環境に配慮したエコな紙をご存知でしょうか?従来の紙の製造では、紙のパルプを結合したり機能性を持たせるために化学薬品を用いています。
近年、化学薬品を植物由来の原料で代用した「ボタニカルペーパー」という新しいジャンルの用紙の開発や採用が広がっています。エコに加えて、さまざまな社会問題の解決にも貢献しています。
今回はそんな「ボタニカルペーパー」の魅力をご紹介します。
サステナブルな紙「ボタニカルペーパー」とは?
ボタニカルとは「植物」「植物から作られた」という意味です。最近では飲料や食品、化粧品などさまざまな商品で化学薬品をなくし、植物由来の成分を使ったボタニカルな商品が増えています。
私たちが普段使っている紙にも、植物由来の成分を使用した「ボタニカルペーパー」というジャンルが誕生しました。「ボタニカルペーパー」とは、化学成分をできる限り使わない植物由来の紙です。
従来の紙の製造過程で、パルプの結合や表面のコーティングに化学薬品が使われています。化学薬品により紙の品質を安定させることができます。しかし、最近では紙の製造にもサステナブルであることが求められ、化学薬品を植物由来に代替した「ボタニカルペーパー」が開発されています。
「ボタニカルペーパー」の事例
日本では次の2種類の「ボタニカルペーパー」が販売されています。
- ジャガイモから作られた「キュリアスマター」
- お米から作られた「kome-kami」
順番に紹介していきます。
ジャガイモのデンプン成分を表面に塗った「キュリアスマター」
「ボタニカルペーパー」の一つに、ジャガイモのデンプン成分を表面に塗った「キュリアスマター」という紙があります。イギリスのアルジョウィギンス社が開発し現在フランスのアンタリス社が引き継いで販売している紙で、フライドポテトやポテトチップスなどの食品の加工工程で排出されるジャガイモのデンプン成分を利用し、紙の表面をコーティングすることでざらざらとした手触りに仕上げています。
6つの色があり、それぞれ世界各地のジャガイモの品種に由来しています。
- ゴヤホワイト(白)
- アンディナグレイ(グレー)
- イビゼンカサンド(クリーム)
- デジレレッド(赤)
- アディロンブルー(青)
- ブラックトリュフ(黒)
箔押しをはじめとする加工が可能で、パッケージやカード、名刺など幅広く活用できますが、大量の印刷には注意が必要です。
キュリアスマターは、ポテト由来の粒子による細やかな「ざらつき感」があるので、印刷機の圧力を調整して速度を遅めにする必要がります。
また、乾きが悪いので十分に乾燥時間を取らないと裏移りします。一方、kome-kamiは印刷のことを考えて、通常の特殊紙同等の印刷の仕方で印刷が可能なように開発されています。
食べられなくなったお米で作った紙「kome-kami」
海外で先行して開発されたボタニカルペーパーですが、国内でも日本の伝統を再現したお米を使った紙「kome-kami(コメカミ)」が開発されました。
株式会社ペーパルが開発した食べられなくなった米を利用して作られた紙素材で、賞味期限切れの備蓄米や破砕米、酒蔵などで出る米の削りカスなどを活用しています。森林を適切に保護しながら作られた紙に与えられるFSC認証を受けたパルプと、粉砕した米を混ぜることで「kome-kami」を製造します。
さらに、紙の製造に通常だと化学薬品が使われますが、「kome-kami」ではお米を代用することで、環境負荷低減とCO2削減を実現しています。
「kome-kami」は、お米の特徴を活かした風合いのある優しい手触りが特徴です。色は2色あり、オフホワイトの温かみのある色合いの「kome-kami (ナチュラル色)」と、浮世絵のような鮮やかで力強い発色の「kome-kami 浮世絵ホワイト」があります。
kome-kami (ナチュラル色)は、パルプの結合に通常使われる化学薬品をお米の糊である「コメバインド」にすべて代用し、環境負荷低減とCO2削減を実現しています。
また、一般的に紙の表面には、表面を強くし印刷適性を上げるための塗工液が使われます。「kome-kami 浮世絵ホワイト」は、この薬品の一部原料をお米に代替することに成功。風合いのある表面にもかかわらず、鮮明な印刷面、そしてはっきりとした白さが特徴で、特にオフセット印刷では、印刷面に上品なキラメキが見られ、高級感を演出するそうです。
こうした環境にやさしい技術が使われた「kome-kami」はパンフレットや名刺、紙袋、パッケージ、ノベルティグッズなどさまざまな製品に活用されています。
生産過程で食品ロス削減とCO2削減を実現し、環境に配慮
「kome-kami」は、家庭や工場で廃棄予定の米を活用して作られています。食品ロス削減と廃棄による地球温暖化問題に貢献していると言えるでしょう。
また、「kome-kami」にはパルプを結合させて破れにくくするためにお米で作った米糊(「コメバインド」)を使用し、風合いがあり鮮明な印刷ができるように表面には米由来の塗料(「コメグロス」)を施しています。
従来の紙の製造には、石油由来の原料が使われることが多く、環境負荷が問題となっていました。一部の原料にお米を使うことで、CO2排出量を大幅に削減しています。
売上の1%をフードバンクに寄付
「kome-kami」の売上の1%がフードバンクに寄付されています。
フードバンクは、販売できなくなった食品や規格外の農産物、余った食品などの寄付を受け、食べ物に困っている方に無償で提供する団体です。日本では何十年に渡って子供の貧困率が高止まりしている状況で、日本の子どもの10人に1人が貧困問題に直面しています。
一方で、日本では製造されている食品のうち約523万トンが食品ロスとして排出されています(「農林水産省 食品ロス量(令和4年度推計値)」より)。食品の需要と供給のミスマッチが起こっているのです。フードバンクでは生活困窮者へ食料を届けることで支援し、食品の需要と供給のミスマッチを是正することにもつながっています。
しかし、フードバンク事業を行う多くの団体は運営資金の確保に苦労し、自治体からの助成金や寄付金に依存しています。食品を保管する冷蔵庫や配送費などの経費を支払うと、運営スタッフの給与を支払えない事態も発生しています。フードバンクの持続的な運営を支援するため、「kome-kami」の売上の1%が寄付されています。
まとめ|環境に配慮したエコな紙「ボタニカルペーパー」
植物由来の成分を使用した「ボタニカルペーパー」についてご紹介してきました。
日本で販売されている「ボタニカルペーパー」は、ジャガイモから作られた「キュリアスマター」や、お米から作られた「kome-kami」などがあります。
「キュリアスマター」はジャガイモのデンプン成分を表面に塗った、ざらざらとした肌触りの紙です。「kome-kami」は家庭や工場で破棄される予定の米を活用した紙で、CO2削減やフードロス削減に貢献しています。
紙の製造においても、サステナブルであることが求められているため、これからもさまざまな食品や植物を活用した紙が誕生するでしょう。