SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」は、暴力や紛争をなくすだけでなく、誰もが公平に裁判や行政サービスを利用でき、不正のない信頼できる制度のもとで暮らせる社会をつくることを掲げた目標です。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2025年末時点で紛争や迫害などにより家を追われた人は1億1,780万人で、前年の1億2,320万人から減ったものの、日本の人口規模に迫る水準にあります。この記事では目標16の概要と12のターゲットを整理したうえで、2025年から2026年にかけて公表された最新の数字、日本国内で目標16が問われる場面、企業・団体の取り組み、そして読者のみなさんが次にとれる行動をまとめます。
目標16「平和と公正をすべての人に」の概要|平和・司法・制度をまとめた目標
目標16の正式名称は「持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する」です。長い文ですが、読み解くと「平和」「司法」「制度」という3つの要素に分けられます。戦争や暴力のない状態をつくるだけでなく、困ったときに法に頼れること、そして政府や行政が信頼できる形で運営されていることまでを、ひとつの目標にまとめています。
正式名称にある3つの柱
1つ目の柱は、紛争・暴力・虐待・搾取・組織犯罪などから人を守る「平和」です。2つ目は、法の支配を確立し、誰もが公平に司法を利用できるようにする「司法」です。3つ目は、汚職や不透明な運営をなくし、市民の声が反映される制度をつくる「制度」です。日本では「平和」という言葉から戦争だけを連想しやすいのですが、目標16はドメスティック・バイオレンス(DV)や児童虐待のような身近な暴力、行政の不正、身分証明のない人の問題まで含んでいます。
「包摂的」が意味するもの
「包摂的」とは、国籍・性別・年齢・障害の有無・出自などにかかわらず、一人ひとりが社会の構成員として尊重され、制度から排除されないことを指します。SDGsの根本にある「誰一人取り残さない」という理念を、法律や行政の仕組みの面から具体化した言葉といえます。たとえば出生届が出されず法的な身分証明がない人は、教育や医療、各種の手続きから外れてしまいやすくなります。包摂的であるとは、そうした入口の部分から排除をなくすことでもあります。
目標16が他の目標の土台といわれる理由
目標16は、目標17(パートナーシップ)と並んで、他の目標の実現を支える横断的な性格をもつといわれます。紛争下では学校や病院が機能せず、貧困削減や教育普及の成果が一瞬で失われます。汚職が広がれば、環境保護や福祉の予算が本来の目的に届きません。平和で公正な制度がなければ、ほかの目標への取り組みも長続きしにくいという意味で、目標16はSDGs全体の足場にあたります。
12のターゲットを4つの柱で読み解く
目標16には、10の達成目標(16.1〜16.10)と2つの実施手段(16.a・16.b)、合計12のターゲットがあります。文言をそのまま追うと分かりにくいため、ここでは内容が近いものを4つの柱にまとめて見ていきます。ターゲットの文言は、日本政府が公表している仮訳に沿っています。
暴力から守る(16.1・16.2・16.4・16.a)
16.1は、あらゆる形態の暴力と、それに関連する死亡率を大幅に減らすことを求めています。16.2は子どもに対する虐待・搾取・人身取引・拷問をなくすこと、16.4は2030年までに違法な資金や武器の流れを大幅に減らし、組織犯罪を根絶することを掲げています。16.aは、暴力やテロ、犯罪を防ぐための国の機関の能力を、特に開発途上国で高める手段のターゲットです。戦争のような大きな暴力から、家庭内の虐待まで、規模の異なる暴力が同じ目標の下に置かれている点が特徴です。
司法と身分証明(16.3・16.9)
16.3は、国内と国際の両方で法の支配を促進し、すべての人が司法に平等にアクセスできるようにすることを求めます。16.9は、2030年までに出生登録を含む法的な身分証明をすべての人に提供することを掲げています。裁判を受ける権利と、そもそも「法の上で存在を認められる」ことは、ひとつながりの課題です。身分証明がなければ、司法に訴えることも、福祉や教育を受けることも難しくなるからです。
