国際人権NGOのビジネスと人権リソースセンター(BHRRC)と、ビジネスのSDGs推進に取り組む国際NGOのWorld Benchmarking Alliance(WBA)が2026年2月27日、日本政府のNAP(ビジネスと人権に関する国別行動計画)改定版に対する共同声明を発表しました。両団体は改定版NAPの公表を歓迎しつつ、企業の人権デューデリジェンス(HRDD)の義務化への道筋や、測定可能な指標の導入を求めています。欧州でHRDD義務化法制が相次いで整備されるなか、日本企業のサプライチェーン人権対応にはどのような課題があるのでしょうか。
日本のNAP改定版とは何か
日本政府は2025年12月24日、「ビジネスと人権」に関する行動計画(NAP)の改定版を公表しました。これは2020年10月に公表されたNAPを5年ぶりに見直したものです。
改定版NAPは、ビジネスと人権に関する8つの優先分野にわたって、政府の今後の政策の方向性と施策を示しています。
また、企業に対して人権デューデリジェンスの導入促進への期待を示しており、そこには企業活動から生じる人権への悪影響を特定・評価・防止・軽減・対処する一連の行動が含まれます。
具体的には、企業は指導原則に沿って人権尊重の責任を果たすため、(1)人権方針の策定・公表、(2)人権デューデリジェンスの実施、(3)自社が人権への負の影響を引き起こしまたは助長している場合における救済が求められるとされています。
NAPとは、2015年の英国に始まり、国連ビジネスと人権に関する指導原則(2011年)を各国ごとに実施するための行動計画であり、National Action Planの頭文字から「NAP」と略称されることもあります。
日本のNAPのレビューでは「人権の保護と促進はSDGs達成にとって重要な要素として位置づけられている」とも明記されており、SDGsとの関連性も強調されています。
BHRRCとWBAが改定版NAPに求めたこと
国際人権NGOのBHRRCとWBAは2026年2月27日、日本政府が2025年12月に公表したNAP改定版に対する共同声明を発表しました。
両団体は改定版NAPの公表を歓迎し、その実施全体を通じた市民社会および影響を受けるステークホルダーとの透明かつ意義ある関与の重要性を強調しています。
小規模・中規模企業への人権デューデリジェンスの導入促進と能力強化に向けたより明確な重点化、および企業に対して人権への悪影響の特定・評価・防止・軽減・是正を含む人権デューデリジェンスの実施を求める点については歓迎の意を示しています。
一方で、WBAが提供するCorporate Human Rights Benchmark(CHRB)のデータやBHRRCの事例研究をもとに、NAP 1.0以降の日本の進捗状況を評価し、人権デューデリジェンス(HRDD)における継続的なギャップを特定するとともに、より明確な政策の方向性の必要性を指摘しています。
一定の改善は認められるものの、特に複雑なサプライチェーン全体でのリスク管理において、包括的かつ一貫した実施は依然として限定的であるとし、NAP 2.0は透明性・説明責任・新たな法的枠組みへの対応力を優先すべきだと訴えています。
義務化を求める背景|欧州で進む法制化の波
BHRRCとWBAがHRDD義務化の道筋を求める背景には、欧州での急速な法制化があります。
フランスの「ヴィジランス法」やドイツの「サプライチェーン法」といった国内法制の導入がHRDD実践の改善に影響を与えており、これらは規制の明確化が企業行動をより一貫したものにし得ることを示す貴重な事例として、日本への示唆となっています。
WBAとBHRRCは、NAP 2.0はHRDD義務化に向けたグローバルな転換を反映し、日本が同様の規制アプローチを検討していく姿勢を示すべきだと提言しています。
また経済界の動向として、欧州ではEU企業持続可能性報告指令(CSRD)やEU企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)の簡素化に向けた議論が進んでいるなか、経団連(日本経済団体連合会)は日本政府に対してEU内での整合性確保を欧州委員会に促すよう求めているという見方があります。
これは、グローバル市場で活動する日本企業が国際的な人権基準との整合を急いでいることを示す動きのひとつといえます。
日本弁護士連合会も「具体的ロードマップ」を要求
外部機関からの指摘はBHRRCとWBAにとどまりません。
日本弁護士連合会は改定版NAPに関する会長声明において、改定版NAPが「救済へのアクセス」に関する施策について司法的救済・国内人権機関(NHRI)の設置・個人通報制度への言及を欠いており、具体的なロードマップや進捗指標の設定・モニタリングが行われていないことを問題として指摘したとされています。
改定版NAPには「関係府省庁とステークホルダーとの間における信頼関係に基づく対話の機会として、円卓会議・作業部会を継続する」と記載されている一方、日弁連はこれまでの会議では具体的なテーマについての実質的な議論が十分に行われてこなかったとして、より実質的かつ継続的な対話の推進を求めているとされています。
日本企業のHRDD実態と課題
WBAが公表するCorporate Human Rights Benchmark(CHRB)は、SDGs達成の鍵を握る世界中から選ばれた重要企業(SDG2000)について評価を行うものとされており、日本の有力企業の多くもその採点対象となっています。
同ランキングでは、ごく少数の例外を除き、多くの日本企業の成績は国際基準と乖離しているという見方があります。
日本のNAP改定版(NAP 2.0)は、より明確な期待を設定し、サードパーティ・ベンチマークや情報開示などのツールを通じて透明性と説明責任を強化する機会を提供するものとされています。
また、新計画では、海外で事業を展開する日本企業や海外と取引のある企業との間で、欧米諸国で進む人権デューデリジェンスの実施や情報開示を義務化する法制度への対応が急務となっている状況からも、企業およびそのサプライチェーンが投資やビジネスを展開する上での予見可能性および透明性を向上させるための取組が必要とされています。
改定版NAPの次のステップ
新計画は令和8年度(2026年度)から開始し、公表から5年後を目途に「ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議」において、改定の必要性を適切に判断することとなっています。
BHRRCとWBAの声明が示すのは、「義務化を検討する姿勢を示してほしい」という国際社会からのメッセージです。
より強力な政策の方向性と説明責任があれば、日本は責任ある企業行動において地域的・グローバルなリーダーになり得る潜在力を持っているとも指摘されています。
まとめ|「お願い」から「義務」へ、変わる国際潮流
今回のBHRRCとWBAの共同声明は、日本のNAP改定版に一定の評価を示しながらも、任意の取組から義務化への具体的な道筋が示されていない点を問題視しています。欧州では「Loi de vigilance(フランス)」「Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz(ドイツ)」に続くかたちでEUレベルのCSDD指令も動き出しており、日本企業がグローバルなサプライチェーンに組み込まれている以上、他人事ではありません。
読者のみなさんも、自分の身の回りの企業や購入する製品が、どのようなサプライチェーン上に成り立っているか、改めて関心を向けてみてはいかがでしょうか。企業の人権報告書やサステナビリティレポートを読むことも、消費者としてできる大切な一歩です。

