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「40年ぶり」の労働法改正が問うもの|勤務間インターバルと「つながらない権利」、いま何が議論されているのか

「40年ぶり」の労働法改正が問うもの|勤務間インターバルと「つながらない権利」、いま何が議論されているのか

長時間労働、連続勤務、休日のメッセージ対応——日本の「当たり前の働き方」が、いま大きな転換点を迎えようとしています。厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」が2025年1月にまとめた報告書は、「40年に1度の大改正」とも呼ばれる包括的な見直しの方向性を示しました。その後、法案の国会提出は見送られましたが、議論そのものはいまも続いています。この記事では、改正論議の焦点と、ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の観点から見えてくる日本の課題を整理します。

なぜ「40年ぶり」なのか

現行の労働基準法は1947年に制定されたもので、その後の働き方の変化——テレワークの普及、副業・兼業、ギグワーカーの増加、少子高齢化による労働力減少——には十分に対応できていないという指摘がありました。

こうした課題を受け、厚生労働省は2024年1月に有識者による「労働基準関係法制研究会」を設置し、2025年1月に、労働時間・休日制度だけでなく、労働者の範囲や労使コミュニケーションの在り方まで含む包括的な改正案が報告書としてまとめられました。企業が対応すべき範囲が多岐にわたることから、「40年に1度の大改正」と注目を集めています。

議論の焦点①|連続勤務に上限を

報告書が示した改正論点のひとつが、連続勤務日数の上限設定です。

現行法では、「4週間に4日休めばいい」というルールを利用すれば、理論上48日間の連続勤務が可能でした。改正案ではこうした働き方から労働者を解放しようとしています。

具体的には、14日以上の連続勤務を禁止し、最大13日間に制限する方向で議論が進んでいました。また、終業から次の始業まで一定の休息を義務付ける「勤務間インターバル制度」について、11時間の確保を義務化する方針も検討されていました。
勤務間インターバル制度については、欧州ではすでに11時間以上のインターバルが義務付けられており、日本でも原則11時間程度の休息確保を求める方向で議論が進んでいました。業種や勤務形態による例外や段階的実施も議論されており、中長期的に義務化へ移行する見通しとされていました。

議論の焦点②|「つながらない権利」の確立

もうひとつの注目点が、「つながらない権利」です。

勤務時間外の業務連絡(メール・チャット・電話など)に応じなくても、人事評価や待遇で不利益を受けない権利であり、ガイドライン策定が予定されていました。

テレワークや副業が一般化した現代において、仕事とプライベートの境界が曖昧になりやすい状況は多くの働く人が実感していることでしょう。この権利の明確化は、多様な働き方を支えながら、誰もが安心して働ける社会をつくる試みとして位置づけられていました。

法案提出は「見送り」——議論は続く

ただし、これらの改正案がそのまま法律になるかどうかは、現時点では未確定です。

厚生労働省が2026年通常国会への提出を念頭に置いていた労働基準法改正案について、提出を見送る方針が固められました(2025年12月23日報道)。見送りとなった主な改正内容には、14日以上の連続勤務の禁止、勤務間インターバル制度(11時間)の義務化、「つながらない権利」のガイドライン策定などが含まれていました。
背景には、高市早苗首相による「労働時間規制の緩和検討」の指示と、厚生労働省がこれまで進めてきた規制強化の方向性との間で調整がつかなくなったことがあるとみられています。ただし「労働環境の改善要求がなくなったわけではない」という点には注意が必要です。
現在も労働時間の上限規制の運用厳格化や、テレワーク・副業に対応した労働時間管理の明確化などが論点として残っており、企業の労務管理体制の強化が引き続き求められています。

ディーセントワークの視点から見た日本の現在地

この一連の議論は、SDGs目標8「働きがいも経済成長も」が掲げるディーセントワーク(decent work)と深くつながっています。

「ディーセントワーク」とは「権利が保護され、十分な収入を生み、適切な社会保護が供与された生産的仕事」を意味し、ILOの主な活動目標に位置付けられているものです。
日本におけるディーセントワークは、2019年4月に施行された働き方改革関連法によって大きく推進されるようになりました。
その後も、月60時間超の時間外労働への割増賃金率50%以上の適用や、建設業・運送業・医師への時間外労働上限規制の適用開始など、段階的な制度変更が積み重ねられてきました。

しかし、「48日連続勤務が制度上可能」という現状が2026年時点でもなお残っていることは、ディーセントワークの観点から見て大きな課題であることは間違いありません。法案提出が見送られたとはいえ、働き方の多様化やデジタル化の進展を踏まえた制度改正の議論は続いており、連続勤務の上限規制や勤務間インターバル制度の義務化などは引き続き論点として示されています。

私たちにできること|「制度待ち」から「問いかけ」へ

法改正の行方は政治・労使の議論に委ねられていますが、個人や企業としても今から動くことができます。

まず、勤務間インターバルの考え方を職場で共有することが第一歩です。「11時間の休息」というルールがまだ義務化されていなくても、それを職場の文化として根付かせることは今日からでも始められます。また、「つながらない権利」についても、上司・部下の関係に限らず、チーム全体で「業務時間外の連絡は原則翌営業日に返信」といったルールをつくることは、法律がなくても実践できます。

働く一人ひとりが「人間らしい働き方とは何か」を問い続けることが、ディーセントワークの実現に向けた確かな一歩です。制度の整備を待つだけでなく、自分たちの職場から変えていく視点を、2026年の今こそ持ちたいところです。

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