汚職をなくし透明性を高める(16.5・16.6・16.10)
16.5は汚職と贈賄を大幅に減らすこと、16.6はあらゆるレベルで有効で説明責任のある透明性の高い公共機関をつくることを求めます。16.10は、国内法や国際協定に従って情報への公共のアクセスを確保し、基本的な自由を守ることです。行政の情報が公開され、市民が監視できる状態は、不正を防ぐ土台になります。情報公開制度や内部通報の仕組みは、このターゲットと直接つながる身近な制度です。
意思決定への参加と差別のない法制度(16.7・16.8・16.b)
16.7は、あらゆるレベルで、対応力があり、包摂的で、参加型の意思決定を確保することを求めています。16.8は、国際的な意思決定の場への開発途上国の参加を広げること、16.bは差別のない法律と政策を進めることです。この柱は、決める側に誰がいるのか、決まったルールが特定の人を不利にしていないかを問うものです。女性や若者、外国にルーツをもつ人、障害のある人の声がどこまで制度に届いているかは、日本国内でも問い直される論点です。
世界の現状|2025年の数字で見る目標16
ここからは、最新の公的な数字で目標16の現在地を確認します。数字には「減った」という明るい面と、「中身を見ると楽観できない」という面の両方があります。どちらか一方だけを切り取らず、並べて読むことが大切です。
強制移動は10年ぶりに減少、ただし中身は慎重に読む
UNHCRが2026年6月に公表した年次統計「グローバル・トレンズ・レポート2025」では、2025年末時点で強制的に移動させられた人は1億1,780万人でした。前年末の1億2,320万人から減少し、この10年で初めての減少と報じられています。国内にとどまったまま避難している人(国内避難民)は約6,870万人で、前年から約7%減ったとされています。
ただし、UNHCR駐日事務所は、減少の背景にシリア、スーダン、アフガニスタンなどへの帰還が進んだことがあると説明したうえで、その多くが自主的な帰還ではなく、帰還を余儀なくされた人々で、極めて脆弱な環境にあると指摘しています。つまり、数字が減ったことは、避難の原因がなくなったことを意味しません。
子どもと武力紛争
国連事務総長の「子どもと武力紛争」報告書によると、2025年に確認された子どもへの重大な権利侵害は3万8,558件でした。日本ユニセフ協会が2026年6月に伝えたところでは、侵害の類型には殺傷、武装勢力への徴用・徴兵、拉致、性暴力、人道支援へのアクセスの妨害などが含まれます。子どもの死傷の約70%は爆発性兵器によるもので、人道支援へのアクセス妨害や人道支援活動への攻撃は8,000件を超えたと報告されています。
また、政府軍およびその関連主体による侵害が、非国家武装集団によるものを初めて上回ったことも伝えられています。暴力の加害者が「どこか遠くの武装組織」とは限らず、国家の側にも責任が問われていることを示す数字です。
目標16の進捗は「不十分」
国連の人権高等弁務官事務所(OHCHR)、ユニセフ、国連開発計画(UNDP)、国連薬物犯罪事務所(UNODC)が共同でまとめるSDG16のグローバル進捗報告(第4版)は、現在の進み方では2030年までの達成に足りないと結論づけています。一方で、目標16の全ターゲットについてデータを報告する国は2019年の22%から約60%に増えたとされており、何が起きているかを測る仕組みは少しずつ整ってきています。測れるようになったことは、課題を見えるようにするための前進です。
日本の現状|国内で目標16が問われる3つの場面
「平和と公正」は海外の話と受け取られがちですが、日本国内にも目標16に直結する論点があります。ここでは、公的な統計や国際評価が確認できる3つの場面を取り上げます。
難民・庇護申請の受け入れ
出入国在留管理庁によると、2025年(令和7年)の難民認定申請は11,298人(一次審査の申請者数)で、前年より1,075人減りました。同じ年に難民と認定された人は187人、補完的保護対象者として認定された人が474人、人道的配慮による在留許可を受けた人が525人で、あわせて1,186人が在留を認められています。これらは各年の処分件数であり、同じ年の申請者の結果とは限らない点に注意が必要です。
