2020年、黒人男性ジョージ・フロイド氏が白人警察官に拘束され死亡した事件をきっかけに、世界中に広がった「Black Lives Matter(BLM)」運動。当時は多くの企業がこぞって連帯を表明しましたが、それから数年が経ち、状況は大きく変化しています。米国では2025年に入り、企業のダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(DEI)施策を縮小する動きが相次いで報じられるようになりました。本記事では、BLM運動の歴史を振り返りながら、企業の対応がこの5年でどう変わったのか、そして日本に暮らす私たちにとってこの問題がなぜ「自分ごと」なのかを、具体的な視点から整理します。
BLM(ブラック・ライブズ・マター)とは何を訴える運動か
BLMとは、アフリカ系アメリカ人のコミュニティが中心となって始まった人種差別抗議運動「Black Lives Matter」の略称です。黒人に対する構造的な人種差別や、警察官による過剰な暴力に抗議することを主な目的として掲げています。
このスローガンが最初に使われたのは2013年。フロリダ州で発生した黒人少年射殺事件の裁判で、加害者の白人自警団員に無罪判決が下されたことへの抗議として、SNS上で「#BlackLivesMatter」というハッシュタグが広まったのが始まりとされています。その後、警察官による黒人への暴力事件が相次ぐ中で運動は拡大を続け、2020年のジョージ・フロイド氏の事件で世界的な広がりを見せました。
運動が世界に広がった経緯|相次いだ事件と2020年の転換点
BLM運動がここまで大きな社会的インパクトを持つに至った背景には、10年近くにわたって積み重なった一連の事件があります。
2012年から2014年 抗議の火種となった事件
BLMの原点となったのは、2012年にフロリダ州で発生した、丸腰の黒人少年トレイボン・マーティンさんが自警団員に射殺された事件です。加害者に無罪判決が下されたことに対し、全米各地で「人種差別だ」との批判が高まり、抗議デモが発生しました。その後も2014年にニューヨークで、同年ミズーリ州ファーガソンで、白人警察官による黒人への過剰な実力行使によって死亡する事件が相次ぎ、抗議運動は断続的に続いていきました。
2020年 ジョージ・フロイド氏事件と世界的な拡大
2020年5月、ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性ジョージ・フロイド氏が、白人警察官に約9分間にわたり首を押さえつけられて死亡する事件が発生しました。事件の一部始終が周囲の市民によってスマートフォンで撮影され、SNSで拡散されたことで、抗議の声は全米にとどまらず世界各国へと広がりました。加害者の元警察官デレク・ショービン被告は、その後の裁判で有罪評決を受けています。日本を含む世界各都市でも連帯デモが行われ、BLMという言葉が国際的に広く知られるきっかけとなりました。
2020年の連帯表明から2025年のDEI縮小へ|企業の対応はどう変わったか
2020年当時、多くの企業がSNSで黒塗りの画像を投稿したり、黒人従業員の登用や採用目標を掲げたりして、BLM運動への連帯を表明しました。スポーツ界では大坂なおみ選手が全米オープンで人種差別被害者の名前を記したマスクを着用し、音楽業界では大手レーベルが参加する「ブラックアウト・チューズデー」というストライキも行われました。ファッション業界でも、黒人デザイナーのステラ・ジーン氏が創設した団体「We are Made in Italy」のように、業界内の差別是正を目指す動きが生まれています。
一方で、それから数年を経た2024年から2025年にかけて、米国の複数の大手企業がDEI関連の目標や予算を縮小・撤回したと報じられるようになりました。背景には、2025年1月にトランプ政権が発足し、連邦政府機関や連邦政府と取引のある企業を対象にDEI施策の見直しを求める大統領令に署名したことがあるとされています。小売・自動車・IT分野などの大手企業が相次いでDEI関連の数値目標の公表を取りやめたり、専門部署を縮小したりする動きが報道されており、2020年に表明された連帯と現在の状況の間には、明確な温度差が生まれているといえるでしょう。
表明と実態のギャップをどう見極めるか
企業の姿勢を評価する際は、プレスリリースや理念表明だけでなく、次のような具体的な指標を確認することが手がかりになります。
- 役員・管理職層における人種構成の情報開示があるか
- DEI関連の数値目標を継続的に公表し続けているか、途中で撤回していないか
- 従業員エンゲージメント調査や第三者機関の評価を受けているか
- サプライチェーンや取引先選定における人権配慮の方針があるか
これらは統合報告書やサステナビリティレポートで確認できることが多く、複数年分を比較することで「表明だけで終わっていないか」を読み取る手がかりになります。単年の宣言よりも、数年単位でどう変化してきたかを追う視点が重要です。

