宗教上の理由や古くからの慣習などで、立場が弱い女性が不利益を受けてしまうジェンダー問題。
ジェンダー問題は、世界でも日本でも根深く残っていて、簡単に改善できません。
今回は、ジェンダー問題の実際の事例はどのようなものなのかを、世界と日本の事例を参考に紹介します。
ジェンダー・バイアスは根深い
ジェンダー問題は、日常生活の中でのちょっとした発言からでも生まれるものですが、その背景には、根深いジェンダー・バイアスがあります。
ジェンダー・バイアスは、ジェンダー(社会的・文化的な性差)とバイアス(偏見)から、そのまま「社会的・文化的な性差による偏見」という訳ができます。
特に女性は仕事をしに外へ行かず、専業主婦として家にいて家事や育児をするものという考えは、ジェンダー・バイアスと言っていいでしょう。
多様性が叫ばれる現代においても、まだまだ昔ながらのジェンダー・バイアスが根深く私たちの心理に潜んでいます。
ジェンダー問題は日本のみならず、世界でも問題になっており、SDGsの目標5.「ジェンダー平等を実現しよう」と掲げられるほど。
特に社会的に弱い立場に立たされている女性は、全世界でたくさん存在します。
世界のジェンダー問題の事例
世界では、宗教の考え方や慣習によって、女性が弱い立場に立たされ、不利益を被っている事例が数多くあります。
ここでは、世界で起こっているジェンダー問題の事例を紹介します。
人身売買
弱い立場の人を強制的に暴力や脅迫、詐欺などで連れて行く人身売買が、世界で多く行われています。
また、人身売買の被害に遭いやすいのは、圧倒的に女性が多いです。
人身売買の目的は、性的搾取や強制労働などが主で、奴隷として女性を働かせる事例が多くあります。
特に紛争地域から逃げてきた難民などは、被害に遭いやすい傾向です。
参照元:子供の人身売買|ユニセフ主な活動
性暴力・虐待
女性は生物学的に男性に比べて力が弱く、暴力の被害に遭いやすい傾向があります。
特に顕著なデータとしてアフリカのコンゴでは、女性の性暴力被害が多いです。
コンゴでは、男性の男らしさという概念が強くあり、妻やパートナーへの暴力は当然視されていて、コンゴの暴力の90%は家庭内暴力という報告もあり、性暴力も多いです。
また、インドでは、宗教上の問題で男児を好む傾向があり、女児という理由だけでネグレクト(育児放棄)などにあい、年間に数十万人も亡くなっています。
女性に生まれただけで、暴力や虐待の対象にされてしまう国や地域が、まだまだ多く存在しているのです。
参照元:コンゴ民主共和国 ジェンダー情報整備調査 報告書|独立行政法人国際協力機構(JICA)
児童婚や強制結婚
18歳に満たない年齢で結婚することを「児童婚」と呼び、自分の意志とは関係なく若くして結婚させられる事例は、世界でたくさんあります。
世界では、7億人以上の女性が18歳未満で結婚し、そのうちの約2.5億人は、15歳未満で結婚しているデータがあります。
特に貧困家庭や地方では、児童婚が多い傾向です。
また女性蔑視で顕著なのが、イスラム教圏です。
本来のイスラム教は女性を大切にするものですが、部族社会などの悪習を踏襲し、都合の良いように解釈して、女性蔑視や差別が助長されたケースがあります。
イスラム教では、女性の意見や主張は尊重されておらず、女性は9歳で結婚することができ、自分の意志ではなく親同士で結婚を決められてしまうことも。
また、女性の姦通罪への処罰が厳しく、性暴力の被害者の女性が逆に処刑されるケースまであります。
参照元:児童婚|ユニセフ主な活動
教育格差
初等教育は受けさせるが、中等教育以上は女性には必要ないなど様々な理由で、十分な教育を受けさせてもらえない女性も世界にはたくさんいます。
その理由は国や地域によって異なりますが、児童婚のため早期に結婚してしまい家事をするため学校に行かなかったり、学校までの道のりが険しく危なかったりなどです。
そして、そもそも女性に教育は必要ないという社会通念が、根強く残っている地域はたくさんあります。