認定NPO法人 難民支援協会は、認定者の国籍別内訳も公表しています。それによると、認定187人のうちアフガニスタン出身者が123人と過半数を占め、イエメン出身者は26人で過去最多でした。一方、ミャンマー出身の申請者は1,490人で申請者全体の13%を占めましたが、認定は9人にとどまったとされています。目標16.3(司法への平等なアクセス)や16.b(差別のない法制度)の観点から、審査の透明性や公平性をどう確保するかは、今も議論が続く論点です。
汚職と透明性の国際評価
国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナルの「腐敗認識指数(CPI)2025」で、日本は100点満点中71点、182か国・地域中18位でした。スコアは前年と同じです。この指数は、専門家や企業関係者への調査にもとづく「認識」の指標であり、実際の汚職の件数を数えたものではありません。それでも、目標16.5(汚職の削減)と16.6(透明性の高い公共機関)に関する国際的な見られ方を知る手がかりになります。
高得点だからといって課題がないわけではありません。政治資金や公文書の管理、情報公開のあり方などは、国内で繰り返し議論されています。数字は「現在地の目安」として受け取り、具体的な制度の運用は別に確かめる姿勢が必要です。
身近な暴力と通報の仕組み
児童虐待、DV、デートDV、職場でのハラスメントといった身近な暴力は、目標16.1・16.2が日本国内で問われる場面です。被害を受けた人が声を上げられる窓口と、声を上げた人が不利益を受けない仕組みの両方が必要になります。
後者の代表例が公益通報者保護法です。2022年6月施行の改正で、従業員300人を超える事業者には、内部通報に対応する体制を整える義務が課されました。300人以下の事業者は努力義務です。身近な組織の中に通報窓口があるかどうかは、16.5(汚職や不正の削減)と16.10(基本的自由の保障)に、職場の単位で関わる問いです。
日本の企業・団体の取り組み事例|予防・資金循環・当事者支援
目標16に取り組む組織は、国連機関や大きなNGOだけではありません。日本では、教育で暴力を防ぐ団体、日常の事業を支援につなげる企業、当事者を直接支える専門団体など、さまざまな形の実践が見られます。ここでは役割の異なる3つの例を紹介します。
教育で暴力を防ぐ|ガールスカウト日本連盟
公益社団法人ガールスカウト日本連盟は、世界各国のガールスカウトとともに、女性への暴力をなくすことを目的とした「Stop the Violence」キャンペーンを展開しています。日本では、デートDVなど身近に潜む暴力について理解を深める活動が行われているとされています。身体的・性的・心理的な暴力や人身取引の問題を取り上げ、自分の身を守るための知識を育むプログラムです。16.1と16.2を「予防教育」の面から支える例といえます。
不用品を支援につなげる|薬樹株式会社
保険調剤薬局を運営する薬樹株式会社は「エコステーション」という取り組みを行っています。まだ着られる衣類を店頭で回収し、リユース業者への売却益を、国際人道支援に取り組むNPO法人に寄付する仕組みです。寄付金は、アフリカの内戦地帯における元こども兵の社会復帰支援や、地雷除去などに役立てられているとされています。本業の店舗を回収拠点にすることで、地域の人が日常の中で参加できる形になっています。
当事者を支える専門団体|難民支援協会
認定NPO法人 難民支援協会は、日本で保護を求める難民の支援とあわせて、認定数の統計を分析して公表しています。入管庁の公表直後に国籍別の内訳や審査の傾向を示すことで、制度の運用を市民が検証できる材料を増やしています。16.3(司法・手続きへのアクセス)や16.10(情報へのアクセス)を、当事者支援と情報発信の両面から支える役割です。
目標16でよくある誤解と次の疑問
目標16の話題に触れた読者が抱きやすい疑問を、3つに絞って整理します。
「日本は平和だから関係ない」?
戦争がないという意味では、日本は平和な国のひとつです。しかし、目標16が求める「平和」は、暴力・虐待・不正・排除のない状態まで含みます。児童虐待やDV、職場の不正、難民の受け入れ、情報公開などは、いずれも日本国内で扱われているテーマです。さらに日本は、難民への支援や紛争地域への人道支援の面で国際社会と関わっており、無関係とはいえません。
「強制移動が減ったなら状況は改善した」?
