政府は2026年3月13日、今後の男女共同参画施策の土台となる「第6次男女共同参画基本計画」を閣議決定しました。結婚で姓を変えた人が公的書類に旧姓だけを記載できる「単記」を可能にする法制化の検討が盛り込まれ、ジェンダー平等をめぐる議論が大きく動いています。
閣議決定から7か月がたった10月17日現在、旧姓の法制化はどこまで進んだのでしょうか。2026年4月に始まった企業の情報公表義務や、9月に公表された最新のジェンダーギャップ指数もあわせて確認し、私たちが次にとれる行動まで整理します。
第6次男女共同参画基本計画とは何か|閣議決定された内容
男女共同参画基本計画は、男女共同参画社会基本法に基づき、政府が施策を総合的かつ計画的に進めるために定める計画です。第6次計画は2026年3月13日に閣議決定されました。この記事では、定義よりも「何が決まり、いま何が動いているのか」に重点を置いて見ていきます。
計画の構成と新しい視点
内閣府男女共同参画局の広報誌によると、第6次計画は「基本的な方針」と「政策編」の2部構成です。12の個別分野と推進体制の整備・強化について、2035年度末までを見据えた基本認識と、2030年度末までを見通した施策の基本的方向、具体的な取組が示されています。
新たに強調された視点には、改正女性活躍推進法に基づく情報公表の充実、各種ハラスメント対策の強化、仕事と健康課題の両立支援、テクノロジーの進展を踏まえた男女共同参画の推進があります。ワーキングケアラーへの支援や、能登半島地震を踏まえた防災分野の取組も加わりました。
2030年に向けた数値目標
計画には具体的な成果目標も並んでいます。内閣府の資料では、民間企業の男性育児休業取得率を2024年の40.5%から2030年に85%へ、東証プライム上場企業の女性役員比率を2025年の17.7%から2030年に30%へ引き上げる目標が示されています。
いずれも現状から大きく引き上げる水準です。数字が掲げられたことで、進捗を毎年点検し、企業や自治体の取組を比べる物差しができた点は、計画の実務的な意味のひとつといえます。
旧姓の単記が計画に入った背景
今回の計画で最も注目を集めたのが、旧姓使用に関する記述です。婚姻で氏を変えた人が不便や不利益を感じることのないよう、旧姓の単記も可能とする法制化を含めた基盤整備を検討する、という方針が明記されました。
結婚による改姓の負担は、現状では女性に偏っています。職場で築いた名前での実績や、各種資格・免許の名義、本人確認書類の一貫性といった課題が、この方針の背景にあります。
旧姓の単独使用(単記)で何が変わるのか
「旧姓が使えるようになる」と聞くと、すでに使えるのでは、と感じる方もいるかもしれません。現行制度との違いを押さえると、今回の検討の中身が見えてきます。
現行制度でできること・できないこと
住民票、マイナンバーカード、運転免許証、パスポートなどの公的証明書では、すでに旧姓を併記できます。ただし併記には戸籍名が必ず併せて記載され、旧姓だけを載せる「単記」は認められていません。
パスポートを例にすると、旧姓は旅券面に括弧書きされるにとどまり、ICチップなどには記録されないと専門家から指摘されています。海外出張や学会参加の際に、予約名と旅券の記載が食い違う不便が生じる場面があります。
単記が可能になると想定される変化
単記が可能になれば、公的書類の上で旧姓だけを使って暮らし、働けるようになります。戸籍名と旧姓を併記する煩わしさや、書類ごとに名前が異なる状態の解消につながると期待されています。
ただし、具体的にどの書類で、どの手続きで単記を認めるのかは、これからの制度設計次第です。現時点で決まっているのは「検討する」という方向性にとどまります。
賛否が分かれる理由
この方針には、評価と懸念の両方があります。旧姓使用の不便を早く減らせる現実的な一歩だと見る立場がある一方、旧姓の通称使用の拡充が、選択的夫婦別姓の議論を遠ざけるのではないかという懸念が各紙の報道や社説で示されています。
計画では選択的夫婦別姓について、世論や国会での議論を注視していく姿勢が示されたと報じられています。政府・与党は、夫婦が同じ氏を名乗る「同一戸籍同一氏」の原則を維持したうえで、旧姓に法的な効力を与える方針とされています。
旧姓の単記は不便の軽減策であり、氏を変えるか変えないかを自分で選べる制度とは別の論点です。どちらが望ましいかは立場によって異なるため、この記事では両方の論点があることを押さえておくにとどめます。
