水は社会生活に欠かせない、貴重な資源です。
しかし現在、世界全体が水に関する深刻な問題に直面しています。
ただし、問題の原因や細かな内容は、国や地域によって異なります。
水不足や水質汚染、水を巡る紛争など、「水問題」とひとくくりに出来ないほど多くの、そして根深い問題を世界の国々が抱えています。
そこで今回は、中国が抱える水問題について解説します。
世界でもっとも人口の多い中国は、どのような水問題を抱えているのでしょうか。
中国が抱える 2つの水問題とは?
中国が抱えている水問題は、大きく2つに分けられます。
1つは、水不足。
そして2つめは、水質汚染の問題です。
具体的に、どのような問題を抱えているのか見ていきましょう。
中国の水問題1. 水不足
中国の水に関する大きな問題の1つは、水不足です。
他国と比較して、降水量が極端に低いわけではありません。
しかし、1人当たりが1年間に使える水資源量が少ないという問題を抱えています。
1人当たりの水資源量がどのくらい少ないのかがわかる資料として、国際連合食糧農業機関(FAO)の2020年10月時点の公表を基に、国土交通省が作成したグラフがあります。
出典元:「世界の水資源」国土交通省HP
左側のグラフを見ると、年間降水量はアメリカやスペインとあまり差がありません。
カナダよりも降水量が多いこともわかります。
しかし、右側のグラフで1人当たりの年間降水量や水資源量を比較すると、アメリカやスペインよりも少なく、カナダとは圧倒的な差があることもわかります。
このことから、1人当たりの使える水の量が少なく、生活用水として必要な水が不足していることがわかります。
中国の水問題2. 水質汚染
中国が抱えるもう1つの水問題は、水質汚染です。
工業廃水や生活廃水を直接河川に流すことによって、河川の水質が悪化しています。
また、農薬や化学肥料の使用による水質悪化も問題となっています。
水質汚染によって、本来使えるはずの水が使えないことが、さらなる水不足の問題を引き起こす原因となっています。
中国で水問題が起きる原因とは?
水不足、水質汚染は、どのような原因で起きるのでしょうか?
問題別に、その原因を見ていきましょう。
水不足の原因は 水の偏在と人口増加
水不足の原因は、2つあります。
まず1つは、水の偏在です。
ここで言う水の偏在とは、中国国土における地域別降水量の偏りを指します。
中国北部は降水量が少なく、慢性的に水不足に悩まされています。
南東部から北西部にかけて降水量は少なくなり、東南沿海地域の平均年間降水量が1,500~2,000mmであるのに対し、西北内陸地域では200~400mmであると言われています。
さらに、もっとも降水量の少ない盆地中央部では20mm以下とも言われ、降水量に大きな開きがあります。
降水量の大きな差によって、慢性的な水不足に悩む地域が生まれているのです。
では、雨の多い地域では潤沢に水を使用できるのでしょうか?
答えは、雨の多い地域であっても決して潤沢に水を使用できるわけではありません。
それは、中国の水不足のもう1つの原因である人口増加に起因します。
世界でもっとも人口の多い中国では、年々さらに人口が増えています。
人口が増えることによって必然的に水の使用量が増えるだけでなく、これまでと生活の仕方が変わり、1日に使う1人当たりの水の量も増えています。
限りある水の総資源量に対し、使用量が増えれば1人が使える水の量は減り、水不足に陥るという構図ができあがってしまっています。
水質汚染の原因は 廃水の流出
水質汚染の原因となる廃水には、生活廃水と工業廃水、そして農業廃水があります。
人口の増加に伴い、家庭からの生活排水が増えたことが河川の水質に影響を与えています。
下水道の処理施設が足りずに河川に直接排水が流れ出てしまい、水質を汚しているのです。
同様に、急速な経済発展に伴って工業廃水も増え、処理しきれない廃水が河川に流れ出し、深刻な問題となっています。
さらに、中国全体の水使用量のうち、6割以上を占めるのが農業用水です。
農業では多量の農薬や化学肥料を使うため、廃水も農薬、化学成分を多く含みます。
その廃水が河川に流出してしまうことで、水質汚染を引き起こし国民の生活だけでなく、自然環境にも大きな影響を及ぼします。
こうした問題の背景には、廃水処理施設の不足のほか、実は降水量の不足も関係しています。
本来、雨が降ると河川は増水し、水質は浄化されます。
河川に含まれる廃水の絶対量は変わりませんが、汚れる前の水が増えることにより、相対的に水質改善されているのです。
しかし、地域によっては降水量が少なく、河川を浄化するだけの量には到底達さず、国民が使える水の量はさらに減ってしまうという問題につながります。
中国がおこなう 水問題解決のための対策
水問題解決に向けた対策として、手元にある資源を最大限に活用することがポイントとなります。
そこで貴重な水資源を活かすため、中国でおこなわれている具体的な対策を見ていきましょう。
南水北朝プロジェクトの推進
中国北部の水不足を解消するため、「南水北朝(なんすいほくちょう)プロジェクト」が始動しました。
このプロジェクトは、1952年に毛沢東が発表した「(水不足に悩む北方は)南方の水を借りればよい」という構想から生まれ、50年にわたる調査・研究を経て、2002年の着工に至ります。
この工事により、長江の上流、中流、下流それぞれから水をひき、計3つのルートで中国北部へと通水することになります。
うち1つのルート完成により、1200万人を超える北京市民が水道水などの供給による恩恵を受けたと言われています。
こうして中国全体で保有する水資源を、国民全体で分配できることになり、水の偏在による問題解決へと大きく前進しました。
第14次5カ年計画における目標設定
中国は5年ごとに年を区切り、経済や環境に関する目標設定および振り返りをおこなっています。
南水北朝はその10番目にあたる「第10次5カ年計画」の取り組みのひとつとして実施されました。
第10次5カ年計画の実施期間は、2001~2005年です。
各次5カ年計画における水に関する環境目標として、第11次5カ年計画(2006~2010年)には水質汚染物質を10%削減する目標が設定されました。
また、第12次5カ年計画(2011~2015年)では、主要汚染物質排出総量の削減項目に水質汚 染の原因物質となっていたアンモニア性窒素が追加されています。
こうした取り組みを通じて水質が改善され、第14次5カ年計画(2021~2025年)では地表水の飲用適する水質の割合を85%まで向上させるよう目標設定されています。
2020年時点では83.4%であることから、決して難しい基準ではありませんが、達成には各企業や団体の努力が不可欠です。
目標達成に向けて、水の処理技術の向上や処理施設の増設が進めば、これまで使えなかった水資源を有効活用できることから、達成への期待が高まります。
中国の水問題から 日本に住む私たちが学ぶべきこと
水に関する問題は、日本でも起きています。
しかし、日本では年々人口が減っていて、地形や降水量も異なることから、決して中国と同じ質の問題とは言えません。
だからといって他人事として捉えるのではなく、今ある世界の問題から私たちが学ぶべきことが何なのかを常に意識することが大切です。
日本は天候や地形に恵まれ、水の処理技術も高いため、蛇口をひねれば綺麗な水を得ることができます。
その状況は決して当たり前ではなく、中国北部に住む人々のように、その地域に生まれただけで水不足という問題に悩む人がいます。
そうした事実を知り、私たちが水を使うときには節水を心がけ、水を汚さない工夫を生活に取り入れていきたいものです。
・中国の水資源問題について|農林中金総合研究所
・世界の水資源|国土交通省
・中国の気候|中国がまるごとわかる中国まるごと百科事典
・中国の2020年の水使用量は5812億9000万立方メートル|人民網日本版