「クィア」という言葉を、LGBTQ+という表記の中で見かけたことがある方は多いのではないでしょうか。クィア(Queer)は、もともと「風変わりな」という意味を持つ言葉でしたが、今ではセクシュアルマイノリティ全体を包み込む肯定的な言葉として使われています。似た言葉に「クエスチョニング」もあり、LGBTとの違いが分かりにくいという声もよく聞かれます。この記事では、クィアの意味とLGBTとの関係性を整理したうえで、日本の制度や企業の取り組み、そして当事者ではない人が今日からできる向き合い方まで、具体的に解説します。
クィアとは|LGBTQ+の中での位置づけを整理する
クィア(Queer)とは、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーのいずれか一つの型に自分を当てはめたくない、あるいは当てはまらないと感じるセクシュアルマイノリティを包括的に表す言葉です。LGBTQ+の「Q」は、このクィアと、後述するクエスチョニングの両方を指す場合があり、どちらの意味で使われているかは文脈によって変わります。
語源は差別用語だった
クィアという単語は、もともと英語で「風変わりな」「奇妙な」という意味を持ち、20世紀にはセクシュアルマイノリティを蔑称として呼ぶ際に使われてきた経緯があります。それが1980年代以降、当事者自身が「奇妙で構わない、それが自分たちだ」という意思を込めてあえてこの言葉を使い始めたことで、差別語から自らを肯定する言葉へと意味が転換しました。このように、差別的に使われていた言葉を当事者が主体的に取り戻す動きは「リクレイミング」と呼ばれ、クィアはその代表的な例とされています。
なぜ「LGBT」では表現しきれないのか
LGBTという4つの区分は、恋愛感情を持つ性別(性的指向)と、自分の性をどう認識するか(性自認)という2つの軸に基づいてつくられたカテゴリーです。しかし実際の性のあり方はグラデーションであり、レズビアンともゲイともバイセクシュアルとも言い切れない、あるいはそもそも性別で自分を分類したくないという人も少なくありません。クィアは、そうした「どの枠にも収まりきらない」感覚を否定せず、まるごと肯定する言葉として機能しています。だからこそLGBTQ+という表記において、Qは単なる追加区分ではなく、ほかの区分をまとめて包摂する役割を持っているのです。
クィアとクエスチョニングの違い|混同されやすい2つの言葉
クィアとよく似た文脈で登場するのが「クエスチョニング(Questioning)」です。どちらも「LGBTのどれにも当てはまらない」人を表すように見えるため混同されがちですが、意味合いには違いがあります。
クエスチョニングは「模索中」を表す言葉
クエスチョニングとは、自分の性的指向や性自認をまだ定めていない、あるいは意図的に定めないでいる状態を指す言葉です。理由は人によってさまざまで、どのセクシュアリティにも当てはまらないと感じる人もいれば、一つに絞りきれない人、そもそも性で自分をカテゴライズすること自体に違和感を持つ人もいます。「迷っている」というと不安定な印象を持たれがちですが、枠にはまらない自分のあり方に誇りを持ち、大切にしている人も多く存在します。
クィアは「あり方」、クエスチョニングは「過程」に近い
クィアが「セクシュアルマイノリティである自分を、既存の枠組みにとらわれず肯定する」という立場や姿勢を表す言葉であるのに対し、クエスチョニングは「まだ模索している、あえて定めていない」という状態そのものを表す言葉に近いといえます。ただし、この境界線も厳密なものではなく、自分をクィアと呼ぶかクエスチョニングと呼ぶかは、最終的には本人が決めることです。第三者が「どちらに当てはまるか」を決めつけることは避けるべきポイントといえるでしょう。
クィアとLGBTはどう違う?誤解されやすいポイント
「クィアはLGBTと同じ意味なのでは」という誤解は根強く残っています。ここでは、当事者の視点も踏まえながら、両者の違いを整理します。
「LGBT=内訳」「クィア=総称」という関係
LGBTは、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーという具体的な4つの区分を並べた言葉です。一方でクィアは、特定の区分を指すのではなく、性的指向・性自認の多様なあり方全体を指す総称的な言葉として使われます。そのためLGBTの中の一部の人が自分をクィアと名乗ることもあれば、LGBTのどの区分にも自分を当てはめたくない人が、あえてクィアという言葉だけを使うこともあります。両者は対立する概念ではなく、重なり合いながら併存する言葉だと理解しておくと整理しやすくなります。
当事者によって「使いたい/使いたくない」が分かれる言葉でもある
クィアは差別語から転じた歴史を持つため、世代や地域、個人の経験によって受け止め方が大きく異なります。差別的に使われていた記憶が強い当事者にとっては、今でも積極的に使いたい言葉ではない場合があります。一方で、若い世代を中心に、既存のカテゴリーにとらわれない自由な言葉として好んで使う当事者も増えています。第三者が誰かを「クィアだ」と決めつけて呼ぶことは避け、本人がどの言葉を使いたいかを尊重する姿勢が大切です。
日本におけるクィア・LGBTQ+の現状と制度
言葉の意味を理解したあとに多くの人が抱く疑問は、「では日本の制度はどうなっているのか」という点でしょう。ここでは日本の法制度と社会の動きを整理します。
同性婚は法律上まだ認められていない
日本では、現行の民法・戸籍法の運用上、同性同士の婚姻は認められていません。一方で、2021年以降、札幌・東京・大阪・福岡などの地方裁判所や高等裁判所では、同性婚を認めない現行制度について「違憲」または「違憲状態」と判断する判決が相次いで出されており、司法の場での議論が続いています。国会での法改正には至っておらず、当事者にとっては将来の見通しが立てにくい状況が続いているといえます。
広がるパートナーシップ制度とLGBT理解増進法
法律上の婚姻とは別に、多くの地方自治体では、同性カップルを対象とした「パートナーシップ制度」を独自に導入する動きが広がっています。2015年に渋谷区と世田谷区が全国に先駆けて制度を開始して以降、導入する自治体は年々増え続けており、パートナーシップ関係にある2人を証明する書類を病院や住宅契約などの場面で活用できるケースも出てきました。また国レベルでは、2023年6月に「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」(通称:LGBT理解増進法)が施行され、性的指向や性自認を理由とする不当な差別はあってはならないという方針が法律に明記されました。ただし同法には罰則規定がなく、実効性については当事者団体からも課題が指摘されています。職場での性のあり方に関するハラスメントについて詳しく知りたい方は、こちらもあわせて参考にしてみてください。

