日本は国土の四方を海に囲まれ、豊かな海洋資源を持ちながら、エネルギー自給率はわずか16.4%(2024年度)という課題を抱えています。そんな日本の未来を海の上から変えようとしている学生たちがいます。大阪公立大学 工学部海洋システム工学科に所属する鈴木泰史さん・小原大勢さん・赤松泰翔さん・正垣光陽さんの4名は、「チームしらさぎ」として浮体式洋上風力発電の模型を設計・製作し、国際大会「Floating Wind Challenge」にチャレンジしています。資金難や技術的トラブルを乗り越え、フランスで開催される本大会への出場権を獲得した4人に、これまでの挑戦の道のりを伺いました。
洋上風力発電の国際コンペ「Floating Wind Challenge」とは

──今回参加されている「Floating Wind Challenge」について教えていただけますか?
(鈴木さん)Floating Wind Challengeは、ベルギーの非営利団体であるOffshore Wind 4kids が主催し、2022年から開催されている浮体式洋上風力発電に関する主に学生を対象とした国際コンペティションです。大会の目的は、グリーンエネルギーへの関心を高めること、洋上風力発電に関する新しい技術や発想を促すこと、そしてその重要性を世界に広めることです。参加チームは限られたサイズの中で浮体式洋上風力発電の模型を設計・製作し、発電性能や構造の強さ、設置のしやすさ、コスト、設計の独自性・アイデア性といった多角的な観点から総合評価されます。単に電気を多く発生させるだけでなく、現実的な設置のしやすさや、学生ならではの新しい発想が評価されるのが特徴です。
──誰でも参加できる大会なのでしょうか?
(鈴木さん)一次審査は誰でも応募できますが、設計コンセプトが審査され、通過できるのは全体の約半数です。今年は30チームの応募に対し、16チームが二次審査に進みました。日本からは私たちのほか、横浜国立大学の1チームが最終選考に残っています。世界10か国以上から学生が集まる、非常にレベルの高い大会です。
──チームのコンセプトを教えていただけますか?
(鈴木さん)「海を舞台にした浮体式洋上風力」をコンセプトに、今までにない形の設計を追求しました。コンセプトの名前には、地域から世界の舞台へ挑戦したいという思いも込めています。実際にこれが使えるかどうかはまだわかりませんが、その可能性を探ることに意義があると考えています。
先輩の背中を追って。4人のチームはこうして生まれた

──4人はどのようなきっかけでチームを組むことになったのですか?
(正垣さん)もともと4人は仲良しの友人同士です。きっかけは、昨年、同じ海洋システム工学分野の修士2年の先輩方がこのコンペに参加されていたことでした。その成果報告会を当時3年生だった私たちに開いてくださったのが最初の興味を持ったきっかけです。その後、鈴木と私が実際に参加された先輩方から大会について詳しいお話を聞く機会があり、もともと『大きなことに挑戦したい』『これまで学んできたことを形にしたい』という思いがあったので、この大会はちょうどいい機会だと思い、参加を決めました。その後、もともと仲良かった赤松と小原にも声をかけて、4人で出ることになりました。
──誰かが特に強く「出たい」と言い出したというよりは、自然な流れで集まったのでしょうか?
(正垣さん)そうですね。先輩から紹介していただいて、みんなで話し合ってこれはいいね、となった感じです。それぞれが前向きな気持ちで自然に集まれたのがよかったと思っています。
──チーム名「しらさぎ」にはどんな思いが込められているのですか?
(赤松さん)チーム名「しらさぎ」は、大学周辺にある「白鷺」という地区の名前に由来しています。普段から馴染みのある地名で、自分たちの大学から世界に挑戦するチームとしてふさわしい名前だと考えました。昨年の先輩方が「中百舌鳥(なかもず)」という地名にちなんだチーム名で出場されていたこともあり、その流れも参考にしています。また、白鷺は水辺や海辺にいる鳥でもあり、海を舞台にした浮体式洋上風力発電というテーマとも相性がよいと感じています。馴染みのある地域から世界の舞台へ挑戦したい──そんな思いを込めて名付けました。
なぜ洋上風力なのか、日本のエネルギー課題と学生が担う可能性

