「投資」という言葉を聞いて、あなたはどんなイメージを持つでしょうか。「お金がある人がするもの」「とにかくリターンを増やすもの」——そういった印象を持つ方も多いかもしれません。しかし近年、投資の世界で「リターン」の定義そのものが変わりつつあります。社会や環境にとっての「プラスの変化」を、お金を動かすことで意図的につくり出そうという考え方が広がっています。それが「インパクト投資」であり、「エシカル投資」です。2026年2月20日、GSG Impact JAPANが「インパクト投資に関する消費者意識調査」2025年度版を公開するなど、国内での関心も高まっています。今回は、この投資の新しい潮流をわかりやすく解説します。
そもそも「インパクト投資」とは何か
インパクト投資とは、財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的および環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資行動を指します。従来、投資は「リスク」と「リターン」という2つの軸により価値判断が下されてきましたが、これに「インパクト」という第3の軸を取り入れた投資です。
この「インパクト」とは、投資によって実際に生まれた社会的・環境的な変化や効果のことです。たとえば、再生可能エネルギーの普及に貢献した度合いや、雇用機会の創出につながった実績などが含まれます。
一方「エシカル投資」は、倫理的(エシカル)な観点から企業や事業を選んで資金を向ける投資スタイル全般を指します。武器製造や環境破壊につながる事業を投資先から除外するネガティブ・スクリーニングや、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)に優れた企業を評価するESG投資も、広い意味でのエシカル投資の一形態です。
インパクト投資はESG投資と同様、サステナビリティや責任・責務の実現を目指し、財務的リターンとの両立を目指す点で共通する基盤を持ちます。一方で、インパクト投資は「投資がもたらす社会面・環境面での課題解決」をより強く意図している点で異なります。
つまり、ESG投資が「課題へのリスク配慮」を主軸とするのに対して、インパクト投資は「課題そのものを解決する」ことを投資の目的の中心に置くと整理できます。
日本での市場規模と最新の動き
GSG国内諮問委員会(現GSG Impact JAPAN)の調査によると、2023年6月末時点の日本のインパクト投資残高は、前年度比197%の11兆5,414億円でした。また、銀行や運用機関、保険会社などインパクト投資に取り組む機関数も年々増えており、同調査においてはインパクト投資の要件を満たす58組織の投資残高の合計として算出されています。
数字だけを見れば急成長ですが、課題も残ります。
国内のインパクト投資残高は2023年6月末時点で約11.5兆円と、ESG投資残高と比較してまだ限られた規模にとどまっているとされています。
政府も動き出しています。
金融庁は、インパクト投資の実現に期待される基本的要素を示した指針の策定に向けた検討を重ね、国内外の幅広い関係者からの意見を踏まえ、2024年3月末に「インパクト投資(インパクトファイナンス)に関する基本的指針」を正式に策定しました。
さらに、2024年6月に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2024年改訂版」には、経済的リターンと社会的・環境的効果との両立を目指すインパクト投資の推進が盛り込まれました。
また、年金積立金の運用においてインパクトを含む非財務的要素を考慮することについての政府の見解が示されたとされており、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がインパクト投資に本格参入する可能性が開かれたことは、市場の裾野を広げる動きとして注目されています。
また、インパクト実現を図る経済・金融の多様な取り組みを支援するため、官民連携の「インパクトコンソーシアム」が設置されたとされています。
投資家・金融機関、企業、NPO、自治体など幅広い関係者が協働・対話を図る場として機能しており、2026年2月時点でも分科会の活動が継続しています。
なぜいま「インパクト」が問われるのか
SDGsの達成期限である2030年まで残り4年を切りました。世界が直面する気候変動・生物多様性の喪失・貧困・教育格差といった課題の解決には、公的資金だけでは到底まかなえない規模の資金が必要とされています。
SDGsやカーボンニュートラルといった地球規模の課題解決に向けて現状莫大な資金ギャップが存在しますが、これはすなわち投資や事業の機会であるととらえる投資家も出始めています。
つまり、社会課題の解決こそが次の経済成長の源泉になりうる——そういった発想の転換が、インパクト投資の広がりを後押ししています。
日本のインパクト投資をめぐる課題としては、①認知と理解の不足、②プレーヤーの不足、③社会的基盤の不足、という「3つの不足」が挙げられます。またこの3つの不足が、結果としてインパクト投資に関する実例の不足につながっており、今後、多様なステークホルダーとの連携・協力を強化し、これらの不足を解決していく必要があります。
「測定」がインパクト投資の要
インパクト投資を一般的な社会貢献的投資と区別する重要な特徴が「測定可能性」です。
「投資収益の確保を図りつつ、社会・環境的効果(インパクト)の実現を企図する」インパクト投資は、「投資先と投資効果を個別に特定・コミット」する点が特徴であり、社会・環境課題への対応と事業性が相互に補完・強化し、両立する好循環を実現することが目指されています。
この「インパクト測定・マネジメント(IMM)」の手法を企業と投資家が対話しながら磨いていく取り組みは、2026年に入っても国内で継続されています。GSG Impact JAPANは2026年1月に「日本のインパクト企業とのIMM(インパクト測定・マネジメント)に関する対話・ワークショップ」第3弾を開催しており、実践的なノウハウの普及が進んでいます。
個人にもできること
インパクト投資やエシカル投資は、大きな機関投資家だけのものではありません。近年は、個人でも参加しやすい手段が増えています。
- ESG投資信託・ETF:ESG評価の高い企業を対象とした投資信託や上場投資信託(ETF)が、多くの証券会社で購入できます。
- ソーシャルレンディング・インパクトファンド:社会課題解決に取り組む事業者への融資・出資を通じて、投資家が間接的に課題解決に関わる手段です。
- グリーンボンド・ソーシャルボンド:再生可能エネルギーや社会インフラに資金を使途限定して調達する債券で、個人向けに発行されるケースも増えています。
どの手段も、「利回りだけでなく、何に資金が使われるか」を確認することが第一歩です。
まとめ|「投資の目的」を問い直す時代へ
インパクト投資・エシカル投資は、お金の使い方を通じて社会の課題解決に参加する手段です。政府の指針整備や官民連携の場の設立が進む日本でも、その裾野は着実に広がっています。
大切なのは「完璧な投資先を探すこと」ではなく、「自分のお金がどこに流れ、何を生み出しているか」を意識することかもしれません。SDGsの達成に向けたカウントダウンが続くなか、一人ひとりの「お金の意思決定」が、社会を変える力になる時代が来ています。

