インターネットや情報通信技術を使える人と使えない人との間に生まれる格差を「情報格差」あるいは「デジタルデバイド」と呼びます。SDGsが掲げる「誰一人取り残さない」という理念の実現を阻む構造的な問題の一つであり、教育・医療・防災・経済活動のあらゆる場面で不平等を拡大させます。本記事では、情報格差が生じる原因と具体的な不利益、そして日本・中国・アメリカをはじめとする各国・各組織の解決策を整理し、私たちに何ができるかを考えます。
情報格差(デジタルデバイド)とは何か
デジタルデバイドは大きく3つの層に分けられます。第一は「国際的デジタルデバイド」で、先進国と途上国の間に存在するインフラ・端末・通信コストの格差です。第二は「国内デジタルデバイド」で、同一国内の都市部と農村部、あるいは高所得層と低所得層の間に生じる格差です。第三は「個人デジタルデバイド」で、年齢・障がい・教育水準・言語の違いによって同じ端末を持っていても活用度に差が出る問題を指します。
国際電気通信連合(ITU)の報告によると、2023年時点で世界人口の約26億人がまだインターネットにアクセスできていないとされます。その多くはサハラ以南アフリカや南アジアの農村部に集中しており、接続できない主な理由として「インフラの未整備」「端末・通信費の高さ」「デジタルスキルの不足」の3点が挙げられています。
一方、日本国内に目を向けると、総務省「通信利用動向調査(令和5年)」によれば13歳〜59歳のインターネット利用率は95%を超えるものの、80歳以上では約50%にとどまっており、高齢者層との落差が依然として大きい状況です。さらに障がいのある方や外国籍住民なども、情報へのアクセスで不利を受けやすい層として指摘されています。
情報格差が広がる4つの主な原因
デジタルデバイドは単一の要因で起きるものではなく、複数の構造的課題が絡み合っています。
インフラ整備の遅れ
安定したブロードバンド回線や4G・5G電波が届かない地域では、そもそも接続すること自体ができません。島嶼部・山間部・農村部など地理的に不利な地域では、民間通信事業者が採算面から整備を躊躇するケースが多く、公的補助なしには解消が難しい構造的問題です。
端末・通信費の経済的負担
スマートフォンやパソコンの購入費用、月々の通信料は低所得世帯にとって大きなハードルです。世界銀行のデータでは、低所得国においてモバイルブロードバンドへの1GBアクセスコストが月収の数十%を占める国も存在するとされています。端末が手に入ったとしても、継続して利用するための費用が壁となります。
デジタルスキルの格差
機器を持っていても使いこなせなければ恩恵は得られません。高齢者がスマートフォンの操作に慣れていない、農村部の住民がオンライン申請の手順を知らない、といった「スキルのデバイド」は先進国でも深刻です。特に行政サービスのデジタル化が進むほど、スキルを持たない人々が置き去りにされるリスクが高まります。
コンテンツ・UIの多様性不足
ウェブサービスや行政システムの多くは、特定の言語・健常者・一定の教育水準を前提に設計されています。視覚障がい者向けのスクリーンリーダー対応が不十分だったり、外国語対応ページが存在しなかったりすることで、特定の属性を持つ人が意図せず排除される「デザインのデバイド」も見落とせない課題です。
情報格差がもたらす5つの不利益
情報格差は単なる「不便」ではなく、生活の質と安全に直結する問題です。具体的にどのような不利益をもたらすかを見ていきます。
社会・経済的格差の拡大
デジタル経済が拡大する現代では、オンラインでの求職活動・副業・スキルアップが当たり前になっています。インターネットを使えない人は就業機会や収入拡大の手段を得られず、貧困から抜け出しにくくなります。既存の経済格差をデジタルデバイドがさらに深刻化させるという「格差の二重構造」が問題視されています。
教育機会の不均等
コロナ禍以降、オンライン授業や教育プラットフォームの普及が加速しました。しかし端末や回線を持たない家庭の子どもたちは、授業に参加できなかったり学習ツールを使えなかったりします。ユニセフは2021年の報告で、学校閉鎖中にオンライン学習にアクセスできなかった子どもが世界で約13億人に上ると推計しており、この問題は現在も続いています。
