ファッション産業は、製造にかかるエネルギー使用量やファッションの短サイクル化などによって、環境負荷がとても大きい産業と言われています。
そして、この影響は環境負荷だけに止まらず、人権や労働問題など幅広い分野にまで広がっているのです。
最近では、この現状に危機感を持つ人が増えたことにより、スローファッションが注目され始めました。
本記事ではスローファッションの、注目されている理由から取り入れる際のポイントまでまとめています。
まずはスローファッションが、どのようなものかを見ていきましょう。
スローファッションとは?
スローファッションとは、「自分にとって本当に必要なファッションアイテムだけを選び、長く大切に着る」ことを意味する言葉です。
そして、スローファッションには人や動物・環境への配慮も含まれています。
例えば、オーガニックコットンやリネンなどの自然素材で作られた衣服を選ぶと、環境負荷の軽減につながります。
さらに、丁寧に手入れを行い大切に扱うと長く着られるでしょう。
廃棄量も減り、処分する際に発生していた二酸化炭素の削減にも貢献します。
そのほかにもスローファッションは、ファストファッションの生産で問題視されている低賃金での長時間労働にも配慮。
労働環境を整え労働に見合った賃金を支払うことで、労働者の生活や人権を守っています。
このようにスローファッションは、私たち消費者がものを長く大切に扱うことで、地球上で起きている多様な問題を解決へと導く手段となっているのです。
それでは、スローファッションがどのようなものか理解したところで、次はなぜ注目されるようになったのか理由を見ていきましょう。
スローファッションが注目される理由
近年ファストファッションの影響もあり、「大量に生産された服を、大量に購入する」ことが当たり前となっています。
しかし大量生産・大量消費を行うことによって、新たに大量廃棄の問題も発生しました。
現在、この3つの問題は人や環境・労働など、さまざまな分野に影響を及ぼしています。
社会が抱えている問題とスローファッションが、どのように関係しているのか1つずつ確認していきましょう。
環境問題
服を作り消費者の手元に届くまでに、「原材料の調達」「生地や衣服の製造」「輸送や販売」などのステップを踏みますが、それぞれのステップで環境に負荷をかけています。
環境省によると、服の生産から店頭に届くまでかかる環境負荷は下記の通りです。
参照元:サステナブルファッション|環境省
さらに、消費者が購入した後も短期間で消費し廃棄するサイクルができていると、廃棄処分するために多くの化石燃料が使用され二酸化炭素が排出されます。(※焼却処分ではなく、埋め立てる場合もあります)
二酸化炭素は地球温暖化の原因の1つとも言われており、削減しなければならないものです。
ファッションアイテムは、調達から廃棄までの間にさまざまな環境負荷がかかります。
これらを改善するためには、大量生産・大量消費・大量廃棄の流れを変えることが必要です。
そのため本当に必要なものだけを購入し、一着一着を長く大切に着るスローファッションが注目されはじめました。
労働・人権問題
ファッション業界に衝撃を与えるほどの悲惨な事故が2013年に発生しました。
バングラディシュで起きた「ラナ・プラザ崩壊事故」です。
当時、違法に建て増しされたビルの中には5つの裁縫工場が入っており、工場内では1日1ドルという低賃金で長時間働かされている人が大勢いました。
違法に建て増しされたビルは壁にひびも入っていたため、危険と判断した地元警察は退避するよう伝えますが、経営者側はそれを無視。
その結果ビルは崩壊し、1,000人以上の人が犠牲になりました。
低賃金なうえに、身の安全も確保されていない労働環境で長時間働かせる。
労働者の人権を無視したこのような行為は、本来あってはならないことです。
このような悲惨な事故を繰り返さないためにも、労働者の人権に配慮した環境での生産が重要視されるようになりました。
参照元:
・大量廃棄社会|仲村和代・藤田さつき著
・ファストファッションの死とスローファッションの誕生|楓セビル
コロナ禍の影響も
スローファッションが注目されるようになった理由としてコロナ禍も関係しています。
日本FP協会が行った「くらしとお金に関する意識調査2020」によると、コロナ禍以降の衣服・美容費に使用するお金は21.2%減少。
さらに、衣服の選び方に関しては品質を重視する人が増えています。
外出する機会も減ったため人目を気にするのではなく、自分が好きなものや身に着けていて心地良いものを選ぶことに重きを置くようになりました。
この選択の変化が、スローファッションへとつながっているのでしょう。
スローファッションを取り入れるメリットとは?
