フェアトレードは、開発途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入し、立場の弱い生産者や労働者の生活改善と自立を目指す貿易のしくみです。日本でのフェアトレード普及率は、欧米と比べるとまだまだ低い水準にあります。ただし2026年の調査では、認知率も購入率も過去最高を更新しました。数字は着実に動いています。一方で、市場規模には足踏みも見えます。
この記事では、最新の調査と市場データから日本の現在地を確認します。そのうえで、普及が進みにくい背景、よくある誤解、企業や自治体の実践、そして買い物で迷わないための選び方まで整理します。
日本のフェアトレード普及率はいまどこにいるのか
結論から言うと、日本のフェアトレードは「ゆっくり、しかし確実に広がっている段階」にあります。認知や購入の割合は過去最高になりましたが、市場規模は2025年に前年を下回りました。この二つの動きを並べて見ると、現状がより立体的に見えてきます。
ここでは、消費者調査と市場規模の二つの角度から、日本の現在地を確認します。
認知率42.2%・購入率15.2%と過去最高
一般社団法人日本フェアトレード・フォーラムが2026年3月に実施した「フェアトレードと倫理的消費に関する全国調査2026」(全国1,496人)では、フェアトレードの知名度は57.0%、認知率は42.2%、購入率は15.2%でした。いずれも調査を始めた2012年以降で過去最高と報告されています。
年代別に見ると、知名度は10代で73.0%、20代で62.4%と、若い世代で高い傾向があります。学校の授業やSNSを通じて、早い段階で言葉に触れる機会が増えているためと考えられます。
もう一つ注目したいのが、購入の場所です。同調査では、スーパーでの購入が2012年と比べて約3.6倍に増え、最大の購入経路になったとされています。特別な専門店に足を運ばなくても、日常の買い物の中で手に取れる環境が少しずつ整ってきたことがわかります。
この3つの数字を並べると、一つの読み方ができます。言葉を知っている人は5割を超える一方、実際に買った人は1割台にとどまります。つまり今のボトルネックは「知らないこと」だけではなく、「知っていても売り場で見つけて選ぶところまで進まないこと」にもあるといえそうです。
市場規模は10年で2倍、ただし2025年は約190億円に減少
市場規模のほうは、少し違う表情をしています。フェアトレード・ラベル・ジャパンによると、2024年度の国内の国際フェアトレード認証製品の推定市場規模は215億円で、前年比2.2%増でした。2014年の94億円から10年で2倍以上になり、国民一人あたりの年間購入額も74円から174円に増えています。産品別ではコーヒーが78.2%、カカオ製品が12.2%を占めます。
ところが2025年は、推定市場規模が約190億円、前年比で約88%となりました。コーヒーは前年比93%、カカオは同60%と報告されており、カカオ豆の価格高騰や供給の制約といった原料側の事情が影響したとされています。
ここで押さえておきたいのは、この市場規模が金額ベースの推計だという点です。原料価格が大きく動く年は、消費者の関心が下がっていなくても金額が変わります。認知率や購入率が過去最高になっている事実と合わせて、「関心は広がっているが、原料相場の影響を受けやすい市場」と受け止めるのが実態に近いでしょう。
欧米と何が違う?数字で見る差と日本で伸びにくい背景
日本は欧米に比べて低いと言われますが、どのくらい違うのでしょうか。差の大きさを数字で確認したうえで、その背景を整理します。原因を一つに決めつけず、複数の要因が重なっていると考えるのが妥当です。
市場規模と一人あたり購入額の差
フェアトレード・ラベル・ジャパンの国際比較(日本は2023年、海外は2022年のデータ)では、日本の市場規模は211億円、一人あたりの年間購入額は169円でした。これに対し、ドイツの市場規模は3,250億円で日本の約17倍、一人あたりの年間購入額が最も多いスイスは14,400円で日本の約92倍とされています。
ただし、この比較は年が異なるデータを並べたものです。為替の影響もあるため、「約17倍」「約92倍」はおおまかな目安として見るのがよいでしょう。日本との差は、前年の比較よりは縮小していると報告されています。
日本で伸びにくい3つの背景
日本で普及が進みにくい理由としてよく挙げられるのは、次の3点です。いずれも一つの調査で証明されたものではなく、複数の資料や現場の声から指摘されている傾向です。
一つ目は、学ぶ機会の少なさです。フェアトレードがなぜ必要なのかを、学校や職場で体系的に学ぶ機会が限られているとされます。結果として、関心の高い層の間では知られていても、広い層には届きにくくなっています。
