マイクロプラスチックとは、大きさが5ミリメートル以下の微細なプラスチックのことです。洗顔料などに入っている粒、ごみが砕けてできた破片、衣類やタイヤから削れ出た繊維や粉まで、由来はさまざまです。いったん環境に出ると、回収はほとんどできません。
定義や原因の概要は多くの記事に書かれています。この記事では、その先の三つの疑問に絞って整理します。日本では何が分かり、どんな対策が動いているのか。人体への影響はどこまで言えるのか。自分は何から減らせばよいのか。
マイクロプラスチックの原因|一次と二次、そして見落としやすい発生源
マイクロプラスチックの発生源は、環境省などの資料でも、大きく「一次」と「二次」に分けて説明されています。まずこの二つの違いを押さえると、対策の優先順位が見えやすくなります。
一次マイクロプラスチックは「最初から小さい」
一次マイクロプラスチックとは、最初から5ミリメートル以下の大きさで作られたものです。代表例は、洗顔料や歯磨き粉のスクラブ剤に使われるマイクロビーズと、プラスチック製品の原料になる粒状のレジンペレットです。
こうした粒は排水に混ざって下水処理場に届きますが、あまりに小さいため、処理の過程で取り切れずに川や海へ出ることがあるとされます。製品になった後の回収や対策が難しいため、使う段階で減らすことが重要になります。
二次マイクロプラスチックは「大きなごみが砕けたもの」
二次マイクロプラスチックは、レジ袋、ペットボトル、漁具などの大きなプラスチックが、環境中で紫外線や波、摩擦を受けて砕けたものです。街中のポイ捨てや、ごみ収集の途中で風に飛ばされたものが、側溝や川を通って海へ運ばれます。
二次は、砕ける前なら拾える点が一次と違います。裏を返せば、今のごみの出し方が、将来の二次マイクロプラスチックの量を決めるということです。
海に漂うプラスチックごみがどう分類されるかは、こちらの記事でも整理しています。
衣類とタイヤという「ごみではない」発生源
ポイ捨てをしなくても出てしまう発生源があります。ひとつは、ポリエステルやアクリル、ナイロンなどの合成繊維の衣類です。洗濯のたびに、目に見えない細かな繊維が排水へ流れ出します。
もうひとつは自動車のタイヤです。走行するたびに路面との摩擦で少しずつ削れ、粉になって道路に残り、雨で水路へ流れます。この二つは「特定の誰かの不注意」ではなく、暮らしの仕組みそのものから出てくるものです。責める話ではなく、減らす工夫を探す話として読んでください。
海の表面だけではない|日本の沿岸と湖沼の堆積物で見つかっていること
海岸に打ち上げられたごみや、海面に浮かぶごみは目に入ります。しかしマイクロプラスチックは、見える場所にだけあるわけではありません。比重や付着物の影響で沈み、水底の泥にたまるものも多いと考えられています。
その実態を日本全国で調べた研究が、2025年に発表されました。国立環境研究所、産業技術総合研究所、愛媛大学の研究チームが、北海道から沖縄までの11都道府県36地点で、沿岸海域と湖沼の堆積物を調べています。結果は、36地点のうち32地点でタイヤ由来のマイクロプラスチックが検出されたというものでした。成果は2025年7月24日に国際学術誌『Water Research』に掲載され、同年8月に発表されています。
この調査では、道路で生じたタイヤ由来の粒子が、雨とともに河川へ入り、泥や有機物と一緒に運ばれて、海や湖の底に積もる経路が示されました。泥が多くたまる水域では濃度が高く、流れの強い場所では拡散・分散される傾向があるとされています。
つまり、海岸がきれいに見える場所でも、目に見えない粒が底にたまっている可能性があります。私たちの身近な道路や洗濯排水の延長に、海や湖の底があるということです。海洋プラスチックごみ全体の原因と取り組みは、こちらにまとめています。
マイクロプラスチックの人体への影響|分かっていることと、まだ分からないこと
「人体に入っているなら危険なのでは」と不安になる方は多いと思います。ここでは、研究で確認されていることと、まだ結論が出ていないことを分けて整理します。
人体の中から見つかっている
2025年2月に『Nature Medicine』に掲載された米ニューメキシコ大学などの研究では、2016年と2024年に解剖された約50人分の組織を分析しました。調べた検体のすべてからマイクロプラスチック・ナノプラスチックが見つかり、脳では肝臓や腎臓の7〜30倍の濃度だったと報告されています。
また、2016年の検体と2024年の検体を比べると、脳と肝臓で濃度が高くなっていました。脳から見つかった粒子の多くはポリエチレンで、ナノサイズの破片状だったとされています。
「害がある」と言い切れる段階ではない
