんな生産モデルなのか、そして導入するためのメリット・デメリットなどを詳しくご紹介します。
実はSDGsとの関連も深い受注生産。その実態について理解を深めましょう。
受注生産とは?
受注生産とは、受注した分だけを生産する形態のことです。
オーダーに応じて都度生産するので、在庫を持つことなくミニマムな生産量で対応が可能になります。
さらに、受注生産には「個別受注生産」と「繰返受注生産」の2つの種類が存在します。
前者は、自動車や船など注文ごとに仕様が異なる場合、後者は日用品などのロングセラー商品など、基本的に仕様が変わらないものを生産する際に適用されます。
対して、現在日本で主流なのは「見込み生産」です。
市場の需要を参考に生産・販売計画を立て、一定の在庫を持つことを前提に製造します。
また、受注生産と見込み生産のそれぞれのメリット・デメリットを踏まえ、両者を組み合わせて生産を行っているケースもあります。
受注生産のメリット・デメリット
従来の見込み生産に対して、受注生産がなかなか浸透しない背景には何があるのでしょうか。
受注生産の主なメリット・デメリットを2つずつご紹介します。
メリット①:在庫を削減できる
受注生産の最も大きな特徴は、在庫をゼロまたは最小限に抑えて生産できる点にあります。
生産者にとって、在庫は管理するための場所代や人件費など、さまざまな経費がかかります。
受注生産を導入すれば、需要予測が外れてしまい売れ残りが大量に発生することがなくなるため、余計な経費を発生させずに経営の安定化が図れます。
メリット②:仕様のカスタマイズができる
受注生産はユーザーのニーズに応じたカスタマイズができるので、満足度の高い製品を届けることができます。
また、受注を受けてから生産を開始するため、見込み生産よりもスケジュールに余裕をもって納期を設定することができます。
一つ一つ丁寧に生産することで品質が向上し、結果として顧客満足度が高まります。
デメリット①:生産に時間がかかる
見込み生産のように、汎用的な大量生産ができないため、受注から納品までに時間を要します。
受け取りを急いでいる消費者や、大量に製品を必要としている消費者への販売チャンスを逃してしまう可能性がある点はデメリットと言えるでしょう。
また、突発的な需要の高まりには対応しづらいため、ブームに乗って売り上げを大きく伸ばすといったことも難しくなります。
デメリット②:事前に完成品を確認することができない
消費者視点でのデメリットとして大きいのは、発注前に完成品を確認しづらいことです。
受注生産では、受注があって初めて生産を開始するため、特に個別カスタマイズがある場合は、完成品を事前に見ることはできません。
仮に生産を開始してから仕様の変更を行う場合は、追加費用が高額になったり、スケジュールが遅れたりする可能性があります。
ある程度リスクを負った上で発注の決断が必要になる点は留意する必要があります。
受注生産とSDGsの関わり
受注生産は、単に生産者のコスト低減や消費者の満足度向上に留まらず、SDGsの観点でもメリットがあります。
受注生産がよりメジャーになれば、持続可能な生産・消費活動を実現することができるのです。
特に関連が強い項目として挙げられるのが、SDGs12「つくる責任 つかう責任」。
適切な生産・消費活動を行うことで、地球の限られた資源を守ることを目指した目標です。
ここまでご紹介してきたように、受注生産は受注をもとに生産量が決まるため、必要な分だけの原材料やエネルギーを使って生産を行うことができます。
また、在庫を持たないことにより、売れ残り品の廃棄も発生しません。
「使う分だけ生産し、可能な限りゴミを排出しない」というのは、持続可能な生産・消費活動の理想の在り方であり、企業にも消費者にも必要な心がけです。
今後受注生産がより普及すれば、SDGs12の達成に一歩近づけるのではないでしょうか。
生活に身近な受注生産の事例
近年、受注生産を積極的に推進する企業が徐々に増えており、生活に身近なサービスにも導入されている事例があります。
特にその傾向が見られるのは、大量生産・大量消費が問題視されているファッション業界や飲食業界です。
受注生産は企業にとって、決して良いことばかりではありません。
実際の事例からは、販売チャンスを逃し、売上が下がってしまうリスクを持ちながらも、持続可能な生産・消費活動に貢献しようとする企業姿勢が垣間見えます。
事例①:株式会社ZOZO
大量生産・大量消費の傾向が著しいファッション業界。
環境省が実施した調査によると、国内におけるアパレルの供給数は増加する一方で、衣服1枚あたりの価格は年々安くなっており、市場規模は縮小しています。
衣服のライフサイクルが短期化され、大量廃棄につながっているのです。
そこで、ファッションEC「ZOZO TOWN」を展開する株式会社ZOZOは、ファッションブランドの在庫リスクゼロを目指す、生産支援プラットフォーム「Made by ZOZO(メイドバイゾゾ)」による受注販売を開始し、順次人気ブランドの提携を進めています。
ZOZO TOWNが培ってきたデータやノウハウを活かした独自システムの開発やアパレルブランドへの商品企画などを通じて、アパレル生産の課題解決を図っています。
参照元:
・SUSTAINABLE FASHION これからのファッションを持続可能に|環境省HP
・ファッションブランドの在庫リスクゼロを目指す 生産支援プラットフォーム 「Made by ZOZO」による受注販売を9月1日開始|株式会社ZOZO HP
事例②:株式会社ファミリーマート
いつ足を運んでも商品が豊富に陳列されているコンビニは、消費者のニーズを掴んだ圧倒的な品揃えが魅力です。
しかし、一方で商品の在庫切れを起こさないための大量生産や、売れ残り商品の大量廃棄が問題になっています。
ファミリーマートでは、こうした状況を改善するべく「ファミマecoビジョン2050」を掲げ、食品ロス削減に向けた取り組みを積極的に推進しています。
例えば「土用の丑の日」のうなぎ関連商品や、クリスマスのケーキやオードブルについて、スマートフォンアプリ「ファミペイ」でのWEB予約を用いた完全受注生産を開始。
実際に、食品ロスが約80%削減されたという実績を残しており、受注生産のメリットを最大限に活かした好事例です。
参照元:
・「食品ロス削減」に向けて、季節商品の完全予約制2年目へ 2020年土用の丑の日(うなぎ関連商品)の販売結果について~実施前と比較して食品ロスは約80%減少~|株式会社ファミリーマート HP
・ファミマ、今年のXmasは「完全予約」でフードロス対策に本腰 香取慎吾さん手掛ける数量限定商品も販売|ITメディアビジネスONLINE
受注生産の浸透は、私たち消費者の選択も鍵!
今回は、SDGsにも大きく貢献する受注生産をテーマにメリット・デメリット、企業の事例などをご紹介しました。
受注生産にはさまざまなメリットがあるものの、やはり短期間で効率的に生産をしようとなると、全てを受注生産に切り替えることはなかなか厳しいのが現状です。
本記事でご紹介した企業の取り組みは、社会へのインパクトが非常に大きいものです。
しかし、いくら企業が取り組んだとしても消費者自身が受注生産による購買を選択しないことには、受注生産の普及は進まないことでしょう。
まずは生活に身近なサービスや製品から、受注生産による購入体験をしてみませんか?
消費者の行動変化が、日本の今後の生産活動を大きく変えるかもしれません。