職場におけるジェンダー平等とは、性別にかかわらず誰もが能力を発揮し、昇進や賃金の機会を公平に得られる状態を指します。2026年4月、女性活躍推進法の改正により、従業員101人以上の企業に男女間賃金差異と女性管理職比率の情報公表が義務化されました。施行から半年が過ぎたいま、何が変わり、先進的な企業はどのような取り組みを進めているのでしょうか。制度の中身と国内企業の実践例を整理します。
日本の職場に残るジェンダー格差|数字で見る現在地
ジェンダー平等に向けた機運が高まる一方で、日本の職場にはまだ大きな数値の差が残っています。法改正の意味を理解するには、まずこの現在地を押さえておく必要があります。
女性管理職比率は国際的に見てどの水準か
政府は男女共同参画基本計画において「2020年代の可能な限り早期に女性管理職比率30%程度」を目標に掲げてきましたが、現状では目標との距離がなお大きいとされています。スウェーデンやアメリカ、フランスなど管理職の女性比率が4割前後に達している国々と比べ、日本は1割台前半にとどまっているという報告もあり、国際的に見て低い水準が続いていると指摘されています。
男女間賃金差はなぜ埋まらないのか
賃金面でも格差は根強く、女性の月額賃金が男性の7割台にとどまっているとする調査結果が示されています。背景には、出産・育児や介護を機にした離職、非正規雇用への偏り、管理職候補としての育成機会の少なさなど、複数の要因が絡み合っているとされます。こうした構造的な課題は一企業の努力だけでは解消しにくく、制度と企業文化の両面からの見直しが必要だという見方が広がっています。北欧諸国がどのように格差を縮めてきたかを知ることは、日本の現在地を相対化するうえでも参考になります。
2026年4月に何が変わったのか|女性活躍推進法改正の中身
2025年の国会で成立した女性活躍推進法の改正は、2026年4月に施行されました。改正の柱は、ハラスメント対策の強化、女性活躍の推進、治療と仕事の両立支援の推進の3本です。中でも企業経営への影響が大きいのが、情報公表義務の対象拡大です。
公表対象が301人以上から101人以上へ拡大
これまで「男女間賃金差異」の公表が義務づけられていたのは従業員301人以上の企業のみでした。2026年4月以降は対象が101人以上の企業へ拡大され、同時に「女性管理職比率」の公表も101人以上の企業に新たに義務化されています。中小・中堅規模の企業にとっては、初めて自社の数値と向き合う機会になったケースも少なくありません。
時限立法から長期の経営課題へ
女性活躍推進法は2016年4月の施行当初、時限立法として制定されていましたが、2035年度末(2036年3月31日)までの延長が決定しています。これにより、女性活躍の推進は一過性の対応ではなく、長期にわたる経営課題として位置づけられることになりました。政府の基本計画も第5次から第6次へと更新され、目標設定の見直しが続けられています。制度の全体像や最新の政府方針については、関連する基本計画の動きも参考になります。
情報公表で何が「見える化」されるのか
法改正によって、企業は自社の状況を外部に開示することが求められるようになりました。何がどこまで公表されるのかを具体的に見ていきます。
開示が必要になる主な項目
企業規模に応じて開示が必要となる主な項目には、次のようなものがあります。
- 採用者に占める女性の割合
- 管理職に占める女性の割合
- 男女の平均継続勤務年数の差
- 男女別の育児休業取得率
- 有給休暇取得率
これらの数値は、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」や各社のホームページで公表することが望ましいとされており、求職者がいつでも閲覧できる状態にすることが求められています。数値が可視化されることで、これまで社内でも曖昧だった課題が具体的な指標として浮かび上がる点が、今回の改正の大きな意義といえます。
公表義務は罰則より「選ばれる基準」としての意味が大きい
情報公表そのものに直接的な罰則はありませんが、公表内容は求職者や投資家が企業を比較する材料になります。女性活躍の度合いが高い企業ほど投資家などから評価を得やすいとする見方もあり、公表は守りの対応ではなく、採用競争力やブランドイメージに直結する攻めの経営課題として位置づけられつつあります。
国内企業の先進事例|数値目標・育成・制度の三方向
情報公表の義務化を先取りする形で、すでに具体的な数値目標と施策をセットで打ち出している企業があります。共通するのは、理念だけでなく仕組みに落とし込んでいる点です。
数値目標とリーダー育成で管理職比率を押し上げる
日清食品ホールディングスは女性管理職比率を2026年3月末までに10%以上とする目標を掲げ、2030年までに役員に占める女性比率を30%にするという経団連の「2030年30%へのチャレンジ」にも賛同してきました。あわせて、リーダー候補者向けの選抜研修やeラーニング、育休前後の能力開発支援といった育成施策を組み合わせている点が特徴です。数値目標を単独で掲げるのではなく、育成の仕組みとセットで運用している企業ほど、管理職登用が進みやすいと報告されています。
メンター制度と評価連動でキャリア支援を定着させる