二つ目は、価格を重視する消費習慣です。品質やデザインと並んで「作られ方」を選ぶ基準にするには、まだ時間がかかると見られています。
三つ目は、見分けにくさです。どの商品がフェアトレードなのかがわかりにくいことが、購入の障壁になっているとの指摘があります。先ほどの「知っているが買っていない」層の大きさとも重なる点です。
「普及率が低い」をめぐって誤解されやすい3つのこと
普及率の話をすると、フェアトレードそのものに対するイメージが先行しがちです。ここでは、検索や会話の中でよく出てくる疑問を3つ取り上げ、事実に沿って整理します。
寄付やチャリティとは違う取引のしくみ
フェアトレードは、施しではなく対等な取引の条件を整える考え方です。国際フェアトレード認証では、生産者が受け取る最低価格の保証と、地域の学校や設備、生産の改善などに使われるプレミアム(奨励金)が組み合わされています。市場価格が最低価格を上回るときは市場価格が支払われ、そこにプレミアムが上乗せされるしくみです。
生産者側の規模を見ると、フェアトレード・インターナショナルのモニタリングレポート第17版(2024年のデータ)で、1,800を超える生産者組織、約187万人の農家と労働者がフェアトレードに参加しています。2024年に生産者が受け取ったプレミアムは2億160万ユーロでした。買い手と売り手が継続的に取引することが前提になっているため、「かわいそうだから買う」という関係とは性質が異なります。
認証ラベルがあれば全てが解決するわけではない
フェアトレードの認証は、原料の調達や取引の条件に関する基準を満たしていることを示すものです。環境配慮や人権の課題をこれ一つで全て解決できるわけではありません。
認証製品を買うことは、課題に向き合うための一つの手段です。ラベルがあるから完璧と考えるのではなく、「自分にできる選択肢の一つ」として位置づけるほうが、長く続けやすくなります。
「高い」は本当か、何と比べるか
「フェアトレード商品は高い」というイメージは根強くあります。実際には、コーヒーやチョコレートなどは、通常の商品と並べてみると価格差が小さいものもあれば、差がはっきりあるものもあります。一律に高いとも安いとも言えないのが実情です。
比べるときは、価格だけでなく、原料の産地や作られ方、味や量を合わせて見るのがおすすめです。同じ価格帯の商品が並ぶ売り場で一度見比べてみると、自分の中の「高い」の基準が具体的になります。
普及を支える日本の企業と自治体の動き
個人の意識だけでは、売り場に商品は並びません。日本では企業と自治体の取り組みが、普及を後押ししています。ここでは複数の事例から、広がりの形を見ていきます。
企業の動き|フェアトレード・ジャパン・アワード2025から
2025年11月に開かれた「フェアトレード・ジャパン・アワード2025」では、企業や団体が部門別に表彰されました。総合大賞は小川珈琲で、2003年の認証取得以来、家庭用と業務用の両方でフェアトレードコーヒーを展開してきたことが評価されています。
セールス部門(コーヒー)ではキーコーヒーとキャメル珈琲が、コーヒー以外の産品の部門ではイオントップバリュ、エスビー食品、トレードワークスが受賞しました。商社・卸の分野ではワタル、住商フーズ、伊藤忠商事が表彰されています。コーヒーの老舗メーカーだけでなく、小売のプライベートブランドや食品メーカー、商社まで、供給網の複数の段階で取り組みが進んでいることがわかります。
アワードにはフェアトレードオフィス部門もあり、アストラゼネカが受賞しました。商品を売る側だけでなく、職場で使うコーヒーや飲み物を選ぶ形でも、参加できる道があります。
地域の動き|フェアトレードタウンの広がり
自治体単位の取り組みとしては、フェアトレードタウンがあります。日本では、熊本市(2011年)、名古屋市(2015年)、逗子市(2016年)、浜松市(2017年)、札幌市といなべ市(2019年)、鎌倉市(2025年)に続き、2026年に大府市が加わり、8自治体になったとされています。
効果は調査にも表れています。前述の全国調査2026では、逗子市の購入率が44.9%、鎌倉市が36.3%と、全国平均の15.2%を大きく上回りました。地域の店舗、学校、行政、市民団体が連携し、日常の中でフェアトレード商品に出会える環境をつくると、購入にまでつながりやすいことを示す事例といえます。
売り場で迷わないための選び方
学んだあとに待っているのは、「結局、何を見て選べばいいのか」という疑問です。売り場での探し方を、順番に整理します。
まずはコーヒーとチョコレートから探す
国内の認証製品はコーヒーが約8割を占めるため、最初に見つけやすいのはコーヒー豆やドリップバッグです。次にチョコレートなどのカカオ製品、紅茶やスパイスが続きます。スーパーが最大の購入経路になっているので、普段の買い物先の棚を一度ゆっくり眺めてみるのが近道です。