企業に見るクィア・LGBTQ+への取り組み
制度面の整備が徐々に進む一方で、日々の生活に直結する職場環境では、企業ごとの取り組みの差も大きいのが実情です。複数の企業の動きを見てみましょう。
同性パートナー制度や社内規定の整備
日本国内では、社員の同性パートナーを配偶者と同等に扱う福利厚生制度を導入する企業が広がっています。結婚休暇や慶弔休暇、家族手当といった制度の対象を同性パートナーにも広げる動きは、外資系企業だけでなく国内の大手企業にも波及しており、採用活動においても「働きやすさ」を示す指標の一つになりつつあります。飲食・小売業界では、店舗スタッフ向けの研修でLGBTQ+への理解を深める取り組みを行う企業も見られます。
「PRIDE指標」に見る企業の評価の仕組み
任意団体「work with Pride」が策定した「PRIDE指標」は、企業や団体のLGBTQ+施策への取り組みを、行動宣言・当事者コミュニティ・啓発活動・人事制度・社会貢献という複数の観点から評価する仕組みです。この指標で最高評価の「ゴールド」を受賞する企業は年々増えており、社内規定の整備だけでなく、社外に向けた啓発活動やアライ(支援者)の育成まで含めて評価される点が特徴です。就職・転職先を選ぶ際の判断材料の一つとして、こうした指標を確認してみるのも一つの方法です。企業のダイバーシティ経営全般については、次の記事でも取り上げています。

クィアの人と接するときに気をつけたいこと|今日からできること
制度や企業の取り組みを知ったうえで、次に多くの人が気になるのは「自分は何をすればよいのか」という点だと思います。
決めつけずに、本人の言葉を尊重する
見た目や話し方だけで「この人はゲイだろう」「バイセクシュアルに違いない」と決めつけることは避けたいポイントです。クィアという言葉自体が、既存のカテゴリーに当てはめられることへの違和感から生まれた背景を持つことを踏まえると、他人の性のあり方を第三者が勝手に定義しないという姿勢が何よりも重要になります。本人が名乗った言葉をそのまま尊重することが、最初の一歩です。
カミングアウトを強要しない
「彼氏/彼女はいるの?」「結婚は考えていないの?」といった何気ない質問が、意図せずカミングアウトを迫る形になってしまうことがあります。プライベートな性のあり方について、本人が話したいタイミングで話せるよう、質問の仕方を工夫することも配慮の一つです。職場であれば、性別を前提としない呼び方や書類のフォーマットを見直すことも、具体的にできる対応といえます。当事者を支える「アライ」という立場について詳しく知りたい方は、次の記事も参考にしてください。

まとめ
クィアは、もともと差別的な意味を持っていた言葉が、当事者自身の手によって肯定的な意味へと変わっていった、歴史を背負った言葉です。LGBTという具体的な4区分では表現しきれない、性のグラデーションを包括的に表す総称として使われる一方で、差別語だった歴史ゆえに「使いたくない」と感じる当事者がいることも忘れてはいけません。
日本では同性婚こそまだ法律上認められていないものの、地方自治体のパートナーシップ制度やLGBT理解増進法の施行、企業によるPRIDE指標への取り組みなど、当事者が暮らしやすくなるための仕組みは少しずつ広がっています。とはいえ制度には罰則がなかったり、自治体ごとに効力が異なったりと、まだ発展途上の部分も多く残っています。
大切なのは、言葉の正しい意味を知ることそのものよりも、その言葉を通じて「誰かを勝手にカテゴライズしない」という姿勢を持つことです。まずは身近な会話の中で、性別や恋愛対象を前提にした決めつけの質問をしていないか、一つだけ振り返ってみてください。
- クィアはLGBTの一区分ではなく、性の多様なあり方を包括する総称として使われる言葉
- クエスチョニングは性的指向・性自認を「模索中」であることを表す、クィアとは異なるニュアンスの言葉
- 日本では同性婚は未承認だが、パートナーシップ制度やLGBT理解増進法など制度整備が進んでいる
- PRIDE指標など、企業のLGBTQ+施策を評価する仕組みも広がりつつある
- 周囲ができることは、決めつけずに本人の言葉を尊重し、カミングアウトを強要しないこと
参考文献
- 法務省人権擁護局「人権を考える」(2024年)
- 厚生労働省公式サイト(2024年)
- NPO法人EMA Japan公式サイト(2024年)