コンゴでは、男性への教育が優先され、女性への教育はいずれ家庭に入るのだから無駄だと考えられています。
むしろ教育を受けた女性は、結婚相手にふさわしくないとの考えまであるのです。
イスラム教圏では、知らない男性と女性が同じ部屋にいることを好ましく思わないので、クラスメイトの男子や、先生が男性という理由だけで、学校に行かせられないと思う親がいます。
また、女子生徒も女子トイレがないと言う理由で精神上苦痛になり、学校に行かなくなるケースもあります。
このように慣習や宗教上の理由で、十分な教育を受けられない女性がたくさんいるのです。
賃金格差
世界では、女性の賃金は男性の賃金より平均して20%ほど低いというデータがあります。
また、賃金の男女平等を実現した国は、まだないとも言われています。
賃金の格差が男女間で出てしまう理由はさまざまです。
国によっては、女性への教育期間が短く、より専門的な分野の勉強や職業が男性に独占され限られた職業にしか就けないことが理由の一つです。
また、女性は働いていても家事などの家庭の仕事も男性より多く行わなければいけず、断続的なキャリアしか積めない問題もあります。
賃金格差も、ジェンダー・バイアスが強く働いている事例でしょう。
日本のジェンダー問題の事例
ジェンダー問題は世界でも問題視されていますが、日本でも女性というだけで不利益を被る場面があります。
女性の社会進出が進んできたからと言っても、社会的には男性の方が優位な立場にいることが多いです。
ここでは日本でのジェンダー問題の事例を紹介します。
性的嫌がらせ(セクシャルハラスメント)
セクシャルハラスメントは、性的な言動で、相手を不快な気分にさせることです。
セクシャルハラスメントは、男性が多く女性が少ない職場で多く見受けられ、性的な言動で不快な思いをしたり、実際に被害にあったりする女性が多くいます。
例としては、体を触られたり、嫌がっているにもかかわらず性的な内容の会話をしたり、強引に食事やデートに誘うなどです。
最近では、セクシャルハラスメントの相談窓口に被害を訴える女性も増えてきています。
賃金格差
世界でも男女間の賃金格差は問題視されていますが、日本でも同様です。
特に日本は、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中での男女間の賃金格差が、2020年ではワースト3位です。
参照元:男女間賃金格差|OECD
賃金格差は22.5%で、OECDの平均値の12.5%より10%も高い格差率です。
その背景には、やはりジェンダー・バイアスがあります。
女性は、家で家事・育児をするという性別役割分担が根強く残っていて、正社員で就職したとしてもすぐ辞めると思われ、昇進や昇給のスピードが抑えられているためです。
また、派遣社員などの非正規社員の数は女性が圧倒的に多く、正社員と比べると賃金が低いため、格差がどんどん広がっている原因にもなっています。
女性議員の数
女性の国会議員の数は、その国のジェンダー問題の現状を表すとも言われていて、日本は女性の国会議員数がかなり少ないです。
衆議院の女性議員の割合は、2020年の調査では9.9%で、世界の一院制議会の平均25%を大きく下回っています。
世界190か国で調査した結果、日本の順位は163位でOECD加盟国では最下位となっています。
女性の意見を政治に反映させる力は、日本では小さいことがうかがえます。
参照元:政治分野における男女共同参画の推進に関する法律|内閣府男女共同参画局
まとめ
世界でも日本でも、女性に生まれただけでジェンダー問題に苦しんでいる人はたくさんいます。
特に世界では古い慣習などが残り、自分の意志とは関係なく若くして結婚させられたり、教育を受けさせてもらえなかったりなど、人権を無視した扱いを受ける場合もあります。
また日本も自由な雰囲気がありますが、いまだに昔ながらの根深いジェンダー・バイアスによって、賃金格差や女性の政治参加などには、壁が多いです。
まずは、どのようなジェンダー問題があるかを知って考え、自分ができることを探してみましょう。