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SDGs

インドの衛生問題|屋外排泄が生む健康・安全リスクと2025年現在の課題

インドが抱える衛生問題とは?問題が起きる原因と対策を解説!

SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」は、今もなお達成が難しい目標の一つです。世界規模で屋外排泄は減少しているとはいえ、絶対数としての課題が最も大きい国の一つがインドです。蛇口をひねれば飲料水が出る日本とは正反対の現実が、インドの農村部には広がっています。この記事では、インドの衛生問題が生む具体的な被害、その背景にある構造的な原因、そして2025年時点での対策の進捗と残された課題を整理します。

インドの屋外排泄をめぐる現状|数字で見る2024年時点の実態

かつてインドは、世界で最も屋外排泄の人口が多い国とされていました。2011年の国勢調査では戸別トイレの普及率は約47%にとどまり、屋外排泄人口は5億9,000万人と世界最多を記録していました。

その後、国家規模の衛生改善政策が進んだ結果、数値は大きく変わっています。 2024年時点でのWHO/UNICEFのデータによると、インドの屋外排泄率は2000年の73%から7%へと、約62%削減されたとされています。 これは、国としての取り組みが一定の成果を上げていることを示す数字です。

ただし、「率」が下がっても「絶対数」は依然として深刻です。 2023年時点での調査では、インドの世帯の約12.5%がトイレを持っておらず、1億6,200万人以上がトイレなしの環境で生活しているとされています。 また、トイレを持たない世帯の70%以上が、わずか6州に集中しています。 数字の進捗と地域ごとの格差は、切り離して考えることができません。

さらに、 政府発表は「トイレ建設数」に基づいているため、実際の使用率とは異なります。建設されたトイレの中には、水不足・維持管理不足・文化的理由などで使用されていないものが多数存在します。 こうした「建設と利用のギャップ」は、インドの衛生問題を理解する上で最も重要な視点の一つです。

屋外排泄が引き起こす健康被害|子どもと女性への影響が深刻

トイレのない環境がもたらすリスクは、単に不衛生というにとどまりません。感染症、暴力被害、教育機会の損失など、複数の深刻な問題が連鎖しています。

感染症と子どもの死亡

屋外に排泄された糞便が水源に混入することで、下痢や感染症が広がります。ガンジス川をはじめとした河川では、排泄が行われると同時に洗濯や入浴も行われています。貴重な生活用水であるその川の水が汚染されれば、病気を引き起こすリスクは避けられません。

インドに関する研究では、人口密度が高い地域ほど屋外排泄による健康への悪影響が大きいことが示されており、「同じ量の屋外排泄であっても、インドのような人口密度の高い場所では、人口密度の低いサブサハラアフリカと比較して2倍の悪影響がある」とされています。

子どもへの影響は特に深刻です。 インドでは、一日に1,600人もの子どもが下痢症により命を落としているとも言われています。きちんとしたトイレがないと、病原菌を含んだ排泄物が適切に処理されず、飲み水の水源や食品汚染の原因となるためです。

女性と少女への暴力リスク

安全で個室のトイレがないことは、女性や少女を暴力にさらしやすくし、少女の教育の妨げにもなります。女性たちは排泄のために人目を避けた場所を探す中で、性的暴行やレイプのリスクにさらされています。

屋外排泄は女性を性的暴力のリスクにさらします。特に夜間や早朝の移動は危険を伴います。家庭内トイレは女性が安全な環境で用を足すことを可能にし、尊厳を守ります。また、学校での女子専用トイレは、月経期間中の欠席を減らし、教育機会を保護します。

さらに、犯罪や動物を恐れてトイレに行く回数を減らすために我慢したり、水を飲む量を抑えたりすることで、新たな健康被害を招く悪循環も生まれています。インドのウォーターエイドによれば、こうした状況は今も農村部を中心に続いています。

屋外排泄が続く2つの背景|インフラ不足と文化的慣習

なぜ健康や安全への悪影響が明らかにもかかわらず、屋外排泄が続いてきたのでしょうか。大きく分けて2つの背景があります。

インフラ整備と維持管理の困難さ

インドでは技術・資源・資金の不足を理由に、下水道設備の整備が長年遅れてきました。特に農村部では、 どのようなトイレでもよいというわけではなく、高品質なものを普及させることが求められています。長期の使用に耐え、非汚染性であることによって、水と土壌の汚染を最小限に抑えるとともに、持続的な使用を促すことができます。

