多様性についての理解が求められる昨今、夫婦間のあり方についても様々な考え方があります。
そのひとつとして挙げられるのが、「選択的夫婦別姓制度」です。
現在、日本の法律では、結婚後における夫婦の姓は、男性または女性いずれかの姓にしなくてはなりません。
いわゆる「夫婦同姓」のシステムですが、これは世界的に見ると少数派です。
近年、日本でも選択的夫婦別姓制度についての検討が行われています。
今回は、選択的夫婦別姓制度について詳しく紐解いていきましょう。
夫婦別姓制度とは
冒頭でも触れたように、日本の法律では、夫婦の姓が同一である「夫婦同姓」が原則となっています。
それでは、夫婦別姓とはどのような制度なのでしょうか。
実は、夫婦別姓には「選択的夫婦別姓」と「例外的夫婦別姓」の2パターンがあります。
それぞれの特徴について確認しておきましょう。
選択的夫婦別姓
現行の夫婦同姓制度を残しつつ、夫婦別姓を選択可能にする制度を「選択的夫婦別姓」といいます。
夫婦別姓を望む方々のみが選択できるため、結婚した人全てがそれぞれの姓を名乗るものではありません。
そのため、夫婦同姓を望む場合は、現行通り夫婦いずれかの姓を名乗ることができます。
例外的夫婦別姓
原則として、現行の夫婦同姓制度の中で、理由があれば夫婦別姓を名乗っても良いとされる考え方です。
例えば、現行の民法で規定されている「夫婦同姓」に加えて、「夫婦別姓」を但し書きとして明記した場合が該当します。
選択的夫婦別姓と同じような内容ですが、例外的夫婦別姓は「原則」として夫婦同姓制度に准ずる点が異なります。
参照元:FAQ(よくある質問)|法務省
夫婦別姓が日本で導入されない理由
現在、夫婦別姓は日本で導入されていません。
そのため、原則として結婚した2人は、どちらかの姓を名乗る必要があります。
とはいえ、日本でも選択的夫婦別姓制度の導入は40年以上も前から検討されてきました。
世界的に、夫婦別姓について注視され始めたのは1979年のことです。
女性差別に対する問題が浮き彫りになり、国連が「女性差別撤廃条約」を採択しました。
この条約では、選択的夫婦別姓制度についても触れられています。
1985年には、日本も女性差別撤廃条約に批准していますが、未だに選択的夫婦別姓制度は実現に至っていません。
その理由としてあげられるのが、以下の3つです。
・「家族」というひとつの集団であることを外部に示し、識別するため
・嫡出子であることを示すため
・個人が「家族」という一体感を体感するため
ご覧いただいてわかるように、いずれも「家族」に重点を置いた考え方です。
一方、賛成意見を述べている方の多くは「個人」を重視しています。
日本では、古くから「家制度」が根付いており、現在でも受け継がれている状況です。
そのため、完全に夫婦別姓を導入するのは、困難極めるでしょう。
参照元:女性差別撤廃条約|外務省
世界的に見る選択的夫婦別姓制度
それでは、世界では夫婦別姓についてどのような考え方を持っているのでしょうか。
主な国の状況について詳しく見ていきましょう。
アメリカ
アメリカは、州によってルールが異なりますが、一般的に夫婦の姓については複数の選択肢があります。
夫婦同姓や夫婦別姓だけでなく、両方の姓を名乗る「複合性」や全く別の姓をつけるという選択肢もあるほどです。
それでも、男性の姓を名乗るケースが多く見られるようですが、夫婦別姓や複合性などを選択するケースも少なくありません。
イギリス
イギリスも、アメリカと同様に姓を自由に選べる仕組みになっています。
また、複合姓や全く別の姓を名乗ることも可能です。
この背景には、イギリスの「いつでも自由に改名できる」という権利が挙げられます。
改名するために、公式な手続きも必要なく、自分自身で決めるだけで問題ありません。
パスポートや保険証など、生活において証拠が必要となった場合にのみ、法的に宣言しなければならないものの、基本的には非常に自由です。
結婚における姓についても、この権利が該当しており、「家族」よりも「個人」を尊重しているお国柄が見て取れます。
フィンランド
フィンランドでは、結婚後も姓を自由に決められます。
旧姓のまま名乗る女性も多く、複合性として互いの名字を「-(ハイフン)」で繋ぐケースも少なくありません。
そもそも、フィンランドでは高校卒業後には自立するのが一般的で、一人暮らしやルームシェアを行い、生活費も自分で稼ぎ始めます。
親の経済状況が子供の進路に影響しない仕組みになっており、優秀な人材を育てることが目的です。
こうした仕組みがベースにあるため、姓に関しても「個人」を尊重した考え方になっています。
選択的夫婦別姓制度に対する日本の現状
内閣府が2021年12月に行った「家族の法制に関する世論調査」では、夫婦同姓制度において、姓を変えたことで不便や不利益を感じている人が全体の52.1%となりました。
そのほとんどが女性で、特に18〜50代の人が多くなっています。
具体的な内容として、仕事上の不都合を理由に挙げた人が34.5%、実家の姓を残せなくなると答えた人が27.9%でした。
都市規模別に見た傾向は、都市の規模が大きいほど不便を感じるという傾向が高くなっています。
一方で、男性の多くは、元々の姓を名乗っていることから、さほど不便に感じることがないと答えた人が47.5%となりました。
また、選択的夫婦別姓については、「現在の制度である夫婦同姓制度を維持した上で、旧姓の通称使用についての法制度を設けた方がよい」と答えた人が42.2%と最も多く、次いで「選択的夫婦別姓制度を導入した方がよい」と答えた人が28.9%でした。
参照元:世論調査|内閣府
選択的夫婦別姓に関する活動
日本では、選択的夫婦別姓をいち早く導入するべく、様々な活動をしている団体があります。
その多くが、現行の法律による夫婦同姓によって、不快な思いをした経験を持つ人が立ち上げたものです。
例えば、1962年に創設された国連NGO団体「新日本婦人の会」では、「平和と女性の人権・地位向上」を掲げて、誰もが暮らしやすいジェンダー平等の社会を目標とした活動を行なっています。
設立以来、数々の活動を行い、現在では日本で最も大きな女性団体です。
選択的夫婦別姓については、導入に向けて民法改正への署名活動を手がけています。
参照元:新日本夫人の会
まとめ
前述の内閣府による調査からもわかるように、現在の日本では夫婦同姓に関して不便や不満を感じている方が半数近くいます。
また、選択的夫婦別姓制度について、導入を検討するべきだと考える人も多いのが現状です。
古き良き制度や考え方を残すことも大切ですが、「個人」を大切にする時代が来ている今、夫婦の姓については改めて考えていく必要があります。