2025年末の数字は10年ぶりに減少しましたが、先に見たとおり、UNHCR駐日事務所は帰還の多くが自主的ではなく、帰還後の環境も極めて脆弱だと指摘しています。数字の増減だけで、安全が回復したと判断することはできません。減少の理由が何かを確かめてから評価することが、数字を正しく読む第一歩です。
「寄付すれば解決する」?
寄付は有効な手段のひとつですが、それだけで目標16が達成されるわけではありません。16.3や16.10が示すとおり、課題の多くは法律・手続き・情報公開といった制度の側にあります。寄付とあわせて、制度の動きに関心をもち、選挙での投票や意見の表明、情報公開の請求など、制度に関わる行動を選ぶことも大切です。
今日からできること|12月の人権週間を手がかりに
10月の末、もうすぐ12月に入ります。毎年12月4日から10日は人権週間、12月10日は世界人権デーです。目標16を自分ごととして考える入口として、時期にあわせて始められる行動を3つ挙げます。
数字の出どころを確かめる
UNHCR、ユニセフ、入管庁などの一次資料を見ると、報道では省略される前提条件が確認できます。たとえば強制移動の数字なら「総数が減った」だけでなく「なぜ減ったのか」までを読めます。気になったニュースの数字を、ひとつだけ元の資料で確かめてみてください。
身近な通報・相談窓口を知る
自分の職場や学校に、ハラスメントや不正を相談できる窓口があるかを確認します。窓口の存在を知っておくだけでも、困ったときの選択肢が増えます。見つからない場合は、窓口を整えるよう担当部署に尋ねることも、16.6(説明責任のある組織)への小さな後押しになります。
寄付や購入の使い道を確かめる
衣類の回収や寄付を考えるときは、収益がどの団体のどの活動に使われるかを、団体の公式サイトで確かめます。使い道が明示されている仕組みを選ぶことで、支援が目的の活動に届きやすくなります。
まとめ
SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」は、暴力や紛争のない状態に加えて、誰もが公平に司法を利用でき、不正のない透明な制度のもとで暮らせることを目指す目標です。12のターゲットは、暴力から守ること、司法と身分証明、汚職と透明性、意思決定への参加と差別のない法制度という4つの柱で読み解けます。
最新のデータを見ると、2025年末の強制移動は1億1,780万人と10年ぶりに減りましたが、帰還の多くが自主的ではないとされ、子どもへの重大な権利侵害は2025年に3万8,558件に上りました。日本国内でも、難民の受け入れ、汚職の国際評価、通報制度、身近な暴力への対応など、目標16が問われる場面は数多くあります。
遠い世界の話に感じられるテーマですが、数字の出どころを確かめる、身近な窓口を知る、寄付の使い道を調べるといった小さな行動から関わることができます。まず1つだけ、気になる数字の元資料を開いてみてください。
- 目標16は「平和」「司法」「制度」の3つをまとめた、他の目標の土台となる目標
- 12のターゲットは、暴力・司法と身分証明・汚職と透明性・参加と差別のない法制度の4つの柱で整理できる
- 2025年末の強制移動は1億1,780万人で10年ぶりに減少したが、帰還の多くは自主的ではないと指摘されている
- 日本でも、難民受け入れ、腐敗認識指数、公益通報制度、身近な暴力への対応が目標16に関わる
- 数字の出どころの確認、通報・相談窓口の把握、寄付先の確認が、今日から始められる行動
参考文献
- UNHCR駐日事務所「2026年世界難民の日 レポート」(2026年)
- UNHCR「Global Trends Report 2025」(2026年)
- 日本ユニセフ協会「武力紛争下の子どもへの重大な人権侵害 2025年に3万8,558件」(2026年)
- 出入国在留管理庁「令和7年における難民認定者数等について」(2026年)
- 認定NPO法人 難民支援協会プレスリリース(財経新聞掲載)(2026年)
- Transparency International「Japan」腐敗認識指数2025(2026年)
- UNDP「New SDG16 Report shows progress is possible but it remains too slow, uneven and fragile」(2026年)
- ITmedia ビジネスオンライン「内部通報体制の整備が義務に 22年6月施行の改正公益通報者保護法で、何が変わる?」(2022年)