管理職を目指す女性社員にメンターを付け、キャリア形成への不安を和らげる取り組みを導入する企業も増えています。主体的なキャリア形成を後押しする階層別プログラムに加え、女性管理職比率や育成計画の達成状況をラインマネージャーや役員の業績目標・賞与に反映させる企業も見られます。目標の達成度を評価制度に組み込むことで、現場任せにせず組織全体の責任として女性登用を進める狙いがあります。
両立支援の拡充が職場全体に広げる好影響
女性の登用拡大に向けた取り組みは、女性社員だけでなく職場全体にも波及効果をもたらすとされています。両立支援制度の拡充や制度を利用しやすい職場づくりが進んだ、社員全体のモチベーションが向上したといった効果を実感する企業は少なくないと報告されています。数値目標の達成を急ぐあまり制度の運用が形骸化してしまうと、かえって現場の不満につながりかねない点には注意が必要です。
誤解されやすいポイント|「女性だけの施策」ではない理由
ジェンダー平等の取り組みは、女性の活躍推進だけを指すものだと誤解されがちですが、実際にはより幅広い対象を含みます。
男性の育児休業取得も開示項目に含まれる
2026年4月以降の開示項目には、男女別の育児休業取得率も含まれています。女性の登用拡大だけを進めても、家庭内の役割分担が変わらなければ、結局は女性が仕事と育児の両方を抱え込む構造が温存されてしまいます。男性の育休取得を後押しする制度設計も、女性管理職比率を実質的に押し上げるための前提条件として位置づけられるようになってきました。
LGBTQ+を含むインクルージョンへの広がり
企業の中には、人権尊重を重要なテーマに据え、性的マイノリティを含む従業員の多様性への配慮を新任管理職研修に組み込んだり、商品開発の視点を広げたりする動きも見られます。ジェンダー平等の取り組みは、男女という二項対立の枠を超えて、すべての人が働きやすい職場づくりへと広がりつつあります。「女性管理職比率を上げれば終わり」という捉え方では、こうした広がりを見落としてしまう点に注意が必要です。
企業と個人がいま何をすべきか
法改正への対応は、人事担当者だけの仕事ではありません。立場ごとに、今すぐ着手できることを整理します。
人事担当者・経営層がすぐに着手すべきこと
101人以上の企業は、賃金データや管理職登用状況を正確に把握し、公表に向けた準備を進める必要があります。女性活躍推進法では、自社の状況把握・課題分析を行ったうえで行動計画を策定し、社内周知と公表を行うことが求められています。情報の集計・分析には想定以上に時間がかかる場合もあるため、まだ着手していない企業は早めに体制を整えることが欠かせません。積極的な取り組み姿勢を示すことができれば、離職防止や人材の定着、採用競争力の向上といった形で成果につながりやすくなります。
一般社員・管理職一人ひとりにできること
制度改正の効果を引き出せるかどうかは、現場の意識にも左右されます。管理職登用の打診を性別で遠慮したり遠慮させたりしていないか、育児休業を取得しやすい雰囲気が実際に職場にあるかを見直すことは、誰でもすぐに始められます。また、転職や就職活動の場面では、公表された女性管理職比率や男女間賃金差異を企業選びの判断材料のひとつとして確認することもできます。数値をうのみにせず、達成までのプロセスや研修制度まで含めて見る視点を持つことが、実態の伴う企業を見分ける手がかりになります。
まとめ
2026年4月の法改正は、多くの企業にとって対応が必須の節目であると同時に、職場文化そのものを見直すきっかけにもなっています。数値が「見える化」されたことで、これまで曖昧にされてきた課題が具体的な指標として浮かび上がり、管理職育成や育休取得促進、賃金格差の是正といった施策を進める足がかりが整いつつあります。
重要なのは、公表そのものを目的化しないことです。数値目標と育成の仕組み、評価制度への反映をセットで運用している企業ほど、実態の伴う変化を生み出していると報告されています。また、女性活躍の推進は、男性の育休取得やLGBTQ+を含むインクルージョンとも地続きの課題であり、「女性だけの施策」という捉え方では本質を見誤ってしまいます。
企業規模にかかわらず、「自分たちの職場には関係ない」ではなく「自社でできることは何か」という視点から一歩踏み出すことが、社会全体のジェンダー平等につながっていきます。
- 2026年4月から101人以上の企業に男女間賃金差異と女性管理職比率の公表が義務化された
- 日本の女性管理職比率・男女間賃金差はなお国際的に低い水準にあるとされる
- 数値目標と育成・評価制度をセットで運用する企業ほど実態を伴う変化を生みやすい
- ジェンダー平等は女性活躍だけでなく男性の育休取得やLGBTQ+インクルージョンにも広がる課題である
- 人事担当者だけでなく一般社員も企業選び・職場づくりの当事者として関われる
参考文献
- 内閣府男女共同参画局「男女共同参画社会の実現を目指して」(2026年)
- 厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」(2026年)
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(2024年)