旧姓使用の法制化はどこまで進んだのか|2026年10月時点
閣議決定のあと、法案の動きはどうなっているのでしょうか。報道ベースで時系列を追います。
連立合意から国会提出の見送りまで
自民党と日本維新の会が2025年10月に交わした連立政権合意書には、戸籍制度を維持したうえで旧姓使用に法的効力を与える制度を創設し、法制化法案を2026年の通常国会に提出して成立を目指すと明記されていました。
しかし2026年5月、政府・与党は、法案を審議する衆参の内閣委員会が重要法案を多く抱えて日程が窮屈だとして、当時の国会への提出を見送り、秋の臨時国会を目指す方向で調整に入ったと報じられました。
10月の臨時国会での位置づけ
臨時国会は10月5日に召集されました。政府は新規法案21本の提出を予定していると説明しており、旧姓の通称使用拡大に関する法案は、その21本には含まれていません。官房副長官は、この法案を含む2本の提出も検討していると述べたと報じられています。
本稿の執筆時点で確認できた範囲では、法案は提出が検討されている段階です。内容や成立時期は変わり得るため、実際に手続きが必要になる方は、国会の審議状況を確認するようにしてください。
法制化までに自分でできる備え
法律ができるまでの間も、通称使用の範囲は広がっています。勤め先の人事・総務部門に、社内での旧姓使用の扱い、給与明細や社会保険関係の書類の名義、資格・免許の名義変更の方法を確認しておくと、制度が変わったときに慌てずに済みます。
日本のジェンダー平等の現在地|ジェンダーギャップ指数と白書の数字
計画が動く一方で、国際的な評価と国内の統計は、日本の課題がどこにあるかを具体的に示しています。
2026年版ジェンダーギャップ指数は117位
世界経済フォーラム(WEF)が2026年9月16日に公表した報告書で、日本は145か国中117位、総合スコアは0.670でした。2025年版は148か国中118位、スコア0.666だったため、順位は1つ上がったものの、G7では引き続き最下位です。
分野別では、政治が121位、経済が119位と低く、教育は68位、健康は49位でした。女性初の首相が誕生した後も、全体の順位は大きく変わらなかったと報じられています。
あわせて、北欧5か国が国連の場で、ジェンダー平等の前進を続けるよう呼びかけた動きもあります。日本との違いを知るきっかけになります。
白書が示す管理職・賃金の差
国内の統計では、令和8年版男女共同参画白書に、次のような数字が載っています。
- 管理的職業従事者に占める女性の割合は、2025年に14.4%(諸外国はおおむね30%以上)
- 役職者に占める女性の割合は、係長級25.2%、課長級16.1%、部長級9.3%
- 男性一般労働者の給与水準を100としたときの女性は76.6で、前年から0.8ポイント上昇
- 東証プライム上場企業の女性役員比率は17.7%で、役員がゼロの企業は2.5%
役職が上がるほど女性の割合が下がる構造が、はっきり表れています。賃金の国際比較では、フルタイム労働者の賃金の中央値で男性を100としたとき、OECD平均が89.7、日本が79.3です。国内の給与水準(76.6)とは算出方法が異なるため、数字を直接並べて比べないよう注意が必要です。
就業率は高いのに、なぜ差が残るのか
白書によると、15〜64歳の女性の就業率は2025年に75.3%、25〜44歳では83.6%と高い水準にあります。就業者全体に占める女性の割合も45.8%で、諸外国と大きな差はありません。
それでも差が縮まらないのは、働く人が増えても、正規雇用の割合が25〜29歳をピークに下がるなど、キャリアの途中で働き方が変わりやすい構造が残るためです。働く女性は増えたのに、意思決定の場に届いていない、という状況が数字から読み取れます。
こうした動きは、政府・EU・企業の各レベルで続いています。
2026年4月から強まった企業への情報公表義務
計画と並んで、企業の取組を「数字で見える化」する制度が2026年4月に動き出しました。就職や転職、取引先の選定でも使える情報です。
公表義務の対象はどう広がったか
改正女性活躍推進法が2026年4月1日に施行され、常時雇用する労働者が101人以上の企業に、「男女間賃金差異」と「女性管理職比率」の情報公表が義務づけられました。男女間賃金差異は、これまで301人以上の企業が対象でした。
