新型コロナウイルスの影響によって、自粛要請やお店の時短営業など私たちの生活は大きく変わりました。
世界では外出禁止やロックダウンを行った国もあります。
それにより経済活動は激しい落ち込みを見せていましたが、温室効果ガス等の排出量が減少したという報告も出ています。
しかし排出量の減少は、経済活動が抑えられていることによって成り立っています。
そのため新型コロナウイルスの影響が落ち着くと、もとの状態に戻ってしまう可能性が高いでしょう。
日本を含め世界では、「経済も潤い自然環境の回復にも配慮した世界の実現」を目指す動きが高まっています。
そこで注目されている政策が、グリーンリカバリーです。
本記事ではグリーンリカバリーの内容をはじめ、積極的に取り組んでいる欧州の事例を中心にまとめました。
まずは、グリーンリカバリーについて見ていきましょう。
グリーンリカバリーとは?
グリーンリカバリーは自然や環境を意味する「Green」と、復旧や回復の「Recovery」を合わせた言葉です。
日本では「緑の回復」と呼ばれることもあります。
コロナウイルスが原因で後退した景気への対策として注目されている政策です。
この政策の特徴は、環境に配慮した方法で経済復興を目指す内容となっているところです。
例えば、生物多様性の維持や再生可能エネルギーの研究を資金的に援助することもグリーンリカバリーに当てはまります。
また世界自然保護基金(WWFジャパン)によると、グリーンリカバリーのポイントは下記の通りです。
・地球温暖化対策の国際協定である「パリ協定」の達成に貢献すること
・国連のSDGs(持続可能な開発目標)の達成にも一致した政策を実施すること
このようにグリーンリカバリーは、経済復興を目的とした政策を行いつつ、持続可能な社会も目指す内容となっています。
そしてこの政策は世界中で広がり、とくに欧州ではさまざまな取り組みが行われているのです。
参照元:「グリーンリカバリー」が鍵 コロナ禍からの復興|WWFジャパン
グリーンリカバリーに対する欧州の取り組み事例
現在、欧州では気候変動に対する政治的な優先順位が高くなっています。
2019年には、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会が「欧州グリーンディール」を発表。
気候変動対策を中心に経済や社会など、多様な分野の内容を盛り込んだ政策文書を作成しました。
このように「全員でグリーンリカバリーに取り組もう」という姿勢が見える欧州ですが、それぞれの国はどのような取り組みを行っているのでしょうか。
ここからは、各国の取り組み事例を見ていきましょう。
フランス
フランスは2017年に「気候計画」を策定しました。
この計画には、2050年までに炭素中立(※)実現などが盛り込まれています。
(※)炭素中立:二酸化炭素の排出量と吸収量が同じであること。カーボンニュートラルと同じ意味。
そのほかにも気候市民会議を創設。
くじ引きで選ばれた市民150人が、2030年までに温室効果ガスの40%削減に向けて話し合い、149の案を環境大臣に提出しました。
提出された案は、政府が国民投票または議会で採決、もしくは行政命令とする考えを示しています。
また2022年までに石炭火力全廃、2040年までに内燃機関自動車の販売を禁止する政策も発表しました。
参照元:EUにおけるグリーンリカバリーの動向|電力中央研究所 社会経済研究所
英国
英国は2050年までに温室効果ガスの実質排出ゼロ目標を決定しました。
これにより、2035年までに内燃機関自動車の販売禁止を発表。
さらに英国気候市民議会を創設し、110人の市民が2050年までに温室効果ガスの実質排出ゼロを達成するための方法や政策を議論しました。
参照元:気候危機への取り組みと頃中からの「より良い回復」(グリーンリカバリー)|多摩市循環型エネルギー教会
カナダ
カナダでは雇用を守るための支援策として、「大規模雇用者向け緊急支援ファシリティ(LEEFF)」を設立しました。
そして、この支援を受けるためには、TCFD(※)の提言に沿った気候変動関連の情報や具体策の開示を年次報告書で行うことが必要です。
