企業の持続可能な経営のために必要不可欠なのが「トレーサビリティ」です。
トレーサビリティに取り組むことで事故防止につながるだけではなく、消費者からの社会的信頼も得られるのです。
とはいうものの、「トレーサビリティとは?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
この記事では、トレーサビリティについての意味や種類、メリットを解説するとともに、食品トレーサビリティの課題についてもわかりやすく紹介しています。
ぜひ最後までお読みください。
トレーサビリティとは
トレーサビリティは、簡単に説明すると「商品の履歴書」になります。
「いつ」「どこで」「どのように」生産や管理、輸送や廃棄されたのかが明記されたものです。
つまり、トレーサビリティがあれば、原材料の調達から廃棄まで追跡が可能。
食品だけではなく、自動車や電子部品、医薬品などの業界によって定義は多少異なりますが、さまざまな製造業で活用されています。
チェーントレーサビリティと内部トレーサビリティのちがい
実は、トレーサビリティには大きく分けて2種類あります。
一つ目が「チェーントレーサビリティ」、二つ目が「内部トレーサビリティ」です。
それぞれにどのようなちがいがあるのでしょうか。
以下に二つの特徴をまとめました。
①チェーントレーサビリティ
チェーントレーサビリティとは、複数の工程の間を把握できるものです。
例えば、「原材料の生産」から「加工」の間にどのような移動があったのかを追跡できます。
つまり生産、処理、加工、卸し、小売などの各工程もしくは各メーカーの間を線で結んだものです。
一般的なトレーサビリティは、チェーントレーサビリティに該当するといえるでしょう。
②内部トレーサビリティ
内部トレーサビリティとは、一つの工程もしくは工場の中で商品がどのように移動しているのかを追跡したものです。
その工場の中で、どのようなプロセスがあったのかを明記しています。
つまり、一つの工場内の各工程を線で結んだものが「内部トレーサビリティ」で、チェーントレーサビリティよりも範囲がせまいといえるでしょう。
どうして、トレーサビリティは必要なのか?
ではどうして、トレーサビリティが必要なのでしょうか。
それは商品の生産過程が明確であることは、生産者にとっても消費者にとっても大きなメリットがあるからです。
それぞれの必要性についてくわしくみていきましょう。
①リスクマネジメントの向上
トレーサビリティを明記することは、リスクマネジメントにつながります。
商品の移動をすべて開示するため、現場の意識が高まり、事故の発生率を下げられます。
もし何も記録がない場合は、問題解決に時間がかかり、取引を再開するまでの時間がかかり、余計な人件費や時間がかかってしまいます。
けれども細かく記録しておけば、問題が発生しても原因が特定しやすくなり、早い段階で解決可能です。
トレーサビリティは、リスク管理を強化する最大のお守りといえるでしょう。
②消費者の安心感
目の前にある商品が、どのようなプロセスを経たのかが明確な方が消費者は安心して買い物ができます。
極論ですが、買おうとしている豚肉は国産か外国産か不明だと不安に感じる方も多いのではないでしょうか。
トレーサビリティがあると、生産元や製造元などより明確な情報を消費者も簡単に得られるのです。
商品の情報開示がある方が、顧客満足度も向上するのではないでしょうか。
③社会的信頼
トレーサビリティは社会的信頼の獲得も期待できます。
「どこで、どのような原料を使って、どんな作業を行っているのか」をオープンにすることは、「自社の商品は安心安全です」ということを証明しているからです。
消費者にとっても投資家にとっても、企業の透明性は社会的信頼につながるといえるでしょう。
参照元:トレーサビリティ関係|農林水産省
食品のトレーサビリティの課題
日常生活で一番身近なトレーサビリティは「食品」ではないでしょうか。
けれども、国内における食品のトレーサビリティには、いくつか課題が残っています。
では、どのような課題があるのでしょうか。
①中小企業における食品トレーサビリティ
大手企業は、取引先から求められたりすることで普及が進んでいます。
しかし中小企業における食品トレーサビリティは、平成30年度までの普及率は下降傾向で、あまり普及していないのが現状です。
農林水産省が食品メーカーにおける中小企業にアンケートを実施したところ、内部トレーサビリティに取り組んでいる割合は4割程度であることが明らかになりました。
引用:農林参照
つまり、中小企業へのトレーサビリティを推進することが課題であり、導入を支援することが必要といえるでしょう。
②やっているのに気づいていない
「トレーサビリティは無理だ」と拒否反応を示してしまう場合があることです。
けれども、トレーサビリティは思っている以上に難しいものではありません。
日々記録や保存をしている伝票や日報がトレーサビリティの対応といえるからです。
例えば、以下のものが第一歩といえます。
【生産者】
・出荷時の伝票を保存している
【製造、加工、卸、小売業者】
・入荷時の伝票を保存している
・製造日時など製造工程の記録、保存をしている
・出荷・販売時の伝票を保存している
このように、トレーサビリティに拒否反応を示していながらも「すでにやっていた」と気づく方も多いのではないでしょうか。
まずは、トレーサビリティを始めていることを認識することが大切です。
特別なことであると考えるよりは、日々の小さな対応の積み重ねであるとか受け止めることが大切なのではないでしょうか。
③負担が大きい
とはいえ、通常業務にトレーサビリティの作業が加わると負担が大きくなるのは事実です。
さらに、やろうと思っても「どのように取り組むべきか」「どれくらい保存したらいいのか」が分かりにくいという課題もありました。
そこで農林水産省は少しでも負担を削減するために、食品トレーサビリティについてのガイドラインやリーフレットを作成しました。
1から始める場合でも取り組めるように、トレーサビリティのモデルを作成し、提示しています。
作業が増えてしまいますが、「なぜ必要なのか」を従業員一人ひとりが理解することで、気持ちの負担が軽くなるのではないでしょうか。
参照元
・事故対応、あなたの会社は大丈夫?|農林水産省
・食品事業者における食品トレーサビリティの取組状況についてのアンケート調査結果|農林水産省
これからのトレーサビリティ
今回は、トレーサビリティの意味や種類、導入するメリットなどについて解説しました。
トレーサビリティとは、商品の履歴書です。
原料の調達から生産や販売などの間、「いつ、どこで、どのような工程や移動を経たのか」を追跡できます。
情報をすべて開示することは、生産側にとっては負担が大きいかもしれません。
しかし、すべてをオープンにすることは、自社の安全性を証明していると言い換えられます。
企業の社会的信頼を得られると同時に、消費者にも安心を届けられるのです。
また何か事故が発生した時も、追跡ができることですばやい問題解決が可能です。
自社のリスクを少しでも回避するためにも、トレーサビリティの導入はメリットがあるといえるでしょう。
ペン一本から始められるのがトレーサビリティです。
特に食品に関する企業の場合は、農林水産省のガイドラインを参考にしてみてください。
日々の記録の積み重ねが、持続可能な経営につながります。