スローファッションを取り入れることで、私たちにどのようなメリットがあるのでしょうか。
人や環境に優しい
スローファッションは、環境に優しい自然素材を使用します。
原材料を栽培する際に農薬や化学肥料・殺虫剤の使用を極力控えているため、土壌汚染や水質汚染を軽減できると考えられています。
特にオーガニックコットンなどは、農薬などを使用せずに育てており、人や自然環境に優しい素材です。
また製造過程でも環境負荷を考えた方法を採用しています。
例えば製造工程の見直しや、原材料に石油を使用している化学繊維ではなく、植物由来の繊維やリサイクル繊維を活用するなどです。
参照元:未来をつくるファッション|環境省
頻繁に服を購入しなくなるため経済的
スローファッションは、「本当に自分に似合っているのか」や「本当に必要なのか」を考えて購入します。
「流行っているから」や「安いから」という理由で、衝動的に購入する機会が減り、必要以上に手持ちのアイテムが増えることを防げるのです。
そして、スローファッションに分類されるアイテムは値段が通常より高い分、素材や作りがしっかりしています。
そのため、手入れをしながら大事に扱うことで長期間楽しめます。
購入時は値段を確認して「高いな」と思うかもしれません。
しかし、長い目で見ると経済的と言えるでしょう。
自分に似合うものだけを毎日身に着けられる
スローファッションは流行にとらわれず、「似合うか似合わないか」に重きを置いているため、クローゼットから何を選んでも自分を素敵に見せてくれます。
さらに、毎日似合うものを身に付けることで自信にもつながるでしょう。
選び抜いたファッションアイテムだけを手元に置くと、幸福感も味わえて気持ちよく暮らせます。
毎日の洋服選びもスムーズになり、「着たいものが見つからない」といったストレスからも解放されるでしょう。
環境や人など現代が抱える問題だけではなく、取り入れた自身にも多くのメリットがあるスローファッション。
このメリットを最大限に受けるためには、ファッションアイテムを選ぶ際にいくつかのポイントがあります。
スローファッションアイテムを選ぶ時のポイント
ここからは、スローファッションアイテムを取り入れる時のポイントを紹介します。
量ではなく質に注目する
「自分にとって本当に必要なファッションアイテムだけを選び、長く大切に着る」ことが、スローファッションでは重要とされています。
そのためファッションアイテムは、量ではなく質に注目して選びましょう。
大量生産ではなく、「自然素材を使用している」や「人の手によって一着ずつ丁寧に作られている」製品です。
手間をかけて作られた製品は相応の値段がしますが、ファストファッションよりも丈夫にできているため長く楽しめます。
定期的に手入れを行うと、楽しめる期間も長くなります。
さらに環境省の調べによると、手持ちの服を捨てずに1年長く着ると、日本全体で約4万トンもの廃棄削減につながるそうです。
参照元:サステナブルファッション|環境省
自分に似合うアイテムを購入する
購入する理由を「安さ」や「流行」ではなく、「自分に似合うか」で決めましょう。
流行のものは旬を過ぎると身に着けにくくなり、短期間で捨てられてしまうことも少なくありません。
値段の安い製品も、「安かったからいいや」と捨てることへのハードルを下げてしまう可能性があります。
これにより短期間で廃棄し、また新しい服を買う流れが繰り返されてしまうのです。
その結果、ごみは増え続け、処分するために燃やしすことで大量の二酸化炭素が発生します。
このような事態を防ぐためにも、自分に似合うものを選び長く大切に着ましょう。
着回しができる服を選ぶ
少ない服を長く着る工夫として、購入する際に「着回しができるか」を考えることも大事です。
いくら質が良く自分に似合う服であっても、着回しにくいのであれば着る頻度が落ちてしまいます。
最終的にごみとして処分してしまわないためにも、「手持ちの服と合わせやすいか」を考えて購入しましょう。
まとめ
私たちは技術の発展によって、一定の質を保った製品を安く購入できるようになりました。
しかし安く購入できるようになった反面、長く大切に使うことへの重要性が薄れてしまったことも事実です。
これにより、大量生産・大量消費・大量廃棄による問題が発生しました。
この現状を改善するために注目されたスローファッション。
自分にとって本当に必要なファッションアイテムだけを選び、長く大切に着ることで、環境・人・労働などの問題解決につながると期待されています。
安いアイテムを大量に購入するのではなく、自分に似合う質の良いものだけを手元に置きましょう。
そうすることで、より良い暮らしにつながります。
そして、世界が抱えている問題解決にも貢献できるのです。