同じ研究では、認知症と診断されていた人の脳で、そうでない人より多く蓄積していたことも報告されています。ただし、これは「関連が見られた」という結果です。マイクロプラスチックが認知症の原因になることを示したものではない、と研究側も位置づけています。
体内に入った粒子が、どのくらいの量でどんな影響を与えるのかは、まだ十分に分かっていません。検体数も限られており、粒子を測る分析手法の検証も続いています。どの数字も「確定した事実」というより、「研究の途中経過」として受け取るのが誠実です。
不安との付き合い方
影響の全体像が分からない以上、「過度に怖がる」ことも「問題ない」と決めつけることも、どちらも根拠が足りません。現実的な考え方は、入口をできる範囲で減らすことです。環境に出る量を減らす行動は、人体への影響が今後明らかになった場合にも、海や川の生き物にとっても意味を持ちます。
この記事の後半では、減らせる量の大きいところから順に、具体的な行動を紹介します。
日本の制度と企業・研究機関の動き
日本でも、法律、業界団体、企業、研究機関が、それぞれの立場で動いています。まず、分野ごとに何が行われているかを見ていきます。
法律と国の目標
2018年6月に海岸漂着物処理推進法が改正され、海洋環境の保全という観点が目的に加わりました。この改正では、事業者がマイクロプラスチックの使用を抑制する努力義務を負い、国が発生抑制の対策を検討することも定められています。禁止ではなく「努力義務」である点が、日本の特徴です。
国際的な目標としては、2019年のG20大阪サミットで共有された「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」があります。2050年までに、海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにすることを目指すものです。
化粧品業界と繊維業界の取り組み
化粧品の分野では、業界団体が会員企業に対し、洗い流すスクラブ製品へのマイクロビーズの使用中止を促す自主的な取り組みを進めてきました。環境省の令和2年版環境白書にも、この取り組みが記載されています。
繊維の分野では、繊維商社の伊藤忠ファッションシステムが独自の認証「Less Micro Plastic」を設けています。2022年7月には、京都大学の研究者との共同研究として、認証を受けた洗濯ネットの効果を発表しました。フリースなど起毛素材の衣類で、洗濯ネットを使った場合と使わない場合を比べ、1回目・5回目・20回目の排出重量の合計から計算した削減率が85%以上だったという内容です。この数字は、あくまで起毛製品と認証ネットという試験条件のものです。すべての衣類で同じ効果が出るとは限りません。
研究機関では、前の章で紹介したタイヤ由来粒子の全国調査のように、実態を測る取り組みが進んでいます。測らなければ、対策の優先順位もつけられません。
国際条約交渉の現在地
海洋を含むプラスチック汚染全体を対象とした国際条約の交渉は、2022年にウルグアイで始まりました。2024年の韓国・釜山での会合を経て、2025年8月5日から15日にスイス・ジュネーブで再開会合(INC5.2)が開かれています。環境省の発表によると、約180か国が参加しましたが、合意には至りませんでした。
その後、2026年2月7日にジュネーブで開かれたINC5.3は、前議長の辞任を受けた役員選出のための会合でした。チリのフリオ・コルダノ氏が新議長に就任しましたが、この会合では実質的な交渉は行われていません。交渉再開の時期は、環境省の発表では調整中とされていました。条約の最新状況は、環境省の「プラスチック汚染対策に関する条約」のページで確認できます。
暮らしでできる対策|減らせる量の大きいところから選ぶ
家庭でできる対策は数多くありますが、全部を一度に始める必要はありません。発生源の説明に沿って、洗濯、買い物、ごみ、車の順に見ていきます。
衣類と洗濯の工夫
10月は衣替えで、フリースやニットなどの秋冬物を出す時期です。起毛した合成繊維の衣類は、繊維くずが出やすいとされています。
- 洗濯ネットを使い、目の細かいものを選ぶ- 洗濯機の糸くずフィルターにたまった繊維くずは、排水に流さず、こまめに取り出してごみとして捨てる
- 洗濯物を詰め込みすぎず、洗う頻度を必要以上に増やさない
洗濯ネットは、前の章で紹介した試験のように、条件によっては一定の効果が報告されています。フランスのように、新品の洗濯機への繊維フィルターの搭載を義務づける国も出てきました。
買い物と日用品の選び方
