毎シーズン、店頭の棚を飾るために作られた衣服が、売れないまま焼却炉へ送られています。日本国内だけで年間約50万トンもの衣類が廃棄されているとされ(環境省「繊維製品に係るリデュース等の取組促進に向けた調査業務報告書」)、その多くが新品や着用回数の少ない状態です。「衣服ロス」と呼ばれるこの問題は、資源の無駄遣いにとどまらず、気候変動や水資源の枯渇とも深くつながっています。
この記事では、衣服ロスの実態・原因から、2024年以降の企業や消費者の動きまでを整理します。
衣服ロスとは何か|「まだ使える服」が消える構造
「衣服ロス」とは、新品や十分に使用可能な状態にあるにもかかわらず廃棄される衣類のことです。食品ロスが「まだ食べられるのに捨てられる食品」を指すのと同じ考え方で、アパレル産業固有の過剰生産・過剰廃棄の問題を表します。
衣服ロスが深刻なのは、廃棄そのものだけでなく、製造段階から積み上がった環境負荷が「無駄」になる点にあります。
製造から廃棄まで積み上がる環境コスト
綿100%のTシャツ1枚を作るには、約2,700リットルの水が必要とされます(国連環境計画UNEPの推計)。これは成人が約2.5年間飲む水の量に相当します。さらに染色工程では化学物質を含む排水が発生し、水質汚染の一因にもなっています。
アパレル産業全体では、世界の温室効果ガス排出量の約8〜10%を占めるとされており(UNFCCC等の報告)、航空・海運業界を合わせた排出量を上回るという試算もあります。これほどのエネルギーと資源を注いで作られた衣服が、一度も着られることなく廃棄されるのが衣服ロスの本質です。
日本のアパレル産業の実態|供給過多が生む廃棄
環境省の調査によると、日本では年間約50万トンの衣類が廃棄されています。一方で、家庭の押し入れには使われないまま眠る衣類が推計で約25億点あるとされ、廃棄は企業だけでなく家庭でも大量に発生していることがわかります。
日本国内の衣類供給量は年間約30億点(経済産業省の統計ベース)に上るとされる一方、1人あたりの年間購入枚数は約18枚、廃棄枚数は約12枚という試算も示されており、大量消費・大量廃棄のサイクルが固定化しています。
ファストファッションの普及と単価下落
2000年代以降、製造拠点をアジア新興国に移したことで、衣服の小売価格は大きく下落しました。1990年と比べると、衣類の物価指数は約3分の2以下に低下したとされています(総務省統計局「消費者物価指数」参考値)。価格が下がるほど「1シーズンだけ着て捨てる」行動が広がり、需要予測の難しさが増して在庫過多が生まれやすくなりました。
ブランド価値と廃棄の矛盾
ハイブランドほど「値引き販売=ブランド価値の毀損」を嫌う傾向があり、売れ残った新品在庫を焼却・埋め立て処分するケースが問題視されてきました。2018年には欧州のあるラグジュアリーブランドが年間約40億円相当の在庫を焼却していたと報じられ、世界的な批判を集めました。こうした慣行に対して、フランスは2022年に未販売品の廃棄を段階的に禁止する法律を施行しており、欧州での規制化が加速しています。
衣服ロスが生まれる2つの経路
衣服ロスは大きく「企業側の廃棄」と「消費者側の廃棄」に分けられます。両者の構造を理解することが、問題解決の出発点になります。
企業側|過剰生産と需要予測の限界
アパレル企業は欠品リスクを避けるために多めに生産する傾向があり、売れ残りを生みやすい構造になっています。さらに、気候変動による季節の前後れや、SNSを起点にしたトレンドの急速な変化が需要予測をより困難にしています。売れ残り在庫を値引きするとブランドイメージが傷つくため、廃棄を選ぶ企業は今も少なくありません。
また、注文から納品まで数か月かかるサプライチェーンの構造も廃棄を生む要因です。生産中に流行が変わると、完成した時点ですでに市場価値を失っており、発注元によるキャンセルや価格崩壊が起きます。
消費者側|「安いから買う」循環の代償
消費者サイドでは、安価なファストファッションを衝動買いしては着ないまま手放すという行動が廃棄量を押し上げています。国内の衣類の平均使用回数は約7回という調査結果もあり(環境省「サステナブルファッション」特設ページ参照)、欧州平均と比べても消費回転が速い実態が浮かびます。
フードロス削減と同様に、消費者の購買習慣そのものが産業の在り方を左右します。衣服ロスを家庭レベルで減らすための行動については、後半の「消費者にできること」で具体的に取り上げます。
2024年以降に広がる企業の取り組み
衣服ロス削減に向けた企業の動きは、2024年以降、規制対応・技術活用・消費者巻き込みの3軸で加速しています。
オフプライスストア|在庫を価値として流通させる
売れ残り在庫を定価より安く販売する「オフプライスストア」は、廃棄ゼロに近い形で在庫を消化できるビジネスモデルです。株式会社ワールドが展開する「&BRIDGE(アンドブリッジ)」は、自社ブランドに加え他社ブランドも取り扱い、通常のアウトレットとは異なる形で在庫を流通させています。株式会社FINEが運営する「offprice.ec」では、国内アパレルブランドの商品を20〜90%オフで販売し、廃棄ルートへ向かう商品に購入者をマッチングしています。
