SDGs(持続可能な開発目標)は、2015年に国連で採択された、2030年までに世界で達成をめざす17の目標です。期限まで残り4年ほどとなった今、「SDGsが抱える問題点とは何か」「現状はどこまで進んでいるのか」「自分は何をすればよいのか」という疑問に、2025年に公表された国連の報告と日本の調査をもとに答えます。
結論から言うと、SDGsの問題点は「目標そのものの設計」「進み方の遅さ」「使われ方のゆがみ」の3つの層に分けて考えると整理しやすくなります。層ごとに、取れる対策が違うからです。
国連報告が示すSDGsの現状|軌道に乗っているのは35%
SDGsの基本から確認したい方は、次の記事もあわせてお読みください。
2025年7月、国連は10回目となる「持続可能な開発目標(SDGs)報告」を公表しました。評価対象のターゲットのうち、2030年までに達成できる軌道に乗っているか、一定の進展がみられるのは35%にとどまります。ほぼ半数は進みが遅すぎると評価され、18%は2015年の基準より後退していると報じられています。
グテーレス国連事務総長は、資金を大規模に動かさなければ前進は不可能だという趣旨の警告を出しました。問題は目標の内容だけではありません。実現を支える資金と協力の仕組みが足りていないことが、現状の中心にあります。
進んだ分野と進まない分野
進んだ分野もあります。同じ報告は、45か国で全人口が電力を使えるようになったことや、54か国で顧みられない熱帯病の制圧が確認されたことを成果として挙げています。
一方、進まない分野も目立ちます。極度の貧困の下にある人は8億人を超えると報じられています。妊産婦の死亡は2023年に世界で推定約26万人でした。2000年から約4割減ったとはいえ、国連機関は2025年4月に、支援の縮小が進展を巻き戻しかねないと警告しています。
日本の現在地
民間ネットワークのSDSNがまとめた2025年の達成度ランキングで、日本は167か国中19位でした。前年の18位から1つ下がっています。
順位が高いからといって、すべての目標を達成済みというわけではありません。日本政府自身も、2023年12月に改定したSDGs実施指針で、複合的な危機によって進捗が遅れていることを認めています。2030年までの達成をめざす方向性は変えないとしたうえでの改定でした。
目標そのものが抱える構造的な問題点
ここからは、SDGsの設計に由来する問題点を見ていきます。進捗が遅い理由には、資金不足のほかに、目標の立て方そのものに起因するものが含まれるからです。
17の目標と169のターゲットは互いにぶつかる
目標どうしが衝突しうる点は、研究者から繰り返し指摘されてきました。Spaiserらの2017年の論文は、社会経済的な発展と環境の持続可能性が両立しにくい場面を、SDGsの内部矛盾として検証しています。たとえば目標8の経済成長を追うと、環境に関する目標との間で緊張が生まれうる、という議論です。
JICA緒方貞子平和開発研究所の論考も、目標・ターゲット・指標の間に不整合があり、進捗の管理が難しいことを課題に挙げています。慶應義塾大学の蟹江憲史氏らの研究チームは、ターゲットどうしの相乗効果(シナジー)と衝突(トレードオフ)を明らかにする研究を進めています。
ターゲットの数値は「決め方」を知って読む
ターゲットに掲げられた数値は、絶対的な正解ではなく、国際交渉の結果として置かれた基準です。目標3のターゲット3.1は、妊産婦死亡率を出生10万人あたり70人未満に下げるとしていますが、なぜ70なのかは目標の文面から読み取れません。数値は到達の目安であり、その水準を満たせばよいという意味でも、満たさなければ無意味という意味でもありません。
貧困の基準も同じです。2015年の採択時には「1日1.25ドル未満」と書かれていましたが、世界銀行は物価水準の変化に合わせて基準を見直し、2025年6月に国際貧困ラインを1日3.00ドルへ更新しました。ラインを引く以上、そのすぐ上で暮らす人は統計上の「極度の貧困」には入りません。世界銀行が低中所得国向けに4.20ドル、上位中所得国向けに8.30ドルの線も併記しているのは、この限界を補うためです。
壮大さと「自分事」のギャップ
目標には「ゼロ」「すべての人」といった言葉が並びます。飢餓、不平等、平和のような課題は、個人の努力だけでは解決できません。
ただし、SDGsは一人がすべてを背負う設計ではありません。国、企業、自治体、個人が役割を分担することを前提にしています。壮大すぎて自分事にならないという問題は、どの層が何を受け持つのかが見えにくいことから生まれています。
日本の問題点|認知は広がったが理解と行動が追いついていない
日本では、SDGsという言葉そのものは広く知られるようになりました。電通が2023年2月に行った調査では、認知率が91.6%と、調査開始以来初めて9割を超えました。クロス・マーケティングが2025年6月に18〜69歳の3,000人へ行った調査では、認知率は83%で、2022年から横ばいが続いています。