洗顔料やボディスクラブを買うときは、成分表示に「ポリエチレン」「ナイロン」などの粒状プラスチックがないかを確認できます。日本の化粧品業界ではスクラブ製品での使用中止が進んでいますが、海外製品や古い在庫など、確認する価値のある場面は残っています。
衣類は、買い替えるよりも「長く着る」ほうが、結果的に繊維くずの総量を減らせます。素材を選ぶ場合は、綿や麻、ウールなどの天然繊維も選択肢になります。ただし、手持ちの合成繊維の服を捨てて買い替えることは勧めません。
ごみと容器を減らす
二次マイクロプラスチックの元になるのは、屋外に出てしまったプラスチックごみです。ポイ捨てをしないことに加え、そもそもワンウェイの容器や包装を減らす工夫が効きます。マイボトルの持参、詰め替え製品の利用、量り売りの活用などです。
日本のプラスチック削減の制度や企業事例、個人の実践ステップはこちらにまとめています。
タイヤの摩耗を意識した運転
タイヤ由来の粒子は、走行距離が長いほど、また急発進・急ブレーキが多いほど増えるとされています。タイヤの空気圧を適正に保つこと、急加速や急ブレーキを減らすことは、摩耗を抑える現実的な方法です。燃費の改善や安全性にもつながるため、環境以外の理由でも取り入れやすいでしょう。
「やさしそう」で見落としやすい誤解
「生分解性」と書かれたプラスチックは、ごみの行き先として安心に見えます。しかし、分解されるには温度や微生物などの条件が必要で、海や川の環境では分解が遅いものもあるとされます。「生分解性だから捨てても大丈夫」という使い方は避けてください。
フライパンなどの樹脂コーティングについては、傷つけにくい道具を選び、剥がれてきたら買い替える、という長く安全に使う基本が大切です。「このブランドだけ避ければ解決」と単純に言えるものではありません。
個人の行動に意味はあるのか|よくある疑問に答える
「一人が洗濯ネットを使っても、全体は変わらないのでは」と感じるのは自然です。実際、個人の行動だけで海の汚染がなくなることはありません。大切なのは、個人の行動を「上流の制度や企業の選択を変える力」と組み合わせて考えることです。
買い物で製品を選ぶことは、企業にとって需要のシグナルになります。自治体のごみ回収や清掃活動に参加すること、条約や法律の動きに関心を持つことも、同じ流れの一部です。個人の洗濯が環境に出す量は小さくても、数千万世帯が同じ行動をとれば、合計の量は変わります。
「まず何をすれば」と迷う場合は、すでに持っている物を使い続けることから始めるのがおすすめです。新しく何かを買い足す必要はありません。洗濯機の糸くずフィルターを今日掃除する、ポイ捨てごみを1つ拾う、といった小さな行動で十分です。
まとめ
マイクロプラスチックは、5ミリメートル以下の微細なプラスチックです。化粧品のビーズやレジンペレットのような一次と、ごみが砕けた二次に加えて、衣類の繊維やタイヤの粉も大きな発生源です。日本の調査では、タイヤ由来の粒子が全国36地点中32地点の堆積物から見つかっています。
人体への影響は、体内から見つかる研究が増えている一方で、害の程度や因果関係はまだ分かっていません。日本の制度や業界の取り組み、国際条約の交渉は途上にあり、個人の行動と制度の変化は並行して進めていく必要があります。
私たちにできるのは、出る量を減らすことです。洗濯、買い物、ごみ、車の使い方の中から、まず1つだけ試してみてください。
- マイクロプラスチックは、一次・二次に加え、衣類の繊維とタイヤの摩耗粉も主な発生源
- 日本の沿岸・湖沼の堆積物でも、タイヤ由来の粒子が広く見つかっている
- 人体への影響は研究の途中経過で、「関連」と「因果」を分けて受け取る
- 洗濯ネットや糸くずフィルターの掃除など、暮らしの中で減らせる行動がある
- 条約交渉は継続中で、最新状況は環境省の発表で確認できる
参考文献
- 環境省「海洋プラスチック汚染を始めとするプラスチック汚染対策に関する条約」(2026年)
- 環境省「第5回政府間交渉委員会再開会合(INC5.3)の結果概要」(2026年)
- 環境省「令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第6節 海洋環境の保全」(2020年)
- 科学技術振興機構 サイエンスポータル「国立環境研究所・産業技術総合研究所・愛媛大学によるタイヤ由来マイクロプラスチックの全国調査」(2025年)
- ニューメキシコ大学「Bioaccumulation of Microplastics in Decedent Human Brains」(Nature Medicine掲載論文)(2025年)
- 伊藤忠ファッションシステム「Less Micro Plastic プロジェクト認証洗濯ネット、京都大学との共同研究において排出量85%以上削減を確認」(2022年)