これから年末にかけては、ギフトや贈り物の菓子、チョコレートを選ぶ機会が増えます。自分用に限らず、贈る商品を選ぶタイミングは、フェアトレードを試すのにちょうどよい場面です。
ラベルと表示の見方
国際フェアトレード認証の製品には、パッケージに認証ラベルが付いています。商品に使われている原料のうち、どの原料が認証を受けているかも確認すると、より納得して選べます。原料の一部のみが対象の商品もあるためです。
見分けがつきにくいときは、売り場の表示や企業の公式サイトで、取り扱いの有無を確認するのも一つの方法です。迷ったときは、完璧な選択を目指さず、「ラベルがあるものを一つ選ぶ」ことから始めれば十分です。
無理のない続け方
続けるうえでのコツは、日常の買い物の中で「いつも買うもの」の一つだけを置き換えることです。毎日飲むコーヒーや、よく食べるチョコレートなど、頻度の高いものから選ぶと、無理なく習慣になります。全てを切り替える必要はありません。
今日からできる行動|学ぶ・選ぶ・伝える
個人にできることは、大きく三つに分けられます。どれも特別な準備はいりません。自分の生活に合うところから選んでください。
学ぶ|価格と作られ方を知る
最初の一歩は、なぜ価格が違うのかを知ることです。最低価格やプレミアムといったしくみを理解すると、「安ければ安いほどよい」という見方から、少し距離を置けるようになります。公式サイトや自治体の情報で、数分で読める範囲から始めてみてください。
エシカル消費の全体像を押さえたい方は、次の記事もあわせて読んでみてください。
選ぶ|一つの商品から試す
次に、店頭で一つ試してみます。今回の調査では、スーパーが最も利用されている購入場所でした。普段の買い物のついでに、棚の中でラベルを探すだけでも十分な行動です。味や使い心地を自分の感覚で確かめることが、続けるための土台になります。
伝える|職場や地域で話題にする
最後は、誰かに話すことです。「このコーヒーおいしかった」という一言でも、周囲が手に取るきっかけになります。職場の備品を選ぶ人や、学校や地域の催しに関わる人は、その選択肢にフェアトレードを加える提案もできます。フェアトレードタウンの広がりは、こうした一人ひとりの働きかけが積み重なった結果でもあります。
まとめ
日本のフェアトレード普及率は、欧米と比べるとまだまだ低い一方、2026年の調査では知名度57.0%、認知率42.2%、購入率15.2%といずれも過去最高になりました。市場規模は10年で2倍以上になりましたが、2025年は原料価格や供給の影響もあり約190億円と前年を下回っています。関心は広がっていても、売り場で見つけて選ぶ段階にはまだ余地がある、というのが現在地です。
普及を支えているのは、小川珈琲やキーコーヒー、イオントップバリュ、エスビー食品といった企業の取り組みと、逗子市や鎌倉市のようなフェアトレードタウンの広がりです。地域で取り組みが進んだ場所では購入率が高いという結果は、個人の選択を後押しする環境づくりが効果を持つことを示しています。
フェアトレードは寄付ではなく、継続的な取引を通じて生産者の暮らしを支えるしくみです。ラベルがあればすべてが解決するわけではありませんが、買い物の選択肢の一つとして持っておく価値はあります。まず今週の買い物で、いつも買うコーヒーかチョコレートの棚を見て、ラベルのついた商品を1つだけ試してみてください。
- 2026年の調査で、日本のフェアトレードの知名度57.0%、認知率42.2%、購入率15.2%はいずれも過去最高
- 国内の認証製品の市場規模は2024年度215億円、2025年は原料価格などの影響で約190億円に減少
- フェアトレードは寄付ではなく、最低価格とプレミアムを組み合わせた継続的な取引のしくみ
- 企業のアワード受賞やフェアトレードタウンの広がりが、購入しやすい環境づくりを支えている
- まずはコーヒーやチョコレートなど、いつも買うものを一つだけ置き換えるところから始められる
参考文献
- フェアトレード・ラベル・ジャパン「2025年の国内の国際フェアトレード認証製品の推定市場規模」(2026年)
- フェアトレード・ラベル・ジャパン「2024年度の国内の国際フェアトレード認証製品の推定市場規模」(2025年)
- フェアトレード・ラベル・ジャパン「国際フェアトレード認証製品の市場規模の国際比較」(2024年)
- 日本フェアトレード・フォーラム「フェアトレードと倫理的消費に関する全国調査2026」(2026年)
- フェアトレード・ラベル・ジャパン「フェアトレード・ジャパン・アワード2025」(2025年)
- Fairtrade International「Monitoring Report 17th Edition」(2026年)