二つの調査は質問の設計や対象が異なるため、数字を単純に比べることはできません。それでも読み取れるのは、言葉の認知が頭打ちになりつつあるという点です。課題は「知っているか」から「中身を理解し、動けているか」へ移っています。
学ぶ機会が限られている
クロス・マーケティングの同じ調査では、SDGsを知っている人のうち、学校や職場で教育・研修を受けた人は15%でした。前年よりやや低下しています。18〜29歳に限ると29%で、若い世代ほど学校で触れる機会があることがうかがえます。
自治体の調査にも同じ傾向があります。大阪府が2025年9月に公表した調査では、府民の認知度は82.0%でした。30代以下では80%を下回っています。年代による差は、発信の届け方を見直す材料になります。
認知が行動に変わりにくい理由
認知が行動につながりにくい背景として、次の二つが考えられます。
- 何から始めればよいのかが分からない- 自分の行動の効果が見えにくい
17の目標は幅が広く、「全部やらなければ」と感じると動けなくなります。
そのため、すべてを網羅しようとせず、関心のある目標を一つ選び、その背景から知っていく進め方が現実的です。
企業の取り組みで起きやすい3つの問題
企業にとってSDGsは、取り組まなければ取り残されるという圧力が強まっている分野です。その分、複数の企業で共通して起きやすい問題があります。
SDGsウォッシュ
SDGsウォッシュとは、実態が伴わないのにSDGsに取り組んでいるように見せることです。取り組みの実績がないままSDGsのロゴや目標アイコンだけを掲げる行為も含まれます。環境分野の「グリーンウォッシュ」と同じ文脈で使われます。
日本には、この問題に対する規制の隙間があります。景品表示法の不当表示の規制は商品やサービスの表示が対象で、企業のイメージ広告は原則として対象外とされています。環境省の環境表示ガイドラインは強制力のない指針にとどまります。それでも、実態と異なる環境表示には措置が取られています。消費者庁は2022年12月、プラスチック製品の生分解性について事実と異なる表示をした10事業者に措置命令を出しました。
SDGsとCSRの混同
「SDGsとCSRの違いが分からない」という声も、企業の現場でよく聞かれます。SDGsは国際社会が定めた達成目標で、CSR(企業の社会的責任)は、企業が社会に対して責任を果たすという考え方です。両者は対立するものではなく、CSRの実践がSDGsの目標達成に貢献する、という関係にあります。
「CSRは慈善活動、SDGsはビジネス」と切り分ける説明も見かけますが、この二分法は実態に合いません。社内でこの混同が放置されると、「CSRをやっているのに、なぜSDGsまで」という不満が生まれ、取り組みが続かなくなります。
本業と合わない目標を無理に掲げない
17の目標すべてに取り組む必要はありません。国連グローバル・コンパクト、GRI、WBCSDが作成した企業向けの手引き「SDGコンパス」は、自社の事業が社会や環境に与える影響を踏まえて優先課題を絞ることを勧めています。経済産業省が2019年に公表した「SDGs経営ガイド」も、本業との接続を重視する立場です。
事業内容に合わない目標を無理に取り入れると、見た目だけのSDGsになり、方針の一貫性も崩れます。「どの目標に取り組まないか」を決めることも、誠実な取り組みの一部です。
よくある誤解を整理する|問題点があるならSDGsは無意味なのか
問題点を知ると、「それならSDGsは意味がないのでは」と感じる人もいます。ここでは、誤解されやすい3つの見方を整理します。
「達成できそうにないなら意味がない」
2025年の報告で、軌道に乗っているか進展があるとされたのは35%で、確かに多くはありません。しかし、これは「35%の分野で進展があった」という事実でもあります。電力へのアクセスや熱帯病の制圧のように、目標があったからこそ資源と注目が集まった分野もあります。
SDGsの価値は、全部を完璧に達成できるかではなく、世界が同じ物差しで課題の進み具合を点検できる点にあります。
「個人が動いても変わらない」
貧困や平和のような目標は、個人では直接解決できません。それでも、個人は何を買うか、どの企業を応援するか、職場や地域でどんな話をするかを通じて、企業や自治体の判断に影響を与えられます。
個人の役割は課題を一人で解決することではなく、次に紹介する質問のように、取り組みの中身を見る目を持つことにあります。
「ロゴを掲げている企業は取り組んでいる」
ロゴの有無は、取り組みの質を示しません。具体的な内容と根拠が示されているかどうかが判断の基準になります。次の章で、見分けるための質問を紹介します。