防災・緊急情報へのアクセス不足
地震・台風・洪水などの自然災害が発生した際、リアルタイムの避難情報や安否確認はインターネットを通じて届けられます。デジタルデバイドを抱える層は、命に関わる情報を迅速に入手できないリスクに直面します。高齢者のみの世帯や通信インフラが脆弱な地域で特にこのリスクが高く、防災・減災の観点からも情報格差の解消は急務です。
行政・医療サービスの享受困難
マイナンバーカードの活用、オンライン医療受診、給付金のオンライン申請など、公共サービスのデジタル化は急速に進んでいます。手続きをオンラインで行えない人は、窓口へ出向く時間的・身体的負担を強いられるだけでなく、制度の存在すら知ることが難しくなる場合があります。
詐欺・サイバーリスクへの脆弱性
ITリテラシーが低いと、フィッシング詐欺・偽サイト・悪意ある個人情報収集の被害に遭いやすくなります。警察庁の統計では特殊詐欺被害者の多くが高齢者であり、デジタルスキルの習得と並行して批判的思考力(メディアリテラシー)の育成が求められています。
情報格差を解消する4つのアプローチ
情報格差の解消に向けては、インフラ・経済・教育・設計という4つの角度からの取り組みが不可欠です。
通信インフラの整備と普及
農村部・島嶼部・途上国において、光ファイバーや5G基地局の拡張、あるいは低軌道衛星(LEO衛星)を活用したブロードバンド提供が広がっています。地上インフラの敷設が困難な地域でも衛星通信によりアクセスを確保できる可能性があり、複数の民間企業が商用サービスを展開し始めています。
端末・通信費の負担軽減
低所得世帯への端末貸与・補助、通信料金の割引制度、学校での端末1人1台配布(GIGAスクール構想など)は、経済的なデバイドを直接縮小する手段です。また政府調達の観点から安価な端末の標準化を促す政策も一定の効果をもたらします。
デジタルリテラシー教育の充実
端末とインフラだけが整っても、使いこなす力がなければ格差は縮まりません。高齢者向けスマホ教室の拡充、学校教育へのプログラミング・情報リテラシーの組み込み、外国籍住民向けの多言語デジタル支援など、スキル習得の機会を属性に合わせて届けることが重要です。
ユニバーサルデザインとアクセシビリティ
サービスや端末を誰もが使えるよう設計する「アクセシビリティ対応」は、技術的な解決策の基盤です。音声読み上げ機能、文字サイズ変更、シンプルなUI、多言語対応などを最初から組み込むことで、障がいのある方や高齢者、外国語話者がサービスから取り残されるリスクを大きく下げられます。
日本・中国・アメリカの取り組み事例
各国でどのような取り組みが行われているか、代表的な事例を見ていきます。
日本|デジタル活用支援と行政DX
日本では2021年に総務省が「デジタル活用支援推進事業」を開始し、携帯ショップや公民館などを活用したスマートフォン講習会を全国で展開しています。2022年度以降は講習会の開催箇所数をさらに拡大し、特に高齢者が身近な場所でオンライン申請や行政サービスの使い方を学べる環境づくりを進めています。
また2021年9月に発足したデジタル庁は、行政手続きのオンライン化・標準化を推進し、マイナンバーカードと各種サービスの連携を深める取り組みを続けています。2024年には健康保険証とマイナンバーカードの一体化(マイナ保険証)が本格化し、デジタル化の恩恵を届ける一方で、カードを持たない・使えない人への対応が引き続き課題として残っています。
中国|農村部インフラ整備と通信費削減
世界最大規模のネットワーク網を持つ中国では、農村部との情報格差解消を国家目標の一つに掲げ、インフラ整備に加えて農村部向け通信料を大幅に引き下げる政策を実施してきました。広東省などでは行政が主導して高齢者向けスマートフォン教室を開催し、デジタルスキルの底上げを図っています。2021年時点で約4億人がスマートフォンを使いこなせない「スマホ難民」と呼ばれる状況があったとされており、この課題への対応が現在も続いています。
