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トレーサビリティとは?意味や種類、課題についてわかりやすく解説|日本の制度と2026年末の動き

トレーサビリティとは?意味や種類、課題についてわかりやすく解説!

トレーサビリティとは、商品が「いつ、どこで、誰の手を経て」手元に届いたのかを、記録をたどって確かめられる状態のことです。英語の trace(たどる)と ability(できること)を合わせた言葉で、「追跡可能性」と訳されます。農林水産省は食品について、食品の移動を把握できることと説明しています。

この記事では、トレーサビリティの意味と2つの種類を押さえたうえで、日本で法律上の義務になっている牛・米・水産物の制度を整理します。さらに、約2か月後の2026年12月30日に適用が始まるEUの森林破壊防止規則など、食品の外へ広がる動きにも触れます。

この記事で学べること

  • チェーントレーサビリティと内部トレーサビリティの違い
  • 牛・米・水産物で、法律により記録や表示が求められている内容
  • 中小の事業者がつまずきやすい3つの課題と、今ある伝票から始める方法
  • EUの森林破壊防止規則など、食品の外へ広がる動き
  • 「追跡できること」と「安全・持続可能であること」の違い

トレーサビリティの意味と2つの種類

トレーサビリティは、よく「商品の履歴書」にたとえられます。原材料の調達から生産、加工、流通、販売までの流れを、記録を通じて前後にたどれることが核心です。食品に限らず、自動車、電子部品、医薬品など多くの製造業で使われますが、何をどこまで記録するかは業界によって異なります。

ここでは、食品分野で使われる考え方を軸に、方向と範囲という2つの切り口で整理します。

事故のときに役立つ「遡及」と「追跡」

農林水産省は、食品トレーサビリティを、事故が起きたときに問題のある食品の出所を調べること(遡及)と、行き先を調べること(追跡)の両方ができる仕組みと説明しています。たとえば、ある店で売られた食品から異物が見つかったとします。このとき、遡及によって原料や製造ロットまでさかのぼり、追跡によって同じロットが届いた他の店舗を洗い出します。

記録がなければ、回収の範囲を絞れません。広めに回収するしかなくなり、費用も、廃棄される食品も増えます。トレーサビリティは、安全のための仕組みであると同時に、無駄な廃棄を減らす仕組みでもあります。

チェーントレーサビリティと内部トレーサビリティの違い

トレーサビリティは、記録をたどる範囲によって大きく2つに分けられます。

  • チェーントレーサビリティ…生産者、加工業者、卸売業者、小売業者といった事業者のあいだを線で結び、商品の流れを追えるようにするもの
  • 内部トレーサビリティ…ひとつの事業者や工場の中で、原料の受け入れから製造、出荷までの流れを追えるようにするもの

農林水産省の調査では、内部トレーサビリティを「入荷した食品の特定のロットと、出荷した食品の特定のロットを対応付ける記録の保存」と位置づけています。チェーンがきちんとつながるには、各社の内部が記録でつながっていることが前提になります。ある会社の記録が途切れていると、そこで線も途切れてしまうからです。

日本で法律上の義務になっているトレーサビリティ

トレーサビリティは「やったほうがよい取り組み」と受け止められがちです。しかし日本には、牛、米、一部の水産物について、法律で記録や情報伝達を求めている制度があります。

食品全般のトレーサビリティは、農林水産省が手引きやマニュアルで取り組みを促す形です。一方、牛・米・水産物は、事業者に義務が課される別枠の制度になっています。身近な食材ほど、制度の中身を知っておくと買い物の見え方が変わります。

牛肉は10桁の個体識別番号でたどれる

牛肉は「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」(牛トレサ法)の対象です。国内で飼われる牛には、原則として10桁の個体識別番号が印字された耳標がつけられます。この番号は牛肉のパックにも表示され、インターネットで牛の生産履歴を検索できます。

特定牛肉(枝肉、部分肉、精肉など)を売る事業者には、個体識別番号の表示と帳簿の備え付けが求められます。ただし、コンビーフなどの加工・調理品、舌、ひき肉、くず肉などは対象外です。「牛肉ならすべて番号がついている」わけではない点は、誤解されやすいところです。

米は取引記録と産地情報の伝達が義務

米と米加工品には、米トレーサビリティ法があります。取引記録の作成・保存は2010年10月1日から、産地情報の伝達は2011年7月1日から義務になりました。対象は、米や米加工品を販売、輸入、加工、製造、提供するすべての事業者で、生産者も含まれます。記録は原則3年間保存します。

米を使った弁当や外食、米菓などの加工品も対象に入ります。スーパーで米の産地表示を見かけるのは、この制度が背景にあります。

水産物は違法漁獲の流通を防ぐ制度が広がっている

水産物では、違法に採った水産動植物の流通を防ぐため、水産流通適正化法が運用されています。この法律では、対象魚種の採捕事業者と取扱事業者に、行政への届出、取引相手への情報伝達、取引記録の作成と3年間の保存が求められます。

