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ディープデカーボナイゼーションとは?脱炭素化との違いをわかりやすく解説

ディープデカーボナイゼーションとは?脱炭素化との違いをわかりやすく解説

地球温暖化対策が急務となる中、「ディープデカーボナイゼーション」という新しい概念が注目を集めています。従来の脱炭素化アプローチでは限界があることが明らかになり、より抜本的で包括的な変革が求められているのです。この記事では、ディープデカーボナイゼーションの基本概念から具体的な取り組みまで、わかりやすく解説します。

この記事で学べるポイント

  • ディープデカーボナイゼーションの基本概念と2℃目標との関係
  • 従来の脱炭素化アプローチとの根本的な違い
  • 世界各国が進める具体的な戦略と日本の現状

ディープデカーボナイゼーションとは何か

ディープデカーボナイゼーションとは何か

ディープデカーボナイゼーション(Deep Decarbonization)とは、産業化前からの地球の平均気温上昇を2℃未満に抑制するために必要な、大規模で包括的な脱炭素化戦略のことです。単なる二酸化炭素の削減ではなく、エネルギーシステム全体の根本的な変革を目指すアプローチを指します。

この概念は2013年に設立された国際的な研究プロジェクト「Deep Decarbonization Pathways Project(DDPP)」によって体系化されました。DDPPは日本、アメリカ、中国など16か国の研究チームが参加する大規模な国際協力プロジェクトで、各国が2050年までに実現すべき脱炭素化の道筋を科学的に分析しています。

基本的な定義と概念

ディープデカーボナイゼーションの「ディープ(深い)」という言葉には、表面的な改善ではなく構造的な変革という意味が込められています。具体的には、温室効果ガス排出量を2050年までに1990年比で80%以上削減することを目標としており、これは従来の環境対策の延長線上では達成できないレベルです。

このアプローチでは、エネルギーの生産から消費まで、社会システム全体を見渡した変革が必要とされます。例えば、化石燃料への依存から完全に脱却し、再生可能エネルギーを主軸とした新しいエネルギーシステムを構築することが求められます。また、産業プロセスの革新、建物の省エネ化、交通システムの電化など、あらゆる分野での同時並行的な変革が前提となります。

2℃目標との関係性

ディープデカーボナイゼーションは、2015年のパリ協定で合意された「2℃目標」の達成に直結する概念です。科学的研究により、地球温暖化による深刻な気候変動を回避するためには、産業化前と比較して地球の平均気温上昇を2℃未満、できれば1.5℃以下に抑制する必要があることが明らかになっています。

この目標を達成するためには、2050年頃までに世界全体の温室効果ガス排出量を実質ゼロにする必要があります。しかし、現在の各国の削減目標を合計しても、2℃目標の達成は困難な状況です。そこで登場したのが、より野心的で包括的なアプローチであるディープデカーボナイゼーションなのです。

このアプローチでは、短期的な削減目標だけでなく、2050年という長期的な視点から逆算して必要な変革の道筋を描きます。これを「バックキャスティング」と呼び、現在の延長線上で考える従来の手法とは根本的に異なるアプローチです。

脱炭素化との違いと特徴

脱炭素化との違いと特徴

一般的な「脱炭素化(デカーボナイゼーション)」とディープデカーボナイゼーションには、アプローチの深さと包括性において大きな違いがあります。従来の脱炭素化が段階的な改善を重視するのに対し、ディープデカーボナイゼーションは社会システム全体の構造的変革を前提としています。

従来の脱炭素化アプローチでは、既存の技術や制度の枠組みの中で効率化や改善を図ることが中心でした。例えば、火力発電所の効率向上や自動車の燃費改善などがその典型例です。これらの取り組みも重要ですが、2℃目標の達成には不十分であることが科学的に証明されています。

従来の脱炭素化アプローチとの比較

従来の脱炭素化アプローチの特徴は、現在の社会システムを前提とした漸進的な改善にあります。具体的には、エネルギー効率の向上、再生可能エネルギーの導入拡大、省エネ技術の普及などが主な手段となっていました。これらは確実に温室効果ガスの削減に貢献しますが、削減幅には限界があります。

一方、ディープデカーボナイゼーションでは、エネルギーシステムそのものの根本的な変革を目指します。化石燃料に依存した現在のエネルギーシステムから、再生可能エネルギーを基盤とした全く新しいシステムへの転換が前提となります。これには、発電方法の変革だけでなく、エネルギーの貯蔵、輸送、消費のあり方まで含めた包括的な変革が必要です。