法律の有効期限も2026年3月末から2036年3月末へ延長されました。対象が広がったことで、中堅・中小企業の数字も、これまでより公開情報として手に入りやすくなります。
公表された数字を読むときの視点
数字を見るときは、全体の数字だけで判断しないことをおすすめします。正規・非正規といった区分ごとの数字や、差異が生じている理由の説明が添えられているかを確認すると、その企業の実態に近づけます。
賃金差異が大きいことは、必ずしも不当な扱いを意味しません。管理職の女性比率が低い、あるいは勤続年数や職種の構成に差があるといった事情が反映されている場合があるためです。数字を入口にして、企業がその差をどう説明し、どう縮めようとしているかを読み取ることが大切です。
企業の取組の事例を知る
制度の変更で企業がどう動いているかは、複数社の事例を比べると見えてきます。
私たちにできること|家庭・職場・投票の3つの場面から
制度は、使う人がいて初めて意味を持ちます。大きな話に見えて、実際に動かせる場面は身近にあります。
家庭でできること
家事・育児・介護の分担を、一度「見える形」で書き出してみてください。誰が何にどれくらいの時間をかけているかを共有するだけで、思い込みによる偏りが見つかることがあります。
男性の育児休業取得率の目標が85%に設定されたことは、家庭の中での話し合いを後押しする材料にもなります。
職場・就職活動でできること
勤務先や志望先が公表している男女間賃金差異と女性管理職比率を、一度開いて確認してみてください。数字が公表されていない場合も、「なぜ公表していないのか」を考えるヒントになります。
就職活動中の学生や転職を考える人は、数字に加えて、旧姓使用の扱いや育児・介護との両立支援についても、説明会や面接で尋ねてみる価値があります。
投票・情報収集でできること
臨時国会の会期中である今は、旧姓使用法案や、ジェンダー平等に関わる施策の審議状況を確認しやすい時期です。
国会や自治体議会での議論を追い、候補者や政党がジェンダー平等や夫婦の氏について何を語っているかを確認することは、投票行動の判断材料になります。立場の違いにかかわらず、事実に基づいて考える姿勢が、議論の土台になります。
まとめ
第6次男女共同参画基本計画は、2030年度末までを見通した施策と、男性育児休業取得率85%、プライム上場企業の女性役員比率30%といった数値目標を示しました。旧姓の単記を可能にする法制化の検討も明記されましたが、10月の臨時国会でも、法案は提出が検討されている段階にとどまります。
2026年版のジェンダーギャップ指数は145か国中117位で、G7最下位という状況は続いています。白書の数字は、働く女性が増えても、管理職や役員、賃金の面で差が残ることを示しています。一方で、2026年4月からは101人以上の企業に男女間賃金差異と女性管理職比率の公表が義務づけられ、数字で比べられる環境が整いました。
旧姓の単記は、結婚による改姓の不便を減らす手段です。選択的夫婦別姓とは論点が異なるため、何が解決され、何が残るのかを分けて考えることが大切です。まず1つだけ、気になる企業や自分の勤め先の公表データを開いてみてください。
- 第6次計画は2030年度末までの施策と、男性育休85%・女性役員30%などの数値目標を示した
- 旧姓の単記は法制化の検討段階で、10月の臨時国会でも提出は検討中と報じられている
- 2026年版ジェンダーギャップ指数は117位でG7最下位、政治と経済の差が大きい
- 2026年4月から101人以上の企業に男女間賃金差異と女性管理職比率の公表が義務化された
- 家庭の分担の見える化、企業の公表データの確認、国会審議のチェックが身近な一歩になる
参考文献
- 内閣府男女共同参画局「共同参画」2026年5月号(2026年)
- 内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 令和8年版 第4節 経済分野」(2026年)
- 内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 令和8年版 第1節 就業」(2026年)
- nippon.com「ジェンダーギャップ指数117位」(2026年)
- 秋田魁新報「旧姓『単記』検討を明記 夫婦別姓の後退懸念も」(2026年)
- 熊本日日新聞「政府、新規法案21本提出へ 臨時国会、消費減税など」(2026年)
- 厚生労働省 栃木労働局「育児・介護休業法・女性活躍推進法 改正説明会」(2026年)




