「すべての人に平等な権利を」――国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)は、2030年までに世界が達成すべき17の目標を掲げています。その中のひとつ、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」は、性別に基づくあらゆる差別や暴力をなくし、女性と女の子が平等な権利と機会を享受できる社会を目指すものです。
女性が教育を受ける権利を訴え、史上最年少でノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイ氏の活動に象徴されるように、ジェンダー平等は世界的に重要なテーマとなっています。
本記事では、この目標5を中心に、日本におけるジェンダー平等の現状と課題、そして私たちにできることについてわかりやすく解説します。
SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」とは
日本ユニセフ協会によれば、SDGsの5番目の目標である「ジェンダー平等を実現しよう」は以下の6つで構成されています。
5-1. すべての女性と女の子に対するあらゆる差別をなくす。
5-2. 女性や女の子を売り買いしたり、性的に、また、その他の目的で一方的に利用することをふくめ、すべての女性や女の子へのあらゆる暴力をなくす。
5-3. 子どもの結婚、早すぎる結婚、強制的な結婚、女性器を刃物で切りとる慣習など、女性や女の子を傷つけるならわしをなくす。
5-4. お金が支払われない、家庭内の子育て、介護や家事などは、お金が支払われる仕事と同じくらい大切な「仕事」であるということを、それを支える公共のサービスや制度、家庭内の役割分担などを通じて認めるようにする。
5-5. 政治や経済や社会のなかで、何かを決めるときに、女性も男性と同じように参加したり、リーダーになったりできるようにする。
5-6. 国際的な会議※で決まったことにしたがって、世界中だれもが同じように、性に関することや子どもを産むことに関する健康と権利が守られるようにする。
※国際人口・開発会議(ICPD)の行動計画、北京行動綱領とそれらの検証会議の成果文書
5-a. それぞれの国の法律にしたがって、女性も財産などについて男性と同じ権利を持てるようにし、土地やさまざまな財産を持ったり、金融サービスの利用や相続などができるようにするための改革をおこなう。
5-b. 女性が能力を高められるように、インターネットなどの技術をさらに役立てる。
5-c. 男女の平等をすすめ、すべての女性や女の子があらゆるレベルで能力を高められるように、適切な政策や効果のある法律を作り、強化する。
参照元:5.ジェンダー平等を実現しよう | SDGsクラブ | 日本ユニセフ協会
詳しくは下記の記事で解説しているので、あわせてご覧ください。
ジェンダー平等に対する日本の現状
世界経済フォーラムが2021年に発表した「グローバル・ジェンダー・ギャップ報告書(Global Gender Gap Report 2021)」によれば、日本の総合スコアは0.656で、156カ国中120位という結果でした(2019年の121位からやや上昇)。
このスコアは、政治、経済、教育、健康の4分野における男女格差を評価したもので、1.000が完全な平等、0.000が完全な不平等を示します。
日本の分野別スコアを見ると、
経済参加と機会:0.599(117位)
教育達成度:0.988(92位)
健康と生存:0.973(65位)
政治的エンパワーメント:0.061(147位)
とくに「政治」と「経済」において、先進国の中でも極めて低水準にとどまっていることが浮き彫りとなっています。
参照元:Global Gender Gap Report 2021 | 世界経済フォーラム
教育現場におけるジェンダー平等の課題
2021年にアミー株式会社が実施したジェンダー意識に関するアンケート調査によると、職場や教育現場において「男女は平等ではない」と感じている人は約60〜70%にのぼりました。特に採用の際の男女格差や、業務内容の偏りが職場での不平等として指摘されています。
教育現場においても問題は顕在化しています。東京都立高校の普通科一般入試では、男女別に定員が設定されており、その影響で男女の合格最低点に差が生じていました。2015年から2020年にかけて実施された入試では、対象校の約8割で女子の合格点が男子より高かったことが判明。中には、女子の合格ラインが男子より243点も高く設定されていたケースもありました。
また、男子の合格点には達していたにもかかわらず、女子の基準に届かず不合格となった女子生徒が20人いたという事例も報告されています。都の教育委員会は1998年から是正措置を講じてきましたが、制度の不透明さや公平性への疑問は解消されていないのが実情です。
家庭におけるジェンダー平等の課題