実際に、 建設の質の低さや不適切な技術設計を原因として、多くのトイレが未使用のまま、あるいは短期間使用されただけで放置されています。 汚水槽がいっぱいになれば回収・処理のコストがかかるため、それを面倒と感じてトイレ使用を避ける人も多く、設置数と使用率の間に大きな乖離が生まれています。

2022年の調査によると、インドの農村部の学校の約76.2%が使用可能なトイレを持っていましたが、約21%の学校では管理不足により使用不能な状態でした。この数字は、建設だけでなく維持管理の重要性を示しています。

宗教・文化的な背景

ヒンドゥー教の古代・中世の聖典「ヴィシュヌ・プラーナ」には、自宅から離れた場所で用を足すべきという教えが記されており、幼い頃からその価値観が育まれてきた文化的背景があります。

農村部の女性たちにとっては、屋外排泄の場が他人の束縛なく自由に話し合い、一緒に時間を過ごすための口実になっている地域もあります。 つまり、トイレ設置だけでは解決できない、社会的な交流の場としての機能が屋外排泄に埋め込まれているケースもあるのです。

長い時間をかけて人々の暮らしに根付いた慣習を変えるには、ハード面のインフラ整備と、ソフト面の教育・意識変容の両方が不可欠です。

スワッチ・バーラトの成果と限界|2014年から2025年まで

インド政府は2014年10月、モディ首相の主導で「スワッチ・バーラト・ミッション(Swachh Bharat Mission/クリーン・インディア運動)」を開始しました。 この国家的キャンペーンは、マハトマ・ガンジー生誕150周年となる2019年までに「屋外排泄ゼロ(ODF)」を達成することを目標に掲げました。

5年間での成果は数字の上では大きく、 5年間で1億個のトイレが建設され、5億人の生活に影響を与え、農村部の衛生カバー率は38.7%から100%へと改善したとされています。 また、WHOは、スワッチ・バーラト・ミッションが2014年から2019年の間に30万人の死亡を防ぎ、1,400万DALYs(障害調整生存年)の損失を回避したと推定しています。

経済的な恩恵も確認されています。 トイレを持つ世帯は、医療費の節減や時間・生命の価値として年間約5万インドルピー(約780米ドル相当)の便益を得ており、トイレ建設のコストに対して便益が7倍を超えるとされています。

一方で、課題も浮き彫りになりました。 UNICEFによるとスワッチ・バーラト・ミッションの第1フェーズで屋外排泄人口は5億人減少したとされる一方、トイレを持っているにもかかわらず使用しないという報告もあります。 トイレを建てることと、トイレを日常的に使う行動に変えることの難しさが、政策の最大の壁となりました。

こうした反省を踏まえ、 モディ政権はスワッチ・バーラト・ミッション第2フェーズを2020年から2025年にかけて実施し、廃棄物の分別促進と屋外排泄のさらなる撲滅に焦点を当てています。 また、インド水省のデータによると、総村数の50%にあたる約29万6,000以上の村がODFプラス(ODFを維持しつつ固体・液水廃棄物管理も実施する村)を宣言しています。

日本企業・国際機関による支援|LIXILとJICAの取り組み

インドの衛生問題に対しては、日本企業や国際機関も独自の解決策を持ち込んでいます。ハード面とソフト面、それぞれのアプローチを見てみましょう。

LIXILの簡易トイレ「SATO」

日本のLIXIL(リクシル)は、少量の水で排泄物を処理できる簡易トイレ「SATO」を開発し、インドをはじめとする途上国へ展開してきました。 SATOの新製品「Vトラップ」モデルは、独自の弁システムによって汚物を流すのに必要な水量を1回あたりわずか500mlに抑えており、従来型トイレと比較して約80%の洗浄水量を削減しています。

また、 汚物を貯留するピットを棒1本で簡単に切り替えることができ、手が汚れることなく衛生的に維持管理できる仕組みになっています。 水が乏しい農村部でも使いやすいよう設計されており、現地の2ピット式土壌浸透型システムとも組み合わせられます。

さらに、2024年には教育省が主導するかたちで、 全国で35,457個の女子用トイレが建設され、3,656校の改修と13,882校のスマート化が進められました。 学校環境の整備が、少女の教育継続につながるとして重視されています。

JICAによる教育・環境配慮型トイレの普及

独立行政法人国際協力機構(JICA)は、複数の角度からインドの衛生問題に関わってきました。2018年からは朝日新聞社・博報堂とともにインドの小学校で衛生・環境問題をテーマとした課外学習を導入し、ワークショップやイベントを通じて屋外排泄への意識変容を働きかけています。