また、従来のアプローチが個別分野での対策を積み上げるのに対し、ディープデカーボナイゼーションでは分野横断的な統合的アプローチを重視します。例えば、電力の脱炭素化と同時に交通の電化を進め、さらに産業プロセスの電化も推進するといった、相乗効果を狙った戦略が特徴的です。

包括的な変革が必要な理由

ディープデカーボナイゼーションが包括的な変革を求める理由は、気候科学の知見に基づいています。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書によると、2℃目標を達成するためには、2050年までに世界の温室効果ガス排出量を実質ゼロにする必要があります。これは、現在の排出レベルから80-90%の削減を意味し、従来の延長線上のアプローチでは達成不可能なレベルです。

さらに、エネルギーシステムには長期間にわたるインフラストラクチャーが関わっているため、段階的な変革では時間が不足します。例えば、火力発電所や製鉄所などの大型設備は数十年間稼働するため、新規建設を続けていては脱炭素化のタイミングに間に合いません。そのため、設備投資の段階から脱炭素化を前提とした根本的な転換が必要になります。

また、技術的な側面だけでなく、社会経済システムの変革も同時に必要です。エネルギー価格体系の見直し、労働市場の構造変化への対応、地域経済への影響緩和など、社会全体での適応が求められます。このような多面的な変革を統合的に進めることで、初めて2℃目標の達成が可能になるのです。

世界各国の取り組みと日本の現状

世界各国の取り組みと日本の現状

ディープデカーボナイゼーションは世界規模での協調的な取り組みが不可欠であり、各国が独自の事情に応じた戦略を策定しています。2013年に開始された国際的な研究プロジェクトを中心に、科学的根拠に基づいた政策立案が進められており、日本も重要な役割を担っています。

現在、世界の温室効果ガス排出量の約74%を占める16か国が参加する大規模な研究協力が行われています。これらの国々では、2050年までの長期戦略を策定し、短期的な政策との整合性を図りながら実行に移している段階です。各国の取り組みには地理的条件や産業構造の違いが反映されており、多様なアプローチから学び合う体制が構築されています。

Deep Decarbonization Pathways Project(DDPP)の役割

DDPPは、フランスの持続可能開発・国際関係研究所(IDDRI)と国連持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)が主導する国際的な研究プラットフォームです。このプロジェクトの最大の特徴は、各国の研究チームが政府の立場ではなく、独立した科学的視点から分析を行っている点にあります。

DDPPでは「バックキャスティング」という手法を採用しています。これは、2050年の目標から逆算して現在取るべき行動を導き出すアプローチで、従来の延長線上の思考から脱却した革新的な手法です。各国チームは共通の分析枠組み「ダッシュボード」を使用することで、炭素排出量、エネルギー消費、インフラ投資などの指標を統一的に追跡し、国際比較を可能にしています。

このプロジェクトの成果は、2015年のパリ協定交渉にも大きな影響を与えました。科学的根拠に基づいた具体的な脱炭素化の道筋を示すことで、各国政府の野心的な目標設定を後押しする役割を果たしています。現在も第二段階として、より多くの発展途上国への拡大や、分析手法の更なる精緻化が進められています。

主要国の戦略と日本の位置づけ

アメリカでは、DDPPの分析に基づき、2050年までのネットゼロ排出達成に向けた4つの柱が特定されています。電力部門の脱炭素化、エネルギー効率の向上、経済の電化推進、炭素回収技術の導入です。特に注目すべきは、これらの変革により経済成長への悪影響は最小限(GDP比0.4%のコスト)に抑えられるという分析結果です。

中国は世界最大の温室効果ガス排出国として、製造業の構造転換に重点を置いています。鉄鋼、セメント、化学工業などの重工業分野における革新的技術の開発と導入が急速に進められており、これらの分野だけで世界全体の炭素予算の20-25%を占める可能性があることから、国際的にも注目されています。

ヨーロッパ各国では、既存のEU排出量取引制度(EU-ETS)を基盤として、より包括的な政策パッケージの構築が進んでいます。ドイツでは再生可能エネルギーの大幅拡大と産業の電化を、フランスでは原子力を活用しながらの脱炭素化戦略を展開しています。