──洋上風力発電について、あまり詳しくない方にわかりやすく教えていただけますか?
(鈴木さん)まず、洋上風力発電とは、海の上に風車を設置し、風の力で電気を作る発電方法です。大きく分けると、海底に固定する着床式と、海面に浮かせる浮体式の2種類があります。日本は陸上の面積が限られているため大規模な風車を多数設置するのが難しい状況ですが、四方を海に囲まれているため、洋上風力は大きな可能性を持つ再生可能エネルギーの一つです。ただ、水深が深い海域が多いので浮体式洋上風力発電の普及が重要となります。日本政府も2040年までに30〜40ギガワットの洋上風力を導入する目標を掲げており、今後さらに注目が高まる分野だと思っています。
──日本のエネルギー自給率の問題と、今回の挑戦はどのようにつながっていますか?
(赤松さん)日本のエネルギー自給率は約16%と低く、多くを海外からの輸入に頼っているため、国際情勢や資源価格の変動に大きく影響を受けてしまいます。洋上風力発電は、日本の周囲の海を有効活用できる再生可能エネルギーとして非常に大きな可能性があります。私たちのこの挑戦だけでエネルギー自給率の問題を直接解決できるわけではありませんが、大会に向けて取り組む中で洋上風力発電の現状や技術的課題を深く学ぶことができました。また、世界10か国以上の学生が集まる場での交流を通じて、新しい考え方や知見を得られると思っています。この経験を将来の学びや研究に活かし、海洋分野の技術発展に少しでも貢献したいと考えています。
壁を乗り越えて。資金難と技術課題、2つの「ダメかもしれない」瞬間
──これまでの活動の中で、一番大変だったことや「もうダメかもしれない」と感じた瞬間はありましたか?
(小原さん)大きく分けると、資金面と技術面の2つの壁がありました。まず資金面では、本大会への参加には渡航費や材料費など多額の費用がかかります。一次審査を通過した直後、そもそもこの費用をどう工面するかが大きな問題でした。その中でクラウドファンディングを実施し、多くの方々にご支援いただいたほか、企業や団体からもご協力をいただいたことで、なんとかフランスへの出場が実現しました。特に日本財団オーシャンイノベーションコンソーシアム様には主に渡航費のご支援をいただき、ジャパンマリンユナイテッド様からも多大なご支援をいただきました。クラウドファンディングにはマイナビ・SBI地方創生サービシーズ・CAMPFIREにもご協力いただき、本当に多くの方々の力で今回の出場が実現しています。
(赤松さん)技術面では、実際に海に浮かべる実験を初めて行った際、浮体の浮力が想定よりも大きくてバランスが崩れ、模型が傾いてしまいました。予想していなかった問題で、本番までに修正が間に合うのか不安でしたが、実験結果をもとに原因を分析し、重量バランスや浮体の調整を行いました。その結果、2回目の実験では安定させることができ、大きな壁を一つ乗り越えることができました。
──クラウドファンディングでは、どのような用途でご支援をお願いしていたのでしょうか?
(小原さん)主に渡航費と、製作した模型をフランスへ運搬するための費用です。製作物を現地まで持参するための輸送費用は、材料費と同じくらい大きな出費になります。総額で30万円前後がかかる見込みでした。企業からのご支援もあり、資金面の目処は立ちつつありますが、クラウドファンディングは現在も継続中ですので、ご興味のある方はぜひご支援をいただければ嬉しいです。
学生だからこそできること。失敗を恐れない挑戦と、応援してくれる人たちの存在
──今回の活動を通じて感じた「学生だからこその強み」はどのようなところでしょうか?
(正垣さん)まず、失敗を恐れずに挑戦できることです。今回の活動でも、わからないことやうまくいかないことがたくさんありましたが、先生方や先輩方に相談しながら改善を重ねてきました。失敗しても学びながら前に進めるのは、学生ならではの強みだと感じています。もう一つは、学生の挑戦を応援してくださる方が多いことです。大阪公立大学工学部の海洋システム工学科は海洋分野に関わる先生方や企業との繋がりが強く、その環境の中で挑戦できることは非常に大きいと実感しています。今回も企業や大学関係者の皆さまの温かいご支援があってこそ、フランスへの出場が実現しました。
フランスへ、そして未来へ──4人それぞれの意気込み

──本大会に向けて、それぞれの意気込みを聞かせてください。
(鈴木さん)設計・製作してきた模型の性能をしっかり発揮することが第一目標です。具体的には、発電性能の面での上位入賞を目指したいと思っています。
(小原さん)まず模型を無事にフランスに届けることが最優先です。昨年の先輩チームが航空会社とのトラブルで模型が現地に届かず、大会を棄権せざるを得なかったという経験があります。その教訓から、今年は早めに準備を進めています。模型はバラバラに分解して運び、現地で組み立て直す必要があるため、一つのパーツでも欠けると大会に参加できなくなってしまいます。まずはしっかり会場に立てることを第一に考えています。
(赤松さん)私たちのコンセプトの一つが「安定した浮体構造」です。現地では波高1メートル近い荒れた海況が想定されていますが、そのような条件の中でも他チームと比べて安定して動作する模型を実現したいと思っています。日本での実験では比較的穏やかな海況でしか試せなかったので、現地での本番が楽しみでもあり、緊張でもあります。
(正垣さん)世界中から学生が集まる場ですので、積極的にコミュニケーションをとって、自分たちの考えや意見を海外の学生たちとしっかり交わしたいです。技術や発電性能の結果だけでなく、国際交流の場としてもこの大会を最大限に活かしたいと思っています。
──最後に、今回の活動を応援してくださっている方々へメッセージをお願いします。
(鈴木さん)これまでご支援・応援いただいた皆さまには、心から感謝しています。本番では準備してきた成果をしっかり発揮して、支えてくださった方々に良い報告ができるよう、チーム一丸となって全力で挑戦してきます。引き続きご支援のほど、よろしくお願いします。
(小原さん)資金面で支えてくださった企業や関係者の皆さまには、言葉では言い表せないほどの感謝の気持ちがあります。また、チームのみんながそれぞれの視点でアイデアを出し合い、互いに高め合えたことが今回の最大の成果だとも感じています。チーム4人で乗り越えてきた経験を、フランスの舞台で存分に発揮してきます。
(赤松さん)クラウドファンディングで応援してくださっている方々は、私たちの活動の様子を見て支援してくださっています。その期待に必ず応えられるよう、チーム全員で頑張ります。クラウドファンディングはまだ受け付けていますので、少しでも気になっていただいた方はぜひページをご覧ください。
(正垣さん)支援してくださったすべての方々のお力があって、今の私たちがあります。その想いをしっかり胸に刻んで、チーム一丸となって本大会に臨みます。フランスから良い知らせをお届けできるよう、全力を尽くします。
──今回はお話を聞かせていただきありがとうございました。
▼ チームしらさぎのクラウドファンディングページはこちら
https://camp-fire.jp/projects/941588/view