問題点を踏まえた解決策|個人・企業・地域でできること
ここまでの問題点は、「設計」「認知と行動のずれ」「使われ方」の3層に整理できます。解決策も、層ごとに分けると取り組みやすくなります。
個人はウォッシュを見分ける5つの質問を持つ
個人にとって最も実用的な対策は、企業のSDGs表記を見たときに次の5つの質問を当てはめることです。これは公的な基準ではなく、本記事で整理した確認の観点です。
- どの目標に対して、具体的に何をしたのかが書かれているか
- 数値、期間、対象範囲が示されているか
- 商品やサービスなど本業との関係が説明されているか
- 報告書や第三者の認証など、確認できる根拠があるか
- 成果だけでなく、課題や未達の部分も開示されているか
5つすべてを満たす企業は多くありません。ただ、1つも当てはまらない表記は、ロゴだけの可能性を疑う材料になります。
企業は絞り込み、数値で示し、定期的に報告する
企業は、SDGコンパスが示す手順に沿って、優先課題を絞り込み、目標を数値で設定し、進捗を定期的に報告するのが基本です。SDGコンパスでも、最後の段階は報告とコミュニケーションとされています。
社内の理解を揃える研修も欠かせません。教育を受けた人が認知者の15%にとどまる現状を考えると、社内研修だけで他社との差になります。取り組みの背景を共有できていれば、CSRとの混同も減らせます。
地域と自治体は世代ごとの届け方を見直す
自治体では、世代ごとの認知の差を踏まえた発信が課題です。大阪府の調査のように、30代以下の認知度が低いと分かれば、学校や職場、SNSなど、その世代が接する場に合わせて情報を届けられます。
外務省の「JAPAN SDGs Action Platform」には、国内の取り組みや推進の枠組みがまとめられています。自分の地域で何が行われているかを調べることは、壮大な目標を自分事に引き寄せる最初の手がかりになります。
長い時間軸で考える
SDGsの目標は、短期間で達成できるものではありません。2030年は通過点であり、その先も課題は続きます。一時的な取り組みで終わらせず、数年単位で続けることが、設計上の不完全さを補う最も確かな方法です。
まとめ
SDGsが抱える問題点は、国連の報告に表れた「進みの遅さ」、目標どうしの衝突やターゲットの数値といった「設計上の限界」、日本で見られる「認知と理解・行動のずれ」、企業での「ウォッシュやCSRとの混同」に整理できます。軌道に乗っている分野が35%という数字は重い現実ですが、見方を変えれば、資金と協力の仕組みが整えば前に進む余地も残っているということです。
問題点があることは、SDGsが無意味であることを意味しません。物差しとして不完全な部分を知ったうえで、企業の表記を確かめ、関心のある目標を一つ選んで調べることが、現実的な一歩になります。
次に企業のSDGs表記を目にしたとき、5つの質問のうち1つだけ当てはめてみてください。
- 2025年の国連報告では、軌道に乗っているか進展があるターゲットは35%、18%は後退している
- 目標どうしの衝突やターゲット数値の決め方など、設計上の限界は研究者からも指摘されている
- 日本ではSDGsの認知率が8〜9割に達する一方、学校や職場で学んだ人は認知者の15%にとどまる
- SDGsウォッシュは、具体性・数値・本業との関係・根拠・課題の開示の5つの質問で見分けられる
参考文献
- 国連経済社会局統計部「The Sustainable Development Goals Report 2025」(2025年)
- Africanews「Only 35% of sustainable development goals on track to meet target, UN says」(2025年)
- UNFPA「Trends in maternal mortality 2000 to 2023」(2025年)
- 世界銀行「June 2025 Update to Global Poverty Lines」(2025年)
- クロス・マーケティング「SDGs達成度ランキング(2025年)」(2025年)
- 外務省「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針改定版」(2023年)
- Spaiser et al.「The sustainable development oxymoron」(2017年)
- JICA緒方貞子平和開発研究所「視点」(2026年)
- 電通「SDGsに関する生活者調査」(宣伝会議AdverTimes掲載)(2023年)
- クロス・マーケティング「SDGsに関する調査(2025年)」(2025年)
- 大阪府「府政モニターアンケート」(2025年)
- 西村あさひ法律事務所「企業・消費者法ニュースレター」(2025年)