日本の場合、DDPPの分析では特に以下の分野での変革が重要とされています。まず、石炭火力発電への高い依存度からの脱却と再生可能エネルギーの大幅拡大です。次に、製造業における省エネ技術の更なる向上と、運輸部門での電化推進が挙げられます。また、建物部門での断熱性能向上と高効率機器の普及も重要な要素となっています。

実現に向けた具体的な戦略と技術

実現に向けた具体的な戦略と技術

ディープデカーボナイゼーションの実現には、技術革新と社会システムの変革が同時に必要です。研究により特定された基本要素を軸として、各分野での具体的な取り組みが世界各地で展開されています。これらの要素は相互に連関しており、統合的なアプローチが成功の鍵となります。

技術的な側面では、既存技術の大規模展開と革新的技術の開発が並行して進められています。再生可能エネルギーのコスト低下により、多くの地域で化石燃料との競争力が逆転しつつあります。同時に、蓄電技術、水素製造、炭素回収・利用・貯蔵(CCUS)などの新技術の実用化も加速しています。

4つの基本要素(電力・効率・電化・回収)

DDPPの分析により、ディープデカーボナイゼーションには4つの基本要素が不可欠であることが明らかになっています。これらは「電力の脱炭素化」「エネルギー効率の向上」「経済の電化」「炭素回収」で、相互に補完し合う関係にあります。

第一の「電力の脱炭素化」では、化石燃料による発電から再生可能エネルギーや原子力による発電への転換が中心となります。太陽光や風力発電のコスト低下により、多くの地域で経済性が確保できるようになっています。ただし、これらの変動性のある電源の大量導入には、蓄電技術や送電網の強化、需要側での調整機能の向上が必要です。

第二の「エネルギー効率の向上」は、最終的なエネルギー需要そのものを削減する取り組みです。建物の断熱性能向上、産業プロセスの最適化、機器の高効率化などが含まれます。これにより、必要な脱炭素エネルギー供給量を削減し、変革のコストを抑制することができます。

第三の「経済の電化」では、現在化石燃料を直接使用している分野を電力に置き換えます。電気自動車の普及、ヒートポンプによる暖房、産業用電気炉の導入などが代表例です。電力が脱炭素化されていることが前提となるため、第一の要素との連携が不可欠です。

第四の「炭素回収」は、電化が困難な分野や過程で発生する二酸化炭素を回収・利用・貯蔵する技術です。セメント製造や一部の化学工業、長距離航空など、電化による代替が技術的・経済的に困難な分野での切り札となります。回収した二酸化炭素を有効利用する技術開発も進んでいます。

産業別の変革アプローチ

電力部門では、2050年までに発電量の大部分を再生可能エネルギーで賄うことが目標となります。この実現には、発電設備の大幅増強に加え、電力系統の安定性確保が重要な課題です。スマートグリッド技術の導入により、需要と供給の調整を自動化し、変動性のある再生可能エネルギーの効率的利用を図ります。

運輸部門では、乗用車の電動化が急速に進んでいますが、大型トラック、船舶、航空機での脱炭素化がより困難な課題となっています。これらの分野では、水素燃料や合成燃料の活用、効率的な物流システムの構築が検討されています。また、都市部での公共交通機関の電化や、自転車・徒歩移動を促進する都市計画も重要な要素です。

建物部門では、新築建物のゼロエネルギー化と既存建物の大規模改修が両輪となります。断熱性能の向上、高効率空調設備の導入、太陽光発電の設置などにより、建物自体がエネルギーを生産する「エネルギープラス建物」の実現を目指します。また、建材の製造過程での脱炭素化も重要な課題です。

産業部門では、鉄鋼、セメント、化学などの基礎素材産業での革新が特に重要です。これらの産業では、製造プロセス自体から二酸化炭素が発生するため、従来とは全く異なる製造技術の開発が必要となります。水素還元製鉄、電気炉の活用、代替素材の開発などが進められており、国際的な技術協力も活発化しています。

今後の課題と私たちにできること

今後の課題と私たちにできること

ディープデカーボナイゼーションの実現には、技術的・政策的・社会的な多くの課題が存在します。しかし、これらの課題克服には政府や企業だけでなく、私たち一人ひとりの取り組みが重要な役割を果たします。個人レベルでの行動変容から企業での戦略的取り組みまで、様々な段階での参画が求められています。

