「脱成長」という言葉を聞いたことがありますか?最近、メディアで取り上げられることが増えてきた言葉ですが、複雑で理解しにくいと感じる人も多いのではないでしょうか。脱成長は、経済成長を追求し続ける消費社会の価値観を問い直し、環境と社会の持続可能性を実現するための考え方です。この記事では、脱成長とは何かを、わかりやすく解説します。
脱成長って何?|基本的な意味
脱成長は、環境と社会の持続可能性を実現するために、消費社会の中心価値である経済成長信仰からの脱却を提唱している思想です。
学術的には「生産と消費の縮小によるエコロジカル・フットプリントの削減であり、ウェルビーイングを確保しながら公平な方法で民主的に計画されるもの」と定義されています。
脱成長という日本語は、フランス語の「décroissance」(減少・縮小を意味する)から来ています。
1990年代頃から、一部の環境活動家の中で、人間の活動が生態系に与える環境負荷を削減し、持続可能な社会を実現するため、先進工業国の消費を減らすスローガンとして用いられていました。
2008年パリで開催された第1回脱成長に関する国際会議でdegrowthと英訳されたことを契機に国際的な認知を得るに至りました。
脱成長が注目される理由|背景にある危機感
脱成長論が再び注目されるようになった背景には、気候変動対策をめぐる問題意識があります。これまで多くの国は、経済成長と環境対策が両立できると考え、エネルギー消費などの環境負荷と経済成長を切り離す「デカップリング」という考え方を前提に気候変動対策を進めてきました。
しかし、このアプローチが十分な成果を上げていません。
長期的にあらゆる環境負荷を相殺する形でデカップリングが起きた事例は、これまで見つかっていないと指摘されています。こうした現状を受けて、脱成長は着実に環境負荷を減らすことができるであろうと注目が集まっているのです。
脱成長が目指す社会|暮らしはどう変わる?
脱成長の考え方は、単なる「経済縮小」ではありません。
脱成長では、大胆な再分配やグローバル経済において使用されるエネルギー・資源の削減、ケアや連帯、自治を共通の価値とすることで、大量生産・大量消費の様式から、生態系のウェルビーイングを優先させた、よりサステナブルでローカルな経済・政治活動への移行を目指しています。
フランスの思想家セルジュ・ラトゥーシュは、「簡素な生活が好循環する社会」「自己制御、分かち合い、贈与の精神、自立共生を基礎とする節度ある豊かな社会」を構想しています。つまり、物の量を減らすことで、人間関係やコミュニティーとのつながり、自然との関係を大切にする暮らしへの転換を目指しているのです。
反成長の思想家たちは、消費の引き下げが個人的な犠牲や人生の充実の引き下げを必要としないと考えています。むしろ、芸術、音楽、家族、自然、文化、コミュニティーに熱中する時間を通じて、幸福と人生の充実を最大化することを目的としています。
実際の取り組み|世界では何が起きている?
脱成長は理論だけでなく、実際の政策や活動として展開され始めています。
スペイン北東部のジローナでは、2024年4月、市議会が気候変動対策として脱成長を取り入れた政策を実施していくことを公表しました。また、2024年3月には、バルセロナ自治大学が「Growth vs Climate Conference(経済成長と気候を考える会議)」を主催し、科学者や政策立案者、ジャーナリストなどが脱成長や非成長といった経済代替モデルについての議論を行いました。
このように、先進国を中心に、脱成長の考え方を社会実装しようとする動きが広がってきているのです。
脱成長への批判と課題
脱成長の考え方には、有効な点がある一方で、批判もあります。
脱成長論には復古的な考え方が強いことが指摘されており、特に近代社会以前に存在していたコモンズのあり方を理想にしていると思われることが多いです。また、グローバルな経済システムの中で、実際にどのように脱成長社会を実現するかについては、具体的な方法論が十分に確立されていないと考える人も多くいます。
私たちにできることは?|身近な実践
脱成長の理念を理解することは、すぐに社会全体の変革を意味しません。しかし、個人の日常の中でも実践できることがあります。例えば、本当に必要な物だけを購入する、地域の人とのつながりを大切にする、食べ物を大切にする、ものを修理して長く使うといった行動は、消費社会への依存を減らし、より充実した暮らしにつながるかもしれません。
脱成長運動は集団的なプロセスであり、強要されるものではありません。社会全体で脱成長への議論が進む中で、個人が「自分ごと」として捉え、柔軟に関わっていくことが大切です。
まとめ|成長から豊かさへの転換
脱成長とは、経済成長の追求をやめるのではなく、真の豊かさや幸福とは何かを問い直す考え方です。気候危機や社会的な不平等が深刻化する中で、これまでの「経済成長こそが幸福につながる」という価値観から脱却し、環境と社会の持続可能性を中心に据えた経済活動を目指しています。
本質的に人々が欲しているのは、成長そのものではなく、成長を通して得られると信じられている豊かさや幸せなのです。脱成長は、その「真に大切にすべきもの」を、社会と一緒に考え直す旅なのです。