アメリカ|低所得層向けの接続支援プログラム
アメリカでは2015年から住宅都市開発省(HUD)主導の「コネクトホーム(ConnectHome)」プログラムを通じ、公共住宅の低所得世帯への安価なブロードバンド提供が続けられています。通信大手のコムキャスト(Comcast)も「インターネット・エッセンシャルズ(Internet Essentials)」という独自プログラムを展開し、低所得家庭へのネット環境整備・端末の無償提供・デジタルリテラシー教育を一体的に支援しています。さらに2021年に成立したインフラ投資雇用法では650億ドル規模のブロードバンド整備予算が盛り込まれており、農村部や少数民族コミュニティへの接続拡大が進んでいます。
SDGsとの関係|目標4・10・17への貢献
情報格差の解消は複数のSDGsゴールと深く結びついています。
まず「目標4(質の高い教育をみんなに)」との関連です。デジタルツールを活用した学習機会の提供は、地理的制約を超えて質の高い教育を届ける手段となります。情報格差が解消されれば、農村部の子どもが都市部と同様の教育コンテンツにアクセスできる可能性が広がります。
次に「目標10(人や国の不平等をなくそう)」です。デジタルデバイドは経済格差・社会格差の縮小を妨げる構造的な壁です。情報技術を介した就労支援・金融サービスへのアクセス・行政給付の受け取りが実現すれば、不平等の緩和に直接貢献します。
そして「目標17(パートナーシップで目標を達成しよう)」においても、情報格差の解消は重要な位置を占めます。国連が2030アジェンダで「先進国は途上国のICT分野の能力強化を支援する」と明記しているとおり、政府・企業・NGOが連携して取り組む課題です。

2024年以降の新潮流|AIとデジタルデバイドの新たな局面
生成AIの普及は、情報格差に新たな次元を加えています。ChatGPTをはじめとする生成AIツールは、使いこなせる人と使えない人の生産性・情報収集力の差をさらに拡大するとの指摘があります。経済協力開発機構(OECD)は2023年の報告書で、AI活用スキルが労働市場における新たな格差要因になりつつあると警告しています。
一方、AIがデジタルデバイドを縮小する可能性も指摘されています。テキスト読み上げ・自動翻訳・シンプルな音声操作インターフェースなどを通じて、高齢者・障がい者・非識字者でも情報にアクセスしやすくなるシナリオです。技術をどう設計し・誰に届けるかが、課題の悪化か改善かを左右する分岐点となっています。
また「スマートフォンは持っているがSNS・行政サービス・金融アプリを使いこなせない」という第二段階・第三段階のデバイドが先進国でも顕在化しています。ハードウェアへのアクセスだけでなく、活用スキルと批判的思考の底上げが次の課題です。

まとめ|情報格差をなくすために今できること
情報格差の問題は、インターネットの「ある・なし」だけでなく、活用スキル・経済的負担・コンテンツのアクセシビリティ・AIリテラシーという多層的な課題として広がっています。SDGsの「誰一人取り残さない」理念を実現するには、インフラ整備・費用負担軽減・教育・ユニバーサルデザインを組み合わせた包括的なアプローチが求められます。
以下に、この記事で押さえておきたいポイントをまとめます。
- 情報格差は「国際・国内・個人」の3層で起きており、原因はインフラ・費用・スキル・デザインの4つに整理できる
- 教育機会の不均等・防災リスク・公共サービスへのアクセス困難など、情報格差は生活のあらゆる面に影響する
- 日本・中国・アメリカそれぞれが高齢者支援・農村インフラ整備・低所得層向け接続支援に取り組んでいる
- 生成AIの普及により「AI活用スキル」が新たなデバイドの軸になりつつある
- SDGs目標4・10・17の達成にデジタルデバイドの解消は不可欠であり、官民連携のアプローチが求められる
まず身の回りにいるデジタルに不慣れな方に、一つの操作方法を一緒に試してみることから始めてみてください。