日本では家庭部門からのCO2排出量が全体の約15%を占めており、個人の行動が脱炭素化に与える影響は決して小さくありません。また、消費者としての選択が企業の行動を変える力も持っています。このため、一人ひとりが環境問題を「自分事」として捉え、日常生活の中で実践可能な取り組みを継続することが重要です。

技術・政策・社会的な課題

技術面での最大の課題は、脱炭素技術のコスト低下と実用化の加速です。再生可能エネルギーは大幅にコストが下がりましたが、蓄電技術や水素製造、炭素回収・利用・貯蔵(CCUS)などの技術はまだ高コストで、大規模普及には時間がかかります。また、鉄鋼やセメント製造などの重工業分野では、従来とは全く異なる製造プロセスの開発が必要で、技術的ブレークスルーが求められています。

政策面では、長期的で一貫した政策枠組みの構築が重要です。ディープデカーボナイゼーションは数十年にわたる取り組みであり、政権交代があっても継続される政策の安定性が必要となります。また、炭素価格制度の導入や拡充、再生可能エネルギーへの投資促進、化石燃料からの転換を支援する制度設計などが課題となっています。

社会的な課題としては、エネルギー転換に伴う雇用への影響があります。石炭や石油関連産業で働く人々の雇用確保と、新しい産業への技能転換支援が必要です。また、脱炭素化に向けた設備投資や新技術導入のコストが、電気料金や製品価格に反映される可能性があり、社会全体でその負担をどう分担するかという課題もあります。さらに、国民の理解と協力を得るための情報発信と教育の充実も重要な要素です。

個人や企業レベルでの取り組み

個人レベルでできる取り組みは多岐にわたります。日常生活では、省エネ行動の実践が基本となります。LED電球への交換、エアコンの適切な温度設定、電気機器のこまめなスイッチオフなどの節電対策、節水、そして3R(リユース・リデュース・リサイクル)の実践が効果的です。また、移動手段として自転車や徒歩、公共交通機関の利用を心がけることで、運輸部門からの排出削減にも貢献できます。

消費行動の見直しも重要です。省エネ性能の高い家電製品の選択、地産地消の食材の購入、過度な消費の抑制、長持ちする製品の選択などが挙げられます。さらに、再生可能エネルギー由来の電力プランの契約や、太陽光発電設備の導入なども個人でできる積極的な取り組みです。投資面では、ESG投資を通じて脱炭素化に取り組む企業を応援することも可能です。

企業レベルでは、まず自社の温室効果ガス排出量の把握と削減目標の設定が出発点となります。製造プロセスの効率化、再生可能エネルギーの導入、サプライチェーン全体での排出削減などが基本的な取り組みです。また、脱炭素化を新たなビジネスチャンスとして捉え、環境配慮型製品の開発や新しいサービスモデルの構築に取り組む企業も増えています。従業員への環境教育や働き方改革による通勤時の排出削減なども効果的です。

ディープデカーボナイゼーションは、私たちの社会システム全体の根本的な変革を求める壮大な挑戦です。しかし、技術革新の進展と社会全体の意識の高まりにより、この変革は確実に進んでいます。政府、企業、そして私たち一人ひとりが連携し、それぞれの立場でできることを実践することで、持続可能な脱炭素社会の実現に向けた道筋を築いていくことができるのです。

重要なのは、完璧を目指すのではなく、できることから始めて継続することです。小さな行動の積み重ねが、やがて大きな社会変革につながります。未来の世代により良い地球環境を引き継ぐために、今日からできることを始めてみましょう。

参照元
・Deep Decarbonization Pathways Project | IDDRI https://www.iddri.org/en/project/deep-decarbonization-pathways-project

・Climate Solutions Series: Deep Decarbonization Pathways | CSIS https://www.csis.org/analysis/climate-solutions-series-deep-decarbonization-pathways

・Deep Decarbonization Pathways Project – Wikipedia https://en.wikipedia.org/wiki/Deep_Decarbonization_Pathways_Project

・Full article: The Deep Decarbonization Pathways Project (DDPP): insights and emerging issues https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/14693062.2016.1179620

・環境省|デコ活(脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動) https://ondankataisaku.env.go.jp/decokatsu/

・脱炭素化に向けて個人でできること15選!必要性についても紹介 | GXラボ | リコー https://www.ricoh.co.jp/magazines/green-transformation/column/decarbonization-cando/

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