対象は段階的に広がってきました。アワビとナマコに続いて、2025年12月からはウナギの稚魚(全長13cm以下)が加わりました。さらに2026年4月1日からは、30kg以上の太平洋クロマグロの大型魚(解体前のもの)の流通ルールも加わっています。対象が増えるたびに、漁業者から市場、卸、小売までの各段階で記録の持ち方が問われます。

なぜトレーサビリティが必要なのか

トレーサビリティの目的は、「万一の備え」だけではありません。生産者・事業者・消費者のそれぞれにとって、意味が異なります。

事故が起きたときの対応を早める

記録が整っていれば、問題が起きた原因を特定しやすくなり、回収や取引再開までの時間を短くできます。記録がなければ、原因の調査に人手と時間がかかり、その間は出荷を止めざるを得ない場合もあります。「毎日の記録が、いざというときの時間を買う」と言い換えられます。

また、どこまで記録が残るかを全員が知っていると、現場の確認が丁寧になるという面もあります。事故を減らす効果は、記録そのものより、記録を前提に動く習慣から生まれます。

消費者が選ぶ手がかりになる

豚肉が国産か外国産か分からない状態では、安心して買い物をしにくいものです。産地や生産者、製造者の情報が分かれば、消費者は自分の基準で選べます。情報が開示されているだけで買う理由になる場面もあれば、情報がないことが買わない理由になる場面もあります。

取引先や投資家からの信頼につながる

どこで、どんな原料を使い、どんな工程で作っているのかを説明できることは、企業の透明性を示します。大手企業では、取引先から求められることをきっかけに導入が進んできました。説明できる体制は、取引を続けるための条件にもなりつつあります。

食品トレーサビリティの3つの課題と、今日から始める方法

身近な食品でも、トレーサビリティの取り組みにはばらつきがあります。農林水産省は、令和4年度に生産者と流通加工業者を対象に意識・意向調査を行い、内部トレーサビリティを中心に分析しました。この分析でも、特に中小零細企業で取組率が低いと整理されています。ここでは、現場でつまずきやすい3つの課題を見ていきます。

課題1 中小零細企業で取り組みが進みにくい

大手企業は取引先からの要請で導入が進む一方、中小零細企業は要請が少なく、後回しになりがちです。人手が限られる現場では、通常の業務に記録作業が加わること自体が重い負担になります。

最新の取組率は、農林水産省が公表している調査報告書で確認できます。調査によって対象や設問が異なるため、数字を比べるときは調査年度と対象を必ず確認してください。

課題2 すでにやっているのに気づいていない

「トレーサビリティは難しそうだ」と身構える事業者は少なくありません。しかし、伝票や日報の保存は、すでにトレーサビリティの一部です。

  • 生産者…出荷時の伝票を保存している
  • 製造・加工・卸・小売業者…入荷時の伝票を保存している
  • 製造・加工業者…製造日時など製造工程の記録を保存している
  • 製造・加工・卸・小売業者…出荷・販売時の伝票を保存している

ここまでできていれば、第一歩は踏み出しています。次の段階が、入荷したロットと出荷したロットを対応付ける内部トレーサビリティです。

課題3 何をどこまで記録するかが分かりにくい

「どう取り組めばよいか」「どれくらい保存すればよいか」が分かりにくいことも、導入の壁です。農林水産省は、この負担を減らすために、食品トレーサビリティシステム導入の手引きや、業種別のマニュアルを公開しています。マニュアルは、意味や効果を説明する総論と、記録様式を示す取組手法編で構成されています。農業、畜産業、漁業、製造・加工業、卸売業、小売業、外食・中食業ごとに各論があるため、自分の業種のページから読み始められます。

記録の目的を従業員全員が理解していると、作業が増えても気持ちの負担は軽くなります。「なぜ書くのか」を共有することが、仕組みの定着には欠かせません。

食品の外へ広がるトレーサビリティ|EUの規則と人権への対応

トレーサビリティは、食品の安全だけのものではなくなっています。森林破壊や人権侵害に関わっていないことを示すため、原材料の産地までたどる動きが、国や地域のルールとして広がっています。

EUの森林破壊防止規則(EUDR)が2026年12月30日に適用開始

EUの森林破壊防止規則は、牛、木材、カカオ、大豆、パーム油、コーヒー、ゴムといった品目と、その派生製品(革、チョコレート、タイヤ、家具など)を対象にしています。事業者には、製品が最近森林破壊された土地に由来せず、森林劣化にも寄与していないことを示すことが求められます。生産地の位置情報などを提出する仕組みが必要になると説明されています。

欧州委員会によると、大企業・中規模事業者への適用は2026年12月30日、零細・小規模事業者は2027年6月30日です。この規則は2024年12月と2025年12月に改正され、行政負担を減らす簡素化措置が入りました。適用日はこれまでにも延期されており、直前まで制度の細部が変わる可能性があります。EUへ輸出する日本企業や、その取引先は、最新の情報を公式ページで確認する必要があります。