(※)TCFD:「気候関連財務情報開示タスクフォース」を意味する言葉。G20の要請を受け金融安定理事会により、主に気候関連の情報開示と金融機関の対応を検討するために設立されました。
そのほかにもガス・石油事業が排出する温室効果ガスの排出量を減少させると発表しました。
政府は、ガス・石油事業の温室効果ガス排出量削減のために、約600億円の経済支援を行う予定です。
ここまでは、グリーンリカバリーを推進する欧州の取り組みを見てきました。
次は、私たちが暮らす日本の現状を確認していきましょう。
参照元:
・グリーンリカバリーに向けて|WWFジャパン
・【解説&世界の事例つき】グリーンリカバリーってなに?|国際環境NGOグリーンピース
グリーンリカバリーに関する日本の現状
世界各国がグリーンリカバリーを意識した復興プランを発表するなか、日本はほぼ環境対策が含まれていない「ブラウンリカバリー」の復興プランとなっていました。
また日本以外では、中国、アメリカ、インド、オーストラリアなどの国がブラウンリカバリーの復興プランを発表しています。
しかし、2020年10月に菅元首相が「2050年カーボンニュートラル」を宣言。
日本は「温室効果ガスの排出量を、2050年までに実質ゼロにする」と世界へ発表しました。
ここでの「ゼロ」は、排出量・吸収量・除去量を差し引いてゼロにするという意味です。
さらに日本政府は同じ年の12月に「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を発表。
民間企業の環境投資促進のために2兆円の研究開発基金を創設し、さまざまなことに挑戦する企業の支援を今後10年間行います。
そして、新たなエネルギー資源として水素にも注目。
自動車への使用が主となっていた水素を、産業・運輸・業務・家庭部門での活用を促し社会実装を検討していきます。
欧州と比較すると遅いスタートにはなりましたが、ようやく日本もグリーンリカバリー推進への道を歩み始めました。
このように、日本でも国や企業のグリーンリカバリーに対する体制が整いつつあります。
では、私たち個人には何かできるのでしょうか。
参照元:
・日本の未来を創るグリーンリカバリー【連載第1回】|千葉商科大学
・「アフターコロナのグリーンインフラ」~2050年温室効果ガス実質ゼロへ~|東京大学先端科学技術センター
グリーンリカバリーの取り組みは個人にもできる
グリーンリカバリーは国や企業などが取り組む政策に見えますが、私たち個人も取り組みに貢献できます。
環境保全や経済復興・持続可能な社会を目指すためにも、できることからはじめましょう。
例えば、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの選択や、化石燃料を使用しない乗り物を選択することでCO2の削減になります。
これにより地球温暖化の防止にも貢献するでしょう。
マイバックやマイボトルを持ち歩くと、プラスチック製品の削減につながり海洋環境・海洋生態系を守ることもできます。
このほかにも、森林環境に配慮した製品の選択や所有している車をEV車にするなどが挙げられます。
自分が無理せず続けられる範囲で、グリーンリカバリーを意識してみてください。
まとめ
今回は、グリーンリカバリーについて紹介しました。
アフターコロナを見据え、国や企業が動きはじめています。
冷え込んだ経済を復興へと導き、自然環境の回復にも取り組むことで私たちの暮らす地球がより良い状態へと変わっていくでしょう。
世界でもグリーンリカバリーに対する取組が加速しています。
とくに欧州では地域全体が一丸となり、現状を改善しようとしています。
日本も見習わなければいけません。
そして国や政府・企業だけではなく、私たち個人にもできることはあります。
購入する製品や移動手段として使用する乗り物など、「どちらが環境に優しいのか」を考えて選択してみてください。
普段の生活を少し変えるだけで、グリーンリカバリーに貢献できます。
経済を潤し自然が本来持つ力を高めることで、より良い未来をつくりあげるグリーンリカバリー。
まずは「私たちに何ができるのか」を考え、暮らしの中のあらゆる選択肢を見直してみましょう。