蛇口をひねれば清潔な水が出る日本では、なかなか実感しにくいことかもしれません。しかし今この瞬間も、世界では4人に1人が安全な水を得られない生活を送っています。
2025年8月の世界水週間に合わせてユニセフとWHOが発表した報告書「家庭用飲み水と衛生状況の進展(2000年~2024年):不平等に焦点を当てて」は、一定の進展が見られるものの、重大な格差が依然として存在することを明らかにしています。
SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」の達成期限まで残り5年を切った今、水衛生問題の現状と私たちにできることを改めて考えてみましょう。
水衛生問題とは|世界の現状を最新データで確認する
水衛生問題とは、安全な水・トイレ・衛生環境へのアクセスにおける格差問題を指します。
2024年時点、世界では21億人が安全に管理された飲み水を利用できず、このうち1億600万人は、湖や河川、用水路などの未処理の地表水を使用しています。
トイレをめぐる状況も深刻です。
34億人が安全に管理されたトイレを利用できておらず、そのうち3億5,400万人は今も野外排泄を行っています。また、17億人が基本的な手洗い設備を自宅に持たず、6億1,100万人はいかなる衛生設備にもアクセスできていません。
一方で、
安全に管理された飲み水を利用できる人の割合は、2015年の68%から2024年の74%まで改善しています。
ただし、
SDGsの達成期限まで残り5年となる中、2030年目標である野外排泄の根絶や、基本的な水と衛生設備のすべての人への普及を達成するには、さらなる加速が不可欠で、安全に管理されたサービスを世界中に普及することは、現状においてますます達成が困難な状況となっています。
水衛生問題がもたらす5つの影響
水や衛生環境へのアクセスが不十分であることは、命や生活に直結するさまざまな問題を生み出します。
1. 下痢・感染症による死亡リスク
安全な水が手に入らない人々は、不衛生とわかっていながらも川や池の水を口にするほかありません。同じ水源で排泄・洗濯・入浴が行われることで、下痢や感染症の悪循環が生まれます。病気になっても働けず収入が途絶え、適切な治療を受けられないまま命を落とすケースも少なくないとされています。
2. 女性・子どもへの過重な負担
ほとんどの国で、水くみは女性と女の子が主に担っており、サブサハラアフリカや中央・南アジアでは毎日30分以上を水の確保に費やしている人も多くいます。
水くみに時間を取られることで、子どもは学校に通えず、女性は自由に働く機会を奪われます。
ユニセフのWASH担当ディレクター、セシリア・シャープは「こういった不平等は、特に女の子にとって深刻です。彼女たちは水くみの負担を負っている上、月経期間中にはさらなる障壁に直面します」と述べています。
3. 性犯罪リスクの高まり
安全なトイレがないために、人目を避けた場所や時間帯に野外排泄をせざるを得ない状況は、性犯罪が起きやすい条件を作り出します。
2024年時点でも3億5,400万人が野外排泄を続けており
、特に女性や女の子のリスクは深刻です。野外排泄には性犯罪のほか、野生動物や害虫による危険も伴うとされています。
4. 水質汚染と環境への影響
上下水道が整備されていない地域では、生活排水が処理されないまま河川に流れ込み、それが海へと広がります。こうした水質汚染は海洋生態系や漁業への影響も懸念されています。先進国の工業排水だけでなく、衛生インフラの未整備もまた水質汚染の一因となっています。
5. 水をめぐる紛争
水資源の不足は、村や地域の範囲にとどまらず、国家間の紛争の火種にもなりえます。井戸や河川の使用権をめぐる争い、水資源への攻撃、水の分配をめぐる対立など、水が安全保障上の問題として浮上するケースも報告されています。
水衛生問題を引き起こす4つの原因
1. 人口増加
世界の人口増加とともに、一人あたりが利用できる水の量は相対的に減り続けています。生活排水や工業排水の増加が水質汚染を悪化させ、安全に使える水はさらに少なくなっていきます。
2. 気候変動
気候変動は降水パターンを大きく変え、乾燥地帯ではさらなる水不足を引き起こすとされています。国土交通省が示す将来予測でも、中緯度・亜熱帯の乾燥地帯では降水量が減少し、地表水や地下水の大幅な減少が見込まれています。気候変動の多くは人間による自然への影響と無関係ではなく、水衛生問題と私たちの日常生活のつながりを示しています。
3. 経済格差
後発開発途上国の人々は、他の国に比べて基本的な飲料水と衛生設備へのアクセスを欠く可能性が2倍以上高いとされています。
また、
低所得国が2030年までに基本的な水と衛生設備のすべての人への普及を達成するには、現在の進捗速度の7倍から18倍もの加速が必要とされています。
個人レベルでも、安全な水の購入や自宅へのトイレ設置は経済力によって大きく左右されます。
4. 技術・人材の格差
インフラ整備には専門的な技術と人材が欠かせません。経済的な理由から教育機会が限られる後発開発途上国では、水道行政や衛生設備の整備に必要な技術者を国内で育成することが難しい状況にあるとされています。外部から技術者を招く資金もなければ、八方塞がりの状態が続きます。
国際社会と日本の取り組み
水衛生問題の解決に向けた国際的な取り組みも着実に前進しています。
農村部に暮らす人々の状況は改善されてきており、安全に管理された飲み水の普及率は2015年から2024年にかけて50%から60%に、基本的な手洗い設備の普及率は52%から71%に増加しました。
また、
2024年にユニセフの直接支援を通じて、1,800万人以上が基本的な衛生設備へのアクセスを得て、3,300万人以上が安全な水を利用できるようになり、2,100万人以上が基本的な衛生習慣へのアクセスを得ました。
日本においては、国際協力機構(JICA)と厚生労働省が連携し、途上国に水道の専門家を派遣して水道行政や水道事業の指導を行っているとされています。こうした技術協力は、現地の人材育成にもつながっています。
私たちにできること|今日からはじめる3つのアクション
水衛生問題の解決には国家レベルの取り組みが不可欠ですが、私たち一人ひとりにも貢献できることがあります。
①支援団体への寄付・募金
ユニセフやウォーターエイドジャパンなどの団体は、途上国での給水設備の設置や衛生教育に取り組んでいます。月々数百円からの継続的な支援が、活動の安定した資金源になります。
②水の使い方を見直す
日本の水道水は世界でも有数の品質を誇ります。その恵まれた環境を当たり前と思わず、水の節約を意識することが、水資源への敬意につながります。
③問題を知り、伝える
水衛生問題はSNSや会話の中で話題にするだけでも、意識が広がっていきます。この記事をシェアすることも、小さな一歩になります。
安全な水とトイレは、生命を守るための基本的な権利です。2030年のSDGs達成期限が迫る今、世界の現状を知り、できることから行動してみましょう。