人権尊重のサプライチェーンでも「たどれること」が前提になる

経済産業省は2022年9月13日に、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を公表しました。人権方針の策定、人権デュー・ディリジェンス(人権への悪影響を特定し、防止・軽減する取り組み)の実施、救済の仕組みの整備を柱にしています。

ガイドラインそのものは、トレーサビリティの導入を義務づけるものではありません。ただ、取引先や原材料の調達先を把握できていなければ、人権リスクがどこにあるかを特定できません。原料の産地までたどれる記録は、人権への対応でも土台になります。食品の安全のために始めた記録が、のちに環境や人権への説明にも使える可能性があります。

「たどれる」ことと「安全・持続可能」は同じではない

トレーサビリティは便利な仕組みですが、万能ではありません。誤解されやすい点を3つ挙げます。

追跡できても、安全とは限らない

トレーサビリティが示すのは「どこを通ってきたか」であって、「安全か」ではありません。記録があれば問題の原因は特定しやすくなりますが、問題そのものを防ぐわけではありません。安全は、衛生管理や検査といった別の取り組みと組み合わせて確保するものです。

記録の信頼性は別に確かめる必要がある

書かれた記録が正しいかどうかは、記録の仕組みだけでは保証できません。不適正な表示が行われた場合、農林水産省が事業者に対して勧告を出すことがあります。個体識別番号の不適正表示や未表示を理由にした勧告も、近年の公表資料に複数あります。制度があることと、現場で守られていることは、別の問題です。

環境にやさしいという主張には、別の根拠が必要

産地や工程がたどれることは、環境負荷が小さいことを意味しません。環境面の主張をするなら、たどった先の情報(栽培方法、輸送、認証の有無など)を別に示す必要があります。トレーサビリティは、環境配慮の主張を確かめるための入口にあたります。入口があるだけで、環境配慮が証明されたわけではありません。

立場別に見る、今日からできる確認と行動

仕組みを知っても、行動に結びつかなければ生活は変わりません。消費者と事業者それぞれの立場で、今すぐできることをまとめます。

消費者ができること

牛肉を買うときは、パックの10桁の個体識別番号を、農林水産省が案内する検索ページで調べてみてください。生産地や飼育の履歴が分かります。年末に向けて牛肉や魚介類を買う機会が増える時期なので、買い物のついでに試しやすいと思います。

米やその加工品では、産地表示を見る習慣がつくと、選ぶ基準が増えます。水産物の産地や漁法の表示も、確認する手がかりになります。ただし、表示がない商品を「悪い商品」と決めつけず、情報が足りない理由を調べる姿勢で見るのがよいでしょう。

小さな事業者ができること

まずは、今ある入荷伝票、製造記録、出荷伝票を同じ場所に保管するところから始めます。次に、入荷した原料と出荷した商品のロットを対応付ける記録を、紙一枚から作ります。業種別の様式は、農林水産省のマニュアルに載っています。

取引先から産地や原料の情報を求められたときに、すぐ答えられる状態にしておくことも大切です。EU向けの輸出や、大手企業との取引がある場合は、取引先に必要な情報の範囲を早めに確認しておくと、準備の無駄を減らせます。

まとめ

トレーサビリティは、商品の「いつ、どこで、誰の手を経たか」を記録でたどれる状態のことです。事業者のあいだを結ぶチェーントレーサビリティと、自社の中を結ぶ内部トレーサビリティがあり、チェーンがつながるには各社の内部が記録でつながっている必要があります。

日本では、牛、米、一部の水産物が法律の対象です。水産物では対象魚種が広がり、2026年4月からは大型の太平洋クロマグロも加わりました。さらに、約2か月後の2026年12月30日には、EUの森林破壊防止規則が大企業・中規模事業者に適用されます。食品の安全のための記録は、環境や人権への説明にも使われる場面が増えています。

一方で、たどれることは安全や環境配慮を保証するものではありません。記録の正しさや、たどった先の中身は、別に確かめる必要があります。まず、手元の伝票を1か所にまとめることから始めてみてください。

  • トレーサビリティは、遡及と追跡の両方ができる「商品の履歴書」
  • 牛・米・水産物は、法律で記録や表示、情報伝達が求められている
  • 中小零細企業は取組率が低いが、すでに保存している伝票が第一歩になる
  • EUDRは2026年12月30日に適用が始まり、輸出企業と取引先は最新情報の確認が必要
  • たどれることは、安全や環境配慮を保証するものではない

参考文献

  • 記事を書いたライター
  • ライターの新着記事
MAMI FUJITA

ライター&オンライン講師。小学校教諭歴6年。退職後、社会との繋がりに悩む専業主婦がサステナブルライフと出会って自分らしい生き方を叶える。現在はサステナブルライフ、SDGs、食、教育分野の記事を執筆中。自分・社会・環境を大切にする輪を広げたい。著書『ふだん使いのSDGs:自己肯定感ゼロから解放される!家事BOOK!』

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