家庭におけるジェンダー平等についての調査では、「家庭内で男女が平等である」と回答した男性が46%であるのに対し、女性では「平等ではない」との回答が65%に達しました。このギャップは、家事や育児における負担の偏りを反映しています。
実際、育児や家事の多くを女性が担っている現状が、女性のキャリア形成や社会参加を妨げる一因となっています。アンケートでは、「社会構造の改革」「伝統的な性別役割意識の是正」「教育現場での意識啓発」など、制度改革の必要性を訴える声が多く見られました。
政治分野における顕著な遅れ
世界経済フォーラムの報告書で、日本の「政治的エンパワーメント」が147位と極端に低評価だった要因のひとつは、女性の政治参加率の低さです。2024年時点で、衆議院における女性議員の割合は約10.3%、女性閣僚は内閣全体のうちわずか9.5%にとどまっています。
日本は憲政史上、女性首相を輩出したことがなく、これは国際的にも稀な例です。さらに、2021年には森喜朗元首相の女性蔑視発言が国際的に波紋を呼び、政治分野におけるジェンダー平等の意識の低さを露呈しました。
こうした現状に対し、候補者に一定割合で女性を割り当てる「クオータ制」の導入も議論されてはいるものの、具体的な法制化には至っていません。アジアの近隣諸国である韓国や台湾では女性大統領が誕生しており、日本の政治分野の遅れは明らかです。
経済分野でもジェンダー平等に課題がある日本
経済分野では、男女の所得格差や女性管理職の少なさが深刻な課題です。政府は2003年に「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%程度に」という目標を掲げましたが、2020年の実績は7.8%にとどまり、目標達成には程遠い結果となりました。
上場企業における女性役員の登用は徐々に進んではいますが、2024年時点でも依然として全体の1割未満です。また、日本はG7各国の中で最も男女間の賃金格差が大きく、正社員間での賃金水準は女性が男性の約76%にとどまっています。
この格差の背景には、「女性は家事や育児を担うべき」という根強い社会的価値観が存在します。保育施設の不足や長時間労働文化も、女性の社会進出を阻む要因となっており、働く環境の整備が喫緊の課題です。
・【「現状は平等になっていない」が92%】男女のジェンダー問題に関するアンケート調査の結果を公開|PRTIMES
・都立高入試、男女の合格ラインで最大243点差 8割で女子が高く|毎日新聞
・特集 世界でもっとも男女平等な国(3)声をあげた女性たち ジェンダー平等への道のり|NHK福祉情報サイト ハートネット
SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」達成のために
日本は、他の先進国と比較してもジェンダー平等の実現において大きく後れを取っています。とくに政治と経済の分野では、女性の参画やリーダーシップの機会が著しく制限されており、国際社会からも厳しい目が向けられています。
この状況を改善するためには、制度改革と社会意識の両面からのアプローチが不可欠です。たとえば、
保育所の整備や働き方改革を通じた子育てと仕事の両立支援
女性に配慮したインフラや公共制度の拡充
男女の賃金格差是正と女性のキャリア形成支援
男性の育児休業取得の促進と職場文化の変革
など、国や企業の主体的な取り組みが求められます。
一方で、制度や政策だけでは限界があります。私たち一人ひとりが、日常生活や職場、学校、家庭においてジェンダーに関する無意識の偏見を見直し、行動を変えていくことも同様に重要です。
たとえば、「育児や家事は女性の役割」という固定観念が根強く残る日本では、制度が整っていても女性が妊娠・出産を機に退職に追い込まれるケースが後を絶ちません。私たちが身近な場面で、誰かに過度な負担がかかっていないかに目を配り、声を上げ、支え合う姿勢が必要とされているのです。
まとめ|日本におけるジェンダー平等の実現に向けて
SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」は、単に女性の権利を守るという枠を超え、社会全体の公正性と多様性を促進するための重要な柱です。しかしながら、2024年現在の日本は、世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数で120位という順位にあるように、依然として課題が山積しています。
政府は「女性活躍推進法」などの法整備を進めてきましたが、依然として有形無形の差別や偏見が根深く残っています。だからこそ、国や企業によるトップダウンの改革と、個人レベルでの意識変革という両輪が必要です。
ジェンダー平等の実現は、決して女性だけの問題ではありません。すべての人が生きやすく、公平な社会を築くための土台であり、私たち一人ひとりが担うべき未来への責任です。変革は一歩一歩の積み重ねから。今この瞬間からできることを、私たち自身が模索し、行動に移していくことが求められています。