日本における人種差別と外国人の人権課題
BLMは米国の警察制度に根差した固有の背景を持つ運動ですが、人種や出自による不平等という問題そのものは、日本にとっても他人事ではありません。日本国内で暮らし、働く外国人は年々増加しており、技能実習制度をめぐる労働環境や、外国人であることを理由にした入居拒否・就労差別なども、これまで各種の調査や報道で指摘されてきました。
日本では2016年に「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(ヘイトスピーチ解消法)」が施行され、特定の民族や国籍の人々を排斥する言動の解消に向けた取り組みが国や自治体に求められるようになりました。また川崎市では2019年に、ヘイトスピーチに罰則を科す全国初の条例が制定されるなど、自治体レベルでの対応も進んでいます。ただし、これらの法律・条例には罰則の適用範囲や実効性について課題も指摘されており、差別の解消が十分に進んだとは言い切れない状況です。
日本は1995年に人種差別撤廃条約を批准しており、国としても人種・民族による差別の撤廃に取り組む立場にあります。BLM運動の歴史を知ることは、遠い国の出来事を学ぶだけでなく、自分たちの社会にある不平等に目を向け直すきっかけにもなるはずです。

BLMとSDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」との関係
SDGs(Sustainable Development Goals)は、2015年の国連総会で193の加盟国が合意した国際目標で、日本語では「持続可能な開発目標」と呼ばれます。環境・社会・経済にまたがる17の目標と169のターゲットが設定されており、2030年までの達成を目指しています。
このうち目標10「人や国の不平等をなくそう」は、国内および国家間の不平等を是正することを掲げた目標です。ターゲット10.2には、年齢や性別、障害、人種、民族、出自、宗教、経済的地位などにかかわらず、すべての人々の社会的・経済的・政治的な包摂を促進することが明記されています。BLM運動が訴えてきた「人種による構造的な不利益をなくす」というテーマは、このターゲットと直接重なるものです。
目標10の達成には、政府や企業だけでなく、一人ひとりが不平等の存在を認識し、自分にできる範囲で行動を続けることが欠かせません。BLMのように遠い国で始まった運動であっても、その背景にある構造的な問題を理解することは、目標10への理解を深める入り口になります。
個人にできる3つのアクション
企業や制度の変化を待つだけでなく、個人としてできることも確かにあります。ここでは、無理なく始められる3つの行動を紹介します。
まずは知ることから始める
BLMの公式サイトや、日本国内でこのテーマを発信している団体の情報に触れてみましょう。SNSで「#BlackLivesMatter」や「#BLM」と検索すると、当事者の声や最新の議論を確認できます。知識を得ることは、次の行動につながる最初の一歩です。
映画や書籍で背景を学ぶ
人種差別や公民権運動を題材にした映画・書籍は数多く存在します。映像作品はストーリーを通じて感情的に理解しやすく、書籍は自分のペースでじっくり読み進められるという利点があります。忙しい人はドキュメンタリー映画から、時間を確保できる人は書籍から、それぞれ自分に合った形で触れてみるとよいでしょう。
身近な人と話す機会をつくる
学んだ内容を、友人や職場の同僚と共有してみましょう。話すことで自分の理解が整理されるだけでなく、相手の視点から新しい気づきを得られることもあります。日本国内の外国人労働者や技能実習生が置かれている状況について話題にするのも、身近なところから「自分ごと化」する良いきっかけになります。

まとめ
BLM運動は、2012年のトレイボン・マーティンさん射殺事件を発端に、2020年のジョージ・フロイド氏の事件で世界的な広がりを見せた人種差別抗議運動です。2020年当時は多くの企業が連帯を表明しましたが、2024年から2025年にかけて米国企業の間でDEI施策を縮小する動きが相次いで報じられるなど、状況は一様ではありません。表明と実態の間にあるギャップを見極める視点を持ちながら、私たち自身も日本社会にある不平等に目を向け続けることが求められています。
本記事はMIRASUS編集チームが公的資料・企業公式情報をもとに作成しています。
参考文献
- 外務省「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」(2015年・https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/000101402_2.pdf)
- 外務省「人種差別撤廃条約」(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/index.html)
- 東京財団政策研究所「米国の黒人が直面する構造的差別―行政・教育関係者に対する監査調査より―」
- BLMは2012年の事件を発端に2020年のジョージ・フロイド氏事件で世界に広がった
- 2024〜2025年は企業のDEI施策縮小が相次ぎ、表明と実態のギャップが課題になっている
- 日本にもヘイトスピーチ解消法や外国人の人権課題があり、他人事ではない