同じく2018年からは、汚水を自然に流さない環境配慮型トイレの普及・実証事業をガンジス川流域で開始し、約1,000基の公衆トイレを設置。女性管理者が常駐することで衛生状態の維持と女性の雇用創出を同時に目指す、複合的なアプローチを採っています。

また京都産業大学の2024年の現地調査では、インドのNGO「TARA」が日本の大成工業と連携して開発した「TSS設備」が注目されています。 TSSは水も電気も必要とせず、メンテナンスも7年に一度で済むほど費用がかからない仕組みになっており、インドでの広い普及が期待されているシステムです。

2030年のSDG6達成に向けた残された課題

数字の上では大きく前進したインドの衛生改善ですが、SDGs目標6.2が求める「安全に管理されたトイレ」の普及という観点では、まだ多くの課題が残っています。

2030年のSDG目標達成には現在の進捗速度を6倍にする必要があるという試算もあります。 政府の公式宣言と現場の実態との間にあるギャップを埋めるには、次の3点が特に重要とされています。

  1. トイレの質と維持管理:建設後に使われなくなるトイレを減らすため、現地の地形・水源・住民の生活習慣に合わせた設計と、維持管理を担える人材の育成が求められます。
  2. 地域格差の是正:トイレを持たない世帯の70%以上が特定の6州に集中しているという現実があり、遅れている州・社会経済層への集中投資が必要です。
  3. 行動変容教育の深化: トイレへのアクセスを提供することはさほど難しい問題ではなく、それよりも難関なのは人々にトイレを使用させることです。 ハードの整備と並行して、コミュニティ主導の行動変容プログラムが欠かせません。

また、インドの河川は海へとつながっています。ガンジス川流域の水質汚染は、インド国内だけでなく海洋環境全体にも影響を与えるため、衛生問題は国境を越えた地球環境問題でもあります。

私たちにできること|日本から見た衛生問題との向き合い方

インドの衛生問題に、日本で暮らす私たちが直接できることは限られています。しかし、それを「遠い国の話」として終わらせないためのアクションはあります。

まず意識したいのは、日本の衛生環境が「当たり前」ではないという認識です。蛇口の水をそのまま飲めること、清潔なトイレが無料で使えること——これらは世界標準ではありません。その認識は、日常の節水行動や水の使い方を見直す出発点になります。

具体的に関わりたい方には、以下のような選択肢があります。

  • ウォーターエイドジャパンやハビタット・フォー・ヒューマニティ・ジャパンなど、インドの衛生改善を支援するNGOへの寄付
  • LIXILの「みんなにトイレをプロジェクト」などの企業連携型支援への参加・応援
  • SDGs目標6に関する情報を学び、SNSや身近な人との対話で共有すること

まずは「世界でトイレを持てない人がまだ1億6,000万人以上いる」という事実を、自分の言葉で誰かに伝えることから始めてみてください。

インドの衛生問題やSDGs目標6について、さらに詳しく学びたい方は以下の関連記事もご覧ください。

まとめ

インドの衛生問題は、単なる「トイレの数不足」ではありません。インフラ整備の遅れ、維持管理体制の欠如、宗教・文化的慣習、そして深刻な地域格差が複雑に絡み合っています。スワッチ・バーラト・ミッションによって屋外排泄率は2000年比で大幅に低下したものの、2023年時点でも1億6,200万人以上がトイレなしの生活を送っています。2030年のSDG6達成には、建設だけでなく「使い続けられる環境」を整える視点が欠かせません。

  • インドの屋外排泄率は2000年の73%から2024年には約7%へ大幅に低下したが、1億6,200万人以上が依然としてトイレなしの環境にいる
  • 屋外排泄は感染症・子どもの死亡・女性への暴力リスク・教育機会の損失など複数の問題を連鎖させる
  • スワッチ・バーラト・ミッションは5年間で1億基のトイレを建設し30万人の死亡を防いだと推計されているが、使用率や維持管理の課題が残る
  • LIXILの「SATO」やJICAの環境配慮型トイレ普及事業など、日本からの技術・教育支援が現地で成果を上げている
  • 2030年のSDG6達成には現状の進捗速度を6倍にする必要があるとされ、地域格差の是正と行動変容教育の深化が急務
  • 記事を書いたライター
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会社員とのパラレルキャリアを経て、独立。 執筆ジャンルは主に、SDGs、旅行、ファッション。現在、複数のメディアで記事を掲載。 SDGsに関心を持ったきっかけは、ハワイへの語学留学中、日本のSDGsに関する取り組みの遅れを感じたこと。 より多くの人に、環境への取り組みを知ってほしいと思い、2021年6月より「MIRASUS」にて執筆を開始。

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