ユニクロのRE.UNIQLO|服から服へのリサイクル
株式会社ファーストリテイリングは、全ブランドの販売商品を対象とした回収・リサイクル活動「RE.UNIQLO」を継続的に拡大しています。全国の店舗に設置された回収ボックスで集めた衣類は、状態の良いものはUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)などを通じて難民支援に活用され、リユースできないものは工業用の燃料や防音材に再資源化されます。近年ではダウン製品を皮切りに「服から服へのリサイクル」技術の実用化も進んでいます。
アダストリアのFROMSTOCK|黒染めで生まれ変わるアップサイクル
「グローバルワーク」「ニコアンド」などを展開する株式会社アダストリアは、廃棄予定の在庫衣料を黒染めして再販するブランド「FROMSTOCK(フロムストック)」を運営しています。傷・汚れ・派手な色柄など通常では売れにくい衣服を、均一に黒で染め直すことで着やすい商品へ変えます。新たな廃材を出さず、染料の排水管理にもこだわる点が、サステナビリティ意識の高い層から支持されています。
このように既存のものに新たな価値を付与する手法を「アップサイクル」と呼びます。廃棄ゼロを目指す流れのなかで、注目度が高まっているアプローチです。
EU「エコデザイン規則」が日本企業にも波及
2024年、EUは繊維・アパレル製品を対象とした「エコデザイン規則(ESPR:Ecodesign for Sustainable Products Regulation)」を正式に発効させました。耐久性・修理可能性・リサイクル材使用率などの基準を製品に義務付けるもので、EU市場に輸出する日本企業にも対応が求められます。この規制の波及を受け、大手アパレル各社は素材の再生比率向上やサプライチェーンの透明化を加速させています。
消費者にできること|3つの視点で行動を変える
企業が過剰在庫を生むのは、消費者の需要を見越した生産計画が起点にあります。消費者側の行動変容が、アパレル産業の構造そのものを変える力を持っています。
買う前に「本当に着るか」を問い直す
衝動買いした服の多くは、タンスで眠るか早期に手放されます。「1週間後にも欲しいか」「手持ちの服と3通り以上のコーディネートができるか」という問いを購入前に挟むだけで、無駄な消費を大幅に減らせます。価格が安いほどこのチェックを省略しやすいため、ファストファッションを購入する際ほど意識的に立ち止まることが重要です。
リユース・リセール市場を積極的に使う
フリマアプリやリサイクルショップ、オフプライスストアなどのリセール市場は、新品廃棄を減らすと同時に消費者が支払うコストも下げます。国内の中古衣料市場は拡大傾向が続いており、「中古品を着る」という行動は着実に社会的に受け入れられています。自分が着なくなった服も、フリマアプリに出品したり回収ボックスに入れたりすることで、別の誰かの「必要な1着」になり得ます。
環境対策に取り組む企業の商品を選ぶ
企業がアップサイクルや回収・リサイクルプログラムを継続するには、消費者の支持が不可欠です。「この企業はどんな廃棄対策をしているか」を購買基準のひとつに加えることで、企業側が環境対策を競う圧力が生まれます。企業のサステナビリティレポートや公式サイトのCSRページを一度確認してみるだけで、選択の質は変わります。
サステナブルな消費の選択肢についてさらに知りたい方は、こちらもあわせてご覧ください。

衣服ロスを「自分ごと」として捉えるために
衣服ロスは遠い工場や大企業だけの問題ではありません。安い服を大量に買い、着なくなったら捨てるという消費の積み重ねが、年間50万トンという廃棄量を支えています。
一方で、リセール市場の拡大やアップサイクルブランドの台頭、EU規制の波及など、2024年以降は変化の流れも本物になってきました。完璧なゼロ廃棄を求めるのではなく、「今持っている服をもう少し長く着る」「次の1枚を買う前に少し考える」という小さな変化から始めるのが現実的です。
環境省はサステナブルファッションの普及啓発として、消費者向けの特設ページを公開しています。公的機関の情報を一度確認することで、自分の消費行動を見直すきっかけにもなります。
まとめ|衣服ロスを減らすために今日できること
- 日本では年間約50万トンの衣類が廃棄されており、その背景には過剰生産・需要予測の失敗・消費行動の変化がある
- Tシャツ1枚の生産に約2,700リットルの水が必要。廃棄はその環境コストをすべて無駄にする
- オフプライスストア・アップサイクルブランド・リサイクルプログラムなど、企業側の取り組みは多様化している
- EU「エコデザイン規則」(2024年発効)により、日本企業にも製品の耐久性・リサイクル対応が求められ始めている
- 消費者として「買う前に考える」「リセール市場を使う」「環境対策に取り組む企業を選ぶ」の3行動が有効
まず今日は、クローゼットを開けて「1年以上着ていない服」を1枚だけ探してみてください。フリマアプリに出品する、回収ボックスに入れる、どちらでも構いません。その1枚が、衣服ロスを減らすための最初